〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~ミレニアムルート~その4

 

 

 

 

 

 

 

はらりはらりとページを捲る毎に大量の文字の羅列が目に飛び込んでくる

 

どこか哲学的なものを感じさせる文は俺の頭を数秒悩ませ、それから何度も頭の中で噛み砕いてから漸く何を表現しているのか理解できた

 

やはり詩集というのは難しい……〝体からいっぱい血がふきだしました〟みたいな文章を〝胸から一輪の赤い華が咲いた〟みたいに遠回しに表現したりする事もあるのだから

 

つまり読み手側の国語力が高くなければ上手く文章を受け取ることもできないだろう、そうなれば書き手側がどれほど素晴らしい詩を書いたとしても100%の魅力を伝えることができなくなってしまう

 

さて……この詩集は読み終わったし、また新しいのでも読むとしますかね────なんて考えているとコンコンッと学習室のドアを叩く音が聞こえた

 

現在学習室には俺以外誰も居ないが、別に俺専用の部屋という訳でもないのでノックに対して〝どうぞ〟と返事をすることもなく次の詩集を手に取る

 

 

「……あら、酒泉君?」

 

 

 

すると、ドアが開くと同時に聞き慣れた先輩の声が耳に届いた

 

 

 

────……生塩さん?どうしてここに?

 

「私は落ち着いて勉強ができる場所を探してまして……酒泉君もお勉強ですか?」

 

────そっすね、今は休憩中ですけど

 

「そうですか……今日はユウカちゃんには教えてもらってないんですね」

 

 

そう言って手に持っている教科書をテーブルに置くと生塩さんは俺の正面の席に座った

 

教科は数学、地理、化学……そして文学国語か

 

 

 

「もし宜しければ私が代わりにお勉強を……?」

 

 

 

途中で言葉を止める生塩さん、その視線の先には先程まで俺が読んでいた詩集が置かれていた

 

本のタイトルは〝乙女の奥底〟……内容も恋愛系の詩が多かったしそういうジャンルだったのだろう

 

因みにこの詩集は最近発売されたものなのだが、本屋の最新作コーナーに置かれているこの本の下のポスターには〝これを読めば乙女心が一発で分かる!〟とでかでかと書かれていた、男性客でも釣ろうとしていたのか

 

まあ、俺みたいに優れた目と洞察力を持っている男には必要ないがなぁ!

 

 

 

「それは……最近発売された詩集ですか?」

 

────あ、やっぱ生塩さんも知ってたんですね。ちょっと気になったんで買ってきちゃいました……読みます?俺もう読み終わったんで貸しますよ?

 

「……いえ、大丈夫です。お気持ちだけ受け取っておきますね」

 

 

あら、意外にも興味なさそう

 

書き手側と読み手側じゃ考え方も違うのだろうか……他の人が書いた詩には興味ない的な?

 

 

 

「……でも、感想だけ聞いておきましょうかね……その詩集、どうでしたか?」

 

────そうですね、やっぱ詩を書く人って表現力が凄いなーって思いました。例えばこのページのこの詩……〝君の愛が、揺れる風と共に流されゆく〟ってのが偶然通りかかった電車のせいで踏み切りの向こう側の相手に告白が届かなかったって表現だと分かった時は感心しましたよ

 

「……そうですか」

 

 

 

短く一言だけ返すと生塩さんは記録帳を取り出してペンを持った……なんだ?何を書くつもり────

 

 

 

「15時12分58秒、酒泉君が私以外が書いた詩を読み上げた」

 

 

 

場の空気が凍った……気がした

 

だらだらと嫌な汗が額から流れ出し、少しずつ口元が震えてくる

 

恐る恐る生塩さんの顔をチラ見してみるが、特に怒った顔もせず相変わらず笑顔のままだ……それが逆に怖いけど

 

 

 

「どうぞ?他の詩の感想も読み上げてください」

────……こ、この〝赤い恋のキューピッド〟というのは遠く離れた場所に住んでいる想い人に送る恋文を入れる為の郵便ポストのことで……

 

「15時13分26秒、酒泉君が再び私以外の方が書いた詩を読み上げた」

 

 

 

勘弁してくださいこれ以上詰められると死んでしまいます、詩集じゃなくて死臭になってしまいます

 

……はい!アルトじゃ────ごめんなさいもう二度とふざけた事は考えないので笑顔の圧を強めないでください

 

