「……馬鹿な」
錠前サオリのその一言は計画が狂った事を察するのに十分だった
巡航ミサイルやそれに混ぜた通常のミサイルは当初の予定通り殆どトリニティに着弾させる事に成功した……が、その〝殆ど〟に含まれなかった巡航ミサイルが問題だった
それは空崎ヒナやシャーレの先生を戦闘不能に陥らせる為の重要な一発、それだけがピンポイントで撃ち抜かれたのだった
『リ、リーダー?どうします?計画は中止にしますか?逃げちゃいますか?』
『勝手に逃げたらマダムが何をしてくるか分からないでしょ……どの道進む以外の選択肢は無いと思うけど』
「……ミサキの言う通りだ、幸いにもユスティナのコントロールだけは奪う事ができた。この数の有利を活かして計画を成功させるぞ」
『……と言うと?』
「全ての部隊の侵攻を一旦遅らせる、先にユスティナ達を送り込んで敵の戦力を少しでも削いでから私達も突入するぞ」
『減っても幾らでも替えの利く駒から先に消費しようって事ね……了解、じゃあ私は姫を迎えに行くから』
「ああ、頼んだ……ヒヨリ、お前も今のうちに退避しておけ。そのルートは元々空崎ヒナが通る予定だった場所だ、万全の状態の奴が相手では流石に分が悪い」
『ひぃぃぃ……見つかったら痛い目に遭うどころじゃ済みませんよね……』
ヒヨリと呼ばれた少女の怯える声を最後に通信機を切るサオリ
計画が狂っても即座に対応できる辺り流石は精鋭部隊の隊長と言うべきか、しかし内心では確かな焦りが未だ残っていた
(何故ピンポイントで空崎ヒナやシャーレの先生だけを守った……?計画が漏れてるのなら全てのミサイルを撃ち抜かれていてもおかしくないはず……敵はどこまで情報を握っている?)
幾ら考えても分かるはずがない
〝未来の事を知っているミレニアムの生徒がコッソリこの戦いに参戦してました〟なんて、何の事前情報も無しに辿り着ける筈がないのだから
「……まあいい、奇襲自体は成功した。手数は此方の方が上だ」
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「だ、駄目!撃ってもまた同じのが……!」
「そんな……攻撃自体は通っているのに────きゃっ!?」
幾ら撃っても数が減らないユスティナに絶望する正義実現委員会の生徒、彼女達の制服が既にボロボロなのは間違いなく巡航ミサイルの被害を受けたからだろう
突然のテロ攻撃や怪我の痛みによって集中力が落ちた彼女達は自分達の真後ろの気配に気づく事ができず、突然感じた背中の痛みによって倒れ伏す
「……このエリアも間も無く制圧完了だな」
「Cチームの方が苦戦している、ここを制圧したらそちらの援護に向かうぞ」
「……ぁ」
そのまま正義実現委員会の生徒に近づいたアリウスの生徒は冷たい眼差しで見下しながらその場を離れようとする
トドメはそこに立っている過去の亡霊────ユスティナ聖徒会が刺してくれるだろう、そう判断して
ゆらゆらと近づくユスティナ、彼女達が一歩一歩近づく度に辛うじて意識を保っていた一人の正義実現委員会の生徒は己の中の恐怖心が強まり、無意識の内に口からか細い声が漏れ出てしまう
銃口を向けられた瞬間に〝ひっ〟と短く小さく悲鳴を上げ、ユスティナがトリガーに指を掛ける
《ユスティナァ!お前らは死んだんだぞ!?駄目じゃないか!死んだ奴が出てきちゃあ!》
「……え?」
「────っ!?誰だ!?」
だが、ユスティナは突如上空から落下してきた機体の武装に撃ち抜かれてその身体を消滅させた
その機体は地面に着地すると同時にキャタピラでぎゃりぎゃりと音を鳴らしながらドリフトによって体勢を立て直す
《────死んでなきゃあああああ!!!》
そして機体の両手を操作して武器のトリガーを引かせる酒泉、次の瞬間にはまた複数のユスティナが消滅していた
突然の乱入者に驚くアリウスの生徒達だが、流石は地獄の様な環境で鍛え上げられただけあってすぐに平常心を取り戻す
「落ち着け!我々の計画は巡航ミサイルで想定通りの戦果を上げられなかった時点で既に失敗している!今更想定外の事態に驚くな!」
「射撃を下部の装甲に集中させろ!先ずは機動力を────」
《アリウスの捕虜なんかいるかよ!》
「───っ!?」
機体の武装がぐるん!と向けられたかと思えば、即座に一斉射撃がアリウスの生徒達に襲い掛かる
一発一発の火力が通常の火器を越えているその弾は瞬く間に敵の意識を刈り取っていく
「こいつ……火力も装甲もどちらも並外れているぞ!?」
「トリニティはこんな兵器を用意していたのか!?今すぐ他の部隊にも報せろ!」
その圧倒的な性能に為す術なく、出来る事といえば精々仲間達への報告ぐらいか
しかし、アリウスにも大きな武器があるそれは────
「…………」
《……あん?なんだ、ユスティナか》
────ユスティナ聖徒会という、人間兵器
嘗ての信念も誇りも何もかもを忘れ、無限に沸き続ける実質不死身の軍団としてアリウスに利用される彼女達だ
撃てば弾は尽きる、動けばエネルギーは尽きる……それは当然、機械にも言える話だ
もしこの機体がユスティナの相手をし続けた場合、いずれ〝その時〟が訪れるだろう
《ったく……ヅダじゃねえんだから大人しくゴーストファイターのままでいてくれよ────な!》
それを知っていても尚、その機体の搭乗者は攻撃を行おうとする
突如、機体の右手の間接部分が開き、そこから細長い砲口が出現する
《くらえぃ!トリモチランチャー!》
そして右手をユスティナの軍団に向けてそのまま砲口から一発の弾を射出した
その弾はユスティナに着弾────する前に空中で弾け、中から白い物体が飛び出すと同時にユスティナの頭上から振り掛かった
「………!?」
《俺が何の対策も無しに挑むとでも?》
その白い物体は強力な粘着性を有しており、そのネバつきはユスティナの動きを封じるのに十分すぎる程だった
「事前に対策していただと!?一体どこから情報が……!」
《このライジングアバンギャルド君凄いよぉ!流石イモータルアバンギャルド君のお兄さん!》
「くそっ……喧しい奴め……!」
先程からずっと狂った様に叫び続ける操縦者に苛ついたのか、一人のアリウス生が機体を睨みながら悪態を吐く
しかしその一方で操縦者側の勢いは益々ヒートアップしていく
《今の俺は阿修羅すら凌駕する存在だぞ!》
「っ、確かに機体性能は凄まじい……だが───」
一人のアリウス生が敵の脚部を注視しながら動きを止める
(狙いはあの機械が移動する瞬間────脚部がキャタピラ式である以上、左右に動こうとすれば間違いなくそこに隙が生まれる!)
