「んんぅ……おはよ……しゅせん」
此方に抱きつきながら寝ぼけ眼の上目遣いで見つめてくる天使をご覧下さい
このバチクソ可愛い生き物は空崎ヒナと言い、この世で最も可愛い女性と呼ばれています
「えへへー……きょうもあったかいね……」
俺の身体にすりすりとくっついてくる大天使☆ヒナエルは知力も戦闘力も高く、可愛さも天元突破しているというもはや誰も勝てない存在なのですが、そんなヒナにも唯一の欠点があります
それは──────
「んー……おはようのちゅー……」
─────可愛すぎて俺の理性を一瞬で削ってくるということだ……!
皆には何とか理性を崩さないように毎日必死に堪えている俺を褒めてほしいぜ……
ああもう!そんな目で甘えられたら断れないでしょ!ちゅー!(即堕ち)
「んー……これできょうもがんばれる」
目元を擦りながら若干舌足らずにそう言うヒナ
そんなに擦ると愛らしいお目目が赤くなっちゃうでしょ!
「………よし、意識がハッキリしてきた」
ヒナはキリッ!と此方に顔を向け、ドヤ顔してくる
凄くない?この表情が俺だけの為に向けられてるんだよ?幸せすぎだろ
因みに〝幸せすぎて死んじゃいそう〟なんて言葉は使わない、俺が死んだらヒナが悲しむだろ
「……ん……ふぁ…………やっぱりもうちょっとだけ一緒に寝ない……?」
幸せすぎて死んじゃいそおおおおおおお!!!
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長く、気品溢れる装飾の廊下を酒泉が歩いていると、奥の方からピンク髪の少女が近づいてくる
かといって互いに挨拶を交わす訳でもなく、そのまま通りすぎる─────
「……挨拶も無しなんて、ちょっと愛想がないんじゃない?」
─────ことはなく、少女の方から酒泉の肩を掴んで話しかける
少女は……聖園ミカはニッコリと微笑みながら話しかけているが、その表情の裏からは好戦的なものを感じられる
しかし、酒泉はそれに気づいていながらもキョトンとしている
「あれー?ゲヘナ生は人の言葉すら分からないのかなー?」
………いや、気づいてますけど……なんか話すような事ってありましたっけ?
「……ちょっと前に貴方の所の委員長と殺し合った〝敵〟のことも忘れちゃったの?野蛮なゲヘナ生でも戦いの記憶を忘れることがあるんだね☆」
…………殺し……合い……?
「……何か引っ掛かることでもあるの?」
ミカの言葉に対してより疑問を抱く酒泉、その表情のまま酒泉は口を開いた
────いや……殺し合いって呼べるほど対等に戦えてなかったような……
「……へえー?」
ピキッ!とミカの額から音が聞こえた
だが、酒泉はそんなことなどお構い無しに話を続ける
────あと……ヒナは別に聖園さんのことを〝敵〟とは思ってなかったと思いますよ
「……一応理由を聞いておくけど……どうしてかな?」
だって………ヒナからしたら〝敵〟って呼べるほどの脅威じゃなかったと思いますし……
「…………」
今度はピキピキッ!と連続で音がなるが、ミカは笑顔を崩さないまま返事をする
「……本当は今すぐ貴方と〝お話〟したいところだけど……それは戦術対抗戦の時に嫌という程できるしいいや」
そう……ですか?じゃあ、俺はこれで………
「………最後に一つだけ良い?貴方達の委員長に伝えてほしいことがあるんだけど………」
……?別に構いませんけど……
「…………じゃあ、言うね?」
「アリウス自治区で私を止めてくれてありがとう、それと……………今度は私が貴女を叩きのめすから」
──────────
────────
──────
────ってことがさっきあったんですけど………どう思います?
