「………」
────………
「……ご、ご飯美味しいね!」
────ありがとうございます
「……は、はは……こちらこそ……作ってくれて……あ、ありがとね……?」
どうしよう、凄い気まずい
どうして私は酒泉の家に居るのだろう………なんて、実は昨日の事はうっすらと覚えているのだ
えっと……確か酒泉の家に行った後は……面倒なオヤジみたいな絡み方して……それで……酒泉の布団に勝手に潜り込んで………ここから先は覚えていません、はい
絡み酒、1アウト
そのまま生徒にお世話になった、2アウト
そして……同じ寝床で……3アウト
………………限りなくアウトに近いアウトでは?教え子に手を出すとかなにやってんだ私
「あの~……酒泉?もしかして………いや、もしかしなくても怒ってる……よね?」
────先生
「はい」
ヤバい、真顔だ
これ絶対怒ってるって、完全にやらかしたって
────お酒はね、飲むことはあっても飲み込まれちゃ駄目なんですよ
「〝酒〟泉だけに……なんちゃって……」
────は?
「ごめんなさい」
気まずすぎて空気を変えようとしたけどむしろ悪化した
何が酒泉だけにだよ何もかかってないよ
「その……本当にごめん、昨夜の事はうっすらとだけど覚えてて……相当迷惑掛けちゃったみたいだね……」
────それはまあ……別にいいですよ
「……えっ?」
────いや良くはないですけど……他の問題に比べたら些細な事です
「他の問題?」
あれだけの事をしておいて〝別にいい〟とか優しすぎない?そんなに先生を駄目女にしたいの?
……いや待て、これって逆に言うと迷惑を掛ける以上にヤバいことをやらかしてしまったのでは?
────いいですか、先生。俺は先生の身を案じているんです
「……え?私の身?」
────女性が真夜中に男の布団に潜り込むなんて……何されるか分かったもんじゃないっすよ?
「ああ、そういうことね………でも、酒泉は私に酷いことしないでしょ?」
────まあ、しませんけど
「むっ……」
即答かぁ………それはそれで、なんか────って、生徒に何を考えてるんだ私は
……今更自分の気持ちに気づかなかったフリはできないよね
けどなぁ……生徒かぁ……いや!でもアレは恋愛感情だって決まった訳じゃないから!
その……もしかしたら相棒に向ける信頼感みたいなのと同じかもしれないから!だから────
────だとしても、先生って綺麗なんですから万が一を考えてくださいよ?
あっ、すき
………じゃなくてね!?いや好きだけどそういう好きではないからね!?
ああもう……どうして下げてから上げるのさ、私の情緒を滅茶苦茶にしたいのかな?
このままでは大人としての威厳や尊厳が完全に崩壊する気がする
「……ぁ……はい、ごめんなさい……」
だというのに変な恥ずかしさでモジモジと返すことしかできなかった
絶対情けない大人だって思われてるよ……
────……あっ、そうだ。先生、これ持っててください
「うん………………え?鍵?」
勝手に落ち込みながら視線をテーブルに戻すと、そこには鍵が一本置いてあった
これは……まさか……
「……合鍵?」
────はい
「ど、どうして私に?まさか………」
────それは……
「さ、流石にまだ早いんじゃないかな?こういうのは付き合ってからとかの方が……い、いや!私は嬉しいよ!?だけどまだ答えが出ていないというか……で、でもね?もし酒泉が私にそういうのを求めてるんだったら……その……私も嫌ではないしむしろ喜んで応じるっていうか────」
────この後昼から出掛ける予定あるんで、もしまだ二日酔いがキツくて家に残りたいなら先に鍵渡しておこっかなーって
「……え?」
────そんである程度回復して帰る時に鍵を掛けといてほしいなって……あ、鍵は次会う時に返してもらえたらそれでいいんで
「………」
何やってるんだろう私……
あれだけ迷惑を掛けておきながら一人で勝手にテンション上げて、望んでいた答えと違うものが返ってきたら今度は勝手にテンション下げて
……いや!?望んでなんかいないけど!?私は生徒にそんな感情持っていませんが!?
「えーっと……ありがとね、酒泉。でも酔いは酒泉のお陰で大分回復したからさ」
────そうですか?ならいいですけど……
「……そういえばさ、昼からの用事って何?買い物?それなら私も付き合うよ?」
酒泉に対する罪悪感から何か手伝えることはないか聞いてみる
……別に話を逸らしてる訳じゃないよ?
