エリドゥのバックアップによる演算機能は折川酒泉の行動を〝論外〟と断じた
酒泉の放つ弾丸は見当違いの方向へ飛び、酒泉の投げた手榴弾は見当違いの場所を破壊し、酒泉の回避先は常にギリギリで回避できるかどうかの危険な場所だった
常に〝最善択〟を選び続けるアビ・エシュフに対して酒泉の行動は全て〝最悪手〟と言えるだろう
〝この程度ならば問題なく倒せる〟
それがエリドゥとリオ、そして実際に戦っているトキの判断だった
それなのに、何故──────
──────何故、目の前の〝最悪手〟を繰り返す男に追い詰められているのか
エリドゥの予測した〝最善手〟の移動先は手榴弾によってバランスを崩しやすくなっていた────酒泉が少し前に投げた手榴弾……〝最悪手〟によって
しかしバランスを崩した程度では何の障害にもならないと、スラスターを噴かせて態勢を立て直そうとするが、その直前に再び酒泉が弾丸を放つ────態勢を立て直した先は弾丸の射線上だった
トキは一発頬に貰ってしまったものの、その程度で倒れることはなく直ぐ様反撃する
〝この男のスペックと行動パターンなら避けられまい〟と酒泉に銃口を向けて引き金を引く────が、先程までとは比べ物にならない動きで回避される
予測、回避、失敗
予測、攻撃、外れる
予測、回避、成功
予測、攻撃、外れる
エラー
ERROR
error
えらー
エror
何が当たる、何が当たらない
何故今のを回避できない、何故今のは回避できた
エリドゥは常に演算能力によって最善手を選ぶ………そこに感情や疑問など生じない、だからこそ気づけなかった─────
─────自身の〝最善手〟が、酒泉の〝最悪手〟を絡めた行動によって意図的に誘導されたものだと
エリドゥが酒泉の数手先を読んで〝最悪手〟だと判断した行動が、酒泉がエリドゥの数手先の〝最善手〟を読んで仕掛けた〝更に先の最善手〟だったと
酒泉の行動はもはや後出しジャンケンですらない
最初から〝パー〟を出しておき、エリドゥに深読みさせて〝グー〟を向こうから出させたにすぎない
その為に弱者を演じ、時に強者に変わり、必然を狙い、偶然を演じた
全てはエリドゥの演算パターンを確かめる為に
〝ここでこう動いたらこんな手を選ぶ〟と、逆にエリドゥの演算能力を演算する為に
………もしもエリドゥが〝次善手〟を選ぶか、途中からリオやトキによる人為的な計算に切り替わったのならもう少し持ちこたえられただろう
しかし、そうはならなかった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヒナ、時間は?
「予定より……五分」
……五分?オーバー?
「………短縮」
よっしゃあ!
「ご褒美にナデナデしてあげる」
ッッッッシャオラア!!!
「オマケに………んっ」
ッッッッッッッッ!!!
頭を撫でられながら頬に口づけされた酒泉は、声にならない喜びを出す
そんなバカップルを先生とミレニアムの生徒達が見つめる
「……なあ、先生」
「……どうしたの?ネル」
「あれがゲヘナ最強の風紀委員長か?」
「うん」
「じゃあ、もう片方が調印式の時に活躍したっていう男子生徒か?」
「うん」
「………あのバカップルが?」
「………うん」
ネルは信じられないものを見る目を二人に向けるが、周囲からの視線など気にせずに二人はイチャつき続ける
ゲーム開発部やC&C、ヴェリタスやエンジニア部全員に見られてもお構い無しに
「ところで酒泉、私もあのヘンテコなロボットを倒したし…………私にも何かご褒美を与えるべきだと思うの」
「お姉ちゃん聞いた?私達が苦戦したあのロボットをヘンテコ呼ばわりだよ?」
「私達の苦労は一体……」
そうですねぇ………じゃあ、〝折川酒泉が一日中何でも言うことを聞く券〟なんてどうです?