 

「…………」

────あの、違うんですよ。これは決して生塩さんの詩集を放置してる訳じゃなくてですね……生塩さんの詩集を完璧に理解する為に他の詩集で勉強しているだけなんですよ

 

「……ふふっ、冗談です。少しだけからかってみたくなっただけです♪それに……酒泉君は私の詩集を眠らずにちゃんと読んでくれる数少ない読者さんですから、必ず約束を守ってくれると信じていますよ」

 

 

 

よ、良かった……本当に怒っていた訳じゃなかった……!絶対に怒らせちゃいけない、生塩さんからはそんな凄みを感じる

 

……でも……やられっぱなしも面白くないよなぁ?

 

 

 

────15時13分42秒、生塩さんが拗ねた

 

「……はい?」

 

 

 

こちらもノートの白紙のページに記録を書き込む

 

やられたらやり返す、やられてなくてもやり返す、身に覚えのない奴にもやり返す……誰彼構わず八つ当たりだ!!!

 

 

 

「15時13分50秒、酒泉君が八つ当たりした」

 

 

 

かと思ったら生塩さんも再び記録帳を取り出した

 

驚いたねぇ坊や……奇しくも同じ構えだ

 

 

────15時14分20秒、生塩さんが幼子みたいに負けず嫌いを発揮した

 

「15時14分26秒、酒泉君が私をからかった」

 

────15時14分30秒、生塩さんがからかわれた事を根に持った

 

「15時14分34秒、酒泉君が有りもしない事実を偽装した」

 

────15時14分39秒、生塩さんが自身の執念深さを否定した

 

「15時14分45秒、酒泉君が私の性格を勝手に見定めた」

 

 

 

生塩さんは記録帳に、俺はノートに、互いに記録を書き記していく

 

生塩さんは普段から書き慣れてるだけあって綺麗な字でスラスラと書いているが、俺の方はとにかく速度を求めただけのぐちゃぐちゃの字でなんとか必死に食らいついている

 

ここは譲る訳にはいかない……ここで押し切られたら俺は一生生塩さんに勝てねぇ……!

 

 

 

「……5日前の14時23分59秒、酒泉君は〝今週こそはこの詩に込められた生塩さんの思いを解き明かしてみせる〟と約束した」

 

────なっ!?そ、そんな過去のデータを持ち出すのは卑怯っすよ!?

 

「15時15分6秒、酒泉君が負け惜しみを口にした」

 

 

 

ここでニコッと笑いながら勝利宣言をする生塩さん、勝利宣言と言っても別にコスト比べてエクストラターンを得る訳ではない

 

しゃーない……ここは俺も切り札を切るか……!

 

 

 

────……い、今から7日後、折川酒泉は生塩さんに許してもらう為に可能な限り頼み事を何でも聞く権利を生塩さんに与える

 

「あら?それは……」

 

 

 

必殺!未来の記録!生塩さんが過去の記録を利用するというのなら俺は未来の記録を利用しよう!

 

え?〝それってつまりただの約束だろ〟だって?……うるせェ!!!いこう!!!

 

 

 

「では、お言葉に甘えて……今から7日後の12時、酒泉君は私のお買い物に付き合う」

 

────……15時15分36秒、折川酒泉はそれを了承

 

「15時15分40秒、言質取得……約束ですよ?」

 

 

 

ふふっ、と小さく笑みを溢しながら生塩さんは記録を書き記している手を止めてくれた

 

本当はすぐにでも埋め合わせをしたいところだが……今から5日後、トリニティで調印式が行われる

 

……つまりエデン条約編が始まる、そういうこったあ!

 

それに備えて色々と準備をしないといけないからすぐに買い物に付き合うことはできない、予定を合わせるとしたらエデン条約編を終えた後だ

 

まあ、とりあえず予定は決まったしサクッとアリウス倒して生塩さんとの約束を果たすとしますかね……

 

 

そして生塩さんとの今の攻防は……生き残ったボクの勝ちってとこかな◆

 

 

 

 

 

 




ミレニアムルートを書くのが遅れた理由なんですがイオリママを先に書いていた以外にも理由がありまして……実はノアの解像度を上げたくて実際に詩集を数冊買って読み込んでいたんですよね

その結果〝なんかむずかしいもじがたくさんかいてある〟という結論に至りました、俺は万丈より馬鹿なのかもしれない
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