「うん、とりあえず〝相手を挑発してる時の酒泉も色気があってカッコいい〟ってことは理解できた」
俺も〝ヒナは誰の目から見ても最強で最カワだ〟ってことは理解できました
「相変わらずですね……お二人は」
酒泉の膝に乗りながら今回の作戦の書類に目を通すヒナ、そんな二人を〝またか〟という視線でチナツは眺める
「こんな状況でも平静を保ってられるなんて……羨ましいよ」
「………ところで……アコ行政官は?」
「幼子のように膝の上にチョコンと座るヒナ委員長マジ天使………でもその膝が誰の膝なのかというと………あれ?もしかして私ではヒナ委員長のあの表情を引き出すことができない………?ぐぎぎぎぎぎ………!」
「あそこでヘイローの破壊と再生を繰り返してるよ」
「……実はあの人が一番人間をやめているのでは?」
気軽に生と死の狭間で反復横跳びする自分等の上司の姿を見てイオリとチナツはドン引きする
……が、アコ行政官が狂っている(服装も狂っているが)のはいつもの事なのでそのままスルーした
「それにしても……今日は一般の生徒の方々が多いですね……?」
「今回の戦術対抗戦がシャーレ主催っていうのもあるけど………でも、それ抜きにしてもトリニティ側の面子が豪華だからね」
「だから他校の生徒達もチラホラと見かけるんですね……」
今回の戦術対抗戦はトリニティ総合学園で行われるが、観客席にはゲヘナやトリニティ以外の制服を着た少女達も存在していた
「………な、なんだか緊張してきましたね」
「まあ、気持ちは分からないでもないよ」
「忘れ物はない?大丈夫?」
俺は大丈夫です、ヒナの方は?………って聞くまでもないですね
「うん、私も大丈夫。それに………家出る前に一緒に確認したからね」
「………あの二人が羨ましいですね」
「強者故の余裕……的な?」
自分等の心が少しずつ緊張に飲まれていくのに対し、むしろ自分達のイチャイチャフィールドを外に広げていくバカップル
二人はカバンの中身を一個ずつ取り出して忘れ物がないか確認していく
「………い、委員長?それは?」
「……これ?お弁当だけど?」
そんな中、何かを発見したアコが恐る恐る声をかける
「……お、同じ弁当箱が四つ……ですか?」
「こっちはおかず、こっちがご飯だよ」
「……あ、あと二つ残ってますが?」
「これは酒泉の分」
「……………弁当箱だけじゃなく、中身も両方同じですか?」
「うん」
アコがワナワナと震え、何かを察したように答え合わせを始める
「……今日、お二人は共に登校してきましたよね?」
「うん、そうだけど………それが?」
「……ま、まさか………昨日はヒナ委員長の家でお泊まり会して、次の日の朝にそのまま二人でお弁当を作ってきたんですか?」
「うん、共同作業だね」
「………」
「アコちゃん?どうしたの?」
「………アコ行政官?」
「…………ぁ………」
「あ?」
「アッシマーがあああああああああ!!!!!」
「うわあああ!アコちゃんのヘイローが爆発したああああ!誰かガムテープ持ってきてえええ!」
「ガムテープっ!?そもそもヘイローって触れないのでは!?」
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「今回はどうなるんだろうな?」
「どうせまたゲヘナの……私達の勝ちだろ」
ちょっとした私用で席を外していたコハルは正実の皆の所に戻ろうと急ぎ足で歩いていた
………が、その道中、少々口の悪いゲヘナ生達の会話を耳に入れてしまった
「今回の向こうのメンバーは結構本気みたいだぞ?」
「何も変わらないだろ………救護騎士団の団長がどんな人物かは知らないけど、正実は一度下したことのある相手だし聖園ミカだって風紀委員長様に負けたって話だし、誤差だろ」
「それにしても……トリニティも本当に必死だよな、まさか裏切り者の〝魔女様〟まで駆り出すなんてよ!」
「〝正義〟実現委員会とか言っておきながら、犯罪者と共闘するなんて………面白い連中だよなあ!」
自分達は何もしていないくせに〝楽勝だったぜ〟と言わんばかりの態度のゲヘナ生二人
二人の相手を見下すような陰口はそれだけでは留まらず、ヒートアップしていく
コハルはムッとしながらも何とか聞き流そうとする
