「これ程の戦力を用意しておきながらたった二人の人間すら捕らえられないとは………この戦いが終わったら一度生徒達を〝再教育〟する必要がありそうですね」
身体を不気味に変化させながらそう呟く目の前の怪物────ベアトリーチェ
そいつは退路を塞ぐ位置で俺達を嘲笑う、最悪な状況の上に更に最悪の状況が重ねてきやがった
「……丁度良いや、貴女がアリウスのリーダー?」
「リーダー……一応〝はい〟と答えておきましょうか、更に細かく言うならば〝持ち主〟や〝飼い主〟が正しい呼び方になりますが」
「わーお、下の子達のことはどうでもいいんだね?まあ────相手がどんな性格していようと私には関係無いんだけどねっ!」
会話を切り上げてベアトリーチェに向かって走り出す聖園さん、そんな彼女を制止させようと手を伸ばすが間に合わなかった
聖園さんはベアトリーチェの右側に回り込み、敵の視界から外れようとする
だが、ベアトリーチェは枝の様な指先を雑に振るうことで聖園さんの移動を妨げる
ギリギリで避けた聖園さんの頬には切り傷が出来ている
「その気になればポキッと折れちゃいそうな見た目してるくせに、ちゃんと一定以上の強度はあるんだね?」
「やはり十数年生きた程度の小娘にはこの姿の如何に崇高なのか理解できませんか……」
互いに煽り合いながら再び戦闘を開始する二人
………いや、見てる場合じゃねえ!?この状況でベアトリーチェに勝つのは不可能だ!さっさと聖園さんを止めないと────
その思考に至って数秒後、突如足元が青く照らされる
数歩下がってその場から離れてみれば、さっきまで俺が立っていた場所が青い炎で燃やされた
後ろを振り向いてみればアンブロジウスが攻撃を行った後のような構えをしており、更にその横ではバルバラが両手の武装を構えて俺の方に近づいてくる
……そうだった、コイツらの狙い俺じゃん
「下手に動かないでくださいね、貴方は生かしたまま捕らえたいので」
此方に視線も向けずサラッと警告してくる、ベアトリーチェにとっては俺をどうこうするなんて容易い事なのだろう
……けど、それは〝俺を生け捕りにする〟って条件が無かった場合の話だ
「────っ!?何をするつもりですか!折川酒泉!」
ベアトリーチェの驚愕する声を背に、銃を構えているバルバラに突っ込む
例えば俺が自ら敵の攻撃に向かっていけば、俺を生け捕りにしたい奴等は当然────
「待てっ!まだ撃つな!」
────引き金を引く指を止める
やっぱりな!俺を動けなくさせる為に俺を殺しちまったら元も子もねえよなぁ!?
聖園さんが勝手に暴れてくれたお陰で幸いにもアリウス生は殆どダウン状態だ、なら俺は自分の身体を利用しながら敵と戦えばいいだけだ!
「狙うのは両足だ!絶対に撃ち間違えるな!」
「こ、こいつ……自ら銃口に向かってくるぞ!?」
残った数少ないアリウス生達が俺を撃とうとするが、敵の狙いが分かっているなら此方は瓦礫の多い場所等、足元への攻撃を防ぎやすい位置に回避すればいい
辺り一帯は廃ビル、更に聖園さんとの戦闘の影響で地形はガタガタだ
時に身体を隠しながら、時に自らの身体を人質にしながら敵に接近する
「くそっ!ならこのまま────」
「撃つな!殺すつもりか!?」
敵の動きが止まったその瞬間を見逃さずに一気に懐に潜り込む
一人の腹部にアサルトライフルを突き付け、そのまま引き金を引いて弾を叩きつける
そしてもう一人の腹部には背中からスナイパーライフルを引き抜き、そのまま突き付けて────やべえ!?カイザーに奪われてたんだった!?
