〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~アビドスルート~その7

 

 

 

 

病院のベッドの上で酒泉が眠っている、その光景はかつてホシノが涙を流して崩れ落ちたあの日の光景と同じだった

 

「……酒泉君、目を覚ましませんね」

 

「パッと見だと普通に寝てるのと変わらないわね……」

 

「でも、それが逆に心配です……」

 

 

そう、酒泉は苦しむどころかむしろ静かに眠っていた、しかしそれ故に何か細かい異常があっても気付きにくいという危うさがあった

 

 

「ユメ先輩ももうすぐこっちに着くって」

 

「確か仕事の事情で一時的に少し遠くの方に出張してたんだよね?」

 

「はい、でもそんな時に容態が悪化するなんて……」

 

「……全く悪化してる様には見えないぐらい安らかな表情なんだけど、それが厄介なのよね」

 

「ホシノ先輩、酒泉は最近どれくらいの頻度で仮眠していたか分かる?」

 

「………」

 

「………ホシノ先輩?」

 

「……うへ!?ご、ごめんねシロコちゃん、何かな?」

 

 

ボーッと酒泉の事を眺め続けるホシノはシロコの言葉が耳に入らず、再び問い直す

 

その様子を見た廃校対策委員会の皆は悲しそうな目でホシノを見つめる

 

 

「いや~参ったね~、本当ならおじさんが先輩としてしっかりしないといけないのにね~」

 

「……ん、こんな状況なら仕方ない」

 

「……ごめん、ちょっと席外すね」

 

 

ガタっと立ち上がり、病室から出ていくホシノ

 

セリカやアヤネは止めようとしたが、ホシノの後ろ姿を見ると声をかけるのを躊躇ってしまった

 

 

「ホシノ先輩、大丈夫でしょうか……」

 

「今は一人にさせた方が良いかもしれませんね……」

 

「……それにしても全然起きそうにない」

「『薬の影響で人より少しだけ寝るのが多いだけだ』って前に酒泉本人が言ってたけど……まさかここまでだなんて……」

 

「裏の世界でも殆ど見かけない様な薬とも言ってましたね……」

 

「………ん、酒泉が意識を失ってから今日でもう二日目」

 

 

 

全員が表情を暗くし、視線を落とす

 

こんな時、いつもなら聞こえてくるはずの酒泉の励ましの声もホシノの人を落ち着かせる様なのんびりとした声も聞こえてこない

 

 

「………とりあえず今は私達に出来る事を全力でやりましょう!酒泉君が帰って来た時に皆で笑って迎えられるように!」

 

 

雰囲気が暗い中、ノノミが立ち上がり両手をパンっと叩く

 

それに影響されてか他の皆も少しだけ表情が明るくなる

 

 

「そうですね……また皆で笑い合う為に頑張りましょう!」

 

「ん、身体が完全に治ったらまたロードバイクに付き合ってもらう」

 

「負けた方が奢るって約束で勝負してんでしょ?酒泉が柴関で奢ってるのよく見かけるもん」

 

「あれ?セリカちゃん、珍しく『なんで態々柴関に来るのよ!?』って言わないんですね?」

 

「何度も見ているうちに慣れたっていうか……」

 

「酒泉さんも凄いですよね………私達と違ってヘイローが無いのによく食らいつきますよね」

 

「でも無慈悲にもシロコちゃんの方が勝率高いんですよね☆」

 

「九割勝ち、ぶい」

 

「酒泉って結構負けず嫌いだからねー……普通の強度の身体でよく挑むわよね」

 

「……普通の……」

 

「……?どうしたの?」

 

「……えっと、確か今度来るシャーレの先生も酒泉君と同じヘイローを持たない人間だったなって思いまして……」

 

 

セリカの言葉を聞いてポツリと呟くアヤネ、何かが頭に引っ掛かったのか少しだけ考え悩む

 

 

「……確か酒泉さんの倒れた原因って病院でも分からないんですよね?」

 

「そうだけど……それが先生と何の関係が?」

 

「……シャーレって生徒絡みであれば様々な事件を扱ってますよね、だとしたら色んな情報があると思いませんか?」

 

「まさか………」

 

「都合良く解決策が見つかるかは分かりませんが─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────先生の力をお借りする事って出来ないでしょうか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

病室で眠る酒泉から逃げ出すかの様にホシノは足早に病院の外に出る

 

新鮮な空気が流れ込んでくるものの全く気分は晴れず、むしろズキズキと己の心が痛む様な感覚に襲われる

 

 

(…………どうしてこんな事になっちゃったのかな、私が弱いから?私が役立たずだから?私が無能だから?)

