────おーらーい、おーらーい、おーらーい、おーらーい………おっけーい
誘導棒を振りながらトラックを有人型アバンギャルド君の前までバックさせる
別に警備員のバイトをしてる訳ではない、調印式の会場に持っていく為に積んでいこうとしているだけである
でも立たせたままだと積荷部分に入れられないので一旦寝っ転がせてからぶちこむ事になる
「……酒泉、このトラックは流石にシンプルすぎじゃないかしら?」
────少なくとも調月さんが当初使う予定だった〝あいらぶアバンギャルド〟と書かれたトラックよりは作戦向きだと思いますけど
「…………そうね」
むすっとしながら調月さんは頷く、多分俺以外が見てもただの無表情にしか見えないであろう
……つーかあんな目立つトラック明らかに作戦向きじゃないだろ
「それよりも酒泉、貴方はそっちの機体を選んだのね」
────はい、色々試してみた結果この〝ライジングアバンギャルド君〟が一番しっくりきました
「ふふっ……気に入ってもらえたのなら何よりよ」
〝しっくりきた〟の言葉の前に〝名前以外は〟と付け足しそうになってしまうがそこは必死に抑えた
珍しくも誰にでも伝わるような歓喜の表情で喜んでいる調月さんを見るとそんな言葉は吐けない
「リオ会長、そろそろコンベアを」
「ええ、分かったわ」
トラックの運転席側から飛鳥馬さんがひょこっと顔を覗かせると、調月さんがアバンギャルド君を寝かせているコンベアの起動ボタンを押す
ガタガタと音を立てながらトラック内に運ばれているアバンギャルド君を複雑な目で見守る、これに命を託すことになるのかぁ……
「最終調整は既に終わらせているわ、だから後は……」
────……敵を倒すだけ、ですね
「ええ……ねえ、酒泉」
────分かってます、本当に危なくなったら絶対逃げますから
「……そうして」
調月さんは不安そうに呟きながら俺の手を握ってくる
ここまで心配されたからには絶対に死ぬ訳にはいかない……いや心配されなくても死にたくはないけど
「決戦前だというのに随分と甘い空気を醸し出すじゃないか、そんな余裕があるのかい?会長」
「……私はただ彼の心配をしていただけよ」
「おや、それだけなら手を握る必要はないと思うが?……ふむ、そうだね。なら私も彼が心配だから彼の手を握るとしよう」
「貴女にその許可は与えられないわ……いえ、そもそもどうして貴女がここにいるのかしら────白石ウタハ?」
「その機体の装備を……スクルドを作ったのは私だ、そんな私が君達の事情を知っているのは当然の事だろう?」
シレッとした顔で平然と答える白石さんに対し、調月さんは若干眉間に皺を寄せる
……前にも話したかもしれないが白石さんはスクルドの用途を知っている、つまり調印式の日に何が起こるのかも当然知っている
「ええ、それは理解しているのわ……私が聞きたいのは〝何をしに来たのか〟よ」
「当然〝酒泉を助ける為〟さ、別に問題ないだろう?」
「………」
ついさっきまで不機嫌そうに睨んでいた調月さんも、白石さんの返答を聞いた瞬間に黙り込んでしまう
……多分だけど、俺の身を案じているからこそ〝酒泉を助ける為〟という言葉を簡単に拒否する訳にはいかないのだろう
「……私がどうしてミレニアムの戦力をもっと多く集めなかったか分かる?」
「目立つのを避ける為だろう?他にもゲヘナやトリニティから疑念を抱かれない為に……とかの理由もありそうだけどね」
「そうよ、もし調印式当日に大勢を率いてアリウスとの戦争に参戦なんてしたら〝ミレニアムはこの件を最初から知っていた〟と思われてしまうわ。そうなれば……」
「〝アリウスとの関係を疑われてしまう、だから必要以上の戦力は集めたくない〟だろう?つまり私は邪魔者だと…………アリウスを撃退する為に力を貸すんだし、普通に感謝される可能性だってあり得ると思うんだけどね」
「マッチポンプを疑われる可能性だってあるわ」
「……ミレニアム生への疑心は多少は和らいだかと思えば……他校に対しては相変わらずな態度だね、君は」
この世界の調月さんは原作と違ってミレニアム生を(必要以上に)疑いはしないが、他校相手に対しては原作通りの性格のままだ
