カッチョイイ武装にポンコツフェイス、戦え僕らのライジングアバンギャルド君
……うーん……コイツに命を預けるのかぁ……
あ、どうも折川酒泉です。俺は現在トリニティ付近のデパートの屋上駐車場で待機中です
飛鳥馬さんが駐めておいてくれたトラックの付近は工事現場の様に偽装されており、その前にはヘルメットを被った作業員が〝申し訳ございません〟と謝罪している絵が描かれた看板が立て掛けられている
他にも赤いカラーコーンや黄色と黒のバリケード等の〝それっぽい物〟が〝それっぽい配置〟で置かれている
……この偽装は飛鳥馬さんがやってくれたのだろうが、この場に居ないということは向こうも既に自分の担当ポイントまで辿り着いたのだろう
因みにアバンギャルド君は他の工事道具と一緒にブルーシートを掛けられております
────さてさて、巡航ミサイルはいつ飛んで来るのやら……ん?
ズボンのポケットから振動を感じ、その中に入っていたスマホを取り出す
ついに調月さんから作戦開始の合図が来たかと思ったが、確かそれは無線機で行うって事前に言ってたので恐らく別の人物からだろう
さてさて、一体誰から……早瀬さん?
────もしもーし、どうかしましたかー?
『……あっ……えっと、酒泉君……よね?』
────はい、そうですけど……何か御用ですか?
自分から掛けてきたのにどこか心配そうに尋ねてくる早瀬さん、その声色に違和感を覚えながらもとりあえず要件を聞いてみる
『……酒泉君、確か来週の月曜日は数学のテストがあるのよね?』
────ええ、一年生全員あるみたいですけど……それが何か?
『その……私、今日は特に予定もないしいつもの勉強会をやるついでにテスト範囲の勉強も教えてあげようと思ってるんだけど……どう?』
────……ああー……それは……
『……もしかして予定とかあった?』
正直、早瀬さんとの勉強会はとても有意義なものだし是非とも教えを乞いたい
だけど今日ばかりは途中で作戦をすっぽかす訳にはいかない……ので、非常に申し訳ないが断る事にしよう
────……はい、実は知人と出掛ける約束をしてまして……
『そ、そう……それなら仕方ないわね……ちなみにその知人っていうのは……女の子?』
女の子どころか貴女の上司です……って言うと理由を問われそうなので〝そうです〟とだけ伝えておく
しかしどうして女の子かとピンポイントで尋ねてきたのだろうか、ミレニアムで生活してると女の子以外の生徒に出会す機会なんてあまりないのにな……
『その女の子はゲーム開発部の誰か?それともウタハ先輩?それともヴェリタスの……』
────あ……えっと……その誰でもないです、多分早瀬さんも知らない人なんで
『……今、一瞬言い淀んだわよね?』
俺達の計画に当日エントリーを果たした白石さんも当然トリニティにやって来ている
ただの偶然だろうが、そんな白石さんの名前を言い当てられた事で一瞬だけ動揺が生まれてしまった
『……まさか、また誰かに引き抜かれそうになってるんじゃ……』
────いやいやいや、本当に遊びに行ってるだけですって。それに俺は他の部に勧誘されたとしても絶対にセミナーを離れるつもりはありませんから……面倒見ないといけない問題児もいますし
『……ああ、コユキね』
アイツの悪戯が俺に向いてる分には別に構わな……構わな……余程連続で仕掛けられたりされない限りは構わない
だが、もし俺がセミナーを辞めた後また他の人達に迷惑を掛け始めたとしたらその時は謎の罪悪感を覚えてしまいそうだ
『……そういえば酒泉、貴方も災難だったわね。コユキにあんな事されるなんて……』
────……あんな事?
ぶっちゃけ色んな悪戯されすぎてどれを指しているのか分からない
俺のスマホの待ち受け写真を勝手に黒崎の太ももに変えてセミナーの面々にあらぬ誤解を招いた事か?それとも俺の弁当を奪って運が悪い状態の黒崎が作ったであろう黒焦げおかずだらけの弁当と無理やり交換してきた事か?
『ほら、あれよ。コユキが酒泉君の家のパソコンのパスワードを勝手に自分の誕生日に変えた件よ』
────なにそれ知らん
『えっ』
────……てか、早瀬さんはどこでそれを知ったんですか?
