〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~ミレニアムルート~その7

 

 

 

 

背中を蹴りつけられ、痛みに悶えながら前のめりに倒れる

 

思いっきり咳き込んでいると直後に背後から気配を感じて咄嗟に横に転がる

 

すると、先程まで俺が倒れていた場所に弾丸が数発着弾する

 

 

「遅ぇ!さっさと立て!てめぇの身体は一発当たっちまっただけで致命傷になるような脆い肉体なんだぞ!?それを分かってんのか!?」

 

怒鳴り声に頷きながらも先輩の───美甘さんの猛攻は止まらない

 

立ち上がる隙に美甘さんの得意な近接戦闘に持ち込まれ、そのまま不利な戦いを強いられる

 

 

「どこを狙ってやがる!その目は何の為の目だ!?」

 

 

腹に美甘さんの足が直撃する────瞬間に即座に後ろに跳んでダメージを軽減する

 

しかしその程度でキヴォトス人の蹴りを防げる筈もなく、思わず顔を歪ませてしまうほどの痛みを感じる

 

 

「咄嗟に反応できたのは褒めてやる!けど今の蹴りは大人しく食らってぶっ飛ばされておけ!身体の骨は壊れちまうだろうが死ぬよりはマシだろ!?もしあたしが殺すつもりで戦っていたらダメージを抑える為だけに中途半端に身体を浮かしたお前に10発以上は追撃を入れてたぞ!?」

 

 

身体の痛みに悶えてる暇はない、さっさと立ち上がって次の一手を考えなければならない

 

足払いを避け、身体を動かし、射線上から外れ────駄目だ、対応が間に合わない

 

 

「〝眼〟のスペックに対して肉体も技術も足りてねえんだよ!てめぇがどんな大仕事に挑むつもりなのか知らねえが、そいつはその程度の実力で簡単にクリアできちまうほど楽な仕事なのか!?ああ!?」

 

 

武器を蹴りあげられ、腕を掴まれ、そのまま地に伏せられる

 

呼吸を整える暇も状況を整理する暇も与えられず両腕を拘束される

 

そうして身体の動きを封じられている内に少しずつ抵抗する力も弱まっていき、最後には美甘さんの手から逃れようと微かに身体を揺らす程度になってしまった

 

 

「……今のてめぇが戦場に行ったところで大して活躍もできずに簡単にくたばっちまうだけだ、そうなるくらいならあたしらの方の仕事が終わるのを大人しく待っとけ。そうすりゃあ、あたしが守って────」

 

────……待ってください、何勝手に話を終わらせようとしてるんですか

 

「……ああ?」

 

────俺、あと100回は戦えますよ

 

 

 

 

丁度今完敗して実力差を分からされたというのに、せめて態度だけはと負けず嫌いを発揮してしまう……が、それ抜きにしても別にここで終わるつもりはない

 

美甘さんとの模擬戦は俺に足りない物を教えてくれる、戦えば戦うほど技術が身体に染み付く、追い込まれれば追い込まれるほど強くなれる、だから────

 

 

 

 

────もう少し付き合ってもらいますよ、美甘さん

 

「はっ……いいぜ!そんな口叩けなくなるくらい激しいデートにしてやるよぉ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、染みますよー?」

 

 

 

勝てるわけねェだろうが!!!

 

どうも、美甘さんにボコボコにされて室笠さんに手当てされてる折川酒泉です、前が見えねェ

 

 

「お鼻ちょんちょんしますからねー」

 

────ひぃん……染みるよぉ……

 

「男の子なら我慢できますよね?」

 

 

室笠さんはそう言って微笑みながら濡れたガーゼを鼻先に当ててくる

 

こんなこと考えるのは失礼だけどまるで母親に手当てされてるみたいだ、これがバブみですかシャア総帥

 

いやでもアイツの場合は年下の女の子が相手だったしな……俺はギリセーフか

 

 

「……おい、あたしがボコしたんだしあたしが直接手当てしてやるよ、代われ」

 

「駄目ですよ?部長は訓練に使ったこのグラウンドを整備しないといけないんですから」

 

「だったらそいつにも整備させろよ」

 

「酒泉君は怪我していますから」

 

「……そんなニヤケ面する元気があんなら平気だろ」

 

 

