「うぅ……ひっぐ……」
「へいレディ、そんなに泣いてちゃそのキュートな顔に泣き跡で滑走路が出来ちまうぜ?」
「……ぅえ?」
溜まったゴミを校舎裏のゴミ庫に運んでいる道中、発見したのはぐすんぐすんと泣いているイブキさんの背中だった
その髪色同様日頃から明るい彼女が悲しんでいるのは非常に珍しく、空気を明るくする為におどけながら話しかけると、案の定イブキさんの目元が赤く腫れていた
「酒泉……」
「どうした?階段で転んだか?それとも誰かに虐められたか?」
「……んーん」
両膝を抱えながら俯くイブキさん、その痛ましい姿に見ているこちらまで胸がキュッとしてきてしまう
「全く……こんな時に羽沼さんは何をやってんだか」
アンタの可愛がってるイブキさんがこうして涙を流してるっていうのに───
「マコト、先輩……うぅ……うわあああああん!!」
「……え゛っ」
突如顔を上げて泣き叫ぶイブキさん、俺の目が節穴じゃなければ今羽沼さんの名前を出した瞬間に感情が高ぶった様な……
いや、まさかな?あの羽沼マコトがイブキさんに酷い事する筈ないだろうけど、でも一応……
「あー……もしかしてイブキさんが泣いてる原因って羽沼さんか?あの人にプリンでも食べられたか?」
「……ぅん」
はいっクズ確定、ぶっ殺します
なーにをやっとんじゃあのアホンダラは、人の甘味を許可無く奪う事は極刑に値するぞ、しかもこんな純粋な子のを……
「イブキね、この前イロハ先輩がプリンご馳走してくれたからイブキもお礼しなくちゃって思ってプリン買って冷蔵庫に入れておいたの。そしたらマコト先輩がそれを食べちゃって……他の人が間違って食べないようにイロハ先輩の名前も書いておいたのに……」
「あ、自分のじゃなくて棗さんの食われたのね」
「それで、それで……〝イロハ先輩のだから食べてもいいと思った〟って言われて、それでイブキ、マコト先輩に〝バカ!〟って酷いこと言っちゃって……うああああああん!」
「おーよしよし」
どこをどう切り取っても〝あーそれは羽沼が悪いわ〟としか言いようが案件なのだが、イブキさんは自分がゲヘナバカマコトに暴言を吐いてしまった事を後悔して泣いていた、天使かな?
しかし然り気無く舐められてる棗さんェ……仮に棗さんが自分で買ってきたプリンだったとしたらあのゲヘナバカウンコマコトも特に狼狽えたりせず開き直ってたんだろうな
よくもまあ愛想尽かさず一緒に居られるな、言っちゃあれだが駄目男を見捨てられない彼女というか……
まあ、そのダメンズのせいでイブキさん泣いてる訳だし今頃ぶちギレてるんだろうけど……なんて予想してみながらイブキさんの頭をよしよしして慰めてみる
「イブキ、マコト先輩に嫌われちゃったかな……」
「でぇじょうぶでぇじょうぶ、どうせこの後すぐ泣きついてくるって」
「でも……」
俺いつもあの人に〝いりごまより小せぇ脳ミソ〟とか〝ダチョウとディベートしてギリ負けそう〟とか〝息くせぇんだよ口閉じろ〟とか色々言ってるけど悲しむどころか顔真っ赤にしてキレるだけだし
……って言ってもイブキさんの不安は晴れんよなぁ、この子のメンタルはあのバカと違って繊細なんだしやっぱ喧嘩別れ(という名のイブキさんによる一方的なノックアウト)したままじゃ気が気でないだろう
イブキさんは不安よな、酒泉、動きます
「イブキさんやイブキさんや、この後時間あるかい?」
「ふぇ?う、うん……あるけど……」
「それなら丁度良い、俺と一緒に……」
「仲直りのプリン、作らないか?」
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サンキュー調理室を貸してくれた愛清さんと牛牧さん、約束通り今度御二人の野菜収穫手伝いますね
サンキュー仕事変わってくれた先輩、約束通り今度の日曜日買い物の荷物持ち手伝いますね
「はい、という事で酒泉のプリン作りRTAはーじまーるよー、どんどんぱふぱふ~」
「ぱふぱふ~!」
「それはまずい」
俺は決して頭がピンクなトリニティの裁判官ではないのだが、このワードばかりは流石にアウトだと思う
何度も言うが俺がムッツリな訳ではない、これも全て国民的RPGが悪いんだ
「では気を取り直して……まずは王道的なシンプルプリンを作ってくか」
「はい!酒泉先生!この瓶は何に使うの?」
「よくぞ聞いてくれました。今から作る王道プリンね、これだけ瓶に入ってる感じのちょっとお高そうなやつにしちゃいたいと思います」
「本格的なやつだ!」
「そそ、本格的なやつ」
まずは鍋にバニラビーンズや生クリームをぶち込んでプリン液用の牛乳を温めておこう、火は沸騰したてか沸騰直前くらいに止めておこう
……生クリームは牛乳温める時に入れる派と卵黄混ぜる時に入れる派が存在するとか、どっちも美味しいんでどっちも正解だと思うんすけど
次にカラメルソース作り、鍋に水とグラニュート……じゃなくてグラニュー糖をぶちこみ、これを中火くらいの温度で色が濃くなるまで熱していきます、この時中を混ぜすぎると糖が結晶化しちゃうんで軽く鍋を揺らす程度に留めておいてください
ああ、それとちょっと目を離すとすぐ焦げてしまうので注意してください、熱と刺激してしまった女の子の面倒は最後まで見ましょうねー
じゃないと……カラメルソースみたいにドロドロに煮詰まった感情を抱えながら火傷させに来ちゃいますよ?