……まあ、別にそれは悪いことではない。それだけミレニアムを守ろうという意志が強いという事でもあるのだから
「……だが、疑われるというのならアバンギャルド君の輸送に関しても同じ事じゃないか?調印式当日に大規模テロが発生し、それの鎮圧の為に〝偶然〟調印式を見に来ていたミレニアム生が〝偶然〟トラックで輸送中だった戦闘兵器に乗り込んで〝偶然〟持っていた操作技術を駆使して戦う……可笑しいところだらけじゃないか」
「ええ、そうね……そんな事実が明るみになれば間違いなく疑いの目はミレニアムにも向けられるでしょうね……けど、何も対策していない訳じゃないわ」
調月さんが一枚の紙を白石さんに見せる
〝特殊車両通行申請書〟と書かれたそれにはトリニティの押印があった
日付を確認してみると二ヶ月前から既に許可を得ており、会社欄のところには何度かテレビや街の広告等で聞いた事のある土木会社の名前が記されている
「……なるほど?工事依頼があれば調印式当日トリニティにミレニアム生が居ても違和感はないと……だが、それは土木会社が申請した物だろう?その会社の人間が疑われなかったからといって君達まで疑われない理由にはならないはずだ」
「何を言っているのかしら、私達はこの会社の派遣バイトよ?」
「……は?」
「当日は私達もこの会社の人達と一緒に働くわ」
────懐かしいっすねー、またあの作業着を着ることになるなんて
「ええ……それにしてもツルハシで土を掘るなんて古典的な手段ばかり使っていたあの会社もここまで成長するなんてね……」
「……待て待て、話が飲み込めないぞ」
調月さんと一緒に昔の思い出に浸っていると白石さんが困惑しながら尋ねてきた
────あれは調月さんがまだ一年生だった頃の話……出会いは俺の〝一緒にキヴォトスを救ってください〟の一言で……
「貴女に教える必要はないわ」
白石さんに事情を説明しようとしたら過去編キャンセルされた
そんな事ある?アニメや漫画だと過去編って結構重要な気が……そういやこの前自分で過去編キャンセルした気がするわ
「そうね、でも最低限の説明はしてあげる……といっても、昔お世話になった会社がトリニティで道路整備の仕事をしようとしていたから私達も恩を返そうとしただけよ」
「……本当にただの恩返しなのかい?」
「ええ、ただの恩返しよ……まあ、協力してくれたらミレニアムの技術を使った最新型の掘削機をプレゼントするって話をしたような気はするけど」
賄賂じゃないです、個人的に社長さんにプレゼントするだけなので賄賂じゃないです
「……機体に関してはどう説明するんだい?明らかに特殊車両扱いでは済まないと思うけど?」
「あれは地面に強く打ち付けられた杭や木の根を無理矢理掘り出す為に使用するわ、つまりユンボよ」
「ユンボ……」
────ユンボなんだ……
「ええ、ユンボよ」
アバンギャルド君にも手はついてるから掘削作業はできる……よし!ユンボだな!
キヴォトスでは自衛の為に銃を持ち歩くことだって普通にあるし余計な武装が付いていても問題ないな!
これはユンボだ……誰が何を言おうとユンボなんだ……!
「……なんて、ここまで色々説明したけど正直なところ完璧な偽装は不可能だと思っているわ」
────えっ
「怪しいには怪しいけど思いっきり詰め寄ることはできない……最低限、その程度の言い訳を用意できればそれで良いのよ」
……まあ、多少学園間の関係がぎこちなくなる程度なら問題はないか
ミレニアムってゲヘナトリニティみたいに険悪な関係って訳じゃないけど特別仲良しって訳でもないし
「とにかく、段取りは既に決めてあるしもう準備も終えているから……計画当日での作戦変更や人数変更は不可能よ」
「ふむ……それなら私は個人的にトリニティに遊びに行こうかな?まあ、そこで事件なんか起きたら〝うっかり〟巻き込まれてしまうかもしれないが……」
暗に〝退くつもりはない〟と伝える白石さん、確かに個人の行動を縛る権利は俺達には無いけど……かといってこのまま巻き込むのも気が引ける
スクルドまで作ってもらっておきながら戦闘にまで駆り出すのは流石に……ねえ?