 

 

己の弱さを憎むホシノ、一度溢れだした感情は止まらない

 

 

(私が一人でアビドスの借金をどうにか出来れば酒泉が黒服に身体を売る事もなかったのに)

 

(私が酒泉の異変に早く気づいていれば身体の状態が悪化する前に止められたのに)

 

(私だ………私のせいだ、大して役にも立たなかったくせに酒泉を疑う事しか出来なかった過去の私の……)

 

(………まだ足りない、もっと捧げないと。酒泉の身体を………人生を奪ってしまった分だけ私の持っている物を捧げないと)

 

(尽くさないと、捧げないと、役に立たないと………じゃないと酒泉が私を置いて何処かに行ってしまう、私を見捨ててしまう)

 

(何か……何か出来る事は……)

 

(………酒泉が服用した薬を私も使えば……最初から身体に異変が起きるのを分かっている状態で病院に調べさせれば………)

 

 

その異常なまでの奉仕心はやがて己自身を捧げる発想へと到る

 

 

「……………黒服に会って薬を貰えば────」

 

 

 

 

 

 

「────駄目よ」

 

 

 

 

 

 

「………っ!?」

突如ホシノの後ろから声が聞こえたと同時に、強い気配を感じる

 

いつもなら背後の気配に気づけたはずだが、今のホシノはそこまで余裕のある精神状態ではなかった

 

しかしいくら心が弱っていても流石は歴戦の戦士、即座に背後の者に対応しようとしたが、そこには───

 

 

「一人で抱え込んじゃ駄目よ、ホシノちゃん」

 

「ユメ……先輩……」

 

 

───かつて共にアビドス高校の為に戦い続けた……そして卒業した今も協力してくれているユメの姿があった

 

 

「久しぶり、遅くなってごめんね」

 

「……いえ、仕方ないですよ」

 

軽く挨拶をするがその直後、ユメは少しだけ怒った様な表情になりホシノを叱る

 

 

「ホシノちゃんが何を考えていたのかは大体分かるわ。でも、それで助かったとしても酒泉君は自分自身を恨む事になる」

 

「………」

 

「酒泉君はそういう子だって、私達が一番理解しているでしょ?」

 

「………でもっ」

 

「それに、今の私達には頼れる後輩ちゃん達がいるんだから!」

 

「……っ!」

 

 

そう、今のホシノには大切な仲間達がいる

 

昔と違い、ユメとホシノと酒泉の三人だけではない

 

 

「まずは皆の知恵を借りてみましょ?」

 

「……はい」

 

 

少しだけ冷静さを取り戻したホシノは病院へ向かうユメの背中を追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先にシロコちゃんから教えてもらってたけど……本当に静かね」

 

「……ん、でもかなりの重症、いつ目を覚ますか分からない」

 

 

再び病室に戻ったホシノ、一緒に来たユメも対策委員会の皆に軽く挨拶を済ませてから酒泉に視線を向けた

 

 

「酒泉君……またこんな事に……」

 

「『また』って事は前にも同じ様な事が?」

 

「うん、二年前にも一度ね……」

 

「おじさんが一年の時……廃校対策委員会がまだ私とユメ先輩と酒泉の三人しか居なかった時の話だね」

 

「これまでも時々意識を失う事はあったけど、これ程まで眠っているのはその時と今回の二回だけよ」

 

「今までのは長くても必ず二十四時間以内に起きてたからねー」

 

「……そういえば酒泉って高校生になる前から廃校対策委員会に居たって言っていたわね」

 

「三人はその時から仲良しさんなんですねー☆」

 

「あー……私は、その……」

 

「……?」

 

「……ふふっ、そうよ、私達はずっと一緒だったんだから!」

 

 

何かを言い淀むホシノ、ユメはそんなホシノの肩をポンッと軽く叩きながら笑顔で返答する

 