『この前コユキが〝今日はどんなドッキリを仕掛けましょうかねー!〟って廊下で楽しそうにはしゃいでたから、それを問い詰めたら最近行った悪戯をポロポロと全部白状してくれたわよ……因みにその時はノアも居たわ』
ああ、生塩さんに釘でも刺されたのか……納得
しかしアイツ、いつの間にそんな事を……
『……というよりも、私としてはコユキが酒泉君の家に遊びに行ってた事実の方が気になるんだけど』
────……その、セミナーの仕事が忙しい時期だけは極力大人しくしてくれって頼んだら〝じゃあ代わりに酒泉さんの家で遊びますね〟って言われて……
『最初からそれが目的じゃ……いえ、この話もコユキから直接聞かせてもらうわ』
俺の家ならば暴れていいとでも思っているのだろうか、オモチャじゃないんだぞ!
……あ、そうだ。帰ったらパスワードも元に戻しておかないとな
別に俺しか使うことのないパソコンだしパスワードを掛ける意味はあまりないが……あの中には調印式当日の計画が記されたフォルダもあるし念には念を入れておこう
……そういや黒崎が俺のパソコン弄ったのってパスワードを変える為だけだよな?そのついでに俺の弱点を探ろうと中のデータまでコピーされていたりしてないよな?
まあ……流石に考えすぎか、いくらアイツでも勝手に人の機密データを抜き取るような倫理観は……余裕でしてるわ、金を抜き取る奴がデータを抜き取らないとは思えないわ
……でも、計画当日まで何も言ってこなかったって事は普通にデータをスルーしてるって事だよな……つまりバレてないな!よし!
『じゃあ、とにかく酒泉君は今日は会えないってことなのね?』
────はい……勉強会はまた別の日にお願いしてもいいですか?
『勿論よ……でも、私と会ってない時でもしっかり勉強しておくのよ?』
────了解っす
さて、会話はこれで終えて……あ、そうだ
────早瀬さん、早瀬さんって確か来週の木曜日はシャーレの当番でしたよね?
『……?うん、そうだけど……それが?』
────俺、先生のこと絶対に帰すんで……早瀬さんも頑張ってくださいね!
『えっ?頑張るって何を────』
具体的に伝えてしまうのは野暮な気がするのでここで通話を切っておく
先生のことは絶対に五体満足の状態で生かして帰すので、これからも是非お時間を頂き続けてください
先生は守る、早瀬さんも先生とくっつける、両方やらなくっちゃあならないってのが転生者の辛いところだな
覚悟はいいか?俺はできて……駄目だ〝覚悟〟って言葉が出てきた瞬間別の光景を思い浮かべてしまった
『……酒泉、聞こえるかしら』
そんな下らないことを考えていると今度はコール音も何も鳴らず突然女性の声が聞こえてきた
発信源はさっきと違ってスマホからではなく俺が胸ポケットに引っかけている無線機から……つまり調月さんからの連絡だ
『空崎ヒナと先生が乗った車が動き始めたわ……そろそろミッションスタートよ』
────……了解です、狙撃地点は……
『変更無し、当初の予定通り先生達の上空を警戒し続けなさい』
先生を狙うなら当然その付近に巡航ミサイルが飛んでくる、なら俺達は最初から先生達の上空をマークしていればいい
……だが、それが意味するのは他の場所の被害には目を瞑るというのと同義でもある
『……酒泉、貴方は他の人達を見捨てた訳じゃないわ……むしろ全員を、キヴォトスそのものを救う為にこの時点で助けるべき人を選んだだけよ』
────……まだ何も言ってませんけど
『……貴方が何を考えているのか予想してみただけよ、間違っていたのなら気にしないでちょうだい』
────……いえ、助かりました。ちょっとだけ心が軽くなりました
『……あまり気負いすぎないでね』
全員無傷で戦いを終わらせることは不可能、だけど可能な限り被害を減らすことはできる
計画はこうだ、まずは巡航ミサイルを撃ち落とすことによって戦力的にも指揮系統的にも重要な空崎ヒナと剣先ツルギ、そしてシャーレの先生を守る
ただ、防げるのはその一発だけだから他の場所の被害は諦めてさっさと敵を殲滅する動きへシフトする
その際、相手は誰でもいいからアリウススクワッドと鉢合わせることができれば敵の主戦力の足止めにもなる
あとは万全の状態の空崎ヒナと剣先ツルギと先生がアリウスもユスティナもヒエロニムスもなんとかしてゲームセットだ
エデン条約の乗っ取りは原作でも先生が独自解釈で乗っ取り返ししてたし普通に思い付いてくれるだろう
『……ところで酒泉、あの飛行船だけど……』