「最高」
ちなみに一週間コースです
「……途中で私の理性が消えても知らないから」
バッチコイです
「……愛してる、酒泉」
「く、口と口が……!」
「ユズ!おでこから湯気が!」
「あわわわわっ………なんて熱烈な……!」
「……場所を考えるべきだと思うんだけど」
「二人とも何をそんなに慌てているんだい?人目すら気にせず互いの想いをぶつけ合うなんて結構な事じゃないか、これもまたロマンさ」
『……私達のナビ、必要ありませんでしたね』
『まあ、仕事が楽になるのは良いことだけど……』
『……へ?もしかして……もう終わりなの?』
『………あとは部長とアリスを救出するだけだけど………この様子だと、それもすぐに終わりそうだね』
「えー?私達の出番無しなのー?」
「まあまあ……無事にアリスさんも救出できそうですし、良かったじゃないですか」
『……リーダー、私も狙撃ポイントを移動してそっちに─────リーダー?』
「……とく…………ねぇ」
「え?」
「なんか納得いかねえええええええ!!!」
え……?突然叫び出した……あの人怖い……
「目を合わせちゃ駄目だよ、酒泉」
──────────
────────
──────
『………そろそろ良いかしら?』
突如、酒泉達の目の前の空間にモニターが出現し、そこにリオの顔が映る
彼女の顔を見た瞬間、全員(バカップル除く)が敵を見つけた時のように身構える
「リオ様……申し訳ございません、私は────」
『トキ、貴女はよくやってくれたわ………責任は私が負うから』
倒れ伏していたトキも起き上がろうとするが、リオの〝そのまま休んでて〟という命令によってペタンと座り込む
『そんなに警戒しないでちょうだい……………もうこれ以上抵抗するつもりはないから』
「……信用すると思ってんのか?」
『アビ・エシュフもアバンギャルド君も無い状態で怪物二匹を相手取れるほどの戦力は………私には無いわ』
『多分、どこの学園にも無いだろうけどね………』
チヒロの言葉に頷きながら何名かが、ヒナと酒泉をチラッと見る
戦闘の余波で出来た瓦礫に腰かけている酒泉
そんな酒泉の膝の上にはヒナが座っており、酒泉の手には櫛が握られている
「……えっと……何をしているの?」
………?何って……ヒナの髪のお手入れですけど?
「………今?」
だって戦闘後で乱れてますし……
「もう……私の髪よりも他の女の子との会話に夢中なの?」
ミドリと会話している酒泉をジト目で見つめると、頬を膨らませながら足をバタバタと揺らすヒナ
しかし酒泉が苦笑しながらも櫛で丁寧に髪をとかし始めると、一瞬で満面の笑みに変わった
それと同時に背後の羽もバッサバッサと上機嫌に動くが、酒泉の頬にべちんべちんと何度もぶつかる
それでも酒泉は何も気にすることなく手を動かし続ける
「~~~♪」
髪がとかれる度に何故か連動するようにヒナの肌がツヤツヤになり、一同がツヤツヤゲヘナシロモップの謎の生態に驚愕する
そんな中で、リオが話を戻そうと咳払いをする
『………とにかく、この戦いは私達の負けよ。天童アリスのデータ消去も間に合いそうにないし、大人しく貴女達に差し出すわ』
「………随分と素直じゃねーか」
『………打つ手が無くなってしまったからには、諦めるしか────』
『お待たせしましたっ!超天才清楚系病弱美少女ハッカーの登場です!』
リオの言葉を遮りながら、第三者の通信モニターがオープンされる
空気の読めていないような大きな声に驚きながらも、チヒロは安堵したかのように息を吐く
『お帰り……もう回収し終わったんだ、エイミ』
『うん、戦闘用ドローンの大半がそっちに行ってくれたお陰で簡単に救出できたよ』
ヒマリの背後からヒョコッと顔を出し、ピースサインをするエイミ
そしてヒマリはモニター越しにリオを睨み付けると、車椅子に座ったままシュッシュッとボクシングの素振りをして堂々と宣言する
