この話は妄想とゲヘナ編の一部ネタバレが含まれています
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この話は妄想とゲヘナ編の一部ネタバレが含まれています
……三回警告しましたよ?一ミリでもネタバレされるのが嫌ならブラウザバックしてくださいね?
「貴様っ!雷帝の意思は正しかったと言うつもりか!?」
少年の胸ぐらを掴み、勢い任せに会議室内の壁に背中を叩き付ける少女
少女が息を荒くしながら叫ぶ一方で、少年はただひたすらに目の前の少女を冷めた目で見下ろしていた
「なんだ、ちゃんと理解してんじゃねえか……〝そうだ〟つってんだよ」
「……酒泉、彼女は自分の意に逆らう人達を洗脳しようとしていた。酒泉はその行いを肯定するの?」
「結果的にゲヘナ生の洗脳は必要だった。今のゲヘナを見てみろ、どいつもこいつも自分の感情のままに暴れてやがる」
「その衝動こそが我々ゲヘナの本質だ!そして雷帝はその意思を強引に力によって強引にねじ曲げてきた!貴様も同じ罪を犯そうというのか!?」
「俺が気に入らなかったのは何の罪もない生徒や一般市民まで巻き込んで洗脳しようとしていた事だ、規則も何も守らず人様に迷惑掛ける様な屑共を洗脳するだけなら何も思わねえよ」
彼は、折川酒泉はただただ不思議だった
雷帝が洗脳や痛みによって他者を支配している事には嫌悪感を抱いているのに、ゲヘナを一つにするというその〝目的〟自体には一切嫌悪を感じなかった自分自身が
それはつまり、己も秩序によってゲヘナが統治される事を望んでいたから───それに気付いてしまったのは、皮肉にも雷帝を下してからの事だった
「……そういう人達を止める為に私達風紀委員が居るんじゃないの?」
「無理だ、風紀委員だけで抑えられる筈がない。全部を取っ捕まえようとしたって指の隙間から溢れ落ちる奴等は必ず出てくる、そして連中は間違いなく周囲の迷惑も考えず暴れ散らかすだろうよ……つーか今まで雷帝に押さえつけられてきた反動で暴徒が増えてるってのが現状じゃねえか、現在進行形で対応できてねえのにどうにかなんのか?」
「───だから雷帝派の残党についていくって?……少しは頭冷やしたら?」
努めて冷静に咎めようと、しかし怒気を隠せていない声色が酒泉の耳に届く
酒泉が声の主の方へ顔を向けるとやはりと言うべきか、他者から恐れられてきた顔を遺憾なく発揮して酒泉を鋭く睨む〝元仲間〟が立っていた
「鬼方……そういうお前はどうなんだ?風紀委員にも万魔殿にも入るつもりはないんだろ?他人の身の振り方を心配する暇があるなら自分の今後を心配したらどうだ?」
「……友達が間違った方に行こうとしてるのに自分の心配する暇なんかある訳ないじゃん」
「そうか、友達だと思ってくれてるなら是非説得なんて心掛けず俺の背中を押してほしい」
「押した先が崖の底なら連れ戻すに決まってるでしょ」
「違う、俺が今立っているのは崖の底でも暗闇の道でもない……どこまでもどこまでも、明るい未来だ」
両手を大きく広げながら一切の後悔を感じさせない態度で堂々と宣言する酒泉、その表情は本人の言葉と繋がっているかの様にどこまでもどこまでも明るかった
雷帝を降ろす策を立てている時も、雷帝の部下との戦闘中に追い詰められた時も、どんな苦境でも仲間達に向けられていた少年の笑顔
状況としてはそれらの時と全く変わらないというのに、その場に居た少女達は皆その笑顔を直視できなかった……ただ一人を除いては
「……冗談よね?」
「ん?」
「だって……ここまで皆でずっと足並み揃えて頑張ってきたじゃない……痛いのも怖いのも皆で乗り越えて……これからゲヘナはどんどん良くなるって皆でお話して……」
