純白の中心に入れられた血の様な赤い一本線、そんなデザインの装甲が酒泉の両脚を守る
更に酒泉の両腕に取り付けられた白い盾の様な装甲、左腕の装甲の先端には滑腔砲が取り付けられている
しかし右腕の装甲の先端には何も取り付けられておらず、代わりに内側に酒泉の右腕を固定して人間の筋力を補助するアームが取り付けられている
そして酒泉の右手に握られているのは───巨大なメイス
装甲の筋力補助がなければ両手で持ち上げるのがやっとであろうそれを酒泉は片手で横に振った
その際に発生した風圧により背後の爆煙が振り払われ、それによって酒泉の腰回りにセットされているひし形のブースター装置が露になる
そのブースター装置の根元からは特殊な材料で作られた超硬質ワイヤーが伸ばされており、更に先端には尻尾の様な鋭い刃がうねうねと自我を持っているかの様に動いている
そして、肝心の酒泉本人の状態はというと────全くの無傷
────……くそっ、完全に油断した……!
……とはいかなかった様だ
トキがアビ・エシュフを纏っている時の服装とは違って完全に肌を隠している長袖と長ズボンの様な漆黒のパイロットスーツは爆発の影響か若干ボロボロになっていた
────てめぇらのせいで機体が完全に崩壊だぁ!修理代のツケを払えええええ!
「っ!」
ヘイローを持たぬ人間の身体能力とは思えない程のスピードで接近し、サオリにメイスを振り下ろす酒泉
サオリがその場から飛び退いて回避すれば、メイスは元々サオリが立っていた場所に小さなクレーターを作った
「成る程、その武装が筋力を補っているのか……ならば────」
「は、はいいいぃい!」
サオリのアイコンタクトと共にヒヨリが一発の弾丸を放つ
その矛先は酒泉の額、肉体強度そのものが上がっている訳ではないと判明した為、早々に本体を潰しにきた
だが、ガキンッ!という金属音と共にアビ・エシュフのテイルブレードがヒヨリの放った弾丸を貫いた
「うぇ……?」
「……流石にただの飾りではないか───っ!」
舌打ちをするサオリに再び接近する酒泉、サオリはそれを迎撃しようとアサルトライフルを構え───その上を酒泉が軽く飛び越える
「なっ!?」
目標はサオリの後ろに立っているアツコ、だがその前に滑腔砲をアツコの隣に立つミサキに向ける
ガコン!と音が鳴ると同時に滑腔砲から弾が放たれたが、酒泉を滑腔砲の銃口を大振りでミサキに向けていた為に事前動作を予測されて簡単に回避されてしまう
だが、その大振りな動作はわざと行った───つまりはミサキに回避させる為に撃ったものだ
「……っ!」
────さっきの攻撃で戒野ミサキと槌永ヒヨリが無事だったのはアンタのバリアの仕業だな?ベアトリーチェにそのマスクの機能でも教えてもらったのか?
「姫っ!」
背後から来るサオリの援護射撃、それをアツコから距離を取りすぎない程度に回避する
────もう順番は間違えん!まずは厄介なバリアから破壊させてもらおうか!
先程の戦いの敗因は酒泉が切り札を切るタイミングと敵の優先順位を見誤っていた事だ
無理してアリウススクワッドを追った事、敵の大ボスの存在を警戒して目の前の相手に全力を出さなかった事、その他諸々の失敗が今の酒泉の気を引き締めていた
「ゴツゴツした装備なのに随分早いね……っ!」
「う、動きがまるで獣みたいです……!」
時にはブースターの補助を活かして四足のまま駆け回り、時にはその尾で周囲の瓦礫を巻いて投げつける
その様な出鱈目な戦闘方法に翻弄されるアリウススクワッドだが、戦闘経験に置いては圧倒的に彼女達の方が上だった
「……!」
アツコは自身にメイスが迫る瞬間、自ら距離を詰めて当たりにいった
そして顔面に直撃する直前、アツコを守る為のバリアがマスクから展開され、まさか自分から突撃してくるとは思っていなかった酒泉は突然の衝撃に弾き飛ばされる
「今だ、やれ」
「了解……っと」
「こ、これで倒れてくださいね?……お願いですから」
ミサキのスティンガーミサイルが空から、ヒヨリの弾丸が地上から迫り来る
弾き飛ばされた酒泉が地に足をつける頃には既に回避が間に合わない距離まで迫っていた
────メイスは!こう使うっ!
