────おお……あれが長距離射撃用の武器……!
青と白の入り交じった銃身、灰色の銃口部分
いやぁ……青と白ってどうしてこんなにピッタリベストマッチ!するんでしょうかねぇ……やっぱフリーダムってかっけーわ
天童さんのスーパーノヴァといい、エンジニア部ってセンスいいよなぁ……自分達でカッコいい武器を作れて自分達でそれを触れるなんて滅茶苦茶羨ましい
「どうだ?気に入ってくれたかい?」
しゃがみながら新兵器を舐め回すようにジロジロと見つめていると、俺の右肩の上から白石さんが顔をヒョコッと覗かせてきた
めっちゃ良い面が突然俺の顔の真横に現れるの心臓に悪いからやめてほしい、これ言ったらキモがられそうだし黙っておくけど
「さて、突然だが性能デザイン共に完璧に備わったこの武器にはあるものが足りていない。それを付け足さなければ完成度は9割で止まったままと言っていいだろう……その足りないもの、君は何だと思う?」
────……名前、ですかね?
「流石は私と同じロマンを追い求める者……私の理解者だ」
白石さんは俺の背中を軽く叩いて満足気に頷く
やっぱ武器の名前ってのは大事だからな、ハンドル剣とかドア銃みたいな名前だと戦う時イマイチやる気が起きないからな
……この世界にドライブが無くて良かった、もし日曜朝に調月さんがドライブを見ていたらもっとヤバいネーミングセンスになっていたかもしれない
「……おっと、理解者という言葉を使うと彼女が口煩くなってしまうかな?」
────いやーなんかすいませんね……別に調月さんも白石さんのことは嫌いではないと思うんですけど……
「どうだろうね?彼女は君のことを〝自分の隣に居て当然〟と思っている節があるからねぇ……」
やはり昔からキヴォトスの未来の為に同じ方向を向いて歩いていたから、それだけ俺に対して強い仲間意識を持ってくれているのだろうか
「さて、この子の名前の話に戻らせてもらうが……完成した時からずっと名前を考えているが、中々良いものが思い付かないんだ」
────良い名前かぁ……どうせならこの見た目にピッタリなカッコいい名前をつけてあげたいですね
「そこでだ……酒泉、私と君でこの子の名付け親になってあげないかい?」
────えっ!?俺も一緒に考えていいんですか!?
「ああ、むしろ君の力も借りたいからね」
名付けの権利を分け与えてくれるなんて……やはり白石さんは優秀で誠実で……!
フォルファントリー、ダインスレイヴ、ローエングリン、GNスナイパーライフル……さて、どんな名前を付けてあげようか
メガバズーカランチャー……は外れそうだからやめておこう
別にロボット系に縛る必要もないな。ここは超強力兵器レールガンとかシンプルなのも……いや────
────ここは……スクルドなんていうのはどうですか?
「スクルド?確か未来を司る神様……だったかな?」
────一般的にはその印象が強いですね
「ふむ……数多ある女神の存在からどうしてその名を?」
────……願掛け的な?まあ、一番大切なのは結局自分自身の実力なんで神頼みしても意味無いっすけどね……それでも名前の由来くらい前向きな方が良いじゃないですか
「……そうだったね、あの銃は────君が未来を変える為の物だったね」
白石さんは意味ありげに呟いた
……白石さんも調月さん同様、トリニティの調印式で何が起こるのかを知っている。巡航ミサイルを超射程でぶち抜ける様な危険兵器、何の事情も説明せずに作ってもらえる筈もないからね
自分の作った物が悪用されるかどうかちゃんと考えてる辺り倫理観はしっかりして……して……意図的に悪さを働かないぐらいにはしっかりしている
「成る程……うん、良い名前だ。ではあの子の名前はスクルドにしよう」
白石さんは銃身に手を当てると、我が子と触れ合う様に愛しそうに撫でた
それを数回繰り返した後、直後に何かを思い出した様に手を叩いた
「ところでスクルドの最終テストだが……」
────あ、それならミレニアムの旧体育倉庫跡地使いません?もう許可は取ってありますから
「流石、仕事が早いね」
────そうだ!ついでに他の発明品の実験もやっちゃいません?この前新しくなんか作ったって聞きましたけど……
「おや?いいのかい?今回作ったのは〝空飛ぶマッサージチェア〟だから天井を破壊してしまうと思うが……」
────空を飛ばせる意味とは……?まあ、建物はとっくに撤去済みなんで問題無いですよ
「そうか……ならまた甘えてしまおうか」
凄い技術力で変な物を開発しているが……まあ、そこはいつも通りってことであまり気にしないようにしておこう
「そういえば以前から気になっていた事があるんだが……君はどうしてここまで親身に接してくれるんだい?」
────親身……ですか?