────いえ、空崎さんと遊びに行くだけですので気にしなくていいですよ
「……ヒナと?」
────はい……っと、そうだ、飯食い終わったら弁当作らないと……
……あっ、そういえば酒泉ってそれの下見が目的で人が少ない場所に行ってたんだもんね
ヒナと……か、別に生徒同士でお出かけするのは普通のことのはず
それに、酒泉からのヒナに対する感情は分からないけど、少なくともヒナからの酒泉に対する感情は恋愛的な意味での好意も混ざっているはず
だから、これは先生として喜ぶべきこと……の……はず、なんだけど……
……どうして素直に祝福できないのかな、ヒナも酒泉も良い子なのに、お似合いの二人のはずなのに
「そっか……気をつけてね?またあの事件みたいな事が起きるかもしれないからさ」
────あっ、はい……………あの、先生?
「ん?」
────やっぱりまだ酔いが残ってるんじゃ……どこか具合が悪そうだし
「ああー……気にしないで、昨夜はちょっと暴れすぎちゃったなって自己嫌悪してただけだから」
なるべく取り繕ってみたけど、全く意味がなかった
普段は頼れる酒泉の〝眼〟もこういう時は逆に困ってしまう
すぐに私の異変に気づいてくれるし、ちょっとでも無理をしようとしたらすぐに気遣ってくれるし
それが、すごく暖かくて────って、逸れてる!話が逸れてる!
「……うん、酔いはもう大丈夫だよ。酒泉の作ってくれた美味しいご飯のお陰で治ったからね!」
────なんじゃそりゃ……
「嘘じゃないよ、もう毎日でも食べたいくらい!」
本当に毎日食べられたら幸せなんだろうなぁ……
なんて、また自分の心が揺らいでしまうようなことを考えてしまっている
……それは駄目だよ、酒泉は生徒で私は先生なんだから、そんな事を願ったら
「……よし、決めた」
これは恋愛感情なんかじゃない
私が生徒を恋愛的な意味で愛するなんてあり得ない
きっとそうだ、私がそう決めたんだ、だからそういう事にしよう
これで私と酒泉は今まで通りの関係に戻れる
────ん?決めたって……何がです?
「次予定が空いてる日っていつ?」
だから……あと一回、あと一回だけだ
────えっと……明後日、日曜日空いてますけど
「じゃあさ……」
「その日、私と二人でお出かけしない?」
あと一回だけこの胸の高鳴りを味わってから、この想いを切り捨ててしまおう
せめて、悔いのないように
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「……静かね、ゲヘナとは大違い」
────そうですね……あの騒がしさも嫌いではないんですけどね
「物的被害さえなければね……」
普段の喧騒とは真逆の静かな世界
風と共に草木が揺れる音
俺が空崎さんと出掛ける際に選んだ場所は自然公園……の隅っこだった
最初は全く人目が無い場所を選ぼうとしたが、あまり無音すぎるのもどうかと思って多少は人が居そうな場所にした
「……こうして酒泉と二人で遊びにいけてよかった」
恐らく空崎さんは俺が拉致された事件を思い起こしているのだろう
あの時は自分が狙われるなんて考えて……いなくもなかったけど、まさかあそこまで露骨な連中が来るとは思っていなかった
「……本当に心配したんだから、家には居ないし……連絡しても出ないし……」
────……その、ご心配おかけしました
「ううん、こうして無事に私の前に帰ってきてくれれば………それでいいの」
これまでにも誰かに心配を掛けてしまったことはあったが……今回のは過去一番だな
……一人で無茶しないってのも必要だろうけど、俺自身もっと強くならないといけないな
俺の知識はカルバノグ二章とその辺りのイベストまで、ここから先は未知の世界だ
いつ、どこで、何が起きても対応できるようにしておかなければならない
「……酒泉?どうしたの?」
────いえ、なんでも……
「……嘘ね、そういう顔をしている時の酒泉は絶対に何か一人で抱え込もうとしているから」
バレた
「先生ほど付き合いは長くないけど……それでも酒泉の事を知るには十分なほど一緒に過ごしてきたから」
空崎さんとは調印式以前からも関わりはあったが、今ほど深い仲ではなかった
エデン条約絡みでシャーレ(代理)として多少縁があった程度だ
仕事の合間に普通に談笑したりもしてたけど、その時は空崎さんにとってはただの仕事仲間程度でしかなかったのではないだろうか
「……そういえば、酒泉は先生とはどれぐらいの付き合いになるの?」
────ん?なんでそんな事を?
