あー……ようやく家に着いた……
あの後、何とか錠前さんと戒野さんの仲介をして別れた俺は帰り道でショートケーキを買って帰った
にしても濃い一日だったな……まさかこんな事件が起きるとは……
この世界の人達は一人一人が意思を持って生きているんだ、メインストーリーやイベントストーリー以外の事件だって当然起こる
………まさかこんな形で再認識することになるとは思わなかったけどな
もし異常事態が起きていると気づけなかったら「あれ?俺ってもしかしてめっちゃ嫌われてる?」って感じで落ち込んでいただろう、だって悲しいし寂しいもん
まあ、ウサギは寂しくても弱らないらしいが……俺はウサギではないので普通に泣く、誰も見てないところでめっちゃ泣く
……それにしても全員に嫌われる、か
そんな感じの話をどっかで見たことがあるような無いような……
んー……何処だったかなー……
何て事を考えながら歩いていると、自宅の玄関前に着く
鍵を開けて中に入り、一応空崎さんがまだ寝ている可能性も考えて小声で「ただいま」と言う
ショートケーキを冷蔵庫に入れてからゆっくりと寝室に向かう、寝室の扉を静かに開けると空崎さんがグッスリと眠っていた
……よし、なら今のうちに───
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ジュウジュウという音と食欲を刺激されるような匂いに釣られて目が覚める
寝ぼけ眼を擦りながら音の鳴る方へ近づくと、そこで酒泉がフライパンを振って料理をしていた
「しゅせん……?」
あ、おはようございます空崎さん
「料理……?」
はい……あ、一応空崎さんの分も作ってあるんですけどいります?簡単な野菜炒めと味噌汁ですけど
「食べる」
うおっ、急に圧が……じゃあもうすぐ出来るんで顔洗ってきちゃってください
「分かった」
フラフラと………いや、彼の手料理を食べられるということに浮かれ、少し早歩きで洗面台に向かう
家で休ませてもらっただけでなく、学校への連絡までしてもらったのに………その上、食事まで作ってもらえるなんてとても申し訳ない
……でも、その申し訳なさ以上に嬉しさが勝ってしまう
顔を洗い終わった私はタオルで顔を拭き、リビングへと戻る
私が扉を開ける頃には既にご飯と味噌汁、そしてお箸が二人分並べられていた
私も何か手伝おうとしたが、それよりも前に彼が大きめのお皿に大盛りの野菜炒めを盛り付けてテーブルまで持ってきた
「……手伝えなくてごめんなさい」
気にしないでください、空崎さんはお客様なんですから
今日は色々ありましたし、ゆっくり休んでください
「……ありがとう」
あ、そういえばデザートあるんですよ、ショートケーキ
「……いいの?」
折角なんで食べていってください
笑いながらそう言う酒泉、彼はそのまま「いただきます」と手を合わせ────
「……?酒泉、その首の傷どうしたの?」
────彼の首元をふと見ると、ガーゼが貼ってあった
その事を聞いてみると、彼は少し慌てた様に説明し出す
えっと……実は空崎さんが寝ている間に買い物に行ってたんですけど、その時に不良同士のちょっとした戦闘に巻き込まれまして……
「…………」
あの、嘘……じゃ……ない……です……
「…………」
ごめんなさい嘘です、噛みつかれました
「………は?」
ヒェッ……
「……噛みつかれた?何故?誰に?」
えっと……それは言えないんですけど……
「……どうして」
あの、場合によっては色々と問題が発生するというか……
「………」
此方の質問をのらりくらりとかわす酒泉に少しイラッとした私は彼の側に寄り、首元のガーゼを剥がす
一瞬だけ痛そうに顔をしかめるが、すぐに焦った様な表情に変わる
「これは……」
えっと……は、はは……
そこには、かなり強めに噛まれたであろう歯形が残っていた
「………」
あの、別にガチ喧嘩したわけじゃないんですよ。冗談というか、その……
「……冗談?冗談でこんなハッキリと痕を残させたの?」
彼が言い訳をすればするほど心に靄がかかる
……正直、限界だ
………っ!?空崎さん、何を……!?
