自らの頭部目掛けて飛んでくる弾丸
それを大して鋭くもない、殺傷能力を持たない木製のナイフで防ぐ
二つが激突した瞬間、ベチャッと赤いペイントが爆ぜる
スナイパーの位置は把握した────が、倒しに行くほどの余裕も体力も残されていない
目の前には既に二人の敵、そして恐らくはもう一人何処かに潜んでいる
……このまま戦い続けてもじり貧になるだけだ、ここで決めにいくしかない
「っ!FOX3!」
「分かってるっ!」
シールドを構えて進路を塞いでくるFOX3と呼ばれた少女────クルミさんに放たれた弾丸を首を軽く傾げて回避し、相手が驚愕している間にそのシールドを足場に大きく飛躍する
「────FOX4」
ポツリと、FOX1が───七度さんが静かに名を呼ぶと空中の俺にスナイパーによる狙撃が再び襲いかかる
だから────アサルトライフルそのものを盾に弾を防ぐ
大して威力の無いペイント弾だからこそ可能な防御方法、これが実弾で本気の殺し合いの最中だったら緊急時でもない限りはこんなことをするつもりはない
だってヘイローを持たない俺にとっては自分の武器がぶっ壊れる=死だからな
……まあ、今回使ってるアサルトライフルも俺が愛用してるのじゃなくてただのペイント弾用のだけど
────っ……と!
「やはり避けたか、酒泉!」
着地直後、頭部に木製ナイフをぶつけようとしてきた七度さん
此方もナイフの平の部分を斜めに構え、相手のナイフを受け流す形で回避する
腕を掴もうとしてくる七度さんの手を避け、逆に彼女の腕を掴んで俺の方に引き寄せる
顔と顔が接触しそうになるほど、近づき────七度さんを後ろから迫ろうとしていたクルミさんに向かって蹴り飛ばす
クルミさんは七度さんを受け止めるはず、その隙をついてこの木製ナイフでどちらかの額を切る
〝待て〟
そう考えたところで思考にノイズが生じる
さっき七度さんを引き寄せた時、驚くほど簡単に上手くいった
七度さんがあの程度で終わるか?大した抵抗もできずに
走り出そうとしていた自分の足を止めると、クルミさんは七度さんを受け止めずに横に回避した
七度さんは蹴り飛ばされた後の体制から両手を地面に着け、跳び前転のような形で立ち上がってから体勢を立て直した
……危なかった、あのまま突撃してたら挟み撃ちされていた
「余所見してんじゃないわ……よっ!」
クルミさんがシールドをぶん投げてくる、どいつもこいつも投擲兵器と勘違いしてません?
「私のお腹を傷物にしておきながらよく無視できたわね!?」
────言い方ぁ!さっき個人戦でプロテクター越しにゼロ距離で撃ちまくっただけだから!
「うるさい!と、とにかく……責任は取ってもらうんだから!」
顔を赤くしながらナイフを向けてくるクルミさん、それに対して此方もぶん投げられたシールドを拾い上げて抵抗する………もっと遠くに投げるべきだったな
俺はそのままアサルトライフルを背のホルダーに戻し、シールドとナイフの二つで近接戦を制することを選んだ
だが、近接戦闘の最中に俺達の足下に丸い何かが投げ込まれる
普段なら簡単に撃ち落とせるそれも、アサルトライフルを戻してしまったせいで見過ごすしかなかった
………もしかしてわざとシールドを拾わされた?択を狭めさせる為に?
丸い形をした何か、それがプシュッと開いた瞬間、中から黒い煙が溢れてくる………俺を相手に自ら視界を?
ならば望み通り一人ずつ仕留めて────
「だーれだ?」
直後、背後から迫る気配
だが、別に驚きはしない、だってスモークを焚かれる前にしっかりと彼女の姿をこの眼で捉えていたのだから
────声を出したのは失敗だったな……ニコさん!
「おっ……と!」
後ろにナイフを振ると、後ろに退いてそれを回避するFOX2────ニコさん
彼女は煙の中で柔らかく笑うと、そのまま俺の方に向かってくる
「一対一だと思ったか?」
「だーかーらー……無視すんなぁ!」
更に背後から感じる二つの気配
嘘だろ?七度さんとクルミさんも自分から煙の中に突っ込んできたのか?