「……はぁ!?」
その行動を目の当たりにしたミサキは思わず驚愕の声を漏らす
なんと酒泉は近接武器であるメイスを空に向かって勢いよく放り投げ、空中のミサイルを迎撃した
更に地上から迫る弾丸を酒泉が目視すると、その視線の後を追うかの様にテイルブレードが追従して地面に叩き落とす
────お前達はここで終わりだ!
メイスをキャッチせずにそのまま駆け出す酒泉
警戒するべきは左腕の滑腔砲と後ろのテイルブレードのみ、そう考えていた矢先────テイルブレードが空中で落下中のメイスの持ち手を掴んだ
「嘘……っ!?」
「ミサキちゃん!?」
あの尻尾は精々貫くか叩く程度の力しか持っていない、ミサキはそう考えていた
しかし思いの外テイルブレードの力は強く、細かい制御はできないもののメイスを雑に振り回すだけなら十分だった
テイルブレードで振り回したメイスによって横に凪ぎ払われるミサキ、その威力はミサキを吹き飛ばして口から血を吐かせた
「っ、ヒヨリ!意識を逸らすな!奴の機動力なら一瞬で────」
────落ちろカトンボォ!
「へ?……きゃあっ!?」
ヒヨリの腹に殴り込む様に滑腔砲の先端が突きつけられ、密着したままの状態で弾が放たれる
その場から撥ね飛ばされる様に吹き飛んだヒヨリは数回苦しそうな呻き声を上げた後に意識を失った
────本当は秤アツコから仕留めるつもりだったが……結果オーライだな
「……姫、私の後ろに下がっていろ」
「……」
銃を構えたまま無言で下がるアツコと彼女の盾として前に立つサオリ、そんな二人を見た酒泉は眉間に皺を寄せながら不機嫌そうに呟いた
────へえ?仲間を思う気持ちはあるんだな?……虚しいだのなんだの言いながらゲヘナとトリニティを襲ってる癖に
「……黙れ、知ったような口を利くな」
────じゃあ黙らせてみろ……よっ!
メイスを再び右手に握り、テイルブレードで背後の瓦礫を投擲する酒泉
サオリはアツコを抱えてそれを回避し、着地と同時にアツコを後ろに投げ飛ばす
受け身を取って着地したアツコは何事かと驚きながらもサオリの元に戻ろうする……が、サオリの「来るな!」という叫びで足が止まる
「コイツは私が相手をする、だから……姫はヒヨリとミサキを頼む」
酒泉から意識を逸らさず何時でも迎撃できるように銃を構えるサオリ、酒泉はそんな彼女にジリジリと迫りながら挑発的な笑みを浮かべる
そして、背後でサオリを求めるかの様に一瞬だけ手を伸ばしたアツコはその手を抑え、裏でヒヨリとミサキを連れて逃げる為に駆け出した
────まさかアンタ一人で俺に勝つつもりか?いや、そもそも……俺が秤アツコやその後ろの二人を見逃すとでも?
「見逃すさ、お前がヒヨリやミサキを狙うというのなら最初から私が警戒すべき場所は分かり切っているからな」
────へえ?だったら……守ってみせろよ!
「────っ!」
酒泉はサオリに突撃し───その途中で脚を曲げて勢いよく空中へジャンプした
それはサオリにとって予想外……ではなく、一度経験した想定の範囲内の行動だった
(あんな重装備を抱えながら人一人分を軽く飛び越える跳躍ができるのは……きっと、あの背後のブースターの補助の影響もある筈だ)
先程サオリを飛び越えた時も、獣の様な素早い動きを見せた時も、その一瞬だけブースターが青い火を吹いたのをサオリは見逃さなかった
サオリは真上を通り過ぎようとする酒泉の背のブースターに銃口を向けて引き金を引く
しかし酒泉のテイルブレードが鞭の様にしなり、銃弾を弾き返す
「────っ!捕らえたぞ!」
が、テイルブレードの先端が跳躍中の酒泉の足より下に来た瞬間、サオリは片手でテイルブレードの先端を掴んだ
絶対に離すまいと強く握れば握るほど切れた手から血が流れるが、アリウスで文字通り血の滲むような訓練を受けてきたサオリにはその程度の痛みなど一瞬意識を向ける必要すら無いほどのダメージだった
────っ、邪魔を……するなっ!