「大人しくしてて」
誰かの歯形を上書きするように首元に噛みつく
そのまま歯を突き刺し、彼の血を吸い出す
こんなことをすれば今度こそ本当に嫌われてしまうかもしれない……でも、それ以上に彼の身体に誰のものかも分からない痕を残される方が嫌だ
離れようとする酒泉の身体を無理矢理抱き寄せて逃げられないようにする
「……んっ……」
マジかよ……ヒナ吸いならぬ酒泉吸い(物理)って誰に需要があるんだよ……俺自身がプレイヤーでも絶対にそんな選択取らないぞ……
なにやら小声でボソボソと言っているが、そんな事は気にせずただひたすら血を吸い続ける
「………ぷはっ」
……満足しました?
「……とりあえず今日はここまでにしてあげる、酒泉が作ってくれたご飯も冷めちゃうし」
…………あ、そういえばそうだった
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空崎さんを見送った後、俺は明日の登校の準備をしながらスマホをいじっていた
まだ17時半ぐらいだが早めに準備しておくに越したことはないだろう
……ちなみに空崎さんを家まで送ろうとしたのだが、「我慢できなくなりそうだから」って言われて断られた……何が?
それにしても……結局思い出せなかったなー……
なんて言うんだっけ……皆に嫌われる現象の事……
スマホでそれっぽい言葉を検索してみても中々しっくりくる言葉が出ない
とりあえずもう一度検索してみようとすると、突然スマホの振動と共に画面に《才羽ミドリ》の名前が浮かびだす
……ミドリさん?こんな時間になんだ?別にそこまで遅いわけじゃないけど……
とりあえずボタンをタップして通話に出てみる
……もしもし?
『……あ、酒泉君?』
はい、そうですけど……どうしたんですか?
『その……本題に入る前に一言謝っておく、ごめん』
え?何に対して?
『気にしないで、ただ謝りたかっただけだから』
はぁ……それで、その本題というのは……
『……実は、アリスちゃんが塞ぎ込んじゃって……』
……天童さんが?なんで?
『理由は言いづらいというか……酒泉君絡みとだけ言っておくね』
俺ぇ?
『だから、その、できれば今すぐ来てもらえると有難いんだけど………ずっとユズちゃんのロッカーから出てこないんだよね』
花岡さん閉め出されたのか……とりあえず状況は分かりました、今すぐ向かいますね
『うん………本当にごめんね』
……?はぁ……?
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まさか今日一日だけでトリニティとミレニアムの両方に足を運ぶ事になるとは思わなかった、まあ日頃から治安の悪いゲヘナ中を駆け回ってる俺にとってはこの程度の疲労感など問題ない
それにミレニアムやトリニティほどの大型校なら移動手段だって豊富だ、文明の利器バンザイ
っと、着いた………ゲーム開発部の部室に
「アリスー?一緒にゲームやろー?」
「ほら、三対一でお姉ちゃんを倒そ?」
「なんで私が一人側なの!?」
「お、お菓子もいっぱい用意してるよ……?」
懸命に天童さんに呼び掛ける声が聞こえてくるが、その肝心の天童さんの声が一切聞こえてこない
……あまり上手くいってなさそうだ
とりあえず会話が止まったっぽいので扉をノックしてみる
少ししてガラッ!という音と同時に扉が開くと、目の前に才羽さん……モモイさんが立っていた
「あ!来てくれたんだ!」
「こんな時間にごめんね……」
いえ、今日ずっと予定無かったんで別に……ところで天童さんはあそこのロッカーに?
「う、うん……私がちょっと席を外してる間にいつの間にか入られて……」
今の状況を改めて確認していると俺の声が聞こえたのか、ロッカーの中からか細く「酒泉……?」と天童さんの声がした
お邪魔しますと言ってから部室に入りロッカーに近づくと、俺の気配を感じ取った天童さんがロッカーごとガタッと少しだけ揺れる
……よし、まず最初は挨拶から────
「こ、来ないでくださいっ!」
────へ?