誰も遠距離から援護しようとせず全員が近接を選んだことに困惑しつつも、三人の攻撃を確実にいなしていく
「流石にこの視界だと……お前の方が格上か!」
「でも、これなら────」
「避けられないでしょっ!」
七度さんの足払いが、ニコさんの木製ナイフが額に迫る
クルミさんの手が俺の腕を掴もうとする
「っ!?嘘!?」
クルミさんの驚く声が聞こえる
クルミさんの手を自ら引き寄せてニコさんのナイフを防ぎ、七度さんの足払いをジャンプで回避する
丁度良い、このまま反撃してしまおう
三人が喋りながら戦ってくれたおかげで全員の位置が把握できた
まあ、俺の眼なら全員無言だとしてもすぐに特定できるだろうが────待てよ?この三人はどうしてわざわざ自ら居場所を知らせるような真似を?
FOX小隊は少数精鋭部隊、作戦遂行のプロだ
訓練とはいえ、そんな彼女達がペチャクチャお喋りしながら戦闘を?
どうして自ら目立つような真似を……
────……自ら、目立つ?
「……もう遅い」
俺と七度さんの呟きと同時に空中から誰かが降ってくる
一瞬だけパラシュートのような物が見えたが、すぐに視界が何者かに埋め尽くされたせいで最後まで確認することができなかった
上からの重力に一瞬で押し倒された俺はシールドを手放してしまい、更にはナイフすら奪われてしまう
「がおー!……なんちゃって」
俺の腹の上には両手を上げて獣の真似をするFOX4────オトギさんが乗っており、俺の両手もニコさんやクルミさんに封じられている
……これは……負け、か
「……本当に腕が鈍ってるんだな」
七度さんが倒れている俺の顔を覗き込んでくる
「確かにそれは私も思ったわね……前までの酒泉ならもっと早い段階で私達の狙いに気づくと思ってたんだけど」
「だね~、クルミに告白された時も焦りながら対応するぐらいの強さは見せてたんだけどね~」
「は、はあ!?あれは別にそういうのじゃないんだけど!?あれは……酒泉の注意を引く為の作戦であって……」
「あはは!冗談だって冗談!だからそんな怒んないでよ~、それに……傷物にされたって意味なら私もクルミと同じだからさ?」
〝ね?〟とウインクしてくるオトギさん
瞬間、場が静まり返る
「………何よそれ、どういう意味?」
「いやぁ……前回の訓練で二人きりになった時に押し倒されちゃってさ~」
────なんで皆誤解を招くような言い方をするんです!?ただ近接戦闘で組み伏せただけでしょ!?
「武器を奪われて抵抗できなくされて……」
────当たり前でしょう!?じゃないと制圧できないじゃないですか!?
「そのまま嫌がる私を押さえつけて……」
────拘束しようとしただけ!
「……えっち」
頬をポッと染めながらチラッと見つめてくるオトギさん、この人絶対わざとやってるよね
「……それってただの訓練じゃない」
「それを言うならクルミのだってそうでしょ?」
「私は物理的に傷物にされたんだけど?」
「プロテクター越しだったし大して痛くなかったでしょ?」
ギロリと目を鋭くしているクルミさん、カラカラと笑っているが何処か湿ったような笑みを浮かべるオトギさん
この二人を止めなくていいのかと隊長である七度さんに視線を向けてみる
「……酒泉、一つ聞いてもいいか?」
────え?今はあの二人を……
「どうして私だけ名字呼びなんだ?」
────いや、特に深い理由とかは………最初は名前が分からなくて名字で呼んでたんですけど、今更呼び方変えるのもなって
「……なら、これからは私のことも名前でいい」
まあ、言われてみれば違和感あるよな……部隊で一人だけ名字呼びなんて
────じゃあ、これからは名前で呼びますね、ユキノさん
「……ああ、それでいい」
隊長らしい厳格な表情から一転、ほにゃりと笑うユキノさん
危ない……一瞬ギャップを感じてしまった
「……さて、一先ず戦闘訓練はこれで終わりだな」
────そうですね……じゃあ、三人には退いてもらって……
「FOX2、FOX3、FOX4、そのまま押さえておけ」
……んん?
「りょうか~い」
「大人しくしてなさいよ」
────……あの、七度さん?訓練ってもう終わったんじゃ……
「ああ、戦闘訓練はもう終わったな………次は敵に捕らわれた時の対策訓練だ」
────……ま、まさか!?拷問するつもりじゃ……
「心配するな、そこまで過酷な訓練をさせるつもりはない………FOX2」
「はい♪」
未だに俺の腕を押さえつけているニコさんに視線を向けると、何やら鳥の羽のようなものを手に持って……
「今からお前の個人情報を聞き出す……最後まで耐え切ってみせろ」
何をされるのか察した、察してしまった
身動きの取れない人間に対して羽を使って行う拷問………くすぐりしかなくね?