「隙を見せたな────がっ!?」
咄嗟に首を思いっきり殴り付け、後ろに仰け反らせる
更に相手の髪の毛を掴んで近くの柱に頭を叩きつけ、痛みに悶えている間にアサルトライフルに装填されている残った弾を後頭部に放つ
はい〝女の子相手にやる戦い方じゃない〟とか思ったそこの貴方、少なくともヘイローが無い時点で此方の方が立場的には弱者なのでセーフでーす
「出血多量等の可能性も考慮して手加減していたのですが、それでも抵抗するというのなら………バルバラ、彼の片足を奪いなさい」
《─────!!!》
────あ、すいません調子に乗りすぎました、その銃イカしてますねバルバラさん……へへ……
《─────!》
ベアトリーチェの指示を受けた瞬間、よく聞き取れない叫び声を上げながら全力で向かってくるバルバラ
心無しか他のユスティナの勢いも増している気がする
とりあえず退路を確保する為にユスティナを適当に処理しようと─────いやそんな簡単に倒せる程の装備も体力も残ってないじゃん俺
いつもの装備ならと歯噛みし、身体を掠める弾丸に冷や汗をかきながらもどうにか瓦礫の影に辿り着く────瞬間、その瓦礫がバルバラに蹴り飛ばされた
《………》
────あ、どうも………
《────!》
俺の足に銃口を向けられるのを視認した瞬間、後ろに飛び退く
直後に地面に無数の弾丸が撃ち込まれ、銃口も少しずつ俺の方へ上がっていく
銃口が完全に上がりきる直前で今度は横に跳んで回避する………と同時にユスティナへの牽制射撃も忘れずに
奴等に牽制が効果あるのかは分からないが何もしないよりかはマシだろう
そして再びバルバラから距離を取ろうと脚に力を入れる────瞬間、俺の横に〝何か〟が飛び込んでくる
たった一瞬だろうと、その〝何か〟の正体を俺の眼は見逃さなかった
「……ぅ……っ!!」
そこには先程まで以上にボロボロの状態で倒れ伏す聖園さんがいた
軽く後ろを向いてみるとベアトリーチェとアンブロジウスがそれぞれ何かを放った後のような煙を手から出していた………流石の聖園さんでもあの状態で二体一はキツかったか
「この程……度っ!」
聖園さんは立ち上がろうとするものの、脚を震わせて体勢を崩してしまう
そんな彼女に追い討ちを掛けるかのように地面が青く光る
「これで終わりです、聖園ミカ………部外者には退場してもらいましょうか」
「っ……」
あれはマズイ、そう感じた俺は咄嗟に聖園さんの方へ駆け寄る
そして、地面から噴き出した青い炎が聖園さんの身体を包む────
「………はぁ!?」
────前に!俺、参上!
脚が焼けるような痛みを感じながら、聖園さんを抱えて全力で走り抜ける………直撃してないだけマシだろう
「ちょっと!?何してるの!?」
────耳元で騒ぐな、神経が苛立つ
「私、助けてほしいだなんて頼んだ覚え無いけど!?なんで私がゲヘナの生徒なんかに────お姫様抱っこされないといけないの!?」
────はいはい、降ろしますよーお姫様ー
「きゃっ!?」
ギャーギャーと騒ぎ散らかす聖園さんを少々乱暴に地面に落とす………まあ、わざとではないけどな
正直、腕も脚も限界だった、このままぶっ倒れて目を瞑りたいぐらいにはしんどい
聖園さんを抱えて逃げる時に背中から撃たれなかったのだって、咄嗟に捕獲対象である俺が飛び出してきたから射撃を中止しただけだろうしな
………もしかしたら細かい命令を聞けるアリウス生と違ってユスティナは融通が利かないところがあるのかもしれないな
だとしても状況は何も変わっていない、むしろ危機がより迫ってきているだけだ
「いたたたっ………はぁ、やっぱりゲヘナなんて野蛮な人しか────っ」
────謝罪なら後でいくらでもしてやるから、今は目の前の敵を……
「……その脚、さっきの攻撃で……」
聖園さんの視線の先には火傷を負い、血も流している俺の脚が
「……なんでそんな怪我を負ってまで私を助けたの?私が貴方達ゲヘナを嫌っているのは知ってるでしょ?」
────あ?あー……ほら、あれだ、ゲヘナの生徒に助けられて悔しがる姿を見たかったから
「……バカじゃないの?」
なんとなく素直に答えるのが嫌で適当に誤魔化すと呆れたような表情で睨まれる
……なんか、見捨てられないんだよな
「よくもまあ、この状況で折れずに戦えますね………行きなさい」
そんな事を考えている間にもバルバラが此方に突撃してくる
………駄目だ、正直この脚じゃ逃げ切れる気がしない
一ミリも勝ち目の無い戦いに正面からぶつかる覚悟を決めた────瞬間、聖園さんが俺の前に立つ
バルバラの弾丸をその身に受けながら拳を握りしめ………向かってくるバルバラを全力で殴り飛ばした
だが、ボロボロの状態の聖園さんの拳ではバルバラには大したダメージにならず、すぐに体勢を立て直される
「っ……やっぱり駄目、か……」
────……力も出ない状態でなんで俺を助けた?
