『聖園ミカが此方のエリアに辿り着いたぞ!』
「もうそんな所まで………!奴の狙いはアリウスへの復讐だ!下手に刺激しなければ我々カイザーが被害を食らう事はない!」
『だ、だが……!奴は邪魔になっている者は誰彼構わずに襲って────』
『お、おい!こっちに来てるぞ!』
『ひっ……撃て!撃てえええええ!』
『な、なんで……俺はアリウスじゃな─────』
「おい!どうした!?何があった!?応答しろ!………くそっ!あの暴れ馬め……!」
暴れ馬ではなく暴れゴリラです
脳内でそんな注釈を入れながら物陰からコソコソとカイザー兵のやり取りを聞いてみる
「パワーローダーの修復はまだか!?」
「ま、間もなく完了します!ですが、あくまで応急修理した程度ですので……」
「構わん!あの亡霊共を相手取るだけならそれで十分だ!」
輸送防護車の横で焦っているカイザー兵達
どうやら彼等は前線を離脱してパワーローダーの修理をしていたみたいだ
「他の部隊はどうなっている!?」
「そ、それが……なかなか数が減らない敵兵を相手に苦戦しているみたいで……聖園ミカがアリウス側に攻め込んでくれたお陰で戦況は拮抗しているようですが……」
「そんなの爆弾を抱えたまま戦っているようなものだ!あんな不確定要素に頼り続ける訳にはいかん………!修理を急げ!」
「りょ、了解です!」
はぇー……すっごい大変そうっすねー……(他人事)
さて、俺はこの混乱に乗じてアリウスの拠点に………と行きたいところだが、ここで一つ問題がある
実は俺、怪我治ってないんだよね
アリウスとカイザーに痛め付けられた分がまだ完治されてないんよ、未だに身体が少し痛む
装備だって使いなれてるのじゃなくてカイザーから奪ったやつだし………こんな状態で乗り込んでも長くは持たないだろう
「しゅ、修理完了しました!パワーローダー、すぐに起動できます!」
ここからどうやって進もうかと悩んでいると、どうやら先に奴等の機体修理の方が先に済んだみたいだ
参ったな、これ以上戦力が集中すると聖園さんを助っ………煽り返しに行けなくなるんだけどな
パワーローダーを装着される前に奇襲でも仕掛けるか?この程度の人数なら何とかなりそうだし………ん?パワーローダー?
………その手があったか
「よし!なら今すぐ────」
────折川酒泉!未来を切り開く!
「なっ……襲撃者!?撃て────」
────カイザー!!1!1このバカヤロウ!1!
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一体、また一体と敵が消えていく
ミカの放つ弾丸がユスティナの身体を貫き、背後のアリウス生に直撃する
敵はミカを撃退しようとアサルトライフルの弾を放つが、ミカはそれを気絶しているアリウス生を盾にして突き進む
「ふーん?仲間のことすら気に掛けないなんて……貴女達って血も涙もないんだね?」
そして残り数メートルまで近づいた瞬間、ミカはアリウス生の身体を敵に投げつけて体勢を崩させる
直後、ミカは脚に力を込めて一躍し、一気にアリウス生の集団の真ん中に飛び込む
「まあ、その方が私にとっては都合が良いんだけど………ねっ!」
一番近くのアリウス生の腕を掴んで引き寄せると、そのまま腹に拳をめり込ませてから蹴り飛ばす
後ろから襲いかかる弾丸は回避すらせずに正面から身体で受け止め、お返しとばかりに額にサブマシンガンによる一撃を与える
「……あれ?」
ずっと暴れ続けていたせいか、自身の銃のリロードを忘れていたミカはカチッと何かが空振る音に首を傾げる
「今だっ!リロードされる前に一斉に────」
〝撃て〟
そう命令する前にミカの両手が二人のアリウス生の顔を掴み、地面に叩きつけられる
その後、ミカは足元に落としたサブマシンガンを拾い上げ、弾丸のリロードを完了させる
「もう……そんなに死に急がなくてもちゃんと全員相手してあげるからさ」
〝数〟の暴力すら叩き潰す〝個〟の暴力
ミカは戦力差すらものともせず、たった一人で無双し続ける
「………っ!?」
だが、それは雑兵のみが相手だった場合の話だ
突如、ミカの真上から何者かが降ってくる
ミカが後ろに飛び退いて回避すると、その場には他のユスティナよりも身体のサイズが大きい女性が着地した
「……他の奴等よりも面倒そうだね」
聖女バルバラ────ベアトリーチェの切り札
聖園ミカを処刑する為だけに彼女は解き放たれた
