飛鳥馬トキの駆る機体────イモータルアバンギャルド君はライジングアバンギャルド君と比べて武装がシンプルだ
兄弟機と同様に人型に変形できる機構はあるものの、それ以外はシンプルな盾にシンプルな銃、そしてシンプルな装甲
少なくとも全身からサーベルが飛び出してくる様なビックリシステムは仕込まれていない
堅実に戦い、堅実に敵を倒す為のシンプルな武装
「くそっ!コイツ、硬いぞ!?」
「本体は無理だ!武装を狙え!」
故に、強力
特殊な状況下でも想定通りのパフォーマンスを発揮する兵器というのはそれだけで脅威となる
だが、どんな状況でも機能に変化が無いということは同時にデメリットにもなり得る
(……想定以上に数が多いですね)
例えば今回の様に大量の敵に囲まれている状況
このまま戦い続ければ間違いなくトキの駆る機体が勝利するだろう……が、逆に設定された以上のスペックを発揮させて一気に敵を殲滅するという行動に出ることも不可能だ
良くも悪くもバランスの整った機体、それは攻撃面に隙がなければ飛び抜けて優れている訳でもないという事だった
事実、敵戦力の殲滅を目的としたシミュレーションで酒泉の駆るライジングアバンギャルド君とスコアを競いあった際は負け越すことが多かった
……と、こんな説明をされると誤解してしまうかもしれないが、別にイモータルアバンギャルド君はライジングアバンギャルド君に劣っている訳ではない
イモータルアバンギャルド君は明らかに長時間戦闘を意識して作られた堅牢な機体、その点に置いては間違いなくライジングアバンギャルド君を上回っているのだから
(……そうです、だからこれは私が弱いわけではありません)
ところで、話は全く関係ないものへと変わるが飛鳥馬トキという少女は表情の起伏が少ない
かといって別に感情が無い訳ではなく、心の中ではしっかりと喜んでいたり怒っていたりしている
(……ですから、酒泉とのスコア勝負の結果も私が実力で負けていた訳ではありません)
ともなれば、当然〝悔しい〟という感情も存在している訳で
(あれはイモータルアバンギャルド君だから負けたんです、私がライジングアバンギャルド君に乗っていたらあんなシミュレーション……)
……なんてことを、考えていてもおかしくはないだろう
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『酒泉、そろそろトリモチの量が少なくなってきたみたいだね?ここは一度退いて私の元に来るといい、機体整備のついでに弾薬の補充もしてあげよう』
『勝手に彼に命令を出さないでちょうだい、現場での判断は私が行うわ』
『君だって元より一旦彼を呼び戻すつもりだっただろう?』
『だとしてもその命令は私が直接出すわ』
両耳から美少女オペレーター達の声が聞こえてくる、これが喧嘩じゃなかったらもっと幸せだったのに
白石さんも調月さんも直ちに戦闘を中止してください!なんて、どこぞの戦争に介入してくるスーパーコーディネーターみたいな気持ちで願ってみる
『邪魔が入ってしまってごめんなさい、早速本題にはいるわ。先ずはシャーレの先生と空崎ヒナの安否だけど……こちらは無事よ、一旦態勢を建て直す為に風紀委員会と正義実現委員会の両組織が先生を守りながら後方へと退却しているわ』
『ただ、君の予想とは少々流れがずれていてね……先生の意識がハッキリと残っている影響か、戦地に残された生徒達の避難を優先しながら防衛線を下げているみたいだから、先生が確実に安全な場所に辿り着くまである程度時間は掛かりそうだね』
『……それは私が説明するつもりだったのだけど』
『おや、それは悪いことをしたね』
────あの、話の続きを……
『そうそう、それで────』
『先生達を追おうとしている敵に関してはトキが目立たない範囲で削ってくれているわ、だから追撃に関してはあまり激しくないし心配する必要はないわ』
『……今、無理に話を被せてこなかったかい?』
『気のせいよ』
どうしよう、なんかギスギスしてる気がする
ロボットアニメって定期的に戦艦内の空気がギスギスするよね、どうしてだろう?バカで役立たずのナチュラルの彼氏でも死んだのかな?
それとも上司の親友をぶっ殺した後〝仇は討ちましたよ〟とか言ってぶん殴られたのかな?
……うーん、これはちょっと状況が特殊すぎるな
『……それで、次はアリウススクワッドについてだけど……残念な事に彼女達の位置は未だ特定できていないわ』
『巡航ミサイルによる攻撃が完全には成功しなかったから慎重になっているのかもね。正直、このまま帰ってくれると助かるんだけど……』
途中で言葉を止める辺り、白石さんもそれはあり得ないと思っているのだろう
多分、アリウスはミサイルによる攻撃が成功しようと失敗しようとどの道攻めてきた筈だ……てか、ベアトリーチェが退却を許さない気がする
態々エデン条約締結のタイミングを狙ってきたのだから、計画を実行して成功させるのは今日じゃないといけないのだろう
────まあ、アリウススクワッドに関しては戦力的に追い詰めていけばそのうち嫌でも姿を現すでしょうよ
『そうね……そこまで理解しているなら深追いはしないわよね?』
────当然、目の前に本人が現れない限りは無理して探しにいくつもりはありませんよ
下手に深追いして気づいたら囲まれてましたー、なんてオチは避けたいからな
それに真正面に突っ込んで返り討ちにあって〝母さん……僕のピアノ……〟ってなるのも嫌だし、その後の回想シーンで何度も殺されるのも避けたい
イノチ、ダイジ、シュセン、カシコイ
『報告は以上よ、後は貴方とトキが私達の所まで戻ってくるのを待つだけ……恐らく、決戦はその後になるでしょうね』
────そういや、飛鳥馬さんの方にも誰かしら現れたりしてないんすか?
