〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~ミレニアムルート~その2

 

 

 

 

『紹介するわ、彼が新しくセミナーに入る折川酒泉よ』

 

『折川酒泉です、皆さんの様に一芸に秀でた人間という訳ではありませんがお力になれるように精一杯精進してまいります……こんな感じで良いですかね?』

 

 

 

普通の男の子

 

それが私────早瀬ユウカの酒泉君に対する第一印象だった

 

リオ会長の紹介でセミナーに入った彼は基本的に現場に出向くような仕事が任されていた

 

例えば、どこかの部がしつこく予算の増額を求めた際はその理由を事細かく聞いたり要求を呑むに値する活動をしているか直接確認したり

 

例えば、どこかの部が建物に大きな損害を出すような事故を起こせばその時の被害額の総計を調べたり現場に残って各設備の損傷具合を調べたり

 

例えば、どこかの部の生徒が公共の場をペイント塗れにしたり観た映画のハッカー描写が気に入らなかったという理由だけでその映画のサイトにハッキングを仕掛けた際は本人を連れて関係者に謝罪しに行ったり

 

……正直、後半に関してはセミナー関係無しに問題を起こした当人達で解決してほしいのだけど

 

ともかく、酒泉君が任される仕事と言えばそういった形のものが多かった

 

 

『は、早瀬さん……早瀬さんっていつも自分の仕事をこなしながら色んな生徒の相手をしてたんですね……本当にお疲れ様です……』

 

 

数週間後、ミレニアムの個性的な生徒達からの洗礼を受けた酒泉君の表情はすっかり疲弊し切っていた

 

その時は〝慣れない内はこんなものだろう〟と励ましの言葉を送ったけど、ある程度慣れた後の私でもうんざりしてしまう程の仕事量を考えるとあの言葉は無責任だったかもしれない

 

残念な事に私の懸念は当たっており、それから更に暫く経っても酒泉君の疲れが消えることはなかった

 

入学して早々社畜の様な学園生活を送らされていることを不憫に思った私は酒泉君に何度か〝仕事を手伝おうか〟と声を掛けたけど、自分の仕事を他人に押し付けてしまう事を気にした酒泉君は私の提案を毎度断った

 

……正直、心配だった

 

酒泉君の頑張りは認めてるし、それを貫こうとしている心も立派だと思う

 

だけど、無理をしすぎて責任感に押し潰されてしまっては元も子もないし私個人としてはそうなる前に頼ってほしかった

 

だからもし仕事のせいで彼の不調が続くようならセーフラインを越えてしまう前に無理矢理にでも休ませよう

 

私はそう決意した

 

 

『白石さん!!多少の被害なら出てもいい実験場が見つかりましたよ!!』

 

 

そう……決意……した……

 

 

『小塗さん、今度取り壊す予定のミレニアムの旧施設があるんだけどさ……折角だし最後にその施設、好き勝手に塗り潰さないか?大丈夫!許可なら調月さんから貰ってるからな』

 

 

……のだけど……

 

 

『小鈎さん、この映画観ました?……まだなら観た方がいいですよ。これサイバー犯罪を題材にした映画なんですけど、かなりリアルなハッカー描写があるんで』

 

 

………結論から言おう

 

 

『……美甘さん、これが次の任務地の情報です。ターゲットはこのルートから逃げ出す可能性が高いと思うので……ここでスムーズに捕らえる事ができればあまり被害を出さずに任務を終える事ができると思います』

 

 

酒泉君の疲れは仕事によるものだけではなかった、むしろ〝それ以外〟の原因の方が大きかった

 

なんと彼は問題を起こした生徒達の対応をするだけじゃなく、その後のケアまで行っていた

 

実験を行おうとしている部活に対しては次の実験までに多少の被害なら出ても問題ない場所を探してそこの使用許可を取ってきた

 

任務の最中に建物に被害を出してしまった部活に対しては次の任務の現場情報やターゲットの情報を集めてなるべく被害が出ない作戦を立ててきた

 

個人的な不満が理由で問題を起こした生徒達に対しては今後同じ事が起きないように不満を減らせる方法を探してから接していた

 

『あの、早瀬さん……ゲーム開発部廃部の件、もう少しだけ延期できませんかね……?あ、あと少しで新しい部員が入る予定ですので!どうか!何卒!』

 

『オラァ!黒崎ぃ!さっさと行くぞ!俺も一緒に頭下げてやるから迷惑掛けた人達全員に謝るぞ!』

 

 

面倒見が良い……というのもあるけどそれだけじゃない

 

酒泉君はとことん〝尽くすタイプ〟の人だった

 

痒いところに手を届かせてくれる、相手の立場に寄り添ってくれる、隣で支えてくれる

 