「……」
「その中心にはいつも貴方が居て……どれだけ窮屈な世界でも、ただ直向きに明るい未来だけを考える貴方の事が皆大好きで……だから皆っ……一つになれて……な、なのに今更……今更〝昔の方が良かった〟なんて……」
「……京極」
力の抜けた身体でふらふらと歩き始めると、そのまま酒泉に身体を預ける形で前のめりに倒れ込むサツキ
意外にも酒泉はサツキを突き放す様な真似はせず、むしろ彼女の身体がずりずりと落ちて床に両膝をついてしまう前にその両手をしっかり握って立ち上がらせた
ほんの一瞬困惑したサツキだが、ふと見えた優しさの一欠片に〝まだ昔の酒泉が残っている〟と希望を持ち───
「悪い、そんな話したっけ」
「───、」
「───貴様ぁ!」
目を見開くサツキ、彼女の喉元からコヒュと音が鳴った瞬間、導火線に火がついたかの如く酒泉に飛び掛かった
何の技術も籠められず力任せに突き出される拳、酒泉の〝眼〟にそれは彼女の一撃など止まって見えていた───が、それを回避する事なく大人しく顔面に拳を受けた
酒泉が床に倒れ、悲鳴を上げるサツキ。鼻と口の端から流れる血を拭き取る暇も与えず、マコトは酒泉が立ち上がれない様に腹に体重を乗せてマウントを取った
「サツキの前でもう一度同じ言葉を吐いてみろっ!次はその口を縫い合わせるぞ!」
「だーかーらー……そんな話したのか覚えてねえっつーの」
「っ、この───!」
「……やめときな、暴力振るわれたぐらいで簡単に意思が変わる様な人間じゃないってのは私達が一番よく知ってる筈でしょ」
「ぐっ……く、はぁ……はぁ……」
マウントを取ったまま振り下ろそうとした右腕がカヨコに掴まれたマコトは我に返り、拳を降ろした後に何度か呼吸をして僅かながら冷静さを取り戻した
そんな出来事があったにも関わらず当事者である酒泉は無関心そうな表情を貫いており、そんな彼に再び怒りそうになりながらマコトは何とか平静を装いながら口を開いた
「……今ならタチの悪い冗談だった事にしてやる、だからすぐにでもこれまでの発言を撤回しろ」
「もし断ったら?」
「貴様の考えが変わるまで二十四時間牢に縛りつけてやる、当然私が付きっきりで監視してな」
「……く、くくくっ……!」
「……何が可笑しい、私の言葉が冗談に聞こえるか?」
「いや、そうじゃなくて……〝自由〟だのなんだの掲げてたお前が俺から〝自由〟を奪うってのがな……」
「っ……」
心底可笑しそうに笑う酒泉に対し、眉間に皺寄せながら問うマコト
図星を突かれた様な反応をマコトが見せると、酒泉は余計にニヤニヤと口角を広げた
「何事にも縛られない、そんな自由で混沌としたゲヘナが大事なんだろ?だったら俺がゲヘナを支配しようとする〝自由〟も認めてくれよ」
「ある程度の下克上なら大目に見てやる、だが貴様のそれは一線を越えている」
「どこに線引くかも俺の〝自由〟だ、お前がそれすらも俺から奪うってんなら……俺はゲヘナに絶対の秩序を敷き、お前から〝自由を守る自由〟を奪ってやる」
「……行き過ぎた秩序はただの支配だ」
「なら言い替えてやろうか?俺がゲヘナを支配するって」
言葉遊びを止め、ついに堂々とゲヘナへの宣戦布告を口にした酒泉
マコトは表情が一層険しくなると同時に、どこか惜しそうに歯をぎしりと鳴らした
「完全に支配の側に立ったか……残念だ。貴様は秩序と自由のバランスを取り持とうとする中途半端な人間だったが、ある意味で強欲と呼べるゲヘナらしいその在り方は嫌いでは───いや、この際ハッキリ言っておこう。正直に言えば、どこか強く惹かれる部分もあった」
「そりゃどうも、俺はお前のことあんま好きじゃないけどな」