『あの時は不覚を取ってしまいましたが………本当の勝負はこれからですよ!リオ!貴女のドブ臭い口に私の美少女全知パンチを叩き込んで─────』
『あっ、それならもう終わったよ』
『─────………はい?』
『リオ会長も降参したし、あとはアリスを迎えに行くだけだよ』
『………エイミ、冗談を言うにしてももう少し現実味のある冗談を言いなさい』
『本当だって…………あの二人が大体片付けたよ』
エイミが酒泉とヒナに視線を向けると、一同も複雑そうな表情で頷く
『………え?本当に?』
ヒナの髪の毛は相変わらず綺麗ですね
「ふふっ……それはどうしてだと思う?」
『本当に貴方達が?』
いやー……俺には分かりませんね……
「正解は………毎回酒泉が愛情を込めて髪をといてくれるから」
ヒナ……
「酒泉……」
『え?聞こえてないのですか?この超天才清楚系病弱美少女ハッカーの透き通るように美しく純粋な声が聞こえていないのですか?』
ヒマリはモニターに迫るようにグイッと顔を近づけると、そこまで来て漸くヒナと酒泉は反応した
「……?えっと………貴女は……?」
『やっと反応しました………よくぞ聞いてくれました!私はミレニアムが誇る超天才─────』
瞬間、エリドゥ全体の施設が稼働し始める
『────誰ですか!自己紹介の邪魔をしたのは!?』
『……リオ会長、まだ諦めてないの?』
音を立てながら次々と起動していく機械達
その場の全員がリオが何かしたのかと思い、モニターに目を向けるが………
『一体何が………エリドゥの暴走?……いや、違う……これは────』
『────〝王女〟の暴走……!?』
あまりにも異様な事態に、一同はリオが何かを仕掛けた訳ではないことを察する
『何故このタイミングで…………まさか、アリスのデータを削除する為のプログラムを停止したから、その隙を狙って…………なら、この事件は…………キヴォトスの終焉は全て私のせいで………!』
『……部長、エリドゥ各地から追従者が先生達の元に集まってきている』
『………っリオ!貴女だけで完結してないで何が起きたのか説明してください!』
『そんな…………それじゃあ、私の今までやってきたことは─────』
─────天童アリスの内に潜むもう一つの人格………keyが目覚めました
自身の力を行使し、アトラ・ハシースの箱舟を作り出そうとしています
『……アトラ・ハシースの箱舟?』
『………折川酒泉、何故貴方がそのような事を知っているのですか?』
全知でも知らない事を偶然知る手段があっただけですよ
天童アリスを救いたければ、精神世界にダイブする装置か何かを使って説得して来てください………じゃあ、行きましょっか
「うん」
酒泉は櫛をしまい、ヒナも酒泉の膝から下りて二人で立ち上がる
そのまま二人で手を繋ぎ、顔を合わせるとゆっくりと歩き出した
「二人とも何処に行くの?」
「い、今、行動するのは危ないと思いますけど……」
ユズがおどおどと警告すると、二人はピタリと止まって後ろを振り向いた
「何処って……今から帰るだけよ」
「えっ!?この状況で!?」
「敵が集まってきているんだよ!?」
〝俺が直接アビ・エシュフの相手をする〟っていう約束は果たしたので………あとはそっちの戦力だけで救出できるでしょ
「赤の他人の私達が居ても天童アリスの説得には役に立たなそうだしね………じゃあ、頑張ってね」
『待ちなさい!今引き返すと間違いなく敵と鉢合わせるわ!それに、このままエリドゥのリソースを使われてアトラ・ハシースを作られると…………結局、孤立した貴方達も巻き込まれて─────』
手を繋ぎながらのんびりと歩く二人をリオが止めようとする………が、酒泉は欠伸をしながら答えた
─────大丈夫ですよ………電源、落とされるんで
『電源……?何を言って───』
『今よ、ノア!全電力を落として!』
『了解です、ユウカちゃん………えいっ!』
『────………え?』
ね?言ったでしょ?………じゃあ、ガラクタ片付けながら帰りましょっか