仕事の範囲外でもわざわざ自分の時間を削ってまで手を伸ばしてくれる、そんな彼がミレニアムで生活している内に周囲の生徒からの信頼を得たのは当然の事だった

……と、ここまで色々と説明したけど先程述べた〝それ以外〟の疲労の原因はこれだけじゃない

 

 

ある日の放課後、私が偶然目撃したのは1日の仕事を終えた酒泉君が学習室のPCの前で教科書を広げて勉強している姿だった

 

声を掛けられるとは思っていなかったであろう彼は少しだけ驚きながらもすぐに笑顔で返事をした……が、相変わらずその表情は疲労感を帯びていた

 

どうしてこんな時間まで勉強しているのかと尋ねてみれば、酒泉君は〝自分はあまり頭が良くないから〟と照れながら答えた

 

どうやら酒泉君にとってミレニアムの授業はレベルが高いらしく、それについていく為にこうして度々勉強しているのだとか

 

私は唖然とした、彼はセミナーの仕事と仕事外での生徒のサポートと自身の勉強を全て欠かさず行っていた

 

二足の草鞋どころの話ではない、明らかに新入生の仕事量を越えている

 

そもそも他の部活へのサポートに関しては酒泉君が自分のプライベートを削ってまでやる必要はないし、その時間さえ失くせば酒泉君の疲労もかなり軽減される筈だ

 

……確かに酒泉君が色んな人達の面倒を見てくれたお陰でセミナーの仕事も多少は……いや、結構楽になった

 

でも、だからと言ってこのまま彼が無理をし続けるのを見過ごす訳にはいかなかった

 

だから私はこう言った……〝もう少し力を抜いて仕事をしてもいい〟と

 

 

『いや、だって彼女達がまた問題を起こしたらその分早瀬さんの仕事が増えちゃうじゃないですか』

 

『────っ』

 

 

なんていうか、まあ、優しいなって

 

ノア以外でこんなにも気を遣われたのは初めてだった

 

他の生徒からの要望という名のクレームばかり相手にしている私にとって、その無償の優しさはすぅっと心に染み渡ってきた

 

 

『……酒泉君、そこの回答間違ってるわよ』

 

『え?……マジです?』

 

『マジよ、これからは私が勉強を教えてあげるから仕事が終わったらすぐに帰ってキッチリ休みなさい』

 

 

とりあえずこれだけはハッキリと言える、彼がセミナーに来てくれてよかったと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───なるほど、つまりこの馬鹿は酒泉君のお金を全部抜いたと……」

 

────ええ、とんでもねぇ事してくれましたよホント

 

「だ、だからぁ……ちゃんと返しましたってぇ……」

 

 

セミナーの会議室にて

 

縄でぐるぐる巻きにされたコユキを見下ろすユウカ、その冷たいオーラを纏った立ち姿はまるで魔王の様だった

 

コユキはダラダラと冷や汗を流しながら必死に言い訳の言葉を発するが、他の人達にとってそれは最早言い訳にもなっていなかった

 

 

 

「返せばいいって問題じゃないでしょう?貴女のせいで酒泉君は2日間も貧困生活を強いられる事になったのよ?そのせいで酒泉君が体調を崩したらどうするつもりだったの?」

 

「うっ……そ、その……本当にごめんなさい……心の底から反省してます……」

 

 

 

ユウカの言葉に一理あると思ったのか、コユキは珍しく顔を伏せながら謝罪の言葉を素直に口にする

 

それを見た酒泉は呆れながらも〝仕方ないな〟と呟いた

 

 

 

「……酒泉君、今回もまたアッサリ許すの?」

 

────まあ、被害者は俺だけですし……これが他の人も巻き込んでいたらガチ説教タイムでしたけど

 

「さっすが酒泉さん!懐が深い!」

 

────あ゛あ゛?

 

「ひぇ……ごめんなさい……」

 

 

 

怒りの形相で殺気を放つ酒泉を見て流石に本気でマズイと感じたのか、コユキは深く深く頭を下げる

 

そのやり取りを見守っていたユウカは何か言いたげに酒泉に視線を向けた

 

 

 

「……相変わらずコユキに甘い対応をしているわね……このままだと一生反省しないわよ、この子は」

 

────いやいや、んな事ないっすよ。現に他の人達に迷惑を掛けることは圧倒的に少なくなったんですから

 

「えへへ……」

 

「……酒泉君以外には、の間違いだけどね」

 

 

酒泉の言葉を強めに訂正すると、ユウカはコユキを縛っていた縄を解いてその身を解放する

 

「コユキ、反省部屋送りは勘弁してあげるわ」

 

「えっ!?本当ですか────」

 