「それは此方の台詞だ、今の貴様からは中途半端を貫こうとする強い意思を感じられん。……最早何の未練も無い」
「へー?昔の俺のままだったら未練持ってくれてたって?」
「どうやら私は自分で想像していた以上に貴様を買っていたらしくてな、今の状況には〝無意識下で惚れていたのではないか〟と疑いたくなるくらいには心苦しさを感じている───それを確かめる機会も必要性も、最早一切無いがな」
「当然だわな、お前に乙女心なんてもんが存在する訳ないし、仮にあったとしても───それがゲヘナの〝敵〟なら、私情を理由に容赦する様な女でもねぇ」
「よく分かっているではないか」
「嫌いな奴程覚えちまうもんでね」
「そうか、ならばその〝嫌いな奴〟に飼われる屈辱を味わうといい」
睨み合いを終えたマコトはついに己の愛銃を取り出し、それを酒泉の額へと向けた
無論、本気で引き金を引くつもりはない───このまま何事も起きず穏便に事が済めば、だが
「く、くくっ……やっぱおもしれぇよ、お前」
「この期に及んでまだ私の言葉を冗談だと思っているのか?」
「そうじゃねえ───この程度の戦力で俺を拘束できると思い込んでいるその頭がだよ」
「……何だと?」
「京極と鬼方は言わずもがな、お前が〝本気〟を出そうが本人の実力自体は空崎に遠く及ばない……高が知れてる」
「っ……」
「そんで唯一俺に対抗できそうな空崎は……さっきから口も開かずあの様だ」
その言葉と同時に全員の視線がヒナに集中すると、ヒナはびくりと怯えた様な表情で酒泉を見つめ返した
その怯えは酒泉自身に対するものというよりも……〝自分の知らない酒泉に対する怯え〟だった
「……しゅ、せん」
「なんだ?」
「酒泉は……えっと……ら、雷帝の遺産の影響を受けて……変な事を言っちゃってるだけ…………だよね?」
〝はい〟と答えてほしい、頷いてほしい、この場をやり過ごす為の嘘だとしても〝これまでの言葉は本心ではない〟と認めてほしい
そんな思いからおずおずと訊ねるヒナ、そんな彼女に返ってきた答えは───
「その通りだ、俺は雷帝の遺産による洗脳を受けた事がある」
「…………え?」
───頭の中に渦巻く嫌な予感とは裏腹に、彼女が何よりも望む答えだった
酒泉の言葉を聞いた瞬間、誰もが唖然と佇んだ
仲間との絆と共に心まで張り裂けそうになっていたサツキも、友が道を外す事に今まで感じた事のない孤独を感じていたカヨコも、先程まで怒り狂っていたマコトも、真意を訊ねたヒナ自身でさえも
誰もが困惑する中、真っ先に安堵の声を溢したのは既に目元を赤く腫らしかけているサツキだった
「な……なによもう!それならそうと先に言ってちょうだい!本気で心配しちゃったじゃない!」
「……」
「でもよかった……酒泉が自分の意思でゲヘナを支配しようとしてる訳じゃなくて───」
ぷんすかと場の空気に似合わない怒りを抱えながら酒泉に近付くサツキ、しかしここで一つの疑問が生じる
折川酒泉は自らが雷帝の遺産の影響を受けている事を自覚している、それなのに何故その違和感を無視して雷帝の意思を継ぐような行動をしようとしているのか────
「───勘違いするなよ、洗脳はとっくに解けている」
「───へ?」
「っ、サツキ!」
駆け寄ってくるサツキの肩を突き飛ばす酒泉、マコトが後ろから咄嗟に抱き止めた事で幸いにも壁にぶつかる事はなかったが、サツキは思わぬ返答に固まったままだった
「雷帝を堕としたあの日、お前等は別動隊だったから知らなかっただろうがな……俺は雷帝派の連中と交戦してる時に一度試作型の洗脳装置食らわされてんだよ」
「なっ……」