 

「……うん、おじさんにも荒れてる時期があったけど、それでも皆仲良しだったよ」

 

 

それを受けてか、少しだけホシノの笑みが戻る

 

 

「……よし、それじゃ皆で今後の事について考えましょう!お医者さん達だけに任せるんじゃなくて私達にも出来る事を考えないと!」

 

 

空気を切り替える為にユメがハキハキとした声で喋りだす

 

するとアヤネがおずおずと手を上げる

 

 

「あの……さっき私達で話し合ってる時に思い付いたんですけど……」

 

「お?早速提案があるのかな?」

 

「はい、ですが……その……」

 

「……どうしたの?」

 

「今から言う方法はホシノ先輩は拒絶するかもしれません」

 

「……とりあえず言ってみて?」

 

「………その、シャーレの先生を頼ってみるのはどうかなって」

 

 

瞬間、場の空気が凍る

 

〝先生〟という言葉を聞いた瞬間、ホシノの表情が険しくなる

 

 

「……駄目だよアヤネちゃん、大人なんかに任せたら酒泉の身体に何されるか分からない」

 

「で、ですが……シャーレの先生は既に様々な場所で活躍していると聞きますし……」

 

「まだ会った事もないのに信用しちゃ駄目だよ?」

 

「……なら直接会うべき、話をしてみてから判断しても遅くはない」

 

「酒泉の容態を知った大人が酒泉の身体を実験に利用しようとする可能性だってあるんだから」

 

 

頑なに許可しないホシノ、そんな中セリカが「ユメ先輩はどう思う?」と意見を聞く

 

「ユメ先輩も反対ですよね?大人の汚さは私達が一番よく知ってるんですから」

 

 

ユメも自分と同じ意見だろうと思い、少し目を鋭くしながら問いかけるホシノ

 

しかしユメから返ってきた答えはホシノが望んでいない物だった

 

 

「……私は、その〝先生〟って人を信じてみたい」

 

「……っ!?何を言ってるんですか、ユメ先輩!」

 

 

最早本来の自分を偽る事すら忘れて叫ぶ

 

 

「大人達が酒泉に何をしたのか忘れた訳じゃないですよね!?なのにそんな事を言えるなんて……!」

 

「そうね、けど忘れた訳じゃない。正直私自身もその〝先生〟って人を頼るのはちょっと怖いわ」

 

「ならどうしてっ!」

 

「……私には、このまま何も出来ずに酒泉君を失ってしまうかもしれない事の方が怖いわ」

 

「………っ」

 

「黒服達がどんな薬を使用したのか判明すれば酒泉君が回復する方法も分かるかもしれないけど………病院どころか、連邦生徒会の調査ですら全ての薬を見つけ出す事は出来なかったわ」

 

「だったら先生が来たところで同じでしょう!?連邦生徒会の調査で駄目だったら今更先生に頼っても……!」

 

「でも私達だけで出来る事には限界がある、それはホシノちゃんだって理解してるでしょ?」

 

「………」

 

 

ユメの言い分に言葉を詰まらせるホシノ、すると背を向けて扉の方へと歩きだした

 

 

「………私は認めません、先生が来たとしても絶対に酒泉には近付かせませんから」

 

 

そう言うと、そのまま雑に扉を開けて病室を出ていった

 

その場には気まずそうな空気が漂った

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

次の日、ホシノは重い足取りで病院へ向かっていた

 

 

(皆は本当の大人の怖さを分かってないんだ……私が護らないと、酒泉を……そして酒泉が護ってくれたアビドスを)

 

 

自分一人でも戦う覚悟を決めたホシノは酒泉が眠る病室の扉へ手を掛ける

 

扉を開けようとした瞬間、中から複数人の声が聞こえてきた

 

幾つかは自分の仲間達の声、しかし一つだけ全く知らない男性の声が混ざっていた

 

………酒泉とは違う、別の男の

 

 

(…………まさか)

 

 

ゆっくりと扉を開けてみるホシノ、すると─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか、その時の人体実験が原因で……」

 

「はい…………お願いします、先生。酒泉君を助ける為に協力してください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────先生と呼ばれる男性とユメを含めた廃校対策委員会のメンバー達が何かを話し合っていた