「あ、アリスに近づかないでくださいっ!」
………
「アリスには酒泉と一緒に居る資格なんてないんです……!」
………
「で、ですからどうか……!」
あ……
「……?しゅ、酒泉……?」
あばばばばばばばばばばばばば
「お姉ちゃん!酒泉君が壊れた!」
「ど、どうして!?」
「アリスちゃんって純粋で良い子だから……その分拒絶された時のショックが大きかったんだと思う……」
こ、これが娘に拒絶される父親の気持ちか……
あと少し俺の心が弱ければ泣いていたところだぜ……
「思いっきり涙流してるけど……」
左右弾さんは黙っててください
「だからその罵倒なんなの!?」
なんてワチャワチャしてる間に何とか心を持ち直す
よ、よし……天童さん、天童さんはどうして俺と一緒に居る資格が無いなんて思ったんだ?
「………」
黙りか、それなら……出番だぞ!ケイさん!
「………」
埒が明かないと判断した俺は天童さんの中にいるもう一人の人格、〝ケイ〟に呼び掛ける
………出番だぞ、ケイさん!
「………」
ケ、ケイさん?
「………」
あ、あの……?
【………拒否します】
………
「……拒否されたね」
「打つ手無し、か……」
「アリスちゃん……」
こ、こうなったら最後の手段だ!モモイさん!ミドリさん!花岡さん!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!
「おお!なんかカッコいい名前!」
「ぐ、具体的には……?」
俺達でゲームをプレイしてればそのうち天童さんも釣られて出てくるはずだ!だから───
「酒泉君……それさっきからずっとやってたんだよね……」
「それで駄目だったから酒泉を呼んだんだけど……」
申し訳なさそうな表情で伝えられる
……マジか、どうしよう
「も、もうアリスのことはほっといて下さい……っ!」
【……王女の精神状態を保護する為、人格を交代します】
……どうやらこっちも本気でぶつからないといけないみたいだな
皆さん、一旦部室から離れてもらえませんか?俺と天童さんとケイさんの三人で話したいんです
「えー!?私達だって話したいよー!」
「お姉ちゃん、ここは酒泉君に任せようよ」
「あの、アリスちゃんのこと……よろしくお願いします!」
そう言い残すと花岡さんとミドリさんがぐずるモモイさんを無理やり引っ張りながら出ていった
さて……これで残ったのは俺達だけだな
【………】
なあケイさん、一体何があったんだ?俺には言えないことなのか?
【黙秘します】
……今日の朝、天童さんから大量の不在着信が届いていた
もしかしてその事と何か関係があるのか?
【………黙秘、します】
なあ、どうしても教えてくれないのか?何を言われても怒らないからさ
【……だから駄目なのです】
……え?
【私達がどの様な感情をぶつけようと平然と赦してしまう、だからこそ貴方には伝えられないのです】
感情……もしかして……
…………なあ、天童さん、それにケイさん
【………何ですか】
俺のこと、嫌いか?
「っ!そんなことありませんっ!」
人格が突然天童さんに切り替わる
……ようやく出て来てくれたな、天童さん
「あっ……」
さて、話し合おっか?