「急に頭に声が響いて、機械ぶっ壊しても頭が痛いままで、雷帝との戦闘中もずっと頭が痛くて……でも負けたくないって必死に自我を保ってたら、お前等が駆けつけてきた頃には既に声が聞こえなくなっていた」
「……」
気合いで洗脳を解く、そんな離れ業をやってのけた酒泉に一同は深い絶望を覚えた
何故なら、それが意味するのは────
「分かるか?俺は洗脳を乗り越えた───その上で、俺自身の意思で雷帝の意思を継ぐ事を決意した。俺自身の足でゲヘナを駆け回り、俺自身の眼でゲヘナを見極め、俺自身の心でそう決めたんだ」
ゲヘナの現在は知っている、現在進行形で秩序が崩壊しつつある学園をこの眼で見ているから
ゲヘナの未来も知っている、平気で他者を傷付け、他校まで荒らそうとする輩が蔓延っている未来を〝原作〟で見てきたから
ならば、唯一頼りになるのは〝過去〟のみ
「だから俺は───」
「……約束」
「……あ?」
「私との約束は……どうなるの?」
今にも消えてしまいそうなか細い声で訊ねるヒナ、雷帝を下した日から二人はある契りを二つ交わしていた
一つは統率者を失い今後確実に荒れ狂うであろうゲヘナで越えてはならぬ一線を引き、それを風紀委員で守り続けるという契り
そしてもう一つは───それを守るヒナを、酒泉がいつまでも傍で支え続けるという契り
空崎ヒナという少女が折川酒泉という少年との〝繋がり〟を求め、彼は自分の頼みを断れないという性格を利用して半ば強引的に結んだ約束
ヒナが彼との繋がりを求めた理由、それは至って単純───ただ大好きなだけだった
好きだから傍に居てほしいし、でも堂々とそれを伝えるのは恥ずかしいから〝支えてほしい〟と遠回しに伝える事しかできなかった
それでもあの時の少年は言葉に込められている意図を気にも留めず〝勿論!〟と笑顔で答えた、だからきっと今の酒泉も〝約束〟を持ち出せば思い留まってくれる筈だと───
「約束……ああ、あったあった。それは流石に覚えてるわ」
「っ、じゃあ───」
「それ、忘れてくんね?」
「……ぇ」
「今は空崎との約束〝なんか〟よりやりたい事があるからさ、支えが欲しいなら別の奴用意してくれよ……あ、でも数年待てば優良物件な大人がワンチャンキヴォトスに来たり───」
「もう、黙れ」
そんな期待をくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てるかの様にあっけなく答える酒泉
とうとうヒナの声が完全に消え入ったと同時に、酒泉の心の臓に再び銃口が突きつけられた
「〝私は裏切り者です〟と白状するのにこんな時間を使う必要などなかったのだ」
「俺としては〝雷帝派につきまーす〟つってさっさと帰るつもりだったんだけどな、話長引かせたのはお前だろ」
「そうだな、来世以降また会う機会があれば以後気を付けよう」
「……っ、待って!本当にやるつもりなの!?」
マコトがかちりと引き金に指を掛けると同時、カヨコが二人の間に割って入る
珍しく声を荒らげて必死に食い止めようとする姿に一瞬気を取られたが、流石議長の器と言うべきかマコトは銃の向きをカヨコの身長では隠し切れていない酒泉の頭部へと向け直す
「お前も十分分かっただろう!この男は本気で我々を裏切るつもりだと!」
「……逆に聞くけど、そっちこそ本当に酒泉が裏切る様な奴に見えるの?ついこの間までゲヘナの不良から一般生徒を守っていた様な奴が、多忙な風紀委員の癖に業務終了後も生徒の落とし物探し手伝ってた様な奴が」
「……」
「あーだこーだ理由つけて置いて帰ろうとしたけど結局見捨てられなくて里親見つかるまで捨て猫飼ってた奴が……友達の為に興味のないジャンル勉強して!同じイヤホンで同じ曲を聞いてくれる奴が!こんな下らない理由で裏切ると本当に思ってんの!?」