『ええ、アリウススクワッドもアリウスの支配者も一人も姿を確認していないわ。もし現れたとしてもすぐ貴方に救援要請を出すから心配しないで』
────了解です
『……でも、それは逆のパターンでも同じよ。貴方の所にアリウススクワッドが現れた場合でもすぐにトキに救援要請を出すから……無理して一人で倒そうとせず、防御や回避に徹してちょうだい』
少々大きめの声量で釘を刺され、それに対して一瞬戸惑いながらも再び〝了解〟と答える
ぶっちゃけこの機体があればアリウススクワッド全員が相手でも対等かそれ以上に渡り合える気もするが……それは調月さん本人にやめろと言われたし素直に従っておこう
────んじゃ、今からそっち戻るんで白石さんは機体整備の準備お願いできますか?
『勿論さ、君達の為に戦闘前と遜色無い状態まで戻してみせよう』
白石さんからの了解の返事を聞き届けると共に、機体のキャタピラをガラガラと動かして進んだ道を引き返していく
気絶しているアリウス生にトリモチの下でもがいているユスティナ、それらを見下ろしつつもスルーしていく
……いや、アリウス生の一人くらいは連れて帰るか?尋問でもすりゃ何か情報を引き出せるかもしれんし
ただ、ベアトリーチェの教育を受けたコイツらが尋問程度に屈するとも思えないが……何もしないよりはマシだろう
────そうと決まれば……
機体を動かして一人のアリウス生に近づき、そいつに機体の手を伸ばす……その前に隙を狙われたりしないか念のため周囲を見渡してみる
周囲の建物が吹き飛んだお陰……って言い方はおかしいけど、その影響で辺り一面がそこそこ見通しやすかった
敵の気配はない、隠れられる場所も限られている
これだけ視界がハッキリしていれば誰か近づいてきてもすぐに気づけ……
────……ん?隠れられる場所も限られてる?
自分で発した言葉に何故か引っ掛かる
なんだ?俺は何を疑問に感じたんだ……?確か俺が今考えてたのは〝隠れられる場所は限られてる〟って……
……限られてる?それを言うなら俺だって機体を隠せる場所が限られてるのでは?特にこんな開けた場所じゃ狙われ放題なんじゃ……
────っ!!?
すぐに機体をバックさせ、アリウス生を拾い上げるのを中断する
そしてその直後────モニターの目の前を一瞬弾が通りすぎる
恐らくスナイパーライフルかそれに近しい銃の弾であろうそれはガッ!と通常の銃から放たれたとは思えない様な大きい激突音を鳴らしながら瓦礫に激突……してそのまま貫通した
危なかった、あの一発だけじゃモニターは壊れなかっただろうが……少しでもヒビを入れられる可能性はあった
俺の腕じゃメインカメラをやられただけで一気に戦闘能力が落ちてしまう
────一体どこから……!
機体の探知システムを最長距離設定にして周囲の生命反応を探ってみる……が、何も見つからない
探知システムの範囲外からの攻撃、もしかしたら俺の戦闘を遠くから観察してどの程度の距離なら探知されないのか調べていたのかもしれない
────……まだだ!俺には自分の目がある!
機体内のモニター画面をズームにし、数百メートル先を確認してみる……駄目だ、一向に姿を現さない
……となると、危険だが〝アレ〟を試してみるしかないな
機体のハッチを開き、コックピットから立ち上がって勢いよく外に降りる
ここで慎重に降りては駄目だ、何故なら一瞬動きが遅くなるだけでも頭を撃ち抜かれる可能性があるのだから────
────っ!来たか!?
此方の予想通り、俺が地に足を着けたと同時に頭部目掛けて弾が飛んでくる
今度は機体の頭部にではない、俺の……人間の頭部に向かってだ
しかし向こうが殺すつもりで来ているのは最初から分かり切っている
即座に両足を上げ、踵だけ地に着いた状態で身体を倒す
そんな俺の目の前を弾が通過し、その際微かに髪の毛を掠めていったが……とにかく回避には成功した
……正直、チビりそうになったけど……でも、これで敵の大体の位置は把握できた!
────調月さん!白石さん!撤退は無しだ!向こうから先に仕掛けてきやがった!
即座に双眼鏡を取り出して弾が飛んできた方向に視線を向ける
残念ながら本体をハッキリと目撃することはできなかった……が、瓦礫に隠れる直前に恐らく俺を撃った狙撃手の髪の毛であろう部分はギリギリ見ることができた
あの髪色は薄緑……いや、水色か?ってことはもしかすると……なるほど、喧しそうなアイツか
『……っ、このタイミングで?』
『何か策が浮かんだのか、それとも援軍か何かで攻撃の為の戦力が整ったのか……どちらにせよ向こうも準備万端みたいだね』
……援軍?アリウスとユスティナ以外に使える戦力なんてあったか?
確かにまだヒエロニムスとかは残っているけど、それなら一応は想定の範囲内だしな……
他に考えられるのはバルバラとかアンブロジウスくらいしか……
『───酒泉!上空から熱源反応よ!』
────……っと、今は考え事をしている場合じゃないか……
即座に機体内部に戻り、ハッチを閉める
真っ先にブースターの操作を行い、出力最大で一瞬加速させると、先程まで機体が止まっていた場所にミサイルの雨が降り注いだ
……この攻撃も、どこか見覚えがある様な気がした
なるほど?確かに〝あの二人〟はそこらのアリウス生よりは腕が立つだろう
しかしそれにしたってたった二人で挑んでくるなど命知らずなのか、それとも────
────ふざけているのかあああああああッ!!!
俺を舐めているのか