「ぐっ……!?」
下から引き寄せられた酒泉はそのまま流れに身を任せてテイルブレードをサオリに向ける、酒泉はこれを回避された瞬間にブースターを加速させて無理矢理突き放そうと考えていた
だが、そんな酒泉の予想とは裏腹にサオリはテイルブレードを自らの左手で受けた
────っ、馬鹿な!?自ら受けただと!?
「っ……今だ!姫!」
サオリの言葉に無言で頷くと既にミサキとヒヨリの回収を終えていたアツコがスモークを焚き、二人を引きずりながらその姿を隠した
しかし流石のキヴォトスの生徒の身体能力でも二人を担いだ状態ではすぐには距離を離せないだろうと判断した酒泉はサオリからの攻撃を無視してでもアツコ達を追おうとする
「行かせ……ないぞ……!」
────っ、こいつ……!
「どうした!?機械の鎧を纏っていてもその程度か!?」
だが、サオリは自身の左手に刺さったテイルブレードのワイヤー部をそのまま自身の左腕に巻き付けて酒泉の身体を引っ張る
それでも完全に酒泉の動きを封じるには至らなかったものの、意識を逸らさせるには十分な行動だった
────ああ!だったらお望み通りアンタからやってやるよぉ!
「っ゛……!」
突然抵抗を止めたことによって酒泉の身体が急速にサオリの元まで引き寄せられ、強化された腕力によってサオリは地面に押し倒される
装甲によって重くなった身体で酒泉がサオリの上に馬乗りになるが、サオリはその直前に抵抗の為に辛うじて両腕だけは塞がれないように大きく水平に広げた
重量を腹に受けて嘔吐いたサオリを無視して酒泉は二つの武器を頭の上に構える
一つはメイス、もう一つは滑腔砲
酒泉はまず滑腔砲を撃つ……のではなく、それを直接サオリの顔に叩きつけようとする
「っ!?」
本来の用途とは違う攻撃方法に驚愕するものの、サオリは咄嗟に両腕をクロスしてその攻撃を防ぐ
次に酒泉は左手の滑腔砲を上げて右手のメイスを振り下ろす
「ぐぅっ……!?」
滑腔砲を受け止めた時以上の痛みがサオリの左腕を襲い、その裏で交差する様に支えている右腕にまで衝撃が伝う
そして今度は滑腔砲を、次はメイスを、滑腔砲を、メイスを、滑腔砲を
「っ!?」
右手を、左手を、右手を、左手を、右手を、左手を
「がっ!?」
叩く、叩く、叩く叩く叩く叩く────ひたすら叩き続ける
「ごほっ……!」
「づぅ……!?」
「ぉえ……」
太鼓を叩くように、交互にひたすらサオリに向かって振り下ろし続ける
サオリの両腕が真っ赤に染まり、呼吸が荒々しくなったのを感じると酒泉はすぐにサオリの上から退いてアツコ達の後を追う
────なっ……!?
だが、サオリも酒泉が退いたと同時にすぐに立ち上がって酒泉の背に飛び掛かる
酒泉は強化された腕力で咄嗟にサオリを振り払い、空中で既に防御の構えをしているサオリをメイスで凪ぎ払う
「はぁ゛……はぁ……!」
────……嘘だろ
「どうした……?私が呼吸を整えている間に追撃でも入れておいた方がいいんじゃないか?」
強がりながら睨んでくるサオリをまじまじと見つめる酒泉
左腕、負傷────メイスを直接受け止めたせいで折れているし血も流れているし間違いなくまともには機能しないだろう
左手、同じく負傷────テイルブレードに貫かれたことによって銃を握るだけでも痛みを感じるはず
右腕、軽傷────メイスを直接受け止めるのではなく左腕を支える為に使っただけだが、それでも痺れや痛みは感じる程度にダメージは受けているだろう
まだ挑んでくるのか、驚嘆する酒泉に対してサオリはニヤリと笑った
「どうだ?お前の言った通り守り切ってみせたぞ?」
優勢なのは間違いなく酒泉側、だというのにその姿に酒泉は若干の恐怖を覚えた
だが、それと同時に浮かんだのは────怒り
────そんなに仲間を守りたかったんならよぉ……どうしてもっと早く誰かに助けを求めなかったんだよぉ!?
「……っ」
横に凪ぎ払われたメイスを屈むことによって紙一重で回避したサオリ、それでも酒泉の猛攻は続く
────聖園ミカと接触できたんなら外部との繋がりを作ることだって全く不可能だった訳じゃないはずだ!それなのに何故助けを求めるよりも他者を殺すことを選んだ!?