「それは……」
声色から本気で酒泉を信じているのだと察したマコトは強く言い返す事ができずに言葉を詰まらせる、一方で酒泉はカヨコの言葉を騒音だと言わんばかりに、片耳に指を入れて蓋をしていた
それでもカヨコは言葉が届いていると信じて酒泉の方へ振り返り、自分の顔を酒泉の胸元に埋めて啜り泣きながら問いかけた
「ねぇ……答えてよ……アンタってそんな奴じゃなかったじゃん……秩序を保とうと誰よりも必死だったけど、それでも誰かの自由を踏みにじろうとはしなかったでしょ……」
「……」
「お願い……なんとか言って……」
「そうだな……例えばさ、今の鬼方の声ってそこらの下品なバンドみたいにすっげー耳障りだったのよ」
「……え?」
「でもさ、秩序で保たれたゲヘナならお前みたいに感情任せに叫んでくるようなくっそ喧しい奴等も存在しないし落ち着いて授業を受けられるだろ?それって良い事なんじゃないかなーって」
酷く傷付いた表情で酒泉を見上げるカヨコ、彼の瞳には一切の同情も罪悪感も宿っていない
嘗ての酒泉を知っている身からこそ容赦なく仲間を傷付けていく〝今の酒泉〟を見続ける事に耐えられなくなったのか、マコトは酒泉の腕を引っ張り身体を強引に寄せ、その下顎に銃口をくっつけた
「っ、もういい!!これ以上我々が知る〝折川酒泉〟を汚す事は例えお前自身でも───」
「───もう嫌あああああっ!!!」
許さない、その先の言葉はサツキの悲鳴によって掻き消された
「なんで!?なんでこうなるのよぉ!?皆で頑張ったのに!やっとあの地獄の日々を戦い抜いたのに!」
「サ、サツキ!落ち着け───」
「嫌!全部嫌よぉ!酒泉が誰かを傷付けるのも!酒泉が誰かに傷つけられるのもっ!なんでまたゲヘナ生同士で戦わなくちゃいけないの!?」
「……」
「ねえ、やっぱり冗談なんでしょう!?いつも喧嘩ばかりしてるマコトちゃんにちょっと仕返ししたくて後戻りできなくなっちゃっただけよね!?そうでしょう!?」
「……チッ、腰抜けが」
「───っ!うああ゛あああああっ!!!」
吐きたい恨み言など山程あった筈のマコト、しかし酒泉がサツキを見下す様な言葉を吐いた瞬間、マコトはただ獣の様に吠えて銃を突きつけるだけだった
殺す、これ以上仲間を傷付けさせない為に、記憶にこびりついたムカつく男の生意気な面を濁されない為に
「テメェにも言ってんだよ、さっきから〝撃つ真似〟ばかりしやがって」
「なっ……私は、本気で……!」
「何度も銃口こっち向けてきてんのにまだ一発も撃ってねえだろ……そうだ!お前、どうせ本気で俺に勝てねーし記念に一発だけチャンスやるよ」
銃口を向けられているにも関わらず一切恐れを見せずマコトに近付く酒泉
自ら額を銃口に当てると、トリガー部に掛けられたマコトの指に更に自身の指を重ねた
「今から引き金代わりに引いてやるからそのままじっとしてろ?」
「なっ……ば、馬鹿か貴様!?この距離で撃てば当たるに決まってるだろう!?」
「おう、そうなりゃお前は雷帝派を一人潰せてラッキー!俺は生き残ってラッキー!って事だな」
ついに気でも狂ったか、これで精神汚染を受けていないのか
そんな疑問が頭の中で渦巻くマコト、しかし時間は彼女を待ってはくれない
「いくぞー、3、2、1」
「なっ……待───」
「0」
破裂音に似た音が響き、ポタポタと赤い体液が滴り落ちる
反射的に目を閉じてしまったマコトが目を開くと、折川酒泉の額───ではなく、肩から血が溢れていた
「逸らしたな」
「ぁ……」
手の震えが激しくなり、握っていた銃が床に落ちる
足まで震え出したマコトは近くのデスクを支えにする為に何とか手を伸ばすが、その手はデスクの端を掴み損ねてしまい、支えを失ったマコトは背中から床に倒れた