 

 

「……ごめんね、私がもっと早く来ていれば」

 

先生はそう言って眠っている酒泉に手を伸ばす

 

 

「っ!やめろ!酒泉に触るなっ!」

 

 

先生の手が触れる瞬間、咄嗟に病室の中に駆け込んだホシノが先生の手をはたき落とす

 

病室内に居た全員が驚愕の表情でホシノを見る

 

 

「ホシノ先輩!?」

 

「お、落ち着いてください!先生は助けに来てくれただけです!」

 

「出ていけっ!今すぐ酒泉から離れろっ!」

 

「ホシノちゃん……」

 

「………ホシノ先輩、少し冷静になって」

 

「何でこんな所に大人が居るの!?一体誰が────」

 

 

 

「────私が呼んだのよ」

 

 

 

 

「………っ、ユメ先輩が……?」

 

 

信じられない物を見るような目でユメを見つめる

 

 

「……何でそんな事をっ!」

 

「……昔、酒泉君と借金対策の会議をしていた時に弱音を吐いちゃった事があったの」

 

 

静かにユメが語りだす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか終わる日が来るのかな……」

……え?

 

「……あっ!?いや、何でもないわよ!?」

 

 

その日のユメの精神状態は最悪だった

 

………といっても何か最悪なアクシデントに突然襲われた訳ではない、毎日の疲労の積み重ねがここで溢れだしてしまっただけだ

 

特にユメは後輩達に心配を掛けまいと毎日明るく振る舞っていた為、他の人よりもマイナスな感情を溜めやすかった

 

 

 

大丈夫ですか?俺で良ければ話を聞きますけど

 

「本当に気にしないで!ちょっと溢れただけだから……」

 

………溜め込みすぎるのは危険ですよ

 

「うぅ……」

 

 

酒泉のジト目を受けて少したじろぐユメ、少し間を空けてからポツリと呟き出した

 

 

「その……ちょっとだけ弱気になっちゃって……」

 

……借金問題ですか?

 

「うん……自分でも『いつか必ず解決するから!』って言ってるけど、あまりにもゴールが遠くて……」

 

 

珍しく弱気になるユメ、しかしそれは彼女が弱いからではない

 

むしろここまで弱音を吐かずに戦い続けてきたのだから彼女は間違いなく強い方だ

 

 

 

まあ、確かに改めて借金の額を考えてみると心が折れそうになりますよね

 

「……酒泉君も?」

 

はい………でもそれは俺達三人しか居ない場合の話ですよね?

 

「え……?」

 

これから先、アビドス高校の仲間が増えれば取れる選択肢も増えますし、そのうち頼れる大人だって現れるかもしれませんよ?

 

「……来てくれるかな?」

 

絶対に来ます、何故なら……

 

「何故なら……?」

 

 

その時まで絶対に耐え続けるから!!!

 

 

「…………」

 

 

 

あまりにも強引すぎる解決策にユメは言葉を失うが、少し間が空いてから微笑む

 

 

 

「ふふっ……そうよね!希望が見つかるまで戦い続ければいいだけよね!」

 

はい!

 

「……ねえ、酒泉君ってどうしてそんなにアビドスに尽くしてくれるの?」

 

どうしてって言われてもなぁ……

 

「前に恩返しって言ってたけど、私がした事なんて酒泉君に話しかけただけだし……」

 

……それだけで救われたんですよ、俺は

「……え?」

 

恥ずかしい話なんですけど、あの時期の俺はちょっと色々とメンタルがやばくてですね……

 

何故このキヴォトスで自分が生まれたのか

 

外の世界から来たわけでもないのに何故自分にはヘイローがないのか

 

自分に何か役割があるのか、そんな事ばかり考えてたんです

 

……でも、心が壊れる前にユメ先輩が声をかけてくれたおかげで持ち直す事が出来た

 

だから決めたんです、俺に出来るせめてもの恩返し……アビドスの復興を手伝うって

 

「酒泉君……」

 

……まぁ、〝死んでほしくないから〟ってのが一番の理由だけど

 

 

視線を落としながら語る酒泉、そんな彼にユメが少しだけ申し訳なさそうに口を開く

 

 

「ね……ねえ、酒泉君。それじゃあさ……これからもアビドスに居てくれる……?」

 

当たり前ですよ、アビドス復興が叶うまでずっと支え続けますから!