「お前に語ることなど何も────」
────白洲アズサにはトリニティとの〝和解の象徴〟になってもらいたい程度には期待してたんだろう!?ならば聖園ミカの手を受け入れてトリニティに助けを求めるという選択肢もあったはずだ!
「っ!?何故アズサのことを……!」
自分以外知り得ないはずの情報を叫ばれた瞬間、サオリの足が一瞬だけピタリと止まり、その隙に酒泉はしっかりと軸を合わせてからメイスを両腕で振り下ろす
今度は怪我の具合がマシな右腕を前に出し、それを左腕で支えてメイスによる攻撃を受け止める……が、その一撃は比較的軽傷だったサオリの右腕を完全に重症へと追い込んだ
骨が軋み、血が流れ、脚が震える
「ぅ……ぐぅ……!ならば……私はどうすれば……良かった……!?能天気に希望を抱いて、本当に救いが待っているのかも分からない外の世界に家族を連れ出せば良かったとでも言うのか!?お前は何も理解できていない!そもそも私達にとっては〝信じられる人間〟すら存在していなかった!」
────分かってるよ!それでもアンタらは人の心の光を信じて前に進むべきだったんだ!だが、アンタらアリウスはそれすら放棄して〝虚無〟だの〝憎悪〟だのそれっぽい理由で他人を傷つける道具に徹して楽に生きようとしやがった!そう思えば楽だから!それが〝教えだから〟って!
「人の心の光だと!?笑わせるな!そんな戯れ言で人間の本質がそう簡単に変われるとでも!?」
────変わろうともしない奴が何をっ!
「ぐあっ!?」
酒泉は必死にメイスを抑えるサオリの腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばされる直前にテイルブレードのワイヤーでサオリを引き寄せてもう一度蹴り飛ばす
────テロリストってのはいつもそうだ!自分達が変わるんじゃなくて相手側を無理矢理変えさせようとしたり壊そうとして!世直しでもするつもりか!?そうすれば自分達が救われるとでも!?
「世直しだと?私はそんな事など考えてはいないさ!むしろ壊す為に戦っているのだからな!」
────そうすりゃ秤アツコが……姫が犠牲にならずに済むからか!?
「……っ、お前は一体……どこまで情報を……!」
酒泉は滑腔砲を放ち、決着をつけようとする
しかしサオリは腹部の痛みが収まっていないにも関わらずその身体に鞭を打って横に飛び退き、アサルトライフルの引き金をボロボロの右手で引いた
────ハッキリ言うぜ!誰かを犠牲にして得た幸せなんざ簡単に壊されるに決まってる!悪いことをしたら罰が下る!そんな単純な事も分からないのか!?アンタらのやってる事は正しくねえんだよ!
「なら私に教えてみろ!地獄の様なアリウスの環境を破壊する方法を!」
互いに主張を譲らない、それでも決着の刻は足音を立てて近づいてくる
────嘆くのも愚痴るのも構わねえ!でもなぁ!諦めるような言葉を吐くんなら誰かを信じて頼って!そいつに裏切られて絶望してから全部諦めやがれ!
「っ、しまっ───」
────終わりだ!
テイルブレードのワイヤーがサオリの足に引っ掛けられ、後方に倒れるようにバランスを崩す
両手を地に着けて体勢を立て直そうとするサオリだったがここに来て両腕の痛みが抑え切れなくなり、そのままサオリの身体を支えられず完全に倒れ切ってしまう
サオリは上体だけでも起こそうとするも、直後にサオリの腹部に滑腔砲が突きつけられる
────エデン条約はゲヘナとトリニティの和平を願う者達の〝祈り〟だったんだ!それをこんな多くの血が流れるような〝呪い〟に変えようとしやがって!
「……ふ、ぅ……っ!」
酒泉の腕を振り払おうと身体に力を入れたところでサオリの口からは最早か細い声しか出てこない
それでも酒泉の攻撃の意思は変わらず、容赦なくサオリの意識を刈り取ろうとする
(……すまない、皆)
自身の身体が動かないであろう事を察したサオリは数秒後に襲ってくるであろう痛みに備えて目を閉じる、アツコ達は無事に逃げ切れたかと心配しながら
……そして、アズサならばこの状況でも諦めなかったのだろうかと頭の片隅で思いながら────
この酒泉君、正義感が拗れ過ぎて変なマスク被ったライバルキャラ達みたいにならないか心配ですね