………スゥ───
────ニコさん助けてええええええ!!?
「だーめ♪」
一瞬で拒否られた、無情
「ユキノちゃんからの命令だからさ……ごめんね?酒泉君」
────じゃあなんでそんな笑顔なんです!?何故そんな顔でミテルンディス!?オンドゥルルラギッタンディスカー!!
「この後お稲荷さん作ってあげるから……ね?」
────出してくれ!!!出してえええええ!!!
「訓練は最後までやらないと意味が無いだろう」
────もういいから!十分だから!ユキノさん助けて!
「すまない、私は酒泉の武器だからな………武器は感情を持たないから助けを求められても応じられないんだ」
思い出したかのようにその設定出してくんじゃねえよぉ!?アンタそんな冗談言うキャラじゃねえだろ!?
「じゃあ……いくよ?」
あ────
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「おはよ────どうしたのその顔!?」
「ず、随分と……疲れてるみたいだけど……」
げっそりしながらシャーレのオフィスに入る酒泉
そんな彼を先生と本日当番のヒナが心配したように見つめる
「な、何かあったの……?」
────気にしないでください……男としてのプライドを奪われた上に自分自身の甲高い声を聞いて吐き気がしただけですから
「そこまで言われると逆に気になるんだけど……」
「えっと……とりあえずシャワー浴びてきな?仕事はそれからでいいからさ」
────はい……ありがとうございます……
ノロノロとシャワールームの方へ向かう酒泉、そんな彼の背を眺める先生とヒナ
よく見ると彼の髪や制服には黄色だったりピンクだったりと様々な色の毛らしき物がくっついていた
「……ふーん?」
恐らく誰かと会っていたであろうことを察した先生は少々不満気に見送り、すぐに視線をデスクの上の書類に向ける
ヒナも同じことを考えていたのか、その顔は一見無表情に見えるが僅かにムスッとしている
「まあ、詳しい話は後で聞けばいいか………とりあえず先に仕事始めてよっか」
「そうね……早く終わらせて早く問い詰めましょう」
「ごめんね、ヒナ。今日はちょっと仕事が多くて……」
「ううん、私は大丈夫だから気にしないで」
互いに目配せしてから目の前の仕事に取り掛かる二人
「……私達、とんでもない子を好きになっちゃったね」
「……だね」
何事も無く仲良くしているが、二人の想い人は同じ
……同じ……なのだが、それを互いに知っていながらも尚、こうして笑顔を向け合っている
『ヒナ………私、ヒナに謝らないといけないことがあるの』
………あのデートの日から数日後、先生はヒナを呼び出してその時のことを全て話した
〝先生〟でありながら生徒を好きになってしまったこと
ヒナの想い人だと知っていながら酒泉に気持ちを伝えてしまったこと(ついでにそれを勘違いされたことも)
今も尚、酒泉を想い続けていること
そして……諦めるつもりはないこと
胸が張り裂けそうになりながら、涙を堪えて全てを打ち明ける先生
そんな彼女の涙を拭いながらヒナはこう言った
『良かった……やっと先生も楽になれたんだね』
ヒナは気づいていた、先生が酒泉に向けている想いに、先生の葛藤に
いつ知ったのかは不明だが、ヒナは互いに想う相手が同じだと知っても尚、先生のことを案じていた
『……怒らないの?』
『先生が誰を好きになろうと、私にはそれを縛る権利はないし………あ、でも────』
『────負けるつもりはないから』
そう堂々と宣言したヒナの顔は恋敵に向けるような敵意溢れるものではなく、むしろ大切な人に向けるような笑顔だった
………尤も、これは誰からも慕われている先生が相手だからなのかもしれないが
この相手が先生以外の人物だった場合、もっと目を鋭くさせていただろう
「……本当に……誰に会ってきたのやら」
……今と同じように
「……ねえ、ヒナ。ありがとね……私の話を聞いてくれて、私の気持ちを肯定してくれて。ヒナには色々と借りを作っちゃったね」
「……先生、私は本当に気にしてないから────」
「でも、私だって負けてあげるつもりはないから!」
それはいつぞやの言葉に対する返答
あの日のヒナと同じく笑顔で宣言する先生