 

 

 

そう宣言すると、酒泉は立ち上がって拳を上に挙げた

 

 

 

何の具体性も無い言葉ですけど、いつか必ずアビドスを救ってくれる〝大人〟や同じ志を持つ仲間が現れるはずです!

 

ですから、誰も欠けずに必ずそこまでたどり着きましょう─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────アビドスの救世主が現れる、〝ハッピーエンド〟の未来まで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「………ハッピーエンドの……未来……?」

 

「酒泉君が言っていた私達の事を助けてくれる大人って先生の事じゃないかなって思うの、実際に酒泉君が言っていたように頼りになる仲間達もアビドス高校に来てくれたし……」

 

「………っそんなの!ただの偶然じゃないですか!」

 

 

声を荒げて否定するホシノ、周りの驚いた様子など気にせずに叫ぶ

 

 

「そもそも先生がハッピーエンドに導いてくれる存在ならどうして酒泉がこんな事になる前に────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ホシノは優しい子だね」

 

 

突如、ピタリとホシノが止まる

 

先生はそのまま続けて話す

 

 

「私が君達と直接会うのは初めてだけど、これだけは分かる。ホシノのその怒りは全て皆の為だって事は」

 

「何を知ったような口を……っ!」

 

「うん、私は君達の事はまだ何も知らない。だから私の事はこれから知っていってほしいんだ」

 

「これから……?」

 

「今は信用しなくてもいい、手を取り合わなくてもいい、ただ酒泉を助ける為に私の事を〝利用〟してくれればそれでいいんだ」

 

「………」

 

 

自らを利用しろと堂々と言い放つ先生に、ホシノ達は口が塞がらない

 

しかしホシノはまだ納得いかないかの様な表情で先生を睨み付ける

 

 

「口で何と言おうと本心では何を思っているのか分からない、大人なんてそんな奴等ばかり」

 

「否定はしないよ」

 

「今日出会ったばかりの先生にボロボロの身体の酒泉を任せろと?」

 

「うん、悪い大人達のせいで酒泉がこんな目にあったのなら、それは同じ大人である私が背負うべき責任だから」

 

「赤の他人に勝手にアビドスの問題を背負われても困る」

 

「赤の他人じゃないよ、私は〝先生〟だからね」

 

「………屁理屈ばっかり」

 

「〝先生〟であるのと同時に〝大人〟でもあるからね」

 

「………条件がある」

 

 

 

次の瞬間、ホシノは先生にショットガンを突きつけた

 

 

 

「な……ホシノ先輩!?」

 

「銃を下ろしてください!」

 

 

突然の行動に慌てるセリカとアヤネ、しかしそれ以外の者達はホシノに発砲の意志が無いのを理解していた為、少し目を細める程度で止めはしなかった

 

 

「絶対に酒泉を助ける事」

 

「絶対に酒泉を危険な目に遭わせない事」

 

「そして………もし酒泉を助けるのに失敗したら二度と私達に干渉しようとしないで」

 

「この条件が呑めるなら───」

 

「分かった」

 

「───……ならいい」

 

 

一瞬の迷いも無く即答する先生に一瞬だけ言葉が止まるホシノ

 

その後構えていたショットガンをしまい、椅子に腰かける

 

 

「………それで、どうするつもりなの?」

 

「さっきユメから聞いた〝黒服〟って人物に会いに行こうと思う」

 

「無駄だよ、あいつが何の見返りも無く協力してくれるはずがない」

 

「うん、だから此方も〝切り札〟を使おうと思う」

 

 

そう言うとビジネスバッグから封筒を取り出す先生、そこから複数枚の紙が出てきた

 

 

「……それは?」

 

「これはね────酒泉からシャーレに送られてきた物だよ」

 

 

その言葉を聞いた先生以外の全員が疑問を浮かべる

 

そんな中、ホシノが殺気を飛ばしながら真っ先に先生に問いかける

 

 

「……どういう事?そんな話、初めて聞いたんだけど」

 