グラウンド整備中の美甘さんがふと此方を見て室笠さんと代わろうと提案してくる、しかし室笠さんはそれに頷くことなく〝そのまま掃除を続けてくださいね〟とだけ返す

 

「それにしても……仕事を手伝ってくれた礼が〝俺を鍛えてくれ〟だなんて酒泉も変わってるね」

 

 

 

俺が手当てされてるベンチの横で角楯さんが不思議そうに見つめてくる

 

そうか?……仕事を手伝った報酬としては破格な内容だと思うが……

 

 

────角楯さん、冷静に考えてみてくださいよ。ミレニアム最強の生徒に直接鍛えてもらえる機会なんて滅多に訪れませんよ?

 

「お……おお?そうか?……そうだそうだ!わかってんじゃねえか!もっとあたしの有り難みを知れ!」

 

「一気に上機嫌になりましたね……」

 

 

さっきまでチンタラしながらトンボを使ってグラウンド整備していた美甘さんが一気にペースを上げる、別にその為に褒めた訳じゃないが……まあ、結果オーライ的な?

 

それに美甘さんに感謝してるのは事実だしな、この人のお陰でエデン条約編前の最終調整ができた

 

 

 

「……でも、酒泉君はお礼がそれだけで本当に宜しいのですか?」

 

「ああん!?〝だけ〟ってなんだ〝だけ〟って!?」

 

「私達の仕事を手伝う際に周辺の建物の被害を抑える為に作戦前の地形を調べたりそれにあった武器も用意してくれたりと……それだけ尽くしてくれているんですからもう少し強欲になっても誰も文句は言わないのでは?」

 

────いえ、それに関しちゃセミナーの仕事を増やさない為……つまり自分の為でもあるんで

 

「……なんていうか、酒泉って本当に〝尽くすタイプ〟だよね」

 

「まるでメイドさんみたいですねぇ……」

 

 

 

メイド服を着てる人達にメイド認定されてしまった、しかし男の娘でも女装男子でもない普通の野郎のメイド姿はただのゲロである

 

そこは執事とかセバスチャンとかにしてほしかった

 

 

 

「はん!だったら丁度てめぇにピッタリな職場が目の前にあんじゃねえか!どうだ?あたしは歓迎するぜ?」

 

「あら、それは良い提案ですね……どうでしょう?これを機にC&Cに体験入部してみるのは?」

 

────アンタら自分達がエリートエージェント集団だってこと忘れてません?そこらの部活みたいにほいほい入部が許されると思わないでくださいよ

 

「ああん?んなもんあの堅物会長に頼めばどうにでもなんだろ?てめぇが色仕掛けでもしてやれば……いや、やっぱすんな」

 

 

 

どっちやねん

 

その言葉を飲み込んで〝適当に考えときます〟と軽く流しながら視線を逸らす

 

するとその視線の先で先程まで普通に座っていたはずの角楯さんがスマホを持ちながら悩ましそうに顎に手を当てていた

 

 

 

「うーん……アスナ先輩出ないなぁ……」

 

「そういえば今日はいつにも増して到着が遅いですね……」

 

────……え?もしかしてこの後集まる予定とかあったんですか?

 

「……次の任務の段取りを決めようとしていただけだ、だから気にすんな」

 

 

まだ他に仕事を控えている彼女達の時間を奪ってしまった事に罪悪感を覚えるが、俺が謝るより早く美甘さんがフォローを入れてくれた

 

……いやでもさらっと流したけど任務の段取りって重要な事なんじゃ……

 

 

 

「……とはいえ、流石に最低限の打ち合わせもしない訳にはいかねえからな……」

 

「カリン、モモトークは?」

 

「モモトークは既読無し……っていうか電源自体落としてるっぽい」

 

「しゃーねー、こうなったら直接探しに行くか」

 

「何の宛もなく……ですか?」

 

「そうするしかねえだろ……それかモモトークに必要最低限の情報だけ送って既読付くまで待機しとくか?」

 

「……いや、でもアスナ先輩の事だしスマホの電源をつけるのを忘れてそのままどっか遊びにいっちゃう可能性も……」

 

「……だな」

 

 

 

どうするかと溜め息を吐いて悩むC&C一同、そんな彼女達に〝あの〟と小さく呟いてから手を上げる

 

 

 

────一之瀬さんを探すなら……俺も手伝いましょっか?