「ア、アリスは………」
なあ天童さん、ゆっくりで良いから教えてくれないか?何が起きたのかを
「………」
俺、嫌なんだよ、このまま何も知らずに天童さんとケイさんが痛みを抱え続けるのがさ……
「……っ」
暫く無言の時間が続くが、やがて天童さんが語り出す
「三日程前……アリスはいつもの様に冒険に出掛けようとしました」
「クエストをこなし、レベルを上げ、また一つ強くなる、その日もそれで終わるはずでした」
「………でも、突然アリスとケイの心に異常が発生したんです、その異常とは────」
「────大好きな酒泉を嫌いになってしまうこと」
「おかしいですよね……私もケイも酒泉のことが大好きなのに突然嫌いになってしまうなんて」
「でも、本当に理由が分からないんです!何故かアリスの中で変なモヤモヤが出て来て……それで、気づいたら……」
「………酒泉との大切な思い出を捨ててしまいました」
【王女の……アリスの思い出だけではありません、気づけば私も捨てていました……貴方から頂いた思い出のキーホルダーを】
「三人で冒険した時、アリスに買ってくれた青いロボットのキーホルダーも」
【〝必要ありません〟と素っ気なく断る私にも買ってくれた赤いロボットのキーホルダーも】
「気持ち悪くなって」
【おぞましく感じて】
「引きちぎって」
【踏みつけて】
「……そのままっ、ゴミ箱に……!」
【なぜ、なぜあの様な事を……!】
人格を切り替えながら声を吐き出す天童さんとケイさん
……正直、ケイさんの反応は意外だった、そこまであのキーホルダーを大切に思ってくれてたとは……
「仲間との思い出を捨ててしまうなんて……ア、アリスは……アリスは勇者失格ですっ!」
【私は所詮、世界を滅ぼす事しか出来ない兵器です】
「ずっと大切にするつもりだったのに……ずっと酒泉と一緒に居たかったのにっ!」
【愛を知っても愛する者を傷付けることしかできない、肉体を手に入れてもその手で思い出を捨てることしかできない】
「お、お願いします、酒泉……アリス、苦しいんです……!」
【貴方と過ごす時間は私の空っぽだった心を埋めてくれました】
「たすけて……たすけてください……!」
【そんな時間すら自ら手放してしまったら、もう……】
「アリス、やっぱり酒泉と離れたくないです!あんな事をしてしまった後でも酒泉と一緒に居たいんです!」
【お願いします、私にもう一度だけ感情を……】
んじゃあ、また買いに行くか?
「……え?」
別にそこまで大人気なキーホルダーってわけじゃないし、同じ場所に行けばまた同じ物買えるだろ
「で、でも……あの時買ったキーホルダーはもう……」
形ある物はいつか壊れるって言うじゃん、ずっと引きずっててもしょうがないでしょ
「酒泉は怒ってないんですか……?」
ん?何を?
「あのキーホルダーを捨ててしまったことを……」
【貴方の厚意と思い出を踏みにじったことを……】
んー……人間生きてりゃあ、感情的になる事だってあるだろ
それにあのキーホルダーは二人に渡した物だし、どう扱おうが二人の勝手だしな
「で、でもっ!」
そうだ!今度はゲーム開発部全員の分も買おうぜ!
そうすれば一つ無くしても寂しくないだろ?
「……いいんですか?」
【まだ、貴方と共に生きても……】
「赦してくれるんですか?」
俺の目を見つめながら弱気に呟く
……正直そこまで気にしていない、だって………
俺の関わっていない所で俺の知らない間に勝手に起きた事件だし……
しかも直接的な被害があった訳でもないし、そこまで気に病まなくてもいいと思う
そもそもあのキーホルダーを気持ち悪いって思ったってことは………
俺のセンスが終わっていたってことだ!
つまり悪いのは俺だ
いやー……二人には悪いことしたなー……
どれだけ気持ち悪くても、それを我慢して大切にしてくれてたってことだろ?乙女心が理解できなくて申し訳ない……
次はちゃんとセンス良いの選ばないとなー
……あ、センスの悪さで思い出したけど調月さんからも大量に電話来てたんだよな、後で会いに行こっと
そんな事を考えていると、天童さんが顔をグイッと近づけてくる
「ア、アリス!もう一度酒泉と仲間になりたいです!それでまた一緒に冒険を……!」
もう一度も何も俺はまだ仲間だと思ってるけどな
「っ!酒泉!」
っと………
そのまま勢いよく抱きつかれた
泣きながら頭をぐりぐりと胸に押し付けてくる天童さん、こちらも軽く抱きしめる
「酒泉……酒泉……!」
おーよしよし
「酒泉……ずっと一緒ですよね……?」
一緒一緒
「えへへ……」
撫でれば撫でるほど天童さんの顔が緩んでいく、そして緩む顔とは正反対に天童さんの腕に力が込められる
正直ちょっと苦しい…………ごめんなさい嘘つきました滅茶苦茶苦しいです骨が折れそうですたすけて
少しだけ力を弱くしてもらおうと天童さんの顔を見て話しかけようとする
あの……天童さん?