「それに……これは悪い話ばかりではないと思うよ?例えば戦闘中に君達が使用する機体が壊れるような事態に陥ったとしよう、だが私ならそれを最低限自衛はできる程度には直すことができるだろう」
「だとしても駄目よ、許可できないわ」
「……今日はいつも以上に融通が利かないな」
「……そういう貴女もいつも以上に我儘ね、武器の名付けは許してあげたのだから今日ぐらいは我慢してちょうだい」
その言葉を聞いた瞬間、白石さんの肩がピクリと揺れる
そして次の瞬間、何か納得したように手を叩いた
「会長、もしかして……貴女は私が勝手に武器に名前を付けたことに嫉妬しているのかい?」
────え?そうだったんですか?
「……それは関係ないわ」
「ああ、確かにそうだね……正しくは〝私と酒泉で名前を付けた事〟に嫉妬しているのかな?」
────あ、調月さんも一緒に名前考えたかったんですね
「……元々あの武器は私と酒泉で名前を────」
調月さんが何か喋っている途中にトラックからクラクションの音が鳴った
それを鳴らした張本人である飛鳥馬さんは無表情に……無表情か?無表情……だよな?………いや、よく見たらこの人もむすっとしてるわ
「私を無視して話を進めている皆様の邪魔をしてしまい申し訳ございません、ですが……時間的にそろそろトリニティに向かうべきかと」
飛鳥馬さんは最初の〝私を無視して〟の部分だけ強調して発する、それが理由かい
しかし飛鳥馬さんの言う事も正しい、現地に着いた後も正確な地形の把握や戦闘準備等やるべき事が幾つか残っているのだから
「さて、時間は無いみたいだけど……どうする?ここでずっと私と問答を続けるかい?」
「……はぁ……分かったわ。ウタハ、貴女の同行を認めましょう。その代わり戦闘時は私の指示に従ってもらうわよ」
「勿論さ、最低限その程度の礼節は弁えているよ」
「だったら日頃から失敗したら爆発するような実験を控える常識も弁えてちょうだい」
「彼のお陰で最近は大人しいだろう?」
「彼の時間を奪わないで」
「貴女の場合は〝彼の時間〟じゃなくて〝彼との時間〟の間違いだろう?」
「……」
「……」
どうして決戦前からピリピリしているのだろうか
飛鳥馬さんあれ何とかしてくださいという思いを込めて視線を送ってみる、あいつ俺が用意したカロリーメ○ト食ってね?しかも俺がさっき自販機で買って助手席に置いといたコーラまで飲んでね?
それさっき口付けたばっかだしまだ半分も飲んでないんだけど……
「……?どうはひまひたか?」
────……さっきまで存在忘れられてたの怒ってる?
「……んぐぐぐぐぐ」
全部飲み干された、解せぬ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
────……あの、風紀委員さん?ハンカチ落としましたよ?
「え?……いや、それ私のハンカチじゃないですけど……」
────え?そうなんですか?おっかしいなぁ……落としたように見えたんだけどなぁ……
「多分、他の人のじゃないですか?」
「……あの」
トリニティ総合学園付近にて
俺が調印式の為にやってきたゲヘナの風紀委員と話しているとトリニティの制服に身を包んで帽子を被っている金髪の少女が近づいてくる
すると、俺が持っているハンカチに視線を向けて遠慮がちに話しかけてきた
「すみません、それ落としたの……わ、私なんです」
────……あ、そうだったんですね……
「丁度タイミングよく持ち主さんが来たみたいですね」
────ええ……すいません、勘違いでお忙しい中時間を奪ってしまって……
「いえいえ、見つかったのなら良かったです」
最後にもう一度〝すいません〟と軽く謝罪してからハンカチを本来の持ち主の少女に手渡す……直前、ハンカチの下から親指で丸い小型の機械を弾いてそれをゲヘナ学園の風紀委員の一人にぶつける
その丸い小型機械は風紀委員の制服にぶつかった瞬間、目前まで近づけないと見えないくらい小さい吸盤を機械の中央から射出して風紀委員の制服にピタリと密着する
それを確認すると、俺と金髪の少女は目を合わせてから各々別の場所に去っていった
……さて
『上手くいきましたか?』
────ええ、タイミングバッチリでしたよ……飛鳥馬さん
『当然です、この程度の仕事でしたら造作もありません』
飛鳥馬さんのドヤ顔ダブルピースが無線機越しに伝わってくる
……さっきの小型機械、実は盗聴機なんだよね
あの子には申し訳ないけど少しでも風紀委員の行動を探る為に利用させてもらった
因みにこの盗聴機、元々吸盤を射出する機能なんてなかった……が、エンジニア部が何とかしてくれました。ジェバンニかな?