さて、俺には絶対縁の無いジョークを飛ばしたところで完成しましたカラメルソース、こちらを耐熱瓶に注いでいこうと思います
ふふふ……今日の俺は余裕があるので……プリンを6つも作っちゃいます!
6つも!?ギラドーガまで!無理だよ、皆下がれ!
「イブキも手伝う!」
「カラメル跳ねたら危ないから下がってなさい」
「むぅ~……イブキ、そこまで弱くないもん!」
「駄目なもんは……いや」
そうだ、すっかり失念していたけどイブキさんもキヴォトス人だったな
思いっきり腕に溢したりしなければ多少跳ねが当たる程度どうってことないか
「そうだな、じゃあ任せていいか?」
「うん!」
じゃあイブキさんがカラメルソースを均等に注いでくれてる間にプリン液でも作るか
ボウルに卵黄とグラニュー糖をぶち込んで混ぜ合わせ、そこに先程温めた牛乳を入れながら少しずつ混ぜていく……あ、牛乳の中からバニラビーンズのさや等を取り出すのも忘れずに
それから濾し器でプリン液を濾し、その後はカラメルの上にこのプリン液を注ぎ込む
カラメルは下に敷かれていても上に掛けられていてもどちらでも美味しいのだ
デザート・オン、ドロップミー、ドロップミー、ディッシュアップ
「メイキング、メイキング、スイーツメイキング、メイキング、メイキング、スイーツメイキング」
「なにそれ?」
「こうして歌いながらプリン液を入れるとな、プリンが美味くなるんだよ」
「じゃあイブキも一緒に歌うね!」
「メイキング、メイキング、スイーツメイキング」
「めいきん♪めいきん♪スイーツめいきんっ♪」
ボナペティイイイ!!!……にはまだ早いな、だるっ
この後はアルミホイルで瓶の蓋を作り、沸かした湯の中に瓶を入れて弱火で10分程蒸し、粗熱を取ってから冷蔵庫に入れて四時間程待たなければならない
……そういやアルミホイルで思い出したが、買い物中にセールストーク繰り広げてきたあの怪しげなお姉さんは一体何だったのだろうか
〝このアルミホイルは5G電波をうんたらかんたら~〟とか〝擬似科学がどうたら~〟って説明してきたからガン無視してすぐ帰ったけど……ちゃんとヴァルキューレに捕まってるといいな
まあ、それはさておき───
「これでプリンは完成、後は待つだけ……とはいえ流石に長すぎるし他の味のプリンも作っておくか」
「えっ!?酒泉、色んなプリン作れるの!?」
「まあ、そこそこ?なんならゼリー作る為の材料だって買ってきてるぞ」
「凄い!将来はパティシエさんだね!」
目をキラキラさせながら褒めてくれるイブキさん、純粋な笑顔が眩しすぎて目が焼かれちまいそうだ
……パティシエか……計30年程生きて未だに進路が決まってない無計画人間だけど、それも悪くないかも……
糖分を愛し糖分に愛された俺としてはめちゃくちゃ〝あり〟な選択肢だな、うん
「まあ、それはもう少し歳を重ねてから考えるとして……〝万魔殿スイーツ〟の作成に取り掛かるとしようか」
「万魔殿スイーツ?」
「そそ」
どうせならイブキさんがもっと喜びそうな事……万魔殿全員分のスイーツも作ってやるか
作業行程もじっくり見せてあげたいところだが、プリン自体冷やす為の待ち時間が必要なスイーツなのであまりモタモタしていると放課後過ぎて真夜中になっちまう
という訳で───クロックアップ!
