大量の不在着信を見た瞬間、体が固まる
……え?嘘だろ?俺なんかやらかした?マジでなんだ?
学校に遅刻しそうな事を忘れてしまうレベルで脳が混乱する
……そういえば先生も同じぐらい掛けてきてるけど、何か緊急事態でもあったのか?
まさか……もう色彩が来たのか!?
いや、それならもっと荒れてるはずだよな……
つーかスマホの充電めっちゃ減ってるんだけど、よく爆睡できたな俺
ジュースを全部飲み干した辺りから眠くなりだしたんだけど、そこからずっと眠っていたのか……
まあ、それは置いといて……よく分かんないけどこの場合、最初は先生に連絡返した方がいいのかな?
とりあえず今から全力ダッシュしても多分遅刻確定だろうし先生に連絡してから学校に行くか
不在着信の欄から〝先生〟の二文字をタップし、そのまま通話をかける
……今更だけどなんか怖くなってきたな
しばらくスマホを耳に当て『……酒泉……かい?』早い
えっと……おはようございます、先生
『……………』
なんか色んな人達から鬼電されてたんですけど……何かあったんですか?
『……………』
………?先生?もしもーし、聞こえますかー?
『………私は………』
あ、聞こえてた
『私は……先生失格だ……』
なんか突然落ち込みだした……
『私は……私は生徒である君に対して強い怒りと激しい憎悪を抱いてしまった……』
え?
『酒泉が皆を護る為に命懸けで未来を変えようとしていることを知っているのに……それを偽善なんていう安っぽい言葉で片付けてしまった』
『それなのに……!そんな君に罪悪感を感じるどころか、嫌悪感が強くなっていったんだっ!』
『私は君を……生徒を助けなければいけないのに……っ!』
えっと……別にそれぐらい普通じゃないですか?
『えっ………?』
要するに俺にムカついたってことでしょ?
俺だって時々ありますもん、後から思い出して「あいつ滅茶苦茶嫌な奴だったなー!」って思うこと
思い出し笑いの別バージョン的な?
『違う……違うんだ!そんな生易しいものじゃ───』
先生、寝てないでしょ
『………っ、私のことは別に───』
へー、いっつも俺に無茶するなって言うくせに先生は無茶するんだー
それじゃあこれから先、先生に何言われても従う必要ないなー
だって肝心の先生が無茶するんだもんなー、俺も無茶しまくろっと
『………すまない、少し休んでからまたかけ直すよ』
そう言うとブツリと通話が切れた
さて………
マジでなんだったんだ?
いきなり自虐し始めたと思ったらなんか俺に憎悪がなんたらかんたら言ってたな
……多分ストレスでも溜まっていたんだろう、先生って滅茶苦茶忙しいし
ただあの人の性格的に生徒にぶつけてしまうなんて考えられないんだけどなぁ……
まあ、色彩対策で色々忙しいんだろう、それか俺が自分でも気づかないうちにスッゲー失礼な事をやらかしたとか
……あ、学校忘れてた、そろそろ行かないと
冷蔵庫に仕舞っておいた菓子パンを適当に取り出してカバンに入れてから玄関に向かう
どうせ遅刻確定とはいえ、のんびり朝食を作ってる訳にはいかない
自分以外誰もいない家に「行ってきます」と残してから扉を開けると─────
「……………」
──────外で空崎さんが倒れていた
……え?空崎さん?
全く想定していなかった事態に思わずカバンを落としてしまう
ドサッと音がした瞬間、空崎さんがゆっくりと目を開けた
「…………酒泉?」
か細く名前を呟いてから手を伸ばしてくる空崎さん、そのまま俺の頬に手を当てる
「酒泉だ……酒泉がいる……」
「写真越しじゃない………本物の酒泉……」
「例え思い出を捨ててしまっても……本物はここに………あ……あぁ……!」
「ち、ちがうの……!そんなつもりじゃなかったのに……!」
「なんで……なんであんなことを……」
「ごめんなさい……ごめんなさい……!きらいにならないで……!」
「わたし、おかしかったの……あんなこと、したくなかったのに……!」
待って待って待って待って、何が?
突然空崎さんが泣きながら謝ってくるが、何の話か全く分からない
……えっと、何があったんですか?
「……っ……!」
とりあえずゆっくりで大丈夫なんで教えてくれませんか?
「……す、すてちゃったの……」
何を?
「しゃしんを……」
写真?
「ふたりで……ゆうえんちにいったときの……」
あー、あれですか
「そんなつもりはなかったのに……けいたいのなかのもけしちゃったの……」
「だいじにしてたはずなのに……っ、ぜんぶ……おもいでぜんぶ……っ!」
「たいせつなのに……しゅせんのことだいすきなのに……!」
涙を流し、震えながら縮こまる空崎さん
……なんか幼児退行してる気がする
とりあえず空崎さんの背中を擦りながら話しかける
あー……それならまた行きます?遊園地
「え………?」
別に一生の別れってわけじゃないんですから、また写真撮ればいいじゃないですか
「………いいの?」
空崎さんが良ければですけど
「こんなわたしでもまだいっしょにいてくれるの……?」
それも空崎さんが許してくれる限り、ですけど
………それで、どうします?今度予定立てましょうか?