 

「酒泉君が……ですか?」

 

「……そういえば酒泉ってアスナ先輩を見つけるの得意だよね、やっぱり目が良いと痕跡を辿りやすいとか?」

────それもありますけど……それ以上にあの人自身が会いやすい場所を選んでるというか……

 

「……?」

 

「……まあ、理由は何だっていい。この中で一番アイツを見つけるのが得意なのがお前だって事に変わりねえし……ちょっくら頼むわ」

 

「では……アスナ先輩を発見したら再びこの場に集合という事で」

 

 

 

俺は一之瀬さんが姿を眩ました時、毎回確実に連れ帰る事に成功している

 

その実績を他のメンバーも知っている故か意外とあっさり任せてくれた………さて

 

 

 

────それじゃあ、早速……

 

「……おい、酒泉」

 

────はい?なんですか?

 

「焦りすぎんなよ」

 

 

 

 

……もしかしたら、美甘さんが俺にも協力させてくれた理由は俺の内心に気づいていたからなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

皆と別れてから1時間と数分後

 

一之瀬さんがよく通う場所に行ってその場でモモトークにメッセージを送ったり普通の電話を掛けてみたりしたものの、やはりそれらにも反応する事は一切なかった

 

そんな状況に陥った俺は────先程まで皆の前で装っていた平静が崩れ、肩で呼吸を整えてから焦りによって生まれた汗を腕で拭う

 

この光景を見る人によっては〝たかが連絡が取れなかったくらいで大袈裟な〟と思うだろう。実際、その反応は正しい。別にそれだけなら大して心配する必要はない

 

高校生なら放っておいてもそのうち勝手に元の居場所に帰ってくるだろうし、どっか遠くに出掛けていてそこで迷ってしまったとしても適当なアプリで周辺マップを調べて帰路に戻れば良いだけの話だ

 

……しかし、それは〝一之瀬アスナ〟という少女を知らない人間だから言えることだろう

 

でも、実際の彼女は自由人だし、何より────

 

 

 

「にゃーにゃにゃーにゃにゃー♪」

 

「~~~♪」

 

────っ!?一之瀬さん!?

 

「にゃー……あれ?酒泉?」

 

 

 

そこに辿り着いたのは本当に偶然だった

 

最初はミレニアム周辺を探してそれで見つからなかったらもう少し捜索範囲を広げるつもりだったが、そこまでするまでもなく予想以上にあっさりと見つかった

 

一之瀬さんが居たのは飲食店や雑貨店の間の細道というどこの街でも至って普通に存在する場所だった

 

 

 

「もしかして私に会いにきてくれたの!?嬉しい~!」

 

────……っと……いきなり抱きつかないでくださいよ

 

「ぎゅー!」

 

駄目だ聞こえてない、キヴォトス人のパワーで抱きしめられると普通に痛いのでやめていただきたい

 

こうなってしまった一之瀬さんはあまり人の話を聞いてくれないので大人しく抱擁を受け入れながら状況を整理する

 

視線を一之瀬さんの後ろに集中させる、そこに居るのは一之瀬さんと戯れていた猫、しかし先程と違い突然登場した俺のことを警戒している様だった

 

そして、更にその後ろには2匹のちっちゃな猫……赤ちゃんか?

 

 

 

────……一之瀬さん、あの子達は?

 

「ぎゅー……ん?あの子達は私がミレニアムに行く途中で偶然出会ったんだー!その時はお母さん猫しかいなかったけど、でもその子についていったら何となく素敵な光景に出会える気がして!」

 

 

相変わらずの直感の良さに複雑な思いを抱きながらも感心してしまう

 

そう、これこそが一之瀬さんが自由人である理由の1つ────異常なまでの精度を誇る直感力

 

 

 

 

「そしたら本当にこんな可愛らしい子達と出会っちゃった!」

 

────……だからって待ち合わせの約束を破ったりしないでくださいよ、それかせめてスマホの電源はつけといてください

 

「だって猫ちゃん達がスマホの音に驚いてたから……」

 

────……もし俺がここを見つけられなかったらどうするつもりだったんですか?