「速っ……!」
バルバラはミカに急接近すると、右腕のガトリングをそのまま振り下ろす
ミカは再び後ろに下がって回避するが、バルバラは振り下ろしたガトリングの銃口をミカに向けて弾丸を放つ
ミカは横に走ることで何とかガトリングの射線上から逃れようとする
「回り込め!退路を塞ぐぞ!」
「……ああ、そういえば貴女達も居たっけ」
………が、その先にはアリウス生とユスティナが銃を持って待ち構えていた
ミカは多少のダメージを覚悟し、弾丸を浴びながら何かを敵の集団に投げ込む
「グレネードか……総員、退避!」
それは道中でカイザーからくすねたグレネード
敵はグレネードをなんなく回避するが、ミカにとっては逃げ道さえ確保できればそれで十分だった
更に脚に力を込めてバルバラのガトリング弾を避け切ると、リロードを始めた瞬間に今度はミカからバルバラに接近する
サブマシンガンの弾を放ちながら走るが、バルバラは腕を構えるだけで軽く防いでしまう
だが、ミカは元よりその攻撃に期待はしていなかった
信じるのはただ一つ、他の生徒よりも強く形成された己の身体のみ
ミカは手にグッと力を込めると勢いよく跳び、バルバラの顔にその拳を叩きつけた
《────っ》
「……っ!?」
その威力はバルバラを仰け反らせるには十分────だが、バルバラはすぐに体勢を戻してミカに蹴りを放つ
ミカは咄嗟に両腕でガードするが、痺れるような痛みが両腕に流れると同時に吹き飛ばされる
背後の瓦礫に激突すると、その隙を逃さずにユスティナとアリウス生がミカの両手両足を集中的に攻撃する
「……化け物め」
そう呟くアリウス生の視線の先には、血を流しながらゆっくりと立ち上がるミカの姿が
四肢の痛みに怯むことなく彼女は笑みを浮かべながらアリウス生を見つめる
「うーん……ちょっと周りの連中が鬱陶しいかなぁ……先に貴女達を片付けてから─────っ……また奇襲!?」
殺気をぶつけながら銃をリロードしていたミカに、突如青い炎が飛んでくる
足の状態から完全には避けきれないと判断したミカは腕を炎に振るって攻撃を防ぐ………が、その代償として焼けるような痛みが更に腕を襲う
「……っ……今度は……誰!?」
炎が飛んできた方向に視線を向けるが、その先にはひらひらとした黒い布が存在するのみ
だが、それが〝ただ視界に収まっていないだけ〟だと気づくと、ミカは冷や汗を流しながら視線を上げる
背に浮かぶ白い光輪、頭部の黒い一つ目、両手の鋭い爪、そして何より………その巨体
名はアンブロジウス────バルバラと共にミカを詰める為に更なる脅威が投入される
「あはは……あははははははははは!!!」
「……どうした?追い詰められて気でも狂ったか?」
しかし、ミカは絶望的な状況で尚笑い続ける
アリウス生達に怪訝そうな表情を向けられるが、ミカは一頻り笑いきった後腹を抱えて深呼吸をする
「ごめんごめん!ちょっと面白くってさぁ……」
「面白い?自分の死に様がか?」
「だってさぁ………最初から使い捨てるつもりだった私一人相手にこんなに戦力を切らされてるんだよ?そんな貴女達の必死な姿を見てると笑いがこみ上げてきちゃってさ☆」
「……最後の遺言はその下らない挑発で良いんだな?」
右からはアンブロジウスが、左からはバルバラが
そして正面にはアリウス生とユスティナの集団
ミカはボロボロの身体で敵を見渡し、その銃口を正面に向ける
「一人で死ぬつもりはないよ、貴女達から全てを奪うまで私は止まらないから」
「そうか、死ね」
そう素っ気なく返すと、全ての生徒達がミカに銃口を向ける
ミカは目を閉じる事すらせず、静かに息を整える
一秒、二秒、三秒経過、そして────
「………はい?」
────複数発のミサイルがアリウスとユスティナの集団に襲いかかった
突然の襲撃に敵は対応できず、そのまま爆発に巻き込まれる
何事かとミカが唖然としていると、今度はミサイルが飛んできた方向から一機のパワーローダーがアンブロジウスに突っ込んでいった
アンブロジウスがパワーローダーに爪を振り下ろす………が、直前に一人の男がパワーローダーから脱出する
正面から爪を食らった無人のパワーローダーは火花を散らし、完全に故障する………と同時に中で爆弾が爆発し、その衝撃でアンブロジウスを後ろに仰け反らせてそのまま転倒させる
「これってカイザーの………」
────無事か!?逃げるぞ!