「私にまた借りを作って悔しがる貴方の姿が見たかったから?」
性格の悪そうな笑みを浮かべてそう答える聖園さん
こんな絶体絶命な状況にも関わらず、どっかの誰かさんと似たような煽りを入れる余裕はあるみたいだ
……似たような、か
────………アンタさっきさ、俺に〝どうして助けた〟って聞いただろ?それ、うっすらとだけど理由が分かってきたかもしれん
「……理由?」
────俺とアンタは似ているのかもしれない………ほんのちょっとだけな
「………は?私と貴方が?仲間意識ってこと?」
信じられないといった目を向けられるが、俺だって信じたくない
……けど、嫌でも自覚してしまったのだ、仕方無いだろう
────嫌いな相手には素直にはなれず、かといって見捨てる事もできない。一度何かをやる覚悟を決めたら誰にも相談せず一人でそれを貫き通す………勿論、悪い意味でも
「………ナギちゃんやセイアちゃんの事でしょ、それくらい分かってるよ」
────そして自分のことを軽視して勝手に突っ走り、周りの人間に心配掛けて心に傷を負わせる
「………だから、心配してくれる人なんて私にはもう────」
────それだ、その勝手な思い込みも俺と同じところだ。そうやって他の人の気持ちも考えないでボロボロになる………その結果、更に大切な人の心を抉ることになる
「さっきから大人しく話を聞いていれば好き勝手に言ってくれちゃって………大体、話を聞いている限りだと私達悪いところしか似てなくない?それだとむしろ仲間意識じゃなくて同族嫌悪とかじゃないの?」
────だからこそだよ、俺と似たような存在がこんな愚かなまま終わってほしくない。だって、アンタが悲惨な結末を迎えるってことは………俺にだって同じ結末が待っているってことになるんだから
「……何それ、意味分かんないんだけど」
自分でも上手く言語化できない事をもどかしく思いながらも、今感じていることを全て正直に伝える
……もしかして、原作で聖園さんがアリウススクワッドに共感してた時もこんな感じだったのか?
「……で?今更それを伝えてどうしようっていうの?どうせ助からないから全部吐き出しちゃおうって?」
────逆だ、俺達はちゃんと周りの人達と話し合った方がいい。だから………絶対に二人で生きて帰るぞ
「酒泉君……」
「……遺言はそれでいいですか?」
俺達の会話が終わると同時にベアトリーチェが殺気をぶつけてくる
ここまで待ってくれるとは随分とお優しいこった……いや、舐められているだけか
「………それで?この状況はどうするの?アリウスのマダムにユスティナ、それとちょっと大きめのユスティナに青い炎の怪物もいるけど?」
────………い、いっぱい頑張る!
「一瞬でも心を許した私がバカだったよ」
────仕方無いだろ!?無理なもんは無理なんだよ!そっちこそなんか切り札とかねーのかよ!?例えば隕石落としたりとかさぁ!?
「その場合は貴方も死ぬけどね☆」
────すいませんやっぱり別の方法で………え?落とせんの?マジで?