あ、それと元となる盗聴機を用意してくれた人は……言うまでもないか、ミレニアムで盗聴に精通してる人なんて限られてるもんな
……にしても
────いやぁ……こういうのってスパイみたいでなんかカッコいいなぁ……
『褒めたところで何も差し上げませんよ、精々貴方の部屋を掃除して食事とお風呂の準備をして明日のゴミ捨てを代わりに行う程度です』
────別に飛鳥馬さん本人を褒めた訳じゃ……てかめっちゃやってくれるじゃん、めっちゃ喜んでるじゃん
『安心してください、私はできるメイドですのでベッドの下や棚裏などは敢えて掃除しませんので』
────……え?
『なんて、冗談で────』
────ななななななっ!?なんでアンタがそれ知ってんだよぉ!?
『…………』
有り得ない……あれを知ってるのは俺だけのはず……!
確かに飛鳥馬さんも調月さんと一緒に自宅に上げたことはあるけど、それを探られた気配なんて微塵も感じたことないぞ!?
一体どのタイミングで────っ!?
「きゃっ……」
────っとお……!
「委員長!?大丈夫ですか!?」
「うん、平気」
焦りながらそんな事を考えていたせいか、曲がり角から近づいてくる人の気配に気づかずそこを曲がってきた人とぶつかってしまう
相手は幼い少女だったが、その子に付き添っていたもう一人の女性が少女を気遣いながら俺を睨んできた
「ちょっと!どこを見て歩いてるんですか!委員長が怪我したらどう責任を取るおつもりですか!?」
────す、すいませ……ん……?
「ボーっとしてないで何か言ったら……」
「アコ、私は本当に平気だから。それに……こっちも曲がり角をいきなり曲がるなんて不注意だったし」
そう言いながら少女をぽんぽんと服とスカートについた汚れを払って立ち上がると、今度は俺に手を差し伸べてきた
「大丈夫?怪我はない?」
────……
「……どうしたの?もしかして……どこか痛むの?」
────……あ、いえ……大丈夫です。それより俺の方こそすいませんでした……怪我とかはしてませんか?
「大丈夫よ、こう見えても身体は丈夫だから」
少女の手を借りて立ち上がると、その少女は俺の身体をジっと見つめてきた
────あの、何か?
「……あ、ごめんなさい。キヴォトスで男子生徒を見るのは初めてだったからつい……」
────は、はぁ……そうですか……
「……委員長?そろそろ……」
「うん、分かってる……ごめんなさい、本当はもっとちゃんと謝罪するべきなんだろうけど今は時間が……」
────……い、いや!大丈夫です!俺の不注意が原因ですから本当に気にしないでください!
それだけ伝えると少女はこの場を立ち去ろうと足を進める
俺も特にそれを見送ることもなく角を曲がった先の小道を真っ直ぐ進んでいく
『……酒泉?何か問題でも発生しましたか?』
────いや、何でも……それより俺は指定ポイントに向かうからアバンギャルド君をトラックから出して待っててくれ
『はい、お任せください』
────……一応言っておくけどアバンギャルド君にはちゃんとブルーシートを掛けておくんだぞ?
『分かってます、これはダサ……かっこわる……目立ちやすいですからね、人目の少ない場所でも念のため隠しておきます』