〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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正実モブちゃんに告られた酒泉君の話─完─

 

 

 

俺、実は支えたい人がいるんです

 

その人は強くて賢くて、でも努力も欠かさなくて………とにかく、そんな凄い人なんですよ!

 

………でも、めっちゃムカつくクソ上司に嫌がらせされたり、テロリスト共の相手をさせられたりと色々と不憫な人でもあるんです

 

その人だって本当は誰かに甘えたりじゃれあったり泣き言だって言いたいだけの、そんな普通の女の子なのに……

 

だから俺は決めたんです、その人が楽できるような環境を作ろうって……その為にもっと強くなろうって

 

………まあ、時々気張りすぎて逆に心配掛けてしまうこともあるんですけどね

 

でも、それだけその人を本気で支えたいって思ってるんですよ!………本人とも約束しましたし

 

だから、俺は何があろうと空崎さん……じゃなくてっ、本人が望む限りは支え続けるつもりです

 

……ここまで長々と話してしまってすいません、要するに何が言いたいのかというと……

 

………多分、俺達が付き合ったとしても今まで通りその人を支えるってことは変わらないし、風紀委員である以上は何か起きた時もその人を優先すると思います

 

俺はそんな中途半端な状態で付き合って貴女の心を傷つけたくないし………貴女の時間も奪いたくないです

 

だから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女の告白にお応えすることはできません

 

 

 

 

 

 

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「……そう……ですか」

 

 

間に気まずい空気が流れる

 

この空気を作った張本人は真っ直ぐ目の前の少女を見つめ、その少女も一瞬目を伏せてから上に視線を上げる

 

 

 

「……私よりも先に出会ってたのなら……仕方ない……ですよね」

 

……すいません

 

「……いえ、酒泉さんなりに気を遣ってくれたんですよね?」

 

 

 

目の端を濡らしながら少女は語り出す

 

 

 

「もし私と付き合った時に、本当に私のことを幸せにできるのか………そこまで考えて判断してくれたんですよね?」

 

…………

 

「だから事前に〝付き合っても他の人を優先するかもしれない〟って……そう忠告してくれたんですよね」

 

……はい

 

「……優しいですね、酒泉さんは」

 

 

 

 

必死に堪えていた涙がポロポロと溢れ出す

 

 

 

 

「……ほ……本当に……本当に駄目なんですか……?」

 

すいません

 

「私、我慢します………酒泉さんが誰といても……絶対に耐えてみせますから………!」

 

………すいません

 

「………どうしても………?」

 

 

 

 

何度聞いても首を横に振る酒泉

 

少女はその反応を見て黙り込み、暫く顔を伏せる

 

 

 

 

「分かり……ました………」

 

……その、なんて言えばいいのか────

 

「────待ってください………最後に一つだけ、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

……はい

 

「胸を……貸してくれませんか?」

 

 

地面にポツリポツリと小さな染みが出来ているのを見た酒泉は、無言で両手を広げて胸を前に出す

 

少女は力を無くしたように倒れ込み、そのまま酒泉に身体を預ける

 

酒泉が少女を優しく包み込むと同時に、小さく啜り泣く声が聞こえてきた

 

だが、酒泉は慰めの言葉も励ましの言葉も何も言わず─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ただ、抱きしめ続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

……落ち着きましたか?

 

「ごめんなさい……我儘を言ってしまって……」

 

 

 

何分、何十分経ったのかも知らずにゆっくりと離れる二人

 

 

 

 

「……私、酒泉さんのことを好きになれて良かったです」

 

……俺も、貴女のように真っ直ぐで心優しい人に好かれて良かったです

 

「もう……そんなこと言われるとまた期待しちゃうじゃないですか……」

 

 

 

 

少女は涙を拭いながら、申し訳なさそうに口を開く

 

 

 

 

「あの、さっき最後のお願いって言いましたけど………やっぱりあと二つだけお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