もし機体の脚部が人間と同じ二足歩行型だったら隙など全く生まれなかっただろう。理由は単純、上下左右に自由に動けるからだ
だが、その機体の足はキャタピラ……つまり真横への移動だけはスムーズに行う事ができない、アリウスの生徒はその時の隙を狙うつもりだった
(まだだ……まだ……今っ!)
結論から言うとアリウス生はその賭けには勝った
機体は横に居る敵を倒す為に横に移動しようとキャタピラを動かす────その瞬間、アリウス生の持つアサルトライフルから複数発の弾が射出された
(この程度じゃダメージにもならないのは分かっている……だが、これを何度も繰り返せば────)
いつかは倒せるはず
そんな希望を抱いた矢先、突如機体のキャタピラに変化が生じる
キャタピラの向きが縦になり、二つに別れ、タイヤ部分が収納されたかと思えば元々中に隠されていたであろう二本の棒が飛び出してくる
更に、機体のキャタピラが二つに別れた事によってアリウス生の放った弾丸はそのまま間をすり抜けて外れていった
「……は?」
《ところがギッチョン!実は可変機なんだよな、これ》
その両の足を地につけて堂々と佇むその姿は、まるで人間と同じだった
〝虚しい〟という言葉がピッタリな環境で育ってきたアリウスの生徒達は分からないだろうが、その機体は一般人が見ればアニメや漫画に登場するロボットを想起する様な容姿をしていた
《ぼーっとしてていいのか?》
「───っ!?」
《おらぁ!ビルドアバンギャルドナックルゥ!》
「かはっ……!?」
唖然と佇むアリウス生の前まで一気に接近し、その手を振るうロボット
武器を収納してからの拳による直接攻撃は流石に想定していなかったのか、アリウス生は無防備な状態で食らってしまう
「ぐ……ぅ……こ、こんなふざけた機械ごときが……!」
《ガンプラは自由だぁ!!!》
力の差を見せつけられたアリウスの生徒達は心こそ折られてはいないものの、精神的には間違いなく追い詰められていた
それもそのはず、計画に無いイレギュラーな事態に正体不明の妨害者の乱入
更には弱点があるかと思いきや全く本気を出していなかった謎の戦闘ロボット、流石のアリウス生達もハッキリと焦りを顔に出した
……尤も、本気を出していないとは言ってもロボット側の方は手加減をしていた訳ではないが
(人型モードになるとめちゃくちゃエネルギー食われるんだよなぁ……操縦も難しくなるし)
故に、機体の操縦者───折川酒泉は局所的に機体を変形させる事を選んだ
仮にフルパワーでその機体を使う時があるとしたら、その時は────
(アリウススクワッド全員かヒエロニムス単体……どっちかを相手している時だろうな)
空崎ヒナは無傷、シャーレの先生も当然無事
これらの大幅な原作改編によってどこまで戦況が好転するか、全てはそこに掛かっている
《……本当は調月さんに戦況を聞きたいところだけど……まずは雑魚から散らすとしますかねぇ!》
機体内部のモニターに複数の生体反応が表示される
ターゲットはアリウス生、ユスティナは敢えて無視して拘束したままに
《悪いがステラのとこに行ってもらうぞ!……原作では言ってないけど》
その言葉と同時に機体の背が開き、そこから十発のミサイルが射出された
ミサイルは一度空中に打ち上げられた後、先程ロックした対象達に向かって急降下していく
「総員!回避を────」
《逃がすかよ!》
回避行動を取ろうとするアリウスの生徒達にトリモチが射出される
……ただし、今度はユスティナの時と違って動きを封じる為ではなく確実に仕留める為に
トリモチによって地面に押さえつけられたアリウス生は悲鳴を上げる暇すらなく、そのままミサイルの餌食となった
《アリウスは全員倒れてるな、ユスティナは……念の為もう一度トリモチ掛けておくか、それと足も戻さないと……》
再びユスティナの動きを封じた直後、機体の脚部が二足歩行からキャタピラに変形する
そのままキュラキュラと音を立てながら他の戦場に向かう機体、それを見送る正義実現委員会の生徒は自身の命が助かった事に安堵しながらも────
(か……顔がダサい……!)
ハッキリと製作者のセンスの無さを感じ取った