あ、リバイブ疾風でも可です
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「イブキ様、様々な花に言葉が込められているように、実は果物にも言葉が込められている事は御存知でしたか?こちらのゼリーは〝誘惑〟という言葉が込められているリンゴで作られており、その中のさくらんぼには〝小さな恋人〟という言葉が込められております。小さき身体ながら、他者を誘惑してしまう程の美貌を誇る愛らしい棗イロハ様にピッタリだとは思いませんか?」
「こちらのイチゴプリンは京極サツキ様の魅力的な髪色に近くなるように仕上げさせていただきました。温度の変化、熱する秒数、正確な分量、それらを意識しながら味を衰えさせる事もなく狙った色を生み出す作業はとても大変でした。しかしこの美しき桃色に近付く度にサツキ様の顔が浮かび上がり、彼女の諦めない心を習って調理を続けた結果……見事、完成にまで至る事ができました」
「元宮チアキ様、とても天真爛漫な方ですよね。万魔殿のムードメーカーと称されるだけあってか、彼女の素敵な笑顔に元気付けられる生徒も少なくないとか。ええ、勿論私も素敵だと思っていますよ?具体的にあげるなら特大のネタを聞き付け、カメラ片手に駆けつけてきた時の無邪気な笑顔ですかね、あれが特に印象的でして……このオレンジゼリーはそんな彼女の象徴であるカメラと同じ色をしており、真ん中に埋め込まれたブルーベリーはカメラのレンズを表しております」
「幼さを感じさせない程の聡明さを誇るイブキ様ですが、人生という道においてはまだまだ歩みを始めたばかりである事は変わりありません。大人になるにつれてこのビターチョコプリンの様に苦い思いをする事もあるでしょう……そんな時こそ立ち止まり、この下に埋まっているミルクチョコレートの様な甘い甘い日々の思い出を記憶から掘り起こしてみてください。貴女の脳裏に浮かぶ仲間達の笑顔が、きっと貴女に元気を与えてくれますから」
「お、おお!?なんと派手な!?赤、青、紫、黄、緑、様々な色のゼリーが生クリームの上にギッシリと敷き詰められているではありませんか!?しかし真に驚くのはその全てを支えてしまう下段のケーキ!この姿、まるで十人十色なゲヘナの生徒達をあっけなく受け止めてしまう我等が偉大なる議長・羽沼マコト様のようではありませんか!このゼリーケーキの様に広い彼女の器に何度惚れた事か……!」
「凄い凄い!酒泉、料理を紹介してくれるレストランのウェイターさんみたい!」
「へへっ、そっちの道でも食っていけそうだな」
大袈裟気味に全ての口上を言い終えると、興奮した様にぴょんぴょんと跳ねながらイブキさんが賛辞の言葉を送ってくれた
まあ、こういう演出すればイブキさんが喜ぶと思ってそれっぽい長所をそれっぽく言っただけなんだけどな……本音なんて殆ど含まれていない、いる訳がない
特に羽沼マコトに関してはぜっっっっっっっっっったいに有り得ない、俺が奴に惚れたり尊敬したりする事なんて100億%起こり得ないだろうよ
ゲヘナの長らしいところを見せてくれたらほんの1ミリ程度は見直すかもしれんが……そんなイベントは今後の人生で一度も起こる事ないだろうし意味のない仮定話だ
「先輩達のことよく見てるね!酒泉も先輩達の事が大好きなんだ!」
「…………眼ガイイダケデス」
万魔殿に書類を届けに行く時にちょくちょく幹部メンバーを見掛ける事があるだけなんです、良いところも悪いところも発見しやすいこの眼で今回は本当に気紛れであの人達の良いところ〝だけ〟を挙げただけなんです
だからイブキさんや、そんなキラキラしたおめめで見つめないでくれ
「こほん……じゃあスイーツも完成した事だし全部包装に包んでさっさと議長室まで持っていくと……あ、そうだ。悪いんだけど万魔殿の扉が見えてきたらそこからは一人で運んでくれないか?俺ちょっと用事があってさ……」
「分かった!酒泉が一緒に作ってくれたこと、マコト先輩にもちゃんと伝えておくね!」
「あ、あー……すまん、できればそれは秘密にしておいてもらえると……」
「え?どうして……?」
「それは……えっと……恥ずかしいから?」
「何が恥ずかしいの?」
「それは……男なのに料理得意なんだーってからかわれるのが……」
「皆良い人だからそんな事言わないよ!イブキも酒泉のことカッコいいって思ってるもん!」
「あ、いや……今の嘘!本当は味が不味かったら気まずいから……」
「大丈夫!味見用に小分けしたのさっき一緒に食べたけど全部美味しかったから!」
あのタヌキの事だし俺がイブキさんと二人きりで作った事を知ったら後でギャーギャー喚いてくるに決まっている……なんて馬鹿正直に伝える訳にもいかないので適当に誤魔化そうとする
……が、純粋無垢なイブキさんは一切の穢れが混じっていない瞳で俺の嘘を悉く破壊してきた
そんな眼で俺を見るなああああああああ!!!
