〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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本編前から付き合うことに成功し、更には未来永劫幸せが確定した無双竜機ヒナちゃんミカファール・ハリファイバー

 

 

 

 

 

『なんで……なんであんなこと言ったの……?』

 

 

一切の穢れのない白い髪を乱しながら、少女が涙を流している

 

〝あ、でも俺以外にも空崎さんを支えようとする人が現れたら全然その人に頼ってもいいですからね?〟

 

……彼女の質問は俺がそう言い放った事に対してだろう

 

 

『私には酒泉しかいないのに……私は酒泉に〝支えてほしい〟って言ってるのに……!』

 

 

彼女の手に力が込められる………俺の両腕を押さえつける力が

 

 

『自分の代わりなんて幾らでも居るって……?そんな訳ないでしょっ!?折川酒泉はここにしかいないんだよ!?』

 

 

涙が俺の顔にまで零れてくる

 

 

『それなのに、どうして………どうして自分のことを軽視するの……?どうして私の言葉を素直に受け止めてくれないの……?』

 

 

彼女の両手に更に力が入り、俺の腕はもはやピクリとも動かなくなる

 

 

『………もういい、ここまで言っても何も分かってくれないなら…………無理やり分からせるから』

 

 

抵抗する術を失った俺の顔に、彼女の顔が近づいて─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この世界で一番嫌いな人間鈍感だった頃の自分の夢を見てしまったせいで最悪の目覚めだった

 

……が、隣ですぅすぅと静かに寝息を立てているヒナの姿を見て心が落ち着く

 

ゆっくりと起き上がろうとすれば、ヒナは無意識に腕を絡ませて動きを封じてくる…………一糸纏わぬ姿で

 

なんとかヒナの腕を解いて身体を起こす───瞬間、腰に痛みが走る

 

ベッドから少し離れた場所に置いてあるゴミ箱に視線を向けると、そこには〝表面に数字が書いてある、空になった箱〟が捨てられていた

 

明日に響くから止めようって言ったのに………まあ、響いたのは〝腰に〟なんですけどね!HAHAHAHAHA!

 

………使い切るまでヤられるとは思わなかったです、はい

 

あれは途中から俺の声聞こえていなかったんじゃないか?最終的には〝すき〟と〝だいすき〟と〝あいしてる〟と〝しゅせん〟しか喋ってなかったし……

 

てか俺の首元にめっちゃ赤い跡残ってるんだけど、俺が限界を迎えて寝落ちした後もナニかやってた?………いや、よく見たら噛み跡も残ってるな

 

風紀委員長の姿か?これが………なーんて、そんなところも可愛いんだけどな

 

「んぅ……しゅせん……」

 

ヒナの髪をサラッと撫でると、空いている方の手でギュッと掴まれてしまう

 

おっと……これはしくじったか?余計に身動きが取れなくなったな

 

あまえんぼさーん、朝ですよー

 

「……んー……」

 

俺の手に頬をすりすりと押し付けてくるが、起きる気配はない

 

困ったな……今日は朝から戦術対抗戦絡みの書類仕事が残っているのに……

 

移動に利用した車のガソリン代や弾薬等の費用、それらを万魔殿に報告しなければならない

 

「……すぅ………」

 

ヒナ?遅れるぞー?

 

「……やっ……もっとねる……」

 

駄目だ、駄々っ子モードに入ってる……

 

「……ただし……」

 

ん?