「………」
空気読めなくて申し訳ないんだけど、ちょっとだけ力弱めてもらってもいいか?
「………」
……天童さん?……あれ?よく見たら眼の色が……
【……酒泉、王女が苦しんでいます】
あ、ケイさんか……え?俺そんなに強く抱き締めてた?
【ええ、ですので代わりに私が受け止めます】
いや、別に俺が止めればいいだけじゃ……
【……王女は貴方の全力の抱擁を受けたがっています、ですが貴方の力加減では王女をまた苦しめてしまうでしょう】
【ですが私が王女と人格を入れ換えれば痛みを肩代わりしつつ、王女を抱擁させることが可能です】
はあ……
【……とにかく強く抱き締めなさい】
んじゃあ、お言葉に甘えて……
とりあえず言われるがままにギュッと抱き締める、ケイさんは心地良さそうに眼を細める
【……まだ足りません】
はいっと…
【もっと強くです】
まだ?……っと
【……もっと】
えぇ……
【……まだ足りません】
これでも結構強めにしてるはずなんだけどなぁ……
(ケ、ケイ!ズルいです!勝手に交代するなんて!)
(王女よ、これは貴女の身体を傷付けない為なのです)
(アリス、この程度じゃ傷付きません!)
(とにかくここは私に任せてください)
(だ、駄目です!今すぐ交代します!)
「酒泉!もう一度アリスを抱きしめてください!」
え?今やって────
【貴女の身体を危険に晒すわけにはいきません、私が代わりに抱きしめられます】
あ、戻って────
「邪魔しないでください!」
ちょ、何が起きて────
結局二人とも同じくらい抱きしめた
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あの後俺は天童さんとケイさんのことをゲーム開発部に任せて部室を出ていった
別れの瞬間までずっと天童さんに腰にしがみつかれてたせいで腰がバッキバキになった………明日はゲヘナで何も事件が起きないことを祈ろう、多分意味ないけど
……っと、来たか……
黒い長髪の女性がミレニアム学園の正門から出ていくのを見つけた俺は彼女に近づく
いつも傍に居るメイドさんがいないのが気になるが、とりあえず話しかける
「……っ、貴方は……」
よっす、電話に出ないのでこうして直接会いに来ましたよ────
────調月さん
──────────
────────
──────
ブラックと微糖、どっちが良いですか?
「ありがとう……ブラックでお願いするわ」
はいっと……
「……その、どうして私に会いに来たのかしら?」
え?さっき言ったじゃないですか、電話に出なかったから直接会いに来たって
「あ……そ、そういえばそうだったわね……」
缶コーヒーを両手で持ちながら何やらモジモジとしている調月さん、彼女はそのまま口を開かない
……まあ、俺も会話の種が無いけど
「その……最近の調子はどう、かしら……」
……驚いた、まさか調月さんから雑談を振られるとは思わなかった
とりあえずこちらも軽く返す
いやぁ、今日はトリニティに行ったりミレニアムに行ったり大変でしたよ
まあ学校は休んだんでその分は楽でしたけどね……調月さんの方は?
「……私の方は特に何も、ミレニアムの為に尽くしているだけよ」
そうですか……その、大丈夫ですか?立場とか
「別に問題ないわ、会長の座を降りてもキヴォトスを護るという私の使命は変わらないもの」
……ミレニアムへの無償奉仕、大変そうですね
「それぐらいの額を横領したんだもの、当然の結果よ」
でも、面倒な立場を降りて一般生徒に戻るのも悪くはないでしょう?
「……ええ、そうね。何故かトキはずっと私に従っているけど」
飛鳥馬さんにとっては立場とか関係なく、ただ調月さんと一緒に居たいだけだと思いますよ
「………そうかしら」
絶対そうです………って、そういえばその飛鳥馬さん今日は一緒じゃないんですね
「トキには少し離れてもらったの……その、一人にしてほしくて……」
それは……あの大量の不在着信と関係あります?