「……さぁ?」
────いや、スッゲー気になるんすけど………
「………こんな時にまで能天気な会話を………もういいです、聖園ミカを集中的に攻撃してください。折川酒泉に関しては生きていればそれでいいです」
あたふたしていると痺れを切らしたベアトリーチェが一斉攻撃の指示を出す
ユスティナが銃を構え、アンブロジウスが炎を生み出し、バルバラが両手の武装のチャージを始める
……俺がピッ○ロさんみたいに前に飛び出したら攻撃止めてくれないかな
そんな微かな希望にすがり、俺の前に立っていた聖園さんの更に前に移動する
「はっ!?何して────」
「その子達は私の生徒なんだ、退いてくれるかな」
直後、敵の軍勢に紫の弾丸が飛び掛かる
一発一発がユスティナの身体の一部を打ち消し、絶望的だった戦況が一気に押し返された
「キェアアアアアアアアッ!!!」
更に散り散りになった敵に一人の生徒が襲い掛かり、両手のショットガンによって瞬く間に殲滅されていく
「……え?剣先ツルギ?」
敵陣の中心で無双する正義実現委員会の委員長────剣先ツルギを見て驚愕する聖園さん
その視線は更に別の方向に向かう
「間に合ってよかった……」
そこにはゲヘナ学園の風紀委員長、空崎さんの姿も
………やっぱりさっきの弾丸は空崎さんのデストロイヤーによる攻撃だったか
「……聖園ミカ?アイツもここに来ていたのか……」
……あれ?よく見たら後ろの方に錠前さんもいない?風紀委員と正義実現委員に囲まれているけど……
「………招待した覚えの無い来客がこうも続くと、流石に不愉快ですね」
そんなゲヘナとトリニティの生徒達の奥から一人の女性がゆっくりと歩いてくる
その顔は何度も近くで見てきた、生徒の為に戦う〝大人〟の顔だった
「やっと見つけたよ………二人とも」
「せ、先生?どうして……」
「どうしてって………生徒を助けるのに理由なんて必要無いでしょ?」
「でも……私は……」
「私の生徒だよ、ミカがどんな事件を起こそうとミカがどれだけ多くの人を傷つけようと………私はミカの〝先生〟として手を伸ばし続けるよ」
「先生……」
「そして、それはナギサとセイアも同じ考えだよ」
「……え?あの二人も?」
「帰ったらちゃんと話し合うんだよ?」
「……先生も酒泉君みたいなこと言うんだね?」
にこりと微笑みながら頷く先生────だが、次の瞬間には険しい表情でベアトリーチェを睨み付けていた
「……チッ、カイザー共は足止めにもなりませんでしたか」
「……貴女が〝マダム〟かな?」
「……だとしたら?」
「酒泉を狙って何をするつもりだったの?」
「彼には私をより上位の存在へ高める為の〝生け贄〟になってもらいます………まあ、生け贄と言ってもアツコやサオリのような物理的な意味ではありませんが」
ベアトリーチェは俺の方を向き、ギラギラした瞳で睨んできた
「彼の〝記憶〟にはキヴォトスの歴史が詰まっています、百合園セイアのような限定的な予知夢ではなく、もっと先の…………その記憶を辿れば私の望む未来を選び、私の望まない未来を避けることができます」
「……それだけ?その程度の理由で酒泉を狙ったの?」
「ええ、このような崇高な理由で折川酒泉を狙ったのですよ」
……人のことを宝の地図か何かと勘違いしているんじゃないのか?
俺だって知ってる事には限度があるし、俺の記憶を見たところで何でもかんでも手に入るって訳じゃないんだけどな
……でも、原作知識が大きな武器になる事は自分自身で実際に証明しているし、強ち間違いでもないかもしれないな
「私は折川酒泉から記憶を奪い取ります、もしその邪魔立てをするというのなら………先生、貴女を消します」
「……奪う?」
「黒服やマエストロは貴女のことを随分と買っているようですが……私にはそんなことは関係ありません、たった今から貴女はただの〝敵〟として────」
「あは……あはは……そっか、酒泉を奪う……か」
ベアトリーチェの言葉を遮り、小さく笑いを溢す先生
全員が先生の様子に違和感を覚えるが、先生は周囲の視線など何も気にせずベアトリーチェに近づく
「………マダム、この場に残っているのが貴女達だけで良かったよ。もしここに貴女に洗脳されているアリウスの生徒達が立っていたら────」
「私は本気を出せなかったからね」
そう言いながら大人のカードを構える先生の視線は、どこか冷たく感じた