 

「……ちゅーされると……やるきがでるかもしれない……」

 

………はいよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この日、私は────錠前サオリは人生で一番不幸だった

 

偶然ブラックマーケットで出会った者に護衛の依頼を頼まれ、報酬金に惹かれてそれを引き受けた

 

先生に教えられた通り契約書にも目を通し、特に騙されている訳でもなさそうだと安堵して仕事場に向かった

 

それなのに……それなのに、何故─────

 

 

 

 

 

 

「空崎ヒナが来たぞおおおおお!」

「前衛の部隊は何をやって───えっ?全滅?」

「もう駄目だ……おしまいだぁ……!」

「なんですってえええええ!?」

 

 

 

 

 

 

 

─────何故、自分は悪魔と対峙することになっているのか

 

 

(……不味いことになったな)

 

 

思い起こすは調印式での戦闘

 

ユスティナを片手で潰し、ゴミを払うかのようにアリウス生をデストロイヤーで吹き飛ばし、そして────

 

 

 

 

『………もう終わりにしない?』

 

 

 

 

────ミサキを壁に蹴り飛ばし、ヒヨリを地に伏せさせ、アツコをマスクごと叩き潰したあの光景

 

その時、自分は何をやっていたのか

 

必死に抗い、何度も攻撃を加え、そして………拳によるたったの一撃で、喋ることすらできない程のダメージを負わされた

 

ユスティナを制御できていなければ間違いなくあの場で捕らえられていたであろう………いや、それでも殺されるよりはマシだったのかもしれない

 

ともかく、自分達のトラウマになるほど叩きのめされた相手……それが空崎ヒナだった

 

………一応、アリウス自治区で助力してくれたことはあるが……あれは折川酒泉曰く〝放置しておくと面倒なことになるから〟らしい

 

その後の対応を全て先生に任せていたところを見るに………あの場は見逃してもらっていただけに過ぎないのだろう

 

こうして再び出会ってしまえば、今度こそ捕らえられてもおかしくない

 

 

「し、新入り!出番だぞ!」

 

「せっかく高い金を出して雇ったんだ!ちゃんと働いてもらわないと─────ひっ!?」

 

近くの外壁を破壊して悪魔が侵入してくる………ここらが潮時か、腹をくくるとしよう

 

 

「な、なんて馬鹿力───ぐぁっ!?」

 

「大人しくして、私の目的は貴方達というよりも………ん?」

 

 

ヒナの姿を確認すると、此方の存在に気づかれる前に奇襲を仕掛ける

 

この程度の戦力では逃げることさえ不可能なのは分かり切っている、それならば………初手で決着をつけるしかない

 

 

「貴女は………」

 

 

ヒナが此方に何かを言おうとするが、そんな事などお構い無しに攻撃を仕掛ける

 

狙うは喉元────否、正面は危険すぎる

 

ならば脚を狙って動きを────その間に間違いなく反撃される

 

それなら………背後を取って意識を刈り取る程の一撃を────!

 

「っ!」

 

 

依頼人から前もって支給されていた爆弾を放り投げる

 

ヒナの手前に転がると同時に起爆スイッチを押し、そのまま爆発させる

 

爆煙が彼女の黒羽を覆い、そのまま身体全体を包み込んでいく

 

だが……まだだ!この程度で傷をつけられるような相手じゃない!

 

爆煙の中の人影の背後を取り、後ろから首を腕で締める

 

 

「捕らえた……!」

 

 

身体を無理やり持ち上げ、より息を吸いにくくさせる為に背中に膝を突き刺して相手の腹を前に出させる

 

このまま意識を落として、その隙に────っ!?

 

 

(身体が……離れて……!?)

 

 

自身の腹辺りに視線を向けて見れば、ヒナの羽がググッと音を立てながら広がっていく

 

 

(馬鹿な……こんな薄い羽にこれ程の力が─────)

 

 

瞬間、後ろに力強く弾き跳ばされる

 

 

「がっ───はぁ……っ!」

 

 

そのまま壁に勢いよく叩きつけられ、一瞬だけ呼吸が困難になる

 

だが、この程度の痛みはアリウス自治区にいた時に散々味わってきた

 

すぐに態勢を立て直そうと身体を起こし────

 

 

「久しぶりだね、確か………錠前サオリ、だったよね?」

 

 

────銃口を突きつけられる

 

 

「……っ!」

 

「動かないで」

 

「ぐっ………!」

 

 

咄嗟に銃を上げようとしたが、手を踏みつけられて動きを封じられる

もはや打つ手無し、せめてもの抵抗に殺気を込めた視線をぶつけようとし────

 