「………本人に頼まれたから君達には教えないつもりだったけど、ここまで来たからには話さないとね」

 

 

書類を再び封筒にしまいながら語る

 

 

「この書類が送られて来たのは私がシャーレに来たばかりの頃、手紙と一緒に届いたよ」

 

「全部の内容をそのまま伝えると結構長くなるから要約するけど、手紙の内容はこんな感じだったよ」

 

「『もし自分に何かあったら代わりにアビドスの皆を護ってほしい』『その過程で黒服と戦う事があったら是非とも一緒に送った書類を交渉に使ってほしい』」

 

「その手紙を見た瞬間、私はこう感じたよ、『この手紙の主は子供なのにとてつもなく重い〝何か〟を背負っている』と」

 

「だからアビドスへの視察を早めたんだ、手紙の主に……酒泉に直接会いたくてね」

 

 

自分の知らない所でもアビドスの為に動いていた酒泉を思い、ホシノはまたしてもその事に気づかなかった自分自身を恨んだ

 

そんなホシノの代わりにシロコが問う

 

 

「……それで、その書類には何が書いてあるの」

 

「………これだけは言えないかな、結構危ない内容だったしね」

 

 

先生は椅子から立ち上がり、ビジネスバッグを肩に掛ける

 

 

「酒泉に使用された薬が全て分かれば、同じ薬を集めて当時と同じ状況を作れる」

 

「その薬を使って色々と研究してみれば後遺症を軽減する方法が分かるかもしれない」

 

「病院だけでなく、ミレニアムに居る私の何百倍も優秀な子達の力も借りよう。医学は彼女達の専門じゃないけど、それでも力になってくれるはずだ」

 

「シャーレとしての権限を全て使ってでも彼を助けだして見せるよ」

 

 

そして先生は覚悟を決めた表情で病室を出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックックッ……お待ちしていましたよ、先生」

 

「……貴方が黒服?」

 

 

病院での出来事から数日後

ある建物のある一室、そこで黒服と先生は対面していた

 

 

「まさかそっちから声を掛けてくれるなんてね……」

 

「酒泉さんが病院に運ばれたと聞きまして、そろそろかと思いましてね」

 

 

酒泉の見舞いに行った日、シャーレのパソコンに一通のメールが届いた

 

それは〝黒服〟という名前、そして日時と場所のみが書かれたメールだった

 

 

「出来ればもっと早く会いたかったんだけどね」

 

「此方にも予定という物がありますので……」

 

「……まあいい、早速本題に入らせてもらうよ」

 

「おや、此方としてはもう少しゆっくり貴方と語り合いたかったのですが」

 

「大事な生徒の命が懸かっているんだ、無駄話をするつもりは無い」

 

「クックックッ………出会ったばかりなのに随分と嫌われてしまいましたね」

 

「………」

 

「おっと、これ以上余計な事を言うと更に貴方の怒りを買ってしまいそうですね、失礼しました………」

 

 

笑みを崩さずに喋り続ける黒服、「さて」と仕切り直すと先生の方へと真っ直ぐ顔を向ける

 

 

「貴方が求めている物は分かっています、酒泉さんの身体を治す薬でしょう?結論から言わせてもらいますと………その様な都合の良い物など存在しません」

 

「っ……」

 

「彼があの様な身体になったのは様々な薬の効果が合わさった結果の後遺症です、そんな偶然の産物に対抗する為の薬などありません」

 

「……やっぱり、ね」

 

「カイザー達も中々に厄介な置き土産を残していきましたねぇ……?」

 

「………カイザー達じゃなくて貴方もでしょ」

 

「いえ、私は何もしていませんよ?あれは全て彼等の独断ですから」

 

「…………」

 

「そう睨まないでください、貴方にただの殺意は似合いませんから」

 

「……酒泉を治す薬が存在しないなら、せめて酒泉に使用した薬を全部教えてくれるかな?」

 

「ふむ、私はカイザーとは何の繋がりも無いので彼等がどの様な薬を使用したのかは分かりませんが………実は最近、〝偶然〟実験用の薬を仕入れたところでして、そちらの成分表を渡す事ぐらいなら可能なのですが……」

 

「………タダで渡す気は無い、と」

 

 