「今、俺を殺せるチャンスだったのに逃げたな……お前も所詮、その程度の覚悟なんだな」
「わ、たしは……お前を……」
「大事な仲間を傷つけられておきながら、敵の一人も撃てない……情けねえなぁ、お飾り議長」
大切な者の仇討ちが出来なかった事への悔しさか、それとも自分が口だけの人間だと突きつけられた事への怒りか、それとも───これから凶行に走る友を止められなかった絶望からか
マコトは光を失った目で天井を見つめ、酒泉はそんな彼女に興味を失くしたかの様に〝ふん〟と鼻を鳴らした
「ぁ……しゅ、酒泉……」
「……空崎」
「わ、私……やだ……酒泉と……酒泉と離れたくない゛ぃ……!」
カヨコ、サツキ、マコト
心に深く傷を追った三人を無視して何処かに向かおうとする酒泉
しかしヒナの横を通り過ぎようとした瞬間、ヒナは咄嗟に酒泉のズボンを掴んで泣きながら止めにきた
そんな彼女を前にしても酒泉は一切態度を崩す事なく、ただ見下ろしながらさらっと呟いた
「じゃあ一緒に来るか?雷帝派のところ」
「……ぇ?」
「空崎が俺の指示に従って逆らう奴等全員ぶっ飛ばしてくれるなら多分奴等も仲間入り認めてくれると思うけど」
雷帝派にとって空崎ヒナは自分等のトップを蹴り落とした反逆者、しかしそれを言うなら折川酒泉も同じ立場である
ならば自分も認められるかもしれない、そうなればゲヘナを離れても酒泉と一緒に居られる、そう考えたヒナは一瞬黙り込んだ後───
「……ない」
「何を?」
「でぎ、なぃ……みんな、を……裏切れない゛ぃ……!」
「ふーん、じゃあ俺だけ行くわ」
より多くの涙を溢しながら、風紀委員長が選んだのは〝学園を守る〟という選択だった
それを見届けた酒泉は特に落ち込む事も怒りを露にする事もなく、興味すら示さずそのまま去っていった
戦闘があった訳ではない、酒泉以外肉体が傷付いている訳でもない
だというのに、その背中を追おうとする者は一人も居なかった
『ああ、ああ、マイクテスト、マイクテスト、わんつー……あーあー……よお、洗脳後の折川酒泉。俺だよ俺、洗脳前の折川酒泉だ。〝雷帝様の意思を継ぐ者へ〟ってタイトルでテープ置いとけば必ず見てくれるって信じてたぜ』
『突然だけど俺が雷帝軍団との戦闘中に食らっちまった洗脳装置ってさー、あれ効き目強すぎるプロトタイプのやつっぽいんだわ。どんぐらいヤバいかってーと雷帝の意志がねじ込まれるどころか性格までめちゃくちゃ変わっちまうやつ、ワンチャンお前とんでもない屑に成り下がってるかもしれねーな……あ、ちなみに元に戻る方法は無いっぽいぞ(笑)』
『んでまあ、雷帝の遺産探ししてる最中に〝この装置食らった折川酒泉その内性格変わるから後で仲間にしちまおうぜ!〟的な計画書が見つかってさー……ちょっくらその計画利用して雷帝の残党一網打尽したいから協力してくんね?』
『具体的に言うと、まあ……完全に雷帝派についたフリして奴等を騙くらかしてほしい。つってもこのビデオ読んでる頃には〝雷帝派についたフリ〟じゃなくてガチで雷帝派になってるんだろうけどよ』
『分かってる、そんな状態なのに雷帝を敵に回す訳ないだろ!……って言いたいんだろ?そりゃそうだ、今のお前にとっちゃゲヘナに残ってる皆よりゲヘナを追放された奴等の方が大切になってるだろうしよ』
『だから、この際〝また空崎さん達と仲良くなれ〟なんて言うつもりはない────その代わり、俺の大好きなヒーロー達に顔向けできねぇ様な生き方だけはするな』
『幾ら性格弄られてようが好物とか好きな作品とかはそのままだろ?……悪い、これ希望的観測だから普通に外れるかも』