「ああ、今思えば出会って間もない頃から君は私達エンジニア部の為に色んな所を駆け回って実験に使えそうな現場を探してくれただろう?散々セミナーに迷惑を掛けてきた私達の為に……だ」
────確かに色々と被害食らってますけどそれを理由にいきなり活動停止とかにするのも心が痛みますし……それに白石さんだってできれば誰にも怒られずに実験したいでしょう?
「……まさかそれだけの理由で?」
────〝それだけ〟って事ないでしょう?だって白石さん、技術の発展になりそうな物を考えたりそういうのにロマンを求めるの好きですよね
「……まあね」
────それに俺、エンジニア部の皆さんの作ったもん見るの結構好きですよ
「……」
実際今回みたいに男心を擽るような発明品に出会った時はつい興奮してしまう(夢中になりすぎると早瀬さんに怒られるけど)
だから俺も結構得してるところもあるしその事を正直に白石さんに伝える……が、白石さんは何故か黙りしてしまった
なんだ?何かマズったか?
「……酒泉、つまり君は私の為に────」
────あ、でも一番の理由は被害を抑えられればその分早瀬さんの仕事が減りますからね
「────……へぇ?」
────……んっ……?なんかこの部屋寒くないっすか?
「……地下だからじゃないかな?」
「おや……微かにだが日が暮れてきているね」
地下施設から地上に戻ると青空がほんの少しだけオレンジの色を帯びていた、あの後も白石さんとロマン談義して時間を潰していたけどいつの間にか夢中になりすぎていたみたいだ
……あ、そういえば地下施設の事に関して白石さんに聞きたい事があるんだった
────あの、白石さん……1つ聞きたい事がありまして……
「ん?聞きたい事?」
────あの地下施設、入り口にパスワード掛けられてましたよね?どうやって中に入ったんですか?
「……遅すぎないか?」
普通にツッコまれた、俺も白石さんが当たり前のように部屋の中に居すぎてつい聞くのを忘れてしまっていた
地下施設に入るには〝2887〟のパスワードが必要な筈なのに……一体どうやって……
「いつだったか酒泉が熱く語っていたロボットの自爆コードを試してみたら見事に一発で引き当ててしまってね」
────マジか……何やってんだ過去の俺……ん?つーか白石さんはどうして地下の武器庫に行こうとしてたんですか?何か用でも?
「実はあの子……スクルドは会長に渡す前に名前を付けようとしてあげたんだけど、酒泉と2人で名前を付けようとしていたのを会長にバレてしまってね。それで会長権限を使って無理やり没収されてしまった訳なのさ」
────……その……なんかすいません
「気にしないでくれ、別に君が悪い訳ではないからね」
あの人はまた独断で勝手に行動して……そんなに自分で名前を決めたかったのか?だとしたら白石さんに相談すればいいだけなのに……
「……まあ、名付けに関しては会長に先を越されなくて安心したよ。彼女のネーミングセンスは……その……非常にユニークだからね」
────そ、そっすね……独特で……良いと思い……ます
互いに最大限言葉を選んで評価する
アバンギャルド君って凄い名前だよな、もしあのロボットが〝アバンギャルド〟ってだけの名前だったらまだ理解できなくもないけど、そこに〝君〟が付くだけで一気にダサ……独特な名前になる
「さて、私はこのまま部室に戻るとしよう……長々と会話に付き合わせてしまってすまなかったね」
────いえ、さっきも言いましたけど白石さん達の発明品好きですしその話を聞くのも好きなんで……気にしないでください
「……成る程?」
ミレニアムの校内に校舎裏の玄関から入ったところで白石さんと別れようとする……が、その前に肩を叩かれて止められる
まだ何か用でも、そう言おうとする前に白石さんは一枚の書類をどこからともかく取り出して俺に手渡してきた
その紙の一番上には〝入部届け〟と書かれている
「君をこのままセミナーに置いておくのはやはり惜しいな……やはりエンジニア部に入ってみないかい?」
────……先週も誘ってきてましたよね?その時断ったと思うんですけど
「ならば今週も、だ」