「その代わり!今日は酒泉君の仕事を代わりに全て引き受けること!」

 

「え゛っ」

 

「……何?まさか不満でも?」

 

「い、いえ!そんなことはありません!この黒崎コユキ、精一杯頑張りますっ!」

 

ビシッ!と敬礼をした後、兎の様に部屋から逃げ出すコユキ

 

そんな彼女の背中を冷ややかな目で見つめていたユウカだが、酒泉の方へと向き直る瞬間には優しい笑みに戻っていた

 

 

「────という事で酒泉君、今日はゆっくり休んでいいからね?」

 

────い、いや……流石にアイツだけに任せる訳には……

 

「駄目よ、偶にはこうして罰を与えないと……じゃないとすぐに付け上がるんだから」

 

「そうして問題を起こす度に酒泉君がコユキちゃんを構う時間が増えてしまいますもんね♪」

 

「そうそ────ってノア!?」

 

 

 

肯定しそうになった自身の言葉を止めてユウカが会議室の扉の方に視線を向けると、そこにはセミナーの書記担当である少女────生塩ノアが立っていた

 

ノアはニコニコ笑いながら微笑ましそうにユウカと酒泉を交互に見ると、そのまま笑みを崩さず会議室の中に入ってきた

 

 

 

「も、もう……来てたならもっと早く言ってよ……」

 

「ふふっ……ごめんなさい、何やら3人で楽しそうに会話していたので入るタイミングがなくて」

 

────誰か扉の前に居るなーって思ってたら生塩さんでしたか……別に黒崎さんが説教されてただけだし遠慮せず入ってよかったのに

 

「……そういえばコユキが部屋から出た時、ノアと鉢合わせたと思うんだけど……どんな様子だった?実は私達の前だから反省したフリをしていただけで、部屋から出た瞬間にまたいつもの調子に戻ったとか……」

 

「それはないと思いますよ?本当に慌てながら飛び出してきましたし………それに、私も鉢合わせた際に〝少しだけ〟注意しておきましたのでご心配なく♪」

 

 

 

含みを持たせた笑顔で答えるノア、酒泉とユウカはその笑顔に恐ろしい何かを感じて追求するのを止めた

 

 

「……あ、それよりも酒泉君。この前言ってたシャーレの当番交代の件なんだけど……酒泉君に頼まれた日は私も空いてるし構わないわよ」

 

────ありがとうございます!その日はちょっと急用が出来てしまって……本当に助かりました!この埋め合わせは必ず!

 

「別に埋め合わせなんて……あっ」

 

 

ユウカは何か思い付いたのか、一言だけ声を溢すとチラチラと酒泉の顔を見たり自身の目を伏せたりと繰り返す

 

 

「じゃ、じゃあ……その、今週の土曜日にセミナーの備品の買い物に付き合ってほしいんだけど……」

 

────土曜日?……あ……す、すいません……その日はちょっと予定が……

 

「あ……そ、そうなの?それなら仕方ないわね……」

 

────……でも!確かその日って早瀬さんのシャーレ当番の日ですよね?だったら先生に頼んでみるのはどうでしょうか?

 

「えっ」

 

────先生なら仕事で使う道具とかにも詳しいから備品買う時とかどれがいいのか相談にも乗ってくれますし……

 

「……その、酒泉君?ユウカちゃんは────」

 

 

 

 

 

 

ピピピッ!ピピピッ!

 

 

 

 

 

「────……アラーム?」

 

────あ、それ俺のスマホのです、そろそろ仕事の時間っすね……でもそっか、今日は黒崎が代わりにやってくれるんだったな

 

────……そうだ!やっぱ何もしないのも悪いですし他の部の人達が問題起こさないか見回りしてきますね!ついでにこの前ゲーム開発部が提出した書き方の間違えている予算申請書の修正手伝ってきます!

 

「それだと結局働いていることに────あ」

 

 

 

 

ノアの横を通りすぎる酒泉、しかしその直後にピタリと立ち止まって後ろを振り向く

 

そして、親指をグッと立てながら満面の笑みで一言

 

 

 

 

 

 

────早瀬さん!シャーレの当番、頑張ってくださいね!応援してますから!

 

 

 

 

 

それだけ言い残すと酒泉はそのまま走り去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行ってしまいましたね……あの本の感想もじっくり聞かせてほしかったのですが……」

 

「…………」

 

「……ユウカちゃん?」

 

 

会議室の椅子に座ったかと思えば力なく項垂れ、額をミーティングテーブルにゴスッ!と打ち付けるユウカ

 

その様子を心配したノアが声を掛けるが、ユウカは項垂れたまま口を開いた

 

 

 

「私、最近酒泉君に避けられてるかも……」

 

「……はい?」

 

 

 

 

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