先生は黒服に視線を向けながら封筒を取り出し、その中の書類を何枚か黒服に手渡す

 

「……っこれは?」

 

「見れば分かるよ」

 

 

最初は軽く目を通す程度だった黒服だが、少しずつ視線が強まり、最後は興奮するかの様に書類の端を握りしめる

 

 

「ククッ……クックックッ……!これは素晴らしい……!我々の情報だけでなく、我々が調べている物まで記載されている……!」

 

「おお……!私が〝暁のホルス〟に行う予定だった実験まで彼は知っていたのですか……!」

 

「………!?これが〝色彩〟の起こす事象……」

 

「………ふむ、ベアトリーチェが?……かなり厄介な出来事を起こそうとしている様ですね、〝色彩〟がキヴォトスに襲来するのは我々としても困りますね……彼は〝この先〟の事をどこまで理解しているのでしょうか……?」

 

 

先生が目の前に居るにも関わらず、黒服は次々と独り言を呟く

 

そんな黒服に先生は更に複数枚の書類を裏向きで見せる

 

 

「………酒泉は貴方が欲しがっている〝船〟の情報も握っていたよ」

 

「ククッ……素晴らしい、想像以上の対価です。これは此方も相応の物を用意しなくては」

 

 

そう言うと黒服は厳重にロックが掛かっているケースを開けると、その中の書類を先生に手渡した

 

 

「……これが酒泉を苦しめた薬」

 

「ええ、ですがそれだけでは足りないでしょう?後日、それぞれの薬の効果や副作用を纏めた書類もシャーレに送りましょう」

 

「……どういうつもり?」

 

「酒泉さんの持っていた情報は私にとって大変素晴らしい価値のある物でした、私はただそれにふさわしい対価を支払おうとしているだけです」

 

「………」

 

「いえ、むしろまだ足りませんね……もし研究に必要な人手や設備が足りなければ是非とも私を頼ってください、無償で提供しますよ?」

 

「………貴方の力を借りると思うかい?」

 

「そう疑わないでください、私はただ貴方や彼に敬意を払っているだけですよ」

 

 

そう言うと黒服は満足気な表情で立ち上がる

 

 

「本日はお越しいただきありがとうございました、何か私の力が必要な出来事が起きた場合、その時は是非ともいらしてください………よろしければ彼も」

 

「……酒泉は絶対に連れてこないよ」

 

 

そして黒服は先生が見えなくなるまで見送った

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生が黒服と取引をしてから二ヶ月と少しが経った

 

黒服から送られてきた各種薬の情報が乗せられた書類のおかげで研究は多少はスムーズに進められた

 

その結果、研究開始から大体半月程で解決策は見つかった

 

………とはいえ、その治療法はすぐに治すのではなく、少しずつ後遺症を〝薄める〟様な方法だったが

 

 

 

 

 

 

 

ホシノは今日も病院へ向かう

 

本当なら全員で見舞いに行きたいところだが、今入院している酒泉や卒業しても時々学校の仕事を手伝いに来てくれるユメを含めても、生徒数が七人しかいないアビドス高校を放っておく訳にはいかなかった

 

だから仕方なくローテーションで見舞いに行く事にした、そしてこの日はホシノが向かう日だった

 

病院に着いたホシノは酒泉の病室のある階までエレベーターで上がっていく

 

エレベーターの扉が開くと、ホシノは今日こそ酒泉が目を覚ましていないかと思いながら歩きだす

 

 

(そろそろ起きてよ、酒泉……)

 

 

酒泉の病室の前までたどり着いたホシノ

 

僅かな期待とそれが裏切られるかもしれない恐怖心を抱えながら病室の扉を開けると─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまりですね先生、暴走フォームっていうのは下手に克服せずに最後まで制御出来ないほうがロマンを感じると思うんですよ!

 

「うんうん、その方が異質な力感があってカッコいいよね」

 

……話は変わるんですが、先生ってラスボスは通常フォームで倒してほしい派ですか?それとも最強フォームで倒してほしい派?

 

「どっちも大好き、なんなら最終回限定フォームで倒す展開も大好きかな」

 

あぁ~!わかるぅ~!

 

 

 

 

────目を覚まして先生と会話をする酒泉の姿があった

 

 

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