「うん………うん!」
空崎さんは勢いよく立ち上がると、そのまま抱きついてくる
流石に色々とまずいので離れてもらおうとしたが……
「ふふっ……ありがとう……」
……俺が本能を殺せばいいだけの話だな、うん!
「んー………」
抱きつかれたまま暫く経った頃、ようやく気づいたことがある
空崎さんの格好がちょっとだけボロボロなのだ
……空崎さん、何時からここに居ました?
「にじから……」
二時かー……
二時!!?
「うん」
深夜の!!?
「うん」
な、なんで……
「ずっとでんわにでなかったから……きらわれちゃったのかとおもって……」
だからって……
「ぴんぽんしてもでないし……」
………爆睡ってレベルじゃねーぞ、俺
どうするか……流石にこのまま学校に行くわけにはいかないし……
………空崎さん、シャワー浴びていきます?
「うん」
今日は学校休みましょっか
「……しゅせんもいっしょに?」
はい、俺も色々と確かめないといけないことがあるんで
「……わかった」
家の扉を再び開けて中に戻る
ふらふらと危なっかしく歩く空崎さんを支えたりしながら風呂場まで連れていく
……ここが俺んちの風呂場です、自由に使って構わないんで
後で着替え用意しておきますね、それじゃ
「………」
……あの、空崎さん?服を掴まれると出ていけないんですが……
「………」
………き、聞いてます?
「………いっしょに………」
あ、なんか嫌な予感が
「いっしょにはいろ───」
───すいませんやることあるんで!!!
何を言おうとしたのか察した瞬間、無理やり手を離れさせて逃げ出す
離れた瞬間、「あ…………」というか細い声が聞こえたが俺は何も知らない
──────────
────────
──────
空崎さんがシャワーを浴びている間、天雨さんへの連絡を済ませた
何かしら文句を言われるかと思ったが特に何も言われなかった、むしろ喋ってる時とかやけに気まずそうな声だった
……あと何故か謝られた
「……酒泉、出た」
後ろを振り向くとシャワーを浴び終わった空崎さんがいた
俺の服を着てもらってるが、当然サイズが合わないのでダボダボになっている
「その……さっきはごめんなさい」
シャワーを浴びて冷静になったのか、精神状態が元に戻っている
……天雨さんに休むこと伝えておきました
ベッドの準備も終わってるんで今日はゆっくり休んでください
「……ありがとう」
泣き終えて喉が渇いたであろう空崎さんにスポドリを渡してから寝室まで案内する
ベッドで横になったのを確認したら部屋を出ようと後ろを振り向くが、手をギュッと握られる感覚を感じて一瞬止まってしまう
……空崎さん?
「……手」
手?
「眠るまで手を握っててくれる?」
……
「……駄目?」
……全然良いですよ、時間はいくらでも余ってるんで
「……ありがとう」
こちらも手を握り返しながらベッドの上に腰掛ける
空崎さんが眠りについたのはそれから十数分後だった
空崎さんを起こさないようにゆっくりと家の中を歩く
……結局どうして遊びに行った時の写真捨てちゃったんだ?空崎さんは「そんなつもりじゃなかった」とか言ってたけど……
………成る程!間違えて捨てちゃっただけか!
別にそれぐらい気にしなくてもいいのになー、思い出なんてまだまだ沢山作れるんだし
……さて、これからどうするべきか
あの異常な不在着信の数、そして先生や空崎さんの様子、確実に〝何か〟が起きている
手っ取り早いのは先生に事情を聞くことだが……さっきの電話での様子から確実に先生も疲労しているだろう
ここは大人しく先生からの連絡を待って───
───っと、なんだ?誰からだ?
着信音が鳴り響くと同時にスマホの画面に目を落とす
画面には〝百合園さん〟と表示されている
……とりあえず出てみるか
もしもし、百合園さん?
『やあ酒泉、今大丈夫かい?大丈夫じゃなくてもちょっとお時間頂くよ』
……なんかめちゃくちゃ焦ってません?
『単刀直入に言う、何も聞かずにトリニティに来てくれないか?』
トリニティに?
『ああ………とはいえ、いきなりそんな事を言われても困るだろうから要点を三行で説明するなら───』
『ミカが
本気で
危ない、だ』
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というわけで、空崎さんに書き置きを残してやってきましたトリニティ
聴聞会以降、聖園さんの私室はトリニティの寮の屋根裏部屋に移された
それでその部屋の前まで来たんだけど……
なんか驚く程静かだな……
途中で出会った寮監さんもなんか様子おかしかったし……具体的に言うと怯えていたような……?
………ええい!ままよ!
ノックしてもしもお~~~し
……………
あれ?居ない?百合園さんは「ミカは部屋に引きこもっている」って言ってたんだけどなぁ……
しゃーねー、ちょっとだけ声を大きくして……
もしもーし!