「……それはこっちの台詞よ、先生」
「大人の力、見せちゃうんだから!」
ヒナはその言葉を受けても不快になることはなく、むしろより笑みが明るくなる
「………ところでさ、さっきの酒泉なんだけど……したよね?」
「うん、した」
「「複数人の女の子の匂い」」
だが、ほんわかしていた空気が一瞬で冷え込んだ
「あの毛って絶対に誰かと密着してたよね?」
「毛が付着しやすいってことは身体的特徴に獣人の要素がある生徒………かもしれないね」
「本っ当に色んな子に手を出してるね……酒泉」
「彼の好みが分からなくなってきたわ……」
「好み……か」
想い人の行動範囲と守備範囲の広さに思わず愚痴が出てくるヒナと先生
しかし、会話の最中に先生はある事を思い出す
「酒泉の好みで思い出したけど………そういえば酒泉のパソコンの中に〝酒泉コレクション〟っていうのあったよね」
「……ええ、その……色々と危ないのが……」
二人は顔を赤くしながらその時見た画像を記憶から掘り返す
「……しゅ、酒泉ってやっぱりああいうのが……」
「……せ、先生?何を考えているの?まさか……」
「い、いや!違うよ!?別に着てみよっかなとか、そんなことは考えてないからね!?」
「………で、でも……酒泉の興味がああいうのにしかなかったとしたら……」
思考が変な方向に向かおうとしている二人
しかし、扉が空く音と同時にすぐに正気に戻った
────すいません、お待たせしましっ………あれ?二人して顔を赤くしてどうしたんですか?暑いなら冷房つけます?
「……気にしないで、酒泉のせいだから」
「うん、酒泉のせい」
────はい!?
髪を拭きながらオフィスに戻ってきた酒泉は突然罪を押し付けられて困惑するが、気を取り直して自分の席に座る
先に仕事を始めている先生とヒナを見てすぐに自分も追い付こうとデスクの上の書類を広げる────が、同時にスマホからモモトークの音が鳴る
だが、酒泉はそれに気づくことなく仕事を始めようとする
「……あれ?酒泉、モモトーク返さなくていいの?」
────……え?モモトーク?
「今、音が鳴ってたけど……」
────…………本当だ、ちょっとだけ返してもいいですか?
「うん………因みにさ、誰から?」
────ゲーム開発部からです、なんかモモイさんから〝恋愛ゲームのアイデアが欲しい〟とかきてて……
「……モモイから?」
────……あ、よく見たら不知火さんからも仕事の話がきてる。普段の会話の内容が超人超人煩くてずっとスルーしてた……
「………」
さらっと二人の女子生徒の話を出す酒泉に二人は冷めた目を向ける
数秒後、二人は顔を見合わせた
「ねえ、ヒナ」
「なに?先生」
「とりあえず手を組まない?まずは色々と〝わからせる〟必要があると思うんだ」
「賛成よ、私達でしっかりと教えてあげないとね」
────……?どうしたんすか?俺の顔になんか付いてます?
「付いてはないけど額に〝クソボケ〟って書いてあるよ」
────えっ!?
「〝鈍感〟とも書かれているわ」
鏡を見ようと立ち上がるが、その前に両隣を先生とヒナに塞がれる酒泉
それぞれの片手で頬を挟まれ、身動きが取れなくなる
「ほら、私達が拭いてあげる」
「こっち向いて?」
────ちょっ……自分で出来るんで……
「ごーしごーし」
「ごーしごーし」
────痛っ!?なんか力強くない!?……いっだぁ!?
「あれー?おかしいなー取れないねー?」
「全く文字が消えないわね、これは暫く拭き続けるしかなさそうね」
────いだだだだだっ!?なんか煙出てません!?なんか焦げ臭く────
その日、シャーレで過去最高の悲鳴が上がった
これにて女先生ルートは完結です、この後も
・トキやゲーム開発部と一緒に船に乗った時にモジモジしながらバニー姿を酒泉に見せにいく先生
・ゲヘナのパーティーで真っ先にドレスを見せにいくヒナと先生
・折川酒泉vs先生ラブ勢、地獄の戦術対抗戦
・色彩とはまた別のイベントで酒泉の前に全裸を晒す先生
・酒泉に目をつけた黒服にガチギレしてヒナと一緒にゲマトリアを壊滅寸前まで追い込む先生
・シュロちゃんを煽りまくる酒泉君
とか色々イベントが発生しますが、それはまた別のお話ということで……