────ああ、羽沼マコトが乗ってるやつですね。あれは無視でいいです
『そうね、戦闘の邪魔にならない場所に落下してくれると嬉しいのだけど……』
因みに羽沼マコトに関しては完全にスルーします、自業自得だ諦めろ
『……っ、酒泉。たった今トリニティ上空から熱源の反応を検知したわ……そろそろよ』
────そうですか……流石はミレニアム製の探知機ですね
『逆よ、ミレニアムの技術で開発した探知機でさえもトリニティの上空にミサイルが出現するまで気づけなかったのよ』
────……そりゃ本来の歴史であんな多大な被害を及ぼすわけだ
『未来の知識が無ければ間違いなく対処できなかったわ……これがアリウスの巡航ミサイル、恐ろしい兵器ね』
こうして会話を続けている間にも巡航ミサイルは迫ってきている……が、此方も既に迎撃準備を開始している
アバンギャルド君に搭乗してメインシステムを起動させ、機体の手でスクルドを持ち上げてそのまま構える
『……幸運を祈るわ』
俺を集中させる為に気を利かせてくれたのか、調月さんは一言声を掛けてから通信を切った
そして何も聞こえなくなった屋上駐車場────否、微かにだが空から音が聞こえてくる
〝微かに〟と言っても、ほんの少しでも聞こえる距離まで迫っているのなら着弾は目前、恐らく数十秒以内に巡航ミサイルが降って……なんて考えていたらもう先端が見えてきた
────予想以上に早いな……っ!
呼吸を止めて極限まで意識を集中させ、飛来する巡航ミサイルにスクルドの照準を合わせる
……一発だ、たった一発を外しただけでこの世界は一気にバッドエンドに近づいてしまう
────全く……本当にギリギリだな、この世界は
勝手に背負って何文句言ってんだとも思うが、この日の為にずっと頑張ってきたんだし愚痴一つぐらいは吐かせてほしい
……って言おうとしたけど巡航ミサイルの落下速度的にそんな暇は無さそうだ
────……よう、お前ら満足か?こんなまともに青春も送れない世界で……俺は嫌だね
不安はある、だけど震えはない
これ以上に無いほどベストコンディションだ
────だからさ……
目標は巡航ミサイル、バッドエンドを生み出す可能性のあるクソッタレな兵器だ
スクルドのトリガーに機体の指を掛け、さっきまで止めていた息を吐き出す
〝あ、ここだ〟……本能でそう感じた瞬間、機体の指を曲げてトリガーを押す
────狙い撃つぜッ!!!
次の瞬間、スクルドから放たれた反撃の狼煙が巡航ミサイルを貫いた
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「あれー?おっかしいなー……酒泉さん、いつもならこの時間には学習室にいるのになー」
「せっかく葉が一枚千切れてる四つ葉のクローバーを発見したからプレゼントしてあげようと思ってたのに……」
「なんちゃって!これじゃ三つ葉と殆ど変わらないですね!にはははは!」
「……」
「うーん、暇だなー……暇だしモモトークでスタンプ爆撃でも……いえ、これは前にやったら一週間はモモトークブロックされたのでやめておきましょう」
「……今から呼び出しちゃいましょっかね?スマホスマホーっと……ん?鞄の中に何か……USBメモリ?」
「これは……なんでしたっけ……あっ!そうだ!確か酒泉さんの弱味を握る為に酒泉さんの御自宅のパソコンからデータを抜き取った時のやつでした!」
「いやー色んな事をやらかしすぎてつい存在を忘れていましたね……」
「……」
「……学習室に置かれているこのパソコン、勉強以外には利用できないように制限が掛けられていますけど……まあ、私にとってはその程度の制限を解除する事などお茶の子さいさいですね!」
「今日は酒泉さんのあんな秘密やこんな秘密を眺めながら時間でも潰そーっと」
「まずはこの〝酒泉コレクション〟って名前のフォルダから……ん?」
「フォルダの中にフォルダ……そのフォルダにもまたフォルダ?そのフォルダの中のフォルダの中のフォルダにもまたまた……しかも全部丁寧にパスワードが掛けられてる」
「……まあ!全部解きましたけどー!」
「さてさて、酒泉さんは一体何を隠して────」
「……〝ルート分岐条件とキヴォトス終焉シナリオについて〟?なんですかこれ?ゲームか何か話ですか?」
「アリウス?王女?プレナパテス?……なんかファイルがごちゃごちゃしてますね……」
「……ん?このファイルだけ最近更新された後が……」
「……巡航ミサイル?なにこれ?」