 

「………っ……」

 

 

────彼女の目を見て〝理解〟してしまった、これは戦い以前の問題なのだと

 

大人が赤子の手を捻るように、人が蟻を潰すように、そもそも彼女にとってこれは〝戦闘〟と呼べるような行為ではないのだ

 

空崎ヒナは普段からゲヘナの暴徒達を取り締まっていると聞くが………先程の私とのやり取りも同じような事だったのだろう

 

〝騒がしいから注意する〟………ただそれだけだ

 

彼女の前ではアリウススクワッドのリーダーが相手だろうと、異常な戦闘力を誇る元ティーパーティーの少女が相手だろうと、そこらの不良に〝注意〟する事と何も変わらないのだろう

 

 

(………つくづく運が無いな、私は)

 

 

こうなってしまったからには諦めるしかない

 

 

(………すまない、皆……これからは顔を出せそうにない)

 

「丁度良かった………貴女、〝ゴーグル団〟について何か知ってる?」

 

 

そんな事を考えていると、ヒナが銃口を下ろし、更には手の上から足を退けて質問してきた

 

ゴーグル団……?

 

 

「………なんだそれは?」

 

「その反応だと本当に何も知らなそうだね………じゃあ、もう一つ質問。貴女はどうして彼等に協力していたの?」

 

「……バイトだ」

 

「……バイト?」

 

「要人護衛の仕事があると聞いてな………それでいざ応募してみればこの様だ」

 

 

納得、といった表情で頷くヒナ

 

彼女はそこら中で気絶している者達に視線を向ける

 

 

「彼等は最近ブラックマーケットで頭角を現してきた組織よ、武器の売買などを主に取り扱っている……ね」

 

「………何故、ブラックマーケットの連中を風紀委員が追っていた」

 

「……ゲヘナ学園の不良グループの一員が彼等と行動を共にしていたって情報が入って、それでここまで追ってきたの」

 

成る程、確かに自分の学園も関わっていたとなれば見過ごせないだろう

 

 

「その不良グループの名前が、さっき言っていた………ゴーグル団とやらか」

 

「うん、変な名前だよね」

 

 

………裏の世界には変わった名前の連中ばかり居るな

 

 

「まあ……これからは契約書を読むだけじゃなく、ちゃんとバイト先の情報も集めておいた方がいいよ」

 

 

そう言ってヒナは背中を向けて────は?

 

 

「待て……私を捕らえないのか?」

 

「……何で?」

 

「何故って………私はお尋ね者だ、少なくともそこらで転がっている連中よりは極悪人だぞ」

 

「貴女達の扱いに関しては全部先生に任せたし……私からは別に……」

 

 

そう呟いたかと思えば、何かを思いついたかのように此方を見つめてくる

 

 

「でも、完全に無視するのも事件の当事者としては不味いかも………錠前サオリ、その銃を持って」

 

「……これをか?」

 

「うん」

 

「………持ったぞ、それで?」

 

「それを私の足に一発撃って」

 

「なっ……」

 

 

唖然とする私に対して、ヒナは〝早くしろ〟とでも言うかのように目配せしてくる

 

既に敗北し、退路を絶たれた私は大人しく彼女の言うことに従った

 

一発の弾丸が彼女の足に当たるが、掠り傷一つすら付いていない

 

 

「……撃ったぞ、これでいいのか?」

 

「うん、今ので私は足を怪我した」

 

「………は?」

 

「これで私は貴女を追うことができなくなった」

 

「………絶対に嘘だろう」

 

 

 

 

 

 

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失礼しまーす、報告書提出しに来ましたー

 

「キキキッ!来たか………ん?待て、その首はなんだ?」

 

「昨日の戦術対抗戦で怪我なんてしましたっけ……?」

 

羽沼さんと棗さんがガーゼを貼っている首元に指を指してくる

 

これ?これは……まあ……戦術対抗戦の後に怪我したと言いますか……

 