「……は?貴方は────きゃっ!?」
質問する暇もなく男に腕を引っ張られる
ミカはこの場に残ろうと抵抗しようとしたものの、先程までの戦闘のよるダメージで上手く力を入れる事ができなかった
「なんで貴方が……こんな所にいるのかなぁ……!ゲヘナの生徒君!?」
そう呼んで睨み付けた先にはカイザーの装備で身体を固めた少年────折川酒泉が必死の形相で走っていた
────んなのアンタを逃がす為に決まってんだろ!?
「私は〝助けてほしい〟だなんて一言も頼んでないんだけど!?」
────シャーレ補佐として見過ごす訳にはいかねーんだよ!
「だいたい、あのパワーローダーはどうしたの!?なんでカイザーの兵器から貴方が出てきたの!?」
────途中で奪った!使い方はカイザーの口にグレネード突っ込んで脅した!道中はカイザーの味方のフリしながら近づいて最後に裏切った!
「うわっ……性格悪っ……」
悪役のような光景を頭に浮かべてドン引きするミカ
だが、直後に己の目的を思い出したミカは酒泉の手を振り払おうと腕は振る
「……ていうか!いつまで腕掴んでんの!いい加減放してよ!」
────ちょっ……ジタバタすんじゃねえや!
「うるさいなぁ!私の復讐の邪魔しないでよ!」
────復讐の為だけに命を捨てるつもりか!?残された人達の事はちゃんと考えてんのか!?
「………私が死んで悲しむ人なんている訳ないでしょ?」
────桐藤さんと百合園さんは!?あの二人はどうした!?友達なんだろ!?
「あんな酷い事をしておきながら未だに友達でいられる訳ないじゃん………もう私の周りには誰も居ないんだよ」
────自分の耳で聞いたのか!?本人から直接そう言われたのか!?
「…………話さなくても分かるよ、だって私は………あの二人を殺そうとしたんだから」
────そうやって話し合いもせずに〝自分は許されない〟とか〝自分には何も残されていない〟みたいな態度ばっか取りやがって……!
────いいか!?桐藤さんも百合園さんもまだアンタを見捨ててなんかいないんだよ!アンタが自分で勝手に〝自分は必要無い〟って……
《────違います、先生より俺が行った方が被害が最小で済むって言ってるんです》
《………先生さえ生きていればこの先の困難はどうとでもなる》
《俺が死んだとしてもあの人なら生徒を導いて脅威を打ち砕いてくれるだろう》
────決めつ……け……て……
「………」
────……ん?
「……何?突然黙り込んじゃって……」
────……………い、いや……とにかく!今は逃げる事を最優先に考えるぞ……っ!?
「……そりゃ追いつかれるよね」
何故か過去の自分の言葉が頭を過った酒泉
すぐに気を取り直してミカの腕を再び引っ張ろうとする………が、二人を飛び越えてバルバラが目の前に着地する
酒泉は歯噛みしながらこの絶望的な状況を打開する方法を必死に考える
「これは驚きましたね、己が狙われている事を知っていながら自ら敵地に飛び込んでくるとは…………まあ、あのままカイザーに連れ去られていたとしてもその先にも兵は配置していましたが」
そんな彼に容赦なく更なる脅威が襲い来る