「うん、でもその前に一旦酒泉の家に戻って制服を取りに行かないとね」
それからヒナの家に行って、シャワー浴びてからデートして、それで………
「お泊まり………だね」
『折川酒泉………貴方は一体………』
まるで全てを知っていたかのように何の反応も示さない酒泉を見て、リオは驚愕の目を向ける
そんな視線を気にせずに酒泉とヒナはそのまま帰る────かと思いきや、酒泉が途中で何かを思い出したかのように再び後ろを振り向く
──────あ、そうそう………ゲーム開発部に伝えておきたいことがあったんだ
「うぇっ!?わ、私達に!?」
「お姉ちゃん……何したの?」
「い、今からでも謝れば許してもらえるから……!」
「なんで私がやらかした前提なの!?」
安心してくれ、別に怒ってる訳じゃないから
俺が伝えたいのは──────keyは敵じゃないってことだけだ
「………え?」
………まあ、誰を助けるかは全部アンタらの判断に任せるよ
ただ、もしkeyのことも失いたくないなら………先生、後々俺に連絡してください
「……分かった」
……じゃあ、健闘を祈ります
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どうも、天雨アコです
最近〝お前の脳脆くない?〟って言われることが増えてきた天雨アコです
……今、私の視線の先には登校中のヒナ委員長が居ます
え?挨拶しないのかって?………ええ、私だって挨拶しに行きたいですよ
「……あっ、寝癖ついてるよ、酒泉」
ん?……何処です?
「ここ………待ってて、私が直すから」
────酒泉がヒナ委員長とイチャついてさえいなければねっ!!!!!!
どうしてお二人が同じ道で登校しているのですか!?お二人のご自宅はそれぞれ別の方向では!?
「……はい、終わり」
ありがとうございます
「……その……夫婦みたいな会話だったね、今の」
………そう、ですね
「ふふっ……」
────あーっ!いけません委員長!可愛すぎます!
そんな頬を染めたら色気がムンムン出て来てしまいます!………まあ、その表情が私に向けられることは一度たりともないんですけどね!
「今日の放課後はどうする?その……また泊まる?」
んー………いや、流石に洗濯物とか溜まっちゃうんで………
「……そっか……そう、だよね……」
……代わりと言っちゃなんですが、二人でトリニティに行きません?
もうすぐ戦術対抗戦ですし、その時の為の下調べも含めて………デートってことで
「……うん、一緒に行こっか」
─────ああ……委員長の笑顔が……またあの男の物に……
酒泉!貴方は自分がどれだけ幸せ者なのか理解できているのですか!?委員長の笑顔ですよ!?
富、名声、力、この世の全てを掛けても手の届かない存在………そんなヒナ委員長から無条件で笑顔を向けられているのですよ!?
それなのに、あの男は当然のように返事をして……!
……ん?立ち止まった?
「……酒泉?どうしたの?」
……っ……いえ、何でもないです
「……もしかして……痛む?」
酒泉はそのまま腰を押さえて────ん?腰?
何か……嫌な予感が……
「………そ、その……ごめん、次の日も学校があるって分かっていたのに……迫っちゃって……」
い、いえ……断れなかった俺も悪いんで……それに、ヒナが求めてくれるなら俺はそれだけで嬉しいので
「………ありがとう、酒泉……んっ」
ヒナ委員長の唇は若干屈んでいる酒泉の唇と重なり合い、そして────
「……っはぁ…………じゃあ、行こっか」
んっ……そうっすね
「……えへへ」
……どうかしたんですか?
「ううん、ただ…………幸せだなーって……」
────ぁ……ぁぁ……いいん……ちょ……
「あっ、アコちゃんだ……おーい、おはよー!」
「───────っ」
「アコちゃん?私の声、聞こえて────うわああああっ!?アコちゃんのヘイローにヒビがっ!?」