 

「………まあ、相変わらず仲が良いようで」

 

「バカップルめ……」

 

 

ありがとうございます、最高の褒め言葉です

 

 

「褒めてなどいないわっ!」

 

 

羽沼さんは声を大にして叫ぶ

 

大変そうだな………(他人事)

 

 

「……まあいい、戦術対抗戦の結果に免じて貴様の態度は許してやろう」

 

許させてやろう

 

「貴様マジでいい加減にしろよ」

 

 

そんな怒んなくても……後輩のちょっとしたオチャメぐらい寛容な態度で受け入れてほしい

 

そんなんだから他の生徒に「万魔殿?何それ?美味しいの?」とか言われるんだぞ

 

「今、何か失礼なことを考えなかったか?」

 

今に限らずしょっちゅう考えてますよ

 

「よし、表に出ろ」

 

「普通に返り討ちにされると思いますよ……」

 

 

なんだなんだ、カルシウム足りてない人だなぁ……

 

 

「………このままだと話が進まん、本題に入るぞ」

 

……本題?報告書の提出を求めてただけじゃないんですか?

 

「むしろ今からする話がメインだ………さて、早速だがシャーレから緊急会議の連絡が来た」

 

緊急会議ぃ?

 

「未知のエネルギー反応がどうたらこうたらと言っていたが………そんな事はどうでもいい!」

 

どうでもよくないだろ……仮にも組織のトップなのに

 

「〝仮〟とはなんだ!?」

 

それにしても未知のエネルギー反応か………最終編の話かな?

 

……まあ、俺達風紀委員は命じられるがままに敵を倒すことだけを考えればいっか

 

Keyを船に乗せるとヤバいってことも伝えておいたし、サンクトゥムのことも既に話してある。対策は先生やミレニアムの天才達が考えてくれるだろう

 

専門外の俺では力になれないし、そこら辺はミレニアムでどうにかしてほしい

 

……で?羽沼さんはその会議をどうするつもりですか?

 

 

「ふん、そんなの決まっている────すっぽかすぞ!」

 

「まーた先輩が訳分かんないこと考えてる……」

 

………まあ、一応理由だけ聞いておきましょうか

 

「うむ、どうやらシャーレは各校の代表に声を掛けているらしくてな………それはつまり、全ての生徒が力を合わせねばならない事態だということだ」

 

……それで?

 

「全学園の中でも武力に置いて我々の右に出る者はいないだろう、それ即ち………我々が会議に参加しなければ戦力の大半を失うということだっ!」

 

 

ドヤァ!っと得意気に馬鹿げたことを話すタヌキ

 

俺も棗さんも呆れ返っている

 

 

「これはシャーレに貸しを作るチャンス………いや、上手くいけば他校にも貸しを作れるかもしれん!キキキキキッ!!!」

 

はぁ……そうですか……

 

「つまり!あの憎きトリニティも!最先端の技術を誇るミレニアムも!その他有象無象共も全てゲヘナの支配下に置けるということだ!」

 

「全学園と戦争でも起こすつもりですか?」

 

「そうなっても問題ない!此方には風紀委員が────」

 

そんな下らないことの為にヒナの力を利用するなら今すぐここで暴れますよ

 

「────というのは冗談でだな………」

 

「そういう切り替えの早さだけは尊敬できるんですけどね………」

 

 

普通に腹立つことを言われそうだったので、軽く殺気を飛ばして牽制しておく

 

ヒナを利用しようとする者に人権は必要ない

 

 

「……で?結局、会議の方はどうするんですか?本当にバックレるおつもりで?」

 

「………不本意だが力を貸してやろうと思っている」

 

へー……アンタにしちゃ意外だな

 

「……ていうか、そんなに会議に出たくないなら最初から酒泉に伝えなければよかったのでは?」

 

「どうせ黙っていたら黙っていたで謎の情報網からこの男に伝わるだけだ、だから事前に話を通しておいた」

 

 