「あ、いや……じ、実はここだけの話俺って羽沼さんのファンでさ……こうしてプレゼント送ったこと知られるのはまだ恥ずかしいっていうか……」
「そうだったの!?でも、イブキもわかるー!マコト先輩かっこいいもんね!」
「あ、あはははは……」
「分かった!じゃあ皆には酒泉と一緒に作ったこと内緒にしておくね!」
プライドと引き換えにイブキさんに通りの良さそうな択を選ぶと、予想通りイブキさんは一切疑う事なくパアッ!と明るい笑顔を咲かせた
いいんだ、これで……俺のちっぽけなプライドと引き換えに、イブキさんの笑顔を壊さず後々の面倒を避けられるなら……これで……
「ねえ、酒泉……今日はありがとね!イブキ、酒泉と一緒にお料理してたら沢山元気貰えちゃった!」
ほら見ろ、この笑顔……己の精神を傷付けてまで嘘を貫き通した甲斐があっただろう───
「お礼にいつか絶対、マコト先輩と二人きりになれる日作ってあげるね!」
いやああああああああああああっ!!!いやああああああああああああっ!!!
「スプーンを持つ手が止まらないなんて、一体どんな催眠術を……ん~!おいひ~!」
「見た目も味も完璧とは……決まりました!次のタイトルは〝正体不明のプロパティシエ現る〟です!早く特定して取材しないと!」
二人の合作を前に舌を唸らせるサツキとチアキ、その表情は恍惚に染まっていた
……イブキは何も嘘はついていない、折川酒泉と二人で作った事はバラしていないのだから
彼女はあくまで〝イブキ達で作った〟と溢してしまっただけ、その〝達〟の部分に関しては絶対に口を割らなかった
「いやしかし本当に美味しいですねこれ……そこらの店なんて余裕で越えてるレベルですよ」
「でしょでしょ!?イブキもね、頑張ってお手伝いしたんだ!」
「ふふっ……流石はイブキですね」
「えへへぇ……」
「……で?先輩からは何も無いんですか?」
褒めて褒めて!と言わんばかりに見上げてくるイブキを優しく撫でるイロハ、しかしイブキから視線を外した瞬間にその表情は冷めたものへと変わる
その眼が向かう先はイブキからのプレゼントを横取りした挙げ句、イブキが悲しむ切っ掛けを作った大先輩にして大戦犯────つまりマコトだった
「…………」
「折角イブキが素敵なプレゼントを持ってきてくれたというのにさっきから黙りこくってばかり……」
「マ、マコト先輩?もしかして美味しくなかった……?」
「…………」
「……何とか言ったらどうなんですか、バカマコトせんぱ───」
「イブギイイイ゛イ゛イ゛イイ゛イイイ゛イイ゛イイ!!!ずまながっだああ゛ああ゛ああ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛ああ!!!」
「きゃあっ!?」
「うるさっ」
この期に及んでまだイブキを不安にさせるのか、そんな怒りをイロハがぶつけようとした瞬間、マコトの慟哭が部屋中に響き渡る
同時にマコトはイブキを両の腕で抱きしめ、イロハからの一言もお構い無しにウォンウォンと泣き出した
「ぜんぶわだしがわるいのにい゛いい゛い゛いいい゛!!!ぶり゛ん゛ばでづぐっでぐれでええ゛ええ゛ええ!!!あばじゃぎ@3だ!にだ#べ!!!」
「最後のに関してはもはや聞き取れないんですけど」
「マコト先輩……イブキも……イブキもごめんなさい……マコト先輩に酷いこと言っちゃって……」
「違う!悪いのはあんな言葉を吐き出させた私だ!イブキはこれっぽっちも悪くないぞ!」
「私への謝罪は?」
「うおおおおおおおお!!!イブギイイイイイイイイ!!!」
「まるで聞こえてませんね……まあ、謝られたら謝られたで気味が悪いのですが」
うるうると瞳を潤わせながら抱き合う二人を見て〝まあいいか〟と微笑むイロハ、これからも彼女は上司が馬鹿をやる度に似たような状況に付き合わされ続ける事になるのだろう
こうして万魔殿を騒がせた〝羽沼マコト廃人寸前事件〟は幕を閉じ、少女達は満面の笑顔で激ウマスイーツに舌を唸らせた
「それで先輩!味はどう?美味しい?」
「ああ!美味い!宇宙一……いや!イブキ達が作ったスイーツは全次元一美味いぞ!」
「ほんと!?イブキ、パティシエさんになれるかな!?」