「それにしても、トリニティの連中も可哀想だな………毎回毎回同じ結果を見せられてよぉ」
「まあ、恨むなら弱い自分達を恨めってな!はははっ!」
────が、コハルには自分の大切な人達を馬鹿にされて黙っていられる程の心の広さは持ち合わせていなかった
小さな拳をぎゅっと握りしめ、決意を込めたような表情で一人で近づいていく
「ちょ……ちょっと!今の言葉、訂正しなさいよ!」
「……あ?誰だお前?」
「この制服………トリニティの正実か?」
自分達の目線より下から吠えてくる少女を見て、二人のゲヘナ生は鼻で笑う
「なんだ?お仲間を侮辱されて怒っちまったか?」
「全部事実なんだし、別に問題ないだろ?」
「せ、正義実現委員会の〝正義〟っていうのはアンタ達みたいな野蛮な連中に量れるようなものじゃないのよ!そんな貴女達には正義がどうこう言う資格はないわ!」
「……なんだと?」
「私の仲間を侮辱したことだって許さないわ!先輩達は実際の実力だけじゃなく、現場での判断や心構えだって凄いんだから!単純な勝ち負けでしか評価できないような貴女達が知ったような口を利かないで!」
ゲヘナ生の顔に怒りが帯びていくが、それでもコハルは止まらない
「そ、それに………アンタ達はミカ様のことを悪く言えるような立場なの!?」
「……あ?」
「自分から表舞台にも出ないで偉そうにしてる口先だけのアンタ達なんかより、ミカ様の方が断然強いしカッコイイんだから!」
コハルの言葉を聞いた二人は青筋を立て、顔を見合わせる
そのままコハルの前に一歩足を踏み入れて威圧するかのように佇む
「な、なによ……そんな事したって……こ、怖くないんだから!」
「どうする?やっちまうか?」
「そんな事して大丈夫か?この会場には風紀委員だっているんだぞ?」
「なーに、ちょっと痛い目を見てもらうだけだって………」
そう言って下品な笑みを浮かべながらコハルに近づくゲヘナ生達
コハルは身体が震えるが、それでも目を逸らさずに怯えながら相手を睨み続ける
そんなコハルの姿を見て二人の生徒はコハルに手を伸ばし─────
「へー?誰が痛い目を見るって?」
瞬間、二人を襲う強烈な〝殺気〟
決して逆らうことの出来ない絶対強者からの威圧に、恐る恐る後ろを振り向く
「み、聖園ミカ………!」
「なんで……ここに……」
「そんな怯えなくてもよくない?ちょっと話しかけただけじゃん」
二人の肩に手を置き、笑顔で語りかけるミカ
しかし、二人の肩からはギチギチと嫌な音が鳴っている
「それで?誰が誰を痛い目に合わせるって?私にも教えてほしいな☆」
「い、いや……それは……」
「お、お前には関係ないだろ!」
「そんな冷たいこと言わないでさ────」
「私とも〝仲良く〟しよ?」
ミカは耳元でそう囁き、二人の肩から手を離す
二人は何も言い返すことなく、ただ身体をガタガタと震わせているのみ
「じゃっ、もうすぐ時間だし………そろそろ行こっか?」
「えっ?……は、はい!」
ミカに目配せされ、その後ろを駆け足でついていくコハル
その場に残されたのは愚かな二人の生徒と、そして────
「貴女達が他校の生徒と問題を起こそうとしてた人達?」
………余計な事をしてくれたな?
「お、折川酒泉!?」
「ひっ……空崎ヒナ……!」
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「……コハルちゃん」
「な、なんでしょうか……?」
「ありがとね、私の為に怒ってくれて」
「……え?」
「さっきの会話、実は最初から聞いてたんだ」
「そ、そうだったんですか!?」
「勿論、コハルちゃんは私の為だけじゃなくて皆の為に立ち向かったってことは知ってるよ?けど……それでもお礼を言わせてほしいの」
「ミカ様……」
「ありがとう、こんな私の為に怒ってくれて………こんな私を〝カッコイイ〟って言ってくれて」
「…………」
「……あはは!なんて、ちょっと馴れ馴れしくしすぎたかな?じゃあ、私は先に行くから─────」
「─────ミカ様!」
「……なに?コハルちゃん」
「戦術対抗戦、頑張ってください!私………応援してますから!」
「………うん!任せて!絶対に勝ってくるから!それに、コハルちゃんに応援された今なら────」
「────私、最強だから☆」