羽沼さんの言う通り、俺には謎の情報網(原作知識)があるからな

 

会議の時に風紀委員が呼ばれなかったとしても誰の仕業かなんて一発で分かる

 

 

「なるほど……先輩にしてはちゃんと考えていたんですね」

 

「………何の連絡も無しにゲヘナ自治区の一部をトリニティ生用の試験会場にし、そのせいで後日延々と殺気をぶつけられながら酒泉に責められ続けたティーパーティーの紅茶狂いのようにはなりたくないだろう」

 

 

あれは本当にムカついたな………ヒナとデートを終えた帰り道にいきなり〝ゲヘナ生とトリニティ生が問題を起こした〟って緊急連絡が来たんだもん

 

そりゃ、ぶちギレるよね………問題起こすにしても自分達の学園内で完結してほしいわ

 

 

「……まあ、とにかく話は終わりだ。後はバカップルでいちゃつくなり好きにしろ」

 

了解でーす……といっても、ヒナの方は外回りから帰ってくるの遅れそうなんですけどね

 

「おや、そうなんですか?」

 

はい、なんか外のパトロール中に近くで騒ぎが起きたからちょっと様子を見てくるとかで……

 

「書類仕事の後は外回りですか……大変ですねぇ……」

 

どっかの上層部さん達が治安維持をサボるせいで、定期的に二人で回って問題児共に圧をかけてるんですよ

 

「……怒りを買わない程度には働いておきますか」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「それでね!コハルちゃんったら〝次は私もミカ様と一緒に戦いますから!〟って張り切っててね!」

 

「そう……なんだ?」

 

 

ヒナは困惑していた

 

例のグループ………ゴーグル団を捕らえ、風紀委員達に連行させたまでは良かった

 

だが、問題はその後だ

 

目の前の少女────聖園ミカはなぜゲヘナ自治区にいるのだろうか

 

何かをキョロキョロと探す彼女を見掛けたが、特に用事も無かった為にそのまま通り過ぎようとした

 

だが………

 

 

『あっ!いたいた!』

 

『………私?』

 

 

……何故か向こうから話しかけてきたのだ

 

彼女の台詞から察するに、ミカはヒナのことを探していたのだろう

 

ミカはなにやら、ヒナを何処かに案内したかったらしいが………ここに来てヒナの不機嫌ゲージが貯まっていく

 

理由は単純、〝酒泉ゲージ〟が尽きかけていたからだ

 

速攻でブラックマーケットに潜もうとしていた組織を潰し、速攻で彼等と繋がりのあったゴーグル団を捕らえ、スムーズに錠前サオリも適当に言いくるめ、後はゲヘナに戻って酒泉と再会するだけだった

 

酒泉の方もとっくに万魔殿への報告は終わっているだろうし、そのまま二人で帰宅して好きなだけイチャつくだけ………だったはずなのに

 

「まあ、要するに………コハルちゃんって天使だよねってこと!」

 

「ええ、そうね」

 

 

ミカの言葉に適当に相槌しながらも大人しくついていくヒナ

 

本当なら今すぐにでも帰りたいところだが、トリニティ生にゲヘナで問題を起こされても困る為、仕方無く付き合っていた

 

しかし、道中で〝何処に行くの?〟と聞いてもミカははぐらかしてくるばかり

 

 

「さて………ここら辺でいいかな?」

 

 

そう言ってたどり着いたのは誰も居ないような廃墟

 

………以前、トリニティによって〝勝手に〟補習授業部の試験会場にされた場所だ

 

 

「〝今度こそ皆で勝ちましょうね!〟………コハルちゃんが私の目を真っ直ぐ見つめてそう宣言してくれたんだ」

 

「……だから?」

 

「別に今すぐ勝とうってつもりはないよ?戦術対抗戦での借りは戦術対抗戦でしか返せないだろうし………」

 

「………とりあえず用件を言って」

 

「そう?じゃあ、遠慮なく言わせてもらうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リベンジの機会が訪れる前に、壁がどれほど高いのか確かめてみよっかなって☆」