『ただ、もし少しでも〝暴力が嫌いでも笑顔の為に戦ってきた戦士〟や〝悪意すらも飛び越えて未来へジャンプした戦士〟への憧れを忘れてねえなら……自分が何をするべきか分かるな?』
『〝自由なき平和にも、平和なき自由にも、笑顔がない〟』
『……秩序も自由も、どっちもゲヘナに必要な物なんだ。それを保てるのは今ゲヘナに残ってるあの人達しかいねぇ』
『お前はどうせ元には戻れねえし、これから散々傷付けるであろう空崎達と再び仲良くなるなんて事も不可能!出来る事と言えばせいぜい雷帝派に媚び売って残党の居場所全部把握する事と、空崎達が心置きなく俺をぶっ飛ばせるようにめちゃくちゃ嫌われておく事ぐらいだ!』
『推しに嫌われるなんてこれも案外貴重な体験だぞ!良かった!……いやお前洗脳されてっし全然そんな事ないか!ははは!』
『……あー、くそ……悪い、なんかもう既に精神が駄目な状態みたいでな、はっちゃけながら喋らねえとすぐ乗っ取られちまいそうなんだよ。今の俺は残り火というか……そんな感じだ』
『……』
『まあ、とにかく大義の為に犠牲になってくれや。京極は羽沼がメンタルケアしてくれるだろうし、鬼方はご存知の通りアウトローさんが拾ってくれるだろうし、羽沼と空崎も……俺への憎しみとか怒りで原作より仲良くできるかもしれん』
『あの人達が笑顔になってくれるならそこに俺達は必要無い、あそこはもうこれからゲヘナに来る後輩や〝先生〟の居場所だ』
『……外の国からやってきた鉄のヒーローだって指パッチンで皆を救ったんだ、お前もそれくらいやってみせろよ』
『んじゃ、洗脳後の俺がこのビデオを雷帝信者共にバラさない程度に良心残ってるのを願って……あでゅー!』
『……』
『……』
『あーいや、ちょっと待った、やっぱ嫌われる時は皆にちょい優しめにしてくんね?』
『京極怖いもんとかガチで苦手だし下手に脅すの可哀想だから……鬼方もああ見えて結構繊細だし』
『羽沼は一見大丈夫そうに見えるけど二日くらい煽りガン無視し続けたら不安そうになってたし、空崎なんて……あー……えー……これ言うの恥ずいけど、俺が単純に好きだから優しくしてあげてほしいっていうか……』
『あっ!?おまっ、今の絶対言うなよ!?空崎はこの先出会う運命の相手決まってんだからな!?だから絶対───いや、別にバラしたとしてもどうせ嫌われてるんだし未練なんか残らないか……?』
『…………』
『……あー、くそ、くそくそ、なんで俺が、これ本当に戻れないのか?戻れないよな奴等のレポートに書いてあったし雷帝がしくじる訳ねーし』
『あーやだ、戦いたくねえ、本当にやだ、かえりたい、だめだ、かえったらぜってーきずつける、そらさき、はぬま、きょーごく、おにかた、かえりてぇ』
『ふざけんな、らいていなんざくそくらえ、えんていのほうがかっこいいにきまって────』
─雷帝編clear─
キャラストーリーに『ゲヘナイキリアルコールvsゲヘナバカマコト!スーパーファッション対決』が追加されました
キャラストーリーに『ゲヘナイキリアルコールvsゲヘナバカマコト!ハイパーデート対決』が追加されました
キャラストーリーに『ゲヘナイキリアルコールvsゲヘナバカマコト!アルティメットポッキーゲームチキンレース対決』が追加されました
キャラストーリーに『過ぎ去りし過去』が追加されました
シークレットアイテム〝黒いビデオテープ〟を入手した事で炎と影編EX1章『雷鳴、再び』が解放されました
シークレットアイテム〝黒いビデオテープ〟を入手した事で炎と影編EX2章『残り火、炎となりて』が解放されました
シークレットアイテム〝黒いビデオテープ〟を入手した事で炎と影編EX3章『折川酒泉は燃え尽きない』が解放されました