「勿論だ!イブキならその腕だけでキヴォトスを支配する事だって可能だ!」
一緒に居られなかった時間の分だけイブキを甘やかそうとひたすら頭を撫でまくるマコト、とは言ってもその時間は一日にも満たないのだが
とにかく今の彼女の脳内には9割がイブキで埋め尽くされており、残りの1割はイブキの手作りスイーツを食べられる機会を与えてくれた〝謎の人物〟への僅かな感謝しかない
「えへへ……じゃあ大きくなったらイブキも酒泉と一緒にパティシエさんになろっかな!」
「「「「…………酒泉?」」」」
「…………あっ!?」
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「やっと来たか、相変わらず風紀委員は行動が遅いな」
「ゲロウンコじゃん元気しとん?」
「殺すぞ」
「殺されかけとるわボケ」
部屋にバカ以外誰も居ないのを確認し、口から本心を吐きながら書類の束をデスクの上に放り投げる
俺には……というか風紀委員は全員これくらい言う権利あるだろ、このキーキーうるせぇ女には
「ほらよ、今月の事件発生数とそれの報告書、さっさと判子押して寄越せや」
「うむ……こうして見ると解決数と解決までの速度は上昇しているが……相変わらず発生率自体は変わっていないな、風紀委員としての役目を果たせていないのではないか?」
「そりゃすいません、どっかの誰かさんが下らない嫌がらせ企んだりしなきゃこっちも事件の事だけに集中できるんすけどね……」
「ほう、自らの実力不足を上に押し付けるつもりか?ヒナはそんな下らない教育ばかり行っていたのか!ならば訓練費等は削減しても問題無さそうだな!」
「そっか!君は性格も実力も知名度も何もかもが空崎さんに劣っている空崎さんの完全下位互換なゴミ女だからそうやってちっぽけな嫌がらせをしてちっぽけなプライドを守る事しかできないんだね!かわいそ……」
「貴様ああああああああああああ!!!」
「うるさっ」
相変わらず声だけは無駄にでけぇな、風紀委員に対する器は有り得ん小さい癖に
しかし意外だな、いつもの流れなら好ましく立ち上がった勢いで胸ぐら掴んでぐわんぐわんしてくるのに今日はそれをしてこないなんて……馬鹿でも風邪は引くんだな
「貴様は判子を貰いにきたのではなく喧嘩を売りに来たのか?それならとっとと帰れ」
「俺とアンタの間で一度でも〝喧嘩〟が成立した事があったか?俺には今までの全部〝馬鹿が一人で勝手に騒いでるだけ〟にしか見えなかったぜ」
「そうか、偉大なるゲヘナの長を馬鹿と見間違えるとは貴様の眼も案外大した事がないな、実は失明している事に気付けていないんじゃないか?鈍すぎて」
「ご心配どうも……でも安心しな、万年椅子に座ってるだけのアンタよりは鈍くねーから」
「……本当に鈍いかどうか、その身で確かめてみるか?」
「やめとけよ、アンタどうせ弱いんだから……つーか戦ってるところ見たことねーし」
「「……」」
「……ほら!押し終わったぞ!さっさと持っていけ!ゲヘナ中を這い回る薄汚い犬がいつまでもこの部屋に残るな!床に臭いが染み付くだろう!」
「俺だってテメェのドブくせぇ口臭これ以上嗅いでたくねーよ!ファブ○ーズでも一気飲みしてろやゴミカスが!」
バンッ!と書類をデスクに叩きつけられたのでそれをバッ!とデスクからかっぱらう
やっぱ駄目だ、何回会ってもこいつがゲヘナの議長に相応しい人間だと到底思えない
偶にでいいから長らしい威厳ある立ち振舞いを見せてくれ、そうしたらほんの少しだけ素直に従ってやるから
「待て、この菓子もついでに処分していけ」
「ああ?なんで俺がんな事やんなきゃなんねぇんだよ」
「黙れ、風紀委員は風紀委員らしく雑用でもしていろ」
「んだと……つーかそれ、まだ中身残ってんだろうが!勿体ねえことすんじゃねえ!」
「知るか、私の口には合わん」
デスクの端っこに置かれていた黒い小箱を小指でトントンと叩くと、議長(笑)は汚いケツに敷かれていた可哀想な椅子から立ち上がり、俺の横を通り過ぎてそのまま出ていってしまった
マあいつ、食べ物粗末にしやがって……!あんな教育に悪い奴、イブキさんと一緒に居させるべきじゃないだろうに───ん?