「……ちょっと気になっただけ」
────そうですね……どれぐらいと言っても、先生がキヴォトスに来た日から今日までずっとですかね?
「そっか……じゃあ、酒泉はずっと先生を支え続けてきたんだね」
そう呟くと、空崎さんは一度何かを考え込んでから此方を見つめてきた
その表情は笑顔で、だけどどこか寂しそうだった
「……実は私、酒泉の事を風紀委員会に誘おうとしてたんだ」
おおう……これまた衝撃的な……
「酒泉ってゲヘナの問題児達を制圧してる時、よく〝偶然その場に居合わせたから〟って言い訳してるけど……それって嘘でしょ?本当は私の負担を軽くする為……違う?」
────どちらもありうる……そんだk「じゃあ、そう捉えるね」
強い(確信)
「私が止めても素直に言うこと聞いてくれそうにないし、それならいっそ最初から風紀委員に入れちゃえば酒泉も行動しやすくなるかなって思って。それに………」
────……それに?
「酒泉と一緒に働けたら……私も仕事が楽しくなるかなって……」
頬を染め、恥ずかしそうにする空崎さん
こんな顔でこんな事を言われたら変な勘違いをしてしまいそうになる、少しは手加減してほし可愛すぎるだろおい(敗北)
「でも……今の話を聞いてやっぱりやめておく事にした、先生に申し訳ないし……」
能天気な顔で馬鹿なことを考えている俺に反して、空崎さんは顔を伏せて呟く
あっ、罪悪感でちょっと逝く
………まあ、冗談は置いておいて、例え空崎さんに誘われたとしても俺は断っていたと思う
勿論、めちゃくちゃ葛藤した上でという前提付きで
だって、約束したのだから……先生が望む限りは隣に居ると
………にしても
────風紀委員の俺かぁ……
「興味あるの?」
────いや、なんかあんま想像できないなーって……シャーレの服に慣れてるからですかね
「……でも、酒泉は風紀委員の制服も似合うと思うけど」
まあ、こういうのは自然と身体に馴染むものだし……
……風紀委員、か
もし俺が〝キヴォトスの危機じゃなくてエデン条約だけ解決すればいいやー〟みたいな考えを優先していたら風紀委員になっていたのだろうか
それはそれで気になるけど………別にシャーレ補佐を選んだことに後悔はない
だって、そのお陰で多くの人達に出会えたのだから
特にFOX小隊と出会えたのは俺の精神面の成長に大きく影響したのかもしれない
〝上の人間に脅されて逆らうことができなかった〟
そんな立場の彼女達と出会うことができなければ……俺はアリウススクワッドを糾弾していたかもしれない
そうなれば秤さん救出だって決意せず、そのまま見捨てていたかもしれない………多分
……そういや、FOX小隊の人達に訓練に誘われてたな
暫く安静にしてたせいで身体も鈍ってきたし……久しぶりに本気でどんぱちしたい気分だ、今度参加するか
「……えい」
────おっふ……え?空崎さん?
「……なんとなく、嫌な感じがしたから」
突然空崎さんに脇腹をつつかれた、この人こんなイタズラもできるんだな……
「………じゃあ、そろそろお昼にしよっか」
空崎さんはぷいっと顔を逸らし、持ってきていた鞄からシートを取り出す………露骨に誤魔化したな
そこにピクニックバスケットを置くと、中にはサンドイッチが
────これって……
「その……せっかくだし酒泉と一緒に食べたくて……」
────……空崎さん
「な、なに……?」
────考えること同じですね
「……え?」
空崎さんに続いて俺も鞄から少し大きめの容器を取り出す
蓋を開けると、そこにもサンドイッチが
「これは……」
────いや、俺も空崎さんと一緒に食べたくて……
「……ふふっ、お揃いだね」
────はい……ところで
────ここに置いてある、二人分のサンドイッチが入っている二つの弁当………計四人分のサンドイッチなんですけど
「………」
────俺はいけますけど……空崎さん大丈夫です?
「……ごめん、残りそうになったらお願いしてもいい?」
────別に俺が作った方をそのまま全部残すという選択も……
「それはやだ」
水着ユメ先エッッッッッッッ!!?