定期的に訪れる勧誘タイム、この日も始まってしまった
毎回毎回断ってはいるのだが、次に会う時にはその事を忘れているかのようにシレッと勧誘してくる
「そんなにエンジニア部の作品が好きならエンジニア部に入ってしまえばいい、そうすれば毎日間近でじっくりと見ることができるよ」
────気持ちは嬉しいですけど……
「それに今回のスクルドのようなカッコいい武器の製作も君自身の手で直接……ね?」
俺の耳元で白石さんが囁く、正直白石さんからの提案は俺にとって口と目と耳と鼻と全身の毛穴から涎が垂れてくる程魅力的な提案だった
だが俺はセミナーを離れるつもりはない、自分の欲望に負けて皆をオンドゥルルラギるわけにはいかない
ああ、でもこの誘惑は駄目だ、非情に強力すぎる
「どうだい?まだ覚悟が決まっていないのならまずは体験入部から────あっ」
「その必要はありません、彼はセミナーの生徒ですから」
脳内のウヴァに欲望を解放されそうになっていると、突如横から謎の手が現れて入部届けを奪い取った
その手は入部届けを真っ二つにビリっと破くと、それをくしゃくしゃに丸めて自身の制服のポケットにしまった
「……出会って早々、随分なご挨拶じゃないか?ユウカ」
「他の部の生徒を引き抜こうとする人に言われたくないですね……ウタハ先輩?」
何故だろうか、白石さんも突然現れた早瀬さんもどっちも笑顔の筈なのにどこか恐ろしさを感じてしまう
「……どうして君がここに?今日は珍しくセミナーの仕事も休みだと聞いていたが?」
「またエンジニア部が新しい発明品を生み出したって噂を聞いたから被害が出る前にどんな物か確認しにきただけです、その道中で出会ったのは完全に偶然ですから」
「そうか……ところで酒泉、さっきの話の続きだけど────」
「────続けないでください」
再び入部届けを取り出す白石さんだが、早瀬さんも再びそれを奪い取って破く
それを目の前で見せつけられた白石さんは明らかに不機嫌な表情で目を細める
「……君に勧誘を止める権利は無いはずだが?」
「あります、ただでさえ誰かさん達のせいでセミナーは大忙しなのに彼まで引き抜かれたら手が回らなくなってしまいます」
「彼が来る前でも回るには回っていただろう?」
「……だとしても優秀な人材を手放す理由にはなりませんので」
早瀬さんは〝ではこれで〟と強引に話を切り上げると早く帰るように俺に目配せしてくる、別に逆らう理由もないので2人に別れの挨拶をして頭を下げてからこの場を去る
しかし……優秀な人材か……そう評価してくれるのは嬉しいけど、ぶっちゃけ俺って他のセミナーの人達みたいに要領良くないしこれといった長所も無いんだよなー
目が良いのは戦闘面くらいでしか役に立ちそうにないし……これで生塩さんみたいに記憶力が良かったりすれば仕事でも役に立つんだろうけど
まあ、何が言いたいのかというと白石さんの勧誘は嬉しいけど俺がエンジニア部に入っても出来る事は限られてるし………かといって部活に入る気もないのに好きな物を見たいって理由だけでお邪魔しに行くのも冷やかしみたいでなんか────
「ああ、それと来週は四足歩行型の掃除ロボットを作ってみる予定だけど……見に来るかい?」
────是非
いやでも厚意を無下にするのも悪いよねここは素直に従って────
「……酒泉君?貴方、そんな余裕があるの?確かこの前も数学の授業で〝分からないところだらけ〟って弱音を吐いてなかった?」
────あ、いや……そうですけど……
「……ほら、また私が教えてあげるから……さっさと行くわよ」
「……私はいつでも待っているよ、酒泉」
強引に手を引っ張られて連れていかれる、やはりキヴォトス人の力には敵わなかった
……と思いきや早瀬さんの足がピタリと止まった
「……そういえばウタハ先輩は酒泉君と何をしていたんですか?2人で何処かへ出掛けた後の様でしたけど」
「君に答える必要は───いや……待てよ……?」
「……?何をぶつぶつと────」
「ああ、失礼……気にしないでくれ。私はただ、酒泉と共に我が子の名前を考えていただけだからね」
────ちょっ……そ、その言い方は「は?」