 

「んー?」

 

 

 

自身の直感に従って行動する事が多々ある為、一之瀬さんの行動範囲を完璧に把握するというのは不可能に近い……のだが、俺の場合は何故かそこまで苦労せず見つけられるパターンが多い

 

 

 

「大丈夫!ここに居たら酒泉が見つけてくれる気がしてたから!なんとなくだけど!」

 

 

 

……その理由は丁度今言ってた一之瀬さんの発言通りだろう。この域まで行くと一之瀬さんの直感は最早未来予知と変わらないほどの精度を誇っていそうだ

 

もしかしたら一之瀬さんの直感はトリニティの百合園セイアと同じ類いの特殊能力なのかもしれない、それか小鳥遊ホシノが〝キヴォトス最高の神秘〟と呼ばれるように何かしら身体に秘めているとか……

 

 

────……って、そうだ!そんな事よりも美甘さんに報告しとかないと!ほら、一之瀬さんも早く立って!さっさとミレニアムに向かいますよ!

 

「えー?もう行っちゃうのー?もう少しだけ猫ちゃん見てようよー」

 

────駄目ですよ、先輩達待ってるんですから……

 

 

 

俺の用は済んだとはいえそれで〝はいさようなら〟で別れるのは流石に恩知らずすぎる、先程の訓練でC&Cの先輩方のお世話になった以上、借りはしっかりと返すべきだ

 

……ってのは人間として生きていく上で当たり前の最低限の礼儀だ、しかし今回のように一之瀬さんが関わる場合はそれ以外にも放っておけない理由がある

 

 

「しょうがないなぁ……」

 

────ほら、美甘さんにモモトーク送っといたんで……帰り道は覚えてますよね?

 

「勿論!バッチリだよ!」

 

────良かった……今回は大丈夫そうで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで……ミレニアムってなんだっけ?」

 

 

 

突如、一之瀬さんが首を傾げながらそう尋ねてくる

 

自身の通っている学園の事なのに、そこで仲間達と過ごして沢山の想い出を築いてきたというのに、一之瀬さんはキョトンとしながら他人事の様に振る舞っている

 

……先程も述べたように一之瀬さんの直感はかなりの精度で当たる優れた能力だ、しかしその強力な能力の代償だと言わんばかりに彼女自身が抱えている致命的な欠点がある

 

それは重度の〝物忘れ〟……なんて言い方は優しい方だろう。一之瀬さんの場合、その〝物忘れ〟は日常的に行う動作にまで影響を及ぼす

 

例えば、つい数時間前に食べたばかりの物を忘れたりいつも通ってる帰り道を忘れたり……しかしそれらは全てマシな方だ

 

これは原作でも描写されていたが、酷い時には階段の上がり方すら思い出せなくなってしまう。というよりもその状態の一之瀬さんを俺自身の目で実際に見た事もある

 

 

「どこかで聞いたことある気がするんだけどなぁ……酒泉は覚えてる?」

 

────……ええ、覚えてますよ。一之瀬さんが通っている学園の名前ですよ

 

「あっ!そうだった!」

 

 

 

俺の話を聞いて漸く思い出したのか、一之瀬さんはハッ!と口を開けながら手を叩く

 

本気で忘れていたであろうことが窺えるこの反応もすっかり見慣れてしまった……できれば見慣れたくない光景だったけど

 

しかし専門的な知識を持つ医者でもない俺には一之瀬さんの〝物忘れ〟はどうする事もできない、何かしてあげられるとすればそれは……

 

 

 

「じゃあ酒泉!また案内よろしくね!」

 

────……ええ、何度でも連れていきますよ。何度迷子になっても何度忘れてしまっても、何度だって貴方の居場所まで引っ張ってあげますから

 

「うん!ありがとう!」

 

 

 

笑顔で手を差し出してくる一之瀬さんとこうして手を繋いで一緒に歩いてあげる事ぐらいか

 

 

────……てか、今〝また〟って言いました?それは覚えてるんですか?

 

「んー……よく分かんないけど酒泉の手があったかいことは覚えてる!」

 

────……さいですか

 

 

 

一度一之瀬さんの手を掴んだら最後まで離しちゃいけない、離したら何処か遠くに行ってしまう

 

そんな風になんとなく感じただけの曖昧な考えを胸に秘めながら、この日は雑談しながらミレニアムまで戻った

 

 

 

 

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