「…………はぁ!?」
こ、ここここここの箱……あの高級チョコレート店〝ヴァレン〟のトリュフチョコじゃねえか!?
こ、これ……これ……一箱買うだけで万札が二枚飛ぶって言われてる……し、し、しかもっ、しかもっ、そんな値が張るのにすぐ売り切れて、現地で買おうとしたら二時間は待つってのに……!
しかも!見たところ一粒くらいしか食ってねえ!?
「あ、あのカス……!」
こんなすげぇもん捨てようとしやがった!それだってどうせ俺達からこっそりちょろまかした予算で部下に買いに行かせたんだろうよ!自分はのうのうと椅子に座りながら帰りを待って!
ふざけやがって!何であんな奴の手元にこんなに素晴らしいトリュフチョコが……ん?待てよ?
「……あ、あの人確か〝菓子を処分しろ〟としか言ってなかったよな?」
つまり処分方法に関しては特に指定されていない、と
「……い、いやまあ……仕方ないよな?フードロスっていけない事だし……捨てるくらいならこのまま俺が……」
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「そういえば先輩、あのトリュフチョコいかがでした?」
「何の話だ」
「ですから、あの有名店のチョコは美味しかったかって聞いてるんですよ。あの先輩がわざわざ御自身で並んでまで買いに行く程ですからかなりの味なんでしょうけど」
「知らん、あんな甘ったるい奴が食べそうな甘ったるいチョコなど知らん」
「いや知ってるじゃないですか」
オマケ・廊下での一幕
「執務室ついたらこっちの仕事真っ先に終わらせて……んで空崎さんに提出して……そしたら一回この前の事件の現場に……」ブツブツ
「ん?あれは……」
「おや!奇遇ですね!」
「げっ……京極さんに元宮さん……なんすか、言っときますけど今日忙しいんでアンタの催眠遊びにも取材にも付き合ってる暇は───」
「なによもお~!私達のことあんな風に思ってくれてたなんて素直じゃないんだから~!」
「〝不良達が恐れるゲヘナの眼、その意外な内面とは!?〟……という特集を組んでみたいのですがいかがでしょうか!?」
「は?何の話を───」
「あんな素敵な口説き文句まで用意できるなんて流石ね!私、貴方のこと誤解してたみたい!」
「サツキ先輩、ダメですよ!酒泉さんはバレてないと思ってるんですから!」コショコショ
「あ……そ、そうだったわね……何はともあれ、万魔殿と風紀委員が和解するなんて歴史的快挙よ!これで私達仲良しね!」
「はあ?誰がそんな───」
「そうだ!記念撮影しましょうよ記念撮影!」
「それいいわね!ほら、寄って寄って!」
「いや、だから話を───」
「ほらもっと近くに!腕も組んじゃいましょう!」
「カメラに収まるようにピッタリと!」
「でっっっっ……じゃなくてっ!何のつもりで……はっ!?(あそこを歩いているのは……棗さん!?)」
「……おや」
(お、おいナツーメ!こいつをなんとかしてくれよ!の意を込めた視線を送る)
(諦めてくださいシュセロットの意を込めた視線を送り返される)
「あ……あぁ……あああ……」
「では行きますよー!」
(俺が……俺が羽沼マコトの取り巻きと写真を……!)
「ちくしょう……」
「はい!チーズ───」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!!」