「……っ!」
熱っ!?
俺の言葉と同時に調月さんが動揺する
その影響で口に近づけていたブラックコーヒーをこぼし、それが隣で座っていた俺のズボンにかかる
「ご、ごめんなさい!すぐに拭くわ!」
いや、ハンカチあるんで別に……
「ま、待ってて……確かポケットに……!」
あの……聞いてます?
「あ……ち、違うの……嫌いだからこんな事したんじゃなくて……わざとじゃないの……」
分かってますよ!?
「お願い、お願いだから離れないで……私の……」
「───私のたった一人の理解者……!」
調月さんらしくない、あまりにも必死な表情に身体がピシリと固まってしまう
「貴方だけなの……私のやり方を理解してくれたのは……」
「今まで私の〝目的〟は理解しても、その為の〝手段〟を理解してくれる人は誰一人として存在しなかった」
「でも貴方は私の〝手段〟をただ一方的に否定することはせず、むしろ自分も罪を背負おうとしてくれた」
「貴方は私にとってキヴォトスで唯一の理解者なの、あの時からずっと……」
「そんな理解者を自ら突き放そうとするなんて……あの時の私はどうかしていたわ」
調月さんもか……今日一日だけで随分こんな感じの状況に慣れてしまった
いや、それよりも……突き放す?何を?
「貴方のおかげで私は踏みとどまれたのに……貴方のおかげで誰も犠牲にならずに済んだのに……!」
「なのに私は……っ、私の計画を遅らせた貴方を恨んでしまった……!」
「『初めて会った時に始末しておけばよかった』と、そう思ってしまったっ!」
「私のことを支えてくれた貴方に対して……殺意を向けてしまったっ!」
「本当はそんな事、望んで───」
───いつもありがとうございます、調月さん
「────……ぇ?」
天童さんを救う方法を一緒に考えてくれてありがとうございます
「突然何を……」
キヴォトスを護ってくれてありがとうございます
「……待って」
俺と一緒に未来の事を考えてくれてありがとうございます
「ま、待ってちょうだい、私にはお礼を言われる資格なんて……」
他人に恨まれてでも頑張ってくれてありがとうございます
「……お願いだから───」
───調月さん、アンタは溜め込みすぎなんですよ
「………」
一人で努力し、一人で罪を背負おうとし、一人で戦おうとする
誰にも見られない所で誰にも認められずに頑張り続ける、だからこそ辛い物をすぐ溜め込んでしまうんです
そして今回はその溜め込んだ感情が偶然爆発してしまっただけですよ
………と、いうわけで今から調月さんの抱えている物を全部吐き出させるまで褒め続けます
「……酒泉」
はい
「私、間違っていたのかしら」
俺はそうは思いません
「ちゃんとミレニアムの役に立てているのかしら」
調月さんは頑張ってますよ
「誰にも認められていないのに意味があるのかしら」
俺が認めます
「……ちゃんと、罪を償えているのかしら」
償えています、〝理解者〟である俺が言うんだから間違いありません
「………この先も、償い続けられる……かしら……」
折れそうになったら俺が支えるんで大丈夫です
「……むね、かして……もらえる…かしら」
……はい、どうぞ
「………っ…」
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──────
胸の中で静かに泣く調月さんの頭を撫でながら思考を巡らす
にしても調月さんまで……
最初はベアトリーチェがアリウススクワッドに面倒な置き土産でもしたのかと思ったが……ここまで同時期にアリウス以外の人達にも嫌われたとなると、それ以外の原因がありそうだな
そうじゃなきゃ単純に俺が嫌われているだけになってしまう、かなしい
んー……嫌われる理由、か……何か引っ掛かるな
確かに何処かで見たはずなんだよなぁ……
嫌われ……嫌われ……全員から嫌われる原因……
………ん?
そういや、前世の二次創作とかで〝嫌われ〟ってジャンルがあったよな?