………駄目だ、返事がない
仕方ない、一旦出直して───
「───酒泉……君?」
帰ろうとした瞬間、ガチャっと小さく扉が開く
その隙間から聖園さんが覗いてくる
……てかこの人も声か細いな
「……なん……で…」
百合園さんに言われて来ました
「……セイアちゃんに?」
はい、というわけで───「帰って」───………
「今すぐ帰って」
………何故です?
「……あはは☆酒泉君だって分かってるでしょ?私は酒泉君が大っ嫌いだってこと☆」
まあ、そりゃ知ってますよ
「………とにかく話すことなんて何もないから、さっさと帰ってよ」
そう一方的に言うと、扉をバタンッ!と勢いよく閉じられる
暫く扉の前でウロウロする
再びノックしようかとも考えたが、本人に帰れと言われた以上また呼び出すのも気が引ける
……仕方ない、今日は帰るか
百合園さんになんて報告しよ「待って」……聖園さん?
「…………」
後ろを向くと聖園さんがまた扉を開けていた、だが何も言わずに無言で立ち尽くしている
………なんすか?もう帰るんですけど……
「……やっぱり入って」
──────────
────────
──────
お邪魔しまーっす………
「………」
いやー……屋根裏部屋ってロマンがありますよねー
「………」
……そ、そういえば百合園さんが心配してましたよ!桐藤さんも心配してたらしいですし……
「………」
………あ、あの二人は聖園さんの飼育員じゃないんですから!迷惑かけたら駄目ですよ!
「………」
えっと………
「………」
………何があったんですか?
煽っても何も返してこない聖園さんに違和感を感じ、早速本題を切り出す
だが聖園さんは何も答えないまま、部屋には時計の音だけが鳴り続ける
……まあ、言いたくないなら別に───
「………捨てちゃった」
……はい?
「……捨てちゃったの、酒泉君が買ってくれた水着」
「元々酒泉君のことは嫌いだった……でも、そこまでするつもりはなかったの」
「なのに……酒泉君のことを考える度に憎悪が強くなっていって……」
「わ、私は……ただ嫌いなだけであって、憎んでいたわけじゃ、ないのに」
「気づいたら……ビリビリになっててっ……!」
「ほ、本当は……買ってもらった時、嬉しかったのにっ!大切にするって決めたのにっ!」
「ねえ……何でなの……?酒泉君のこと嫌いなのに、なんでこんなに苦しいの……?」
泣きじゃくりながら必死に声を紡ぐ聖園さん
………そういえば空崎さんもさっき「捨てたくないのに捨てちゃった」って言ってたな、もしその時と似たような状況、つまり故意ではないのだとしたら
……ははぁ、さては─────
─────トリカス共に水着を破られたな?
「気づいたらビリビリになってた」って言ってたし、奴らにやられたんだな……
それで申し訳なく感じた聖園さんは謝ろうとしたけど、大嫌いな俺が相手だと素直に謝れずに感情がめちゃくちゃになった……こんな感じだろ
中途半端に強がった結果だな
………にしてもそのイベント、今起きたか
実は聖園さんに水着を買ってあげた時、「恨みを持つ奴らが何をするか分からないから厳重に保管しておけ」って伝えておいたんだ
その甲斐あってか、聖園さんの水着が何か細工されたって話は今日まで聞かなかった
……仕方ないな
聖園さん
「な、なに……?」
また買いに行きましょっか、水着
「………え?」
次、何時空いてます?
「な、なんで……?」
?
「なんで怒らないの……?私、貴方に酷いことしたのに……」
泣きながらこちらを見つめてくる聖園さん
そもそも聖園さんが俺を嫌ってることぐらい最初から知ってるしなぁ……
にしてもトリカスの話をまったく出さないのも彼女なりの強がりなのだろうか、触れないでおいてやるか
「ま、まだ……まだ私のこと見捨てないでくれるの……?」
別にそんな大袈裟なことじゃないでしょ、水着が一着駄目になったぐらい
「また一緒に買ってくれるの……?」
貸し一つですよ
「じゃ、じゃあ……また……また会いに来てくれるの……?」
時間が空いてたら何時でもいいですよー
にしても大嫌いな俺に会いに来てくれるか聞いてくるなんて、よっぽど会話の相手に飢えているんだなー
なんてことを考えていると、聖園さんに突然両手を握られる
「ほ、本当に?本当にいいの?」
何回言わせんですか、そもそもバシリカで聖園さんに借り作ってますし……気に入らないけど
「……あ、ありがとう」
……素直に礼を言われるのも何か変な感じするな
「……ねえ酒泉君」
はい?
「一応先に言っておくけど……私、酒泉君のこと嫌いだから」
はいはい
「嫌い」
はいはいワロスワロス
「本当に嫌い」
はいはいワロスワロス
「大っ嫌い」
はいはいワロスワロス
「……好き」
はいはいワr……は?
「顔も見たくないくらい大っ嫌い」
はいはいワロスワロス
「…………大好き」
はいはい……え?
「ふふっ……」
何?何なの?弄んでらっしゃる?