 

 

 

瞬間、ヒナの面倒そうな表情が一瞬で無表情に変わる

 

〝酒泉ゲージ〟が底を尽き、〝不機嫌ゲージ〟が天井を突き抜けた

 

………空崎ヒナは別に戦闘狂という訳ではない

 

その圧倒的な実力だって愛する者を護り、愛する者を支える為に鍛えたものだった

 

しかし、空崎ヒナはこの時ばかりは─────

 

 

 

 

 

 

 

 

「………一発だけ付き合ってあげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

─────目の前の相手をぶん殴ることを選んだ

 

 

 

ミカが微笑んでから駆け出す

 

銃は使わない、彼女の前では鉛弾など何の意味もなさない

 

足を踏み入れる、拳を上げる、単純な動作

 

ヒナは一歩も動かずにそれを眺める

 

そして、ミカの拳がヒナの額に直撃した

 

衝撃波を発し、ヒナの立っている地面にヒビが入り、周囲の瓦礫が吹き飛ぶ

 

 

「………あはっ、そんな気はしてたよ」

 

「……もういい?」

 

 

しかしヒナは顔色一つ変えずに佇むのみ

 

そんな彼女を見て、ミカは〝やはり〟といったような顔をする

 

 

「……付き合ってくれてありがとう、それと………次は私とコハルちゃん───でえ゛っっっ!?」

 

 

ミカが言葉を言い終えると同時に、今度はヒナの拳がミカの顔に突き刺さる

 

アリウス自治区の時と何も変わらず、ミカは殴り飛ばされる

 

………唯一、変わったところがあるとするならば────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────空崎ヒナの立っていた場所にほんの少し……ほんの数ミリだが、後ろに足を引きずったような跡が残されていた

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「酒泉!」

 

 

執務室に入ると同時に飛びついてくるヒナ

 

おいおい……誰も居ないからってはっちゃけすぎでは?

 

「酒泉……私ね、お仕事頑張ったよ?」

 

 

おっ?これは……ゲージが尽きたな?

 

 

「だから………ご褒美が欲しいな?」

 

 

ヒナは此方の腰に手を回してギューっと力を込めてくる

 

……正直、昨夜の事もあって腰が痛い

 

………まあ、俺が耐えればいいだけの話か!

 

 

「むぅ……聞いてるの?酒泉」

 

 

脇腹を突っつきながら頬を膨らませるヒナ、やっぱ天使だろこの人

 

……で?ご褒美って何が欲しいんですか?

 

 

「その……」

 

 

……お?ヒナがここまで恥ずかしがるなんて珍しいな?

 

こんな反応、付き合いたての時以来だな……

 

ヒナの返事を待っていると、モニョモニョと何かを呟く

 

 

「い、今すぐとかじゃなくてもいいから……その……しゅ、酒泉との子どm─────」

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナ委員長!ただいま戻りうわああああああああ!!!ヒナ委員長が酒泉に抱きついてるうううううう!!!」

 

「あ、アコちゃんの全身の穴という穴から血がっ!!!」

 

「な、なんで今更こんな事でダメージを!?」

 

「戦術対抗戦の時の〝よしよし〟で抗体がリセットされたんだ!早く血を止めないと!」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

お、皆さん校内の見回りから戻ってきたようですね

 

「………うん」

 

………あー……ヒナ、ちょっといいですか?

 

「……なに?」

 

さっきのご褒美なんですけど………俺が卒業してどっかに就職して、それでちゃんと責任取れるようになってからでも良いですか?

 

「……え?分かったの?」

 

そりゃあ、ヒナのことですからね

 

「……うん、うん!私、待つから!ずっと待つから!」

 

なら、良かった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、でも働くのは私だから。酒泉は家で私の帰りを待っててね」

 

え゛っ

 

「それなら酒泉が卒業してすぐに〝できる〟でしょ?」

 

………は、はい。畏まりました

 

 

 

 

 

 

 

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