俺にできることなら……何でも聞きますよ

 

「じゃあ、早速ですけど………これからも酒泉さんのことを好きでいてもいいですか?」

 

俺なんかより良い人なんていくらでも────いや、この答え方は失礼ですね……

 

……こんな俺でもいいのなら、どうぞ

 

「ありがとうございます、じゃあ最後に………」

 

 

 

 

少女は一歩近づき、大きく息を吸う

 

そして覚悟を決めた表情で──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしチャンスがあれば、また告白してもいいですかっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────さっきまでの静まり返った空気を一気に吹き飛ばした

 

 

 

 

 

 

………はい?

 

「しゅ、酒泉さんが優しいし律儀な人だってことは十分理解できましたけど………人間である以上は心変わりすることだってあり得ますよね!?」

 

いや、あの………

 

「で、ですから……!その隙を狙って堕としにいってもよろしいでしょうか!?」

 

えぇ……それ、本人である俺に言っちゃいます……?

 

「だ、駄目……でしょうか……?」

 

 

 

そこらの男よりも男らしく堂々と攻める少女、体を更にグイッと近づけるとそのまま酒泉と目を合わせた

 

上目遣い、そして涙目で見つめられる酒泉

 

ただでさえ〝自身を慕う女性を泣かせてしまった〟という事実に心を痛めているのに、その上そんな目で見られるなんて………酒泉には到底耐えられなかった

 

 

 

 

「ひっぐ…………ぐすっ……」

 

………ド、ドウゾ

 

「うぅ………え?いいんですか?」

 

オレ、ウソツカナイ……

 

「あ、ありがとうございます!酒泉さん!いつか必ず堕としてみせますね!」

 

 

 

 

少女は一気に満面の笑みに変わると、そのまま酒泉の手を握って礼を言った

 

 

 

「で……では!また今度!今日は本当にありがとうございましたー!」

 

 

 

大きく手を振りながら走り去っていく彼女を見つめる酒泉

少女の小さくも逞しい背中を見送り、そのまま自分も帰ろうと一歩踏み出した瞬間─────

 

 

 

 

 

 

「酒泉っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

─────突然木の裏から飛び出してきた白いモフモフの固まりに勢い良く抱きつかれた

 

 

 

 

「酒泉……酒泉……!」

 

一体誰───え?空崎さん?

 

「い、委員長!待ってください!」

 

「アコちゃん!今飛び出したら……」

 

……風紀委員の皆も?なんでこんな所に?

 

「……あっ」

 

「………手遅れですね」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

セットしていたスマホのアラームが鳴ると同時に両手を伸ばしながら身体を起こす

 

アラームを切ってからホーム画面に戻ると、モモトークに一通のメッセージが届いていた………そして、名前には酒泉に告白したあの少女の名前が

 

そう、実は今でも二人の関係は続いていた

 

この日はこんな事があった、この番組が面白かった、この日予定が空いてたら二人で遊びに行かないか

 

そんなごく普通にありふれた関係、あんな事があったのに未だにそんな関係が続いていることを少しおかしく感じながらも酒泉は立ち上がる

 

そのまま洗面台に向かって顔を洗い、パジャマを脱いで部屋着に着替える

 

さて、今日はどうするか……折川酒泉はそんな事を考えながら朝食の準備に取り掛かる

 

卵とベーコンを冷蔵庫から出し、作り置きしていたポテトサラダを出し、皿を用意してからフライパンに油を敷こうとし─────その直前にインターホンが鳴る

 

こんな朝から珍しい、そう思いながらも料理を中断して玄関へ向かう

 

〝今行きまーす〟と外にいる人物にも聞こえるように声を出し、そのまま扉を開けると────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ~☆遊びにきたよ~☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?聖園さん?

 

「ふーん?本当に普通の所に住んでるんだね?」

 

余計なお世話────って、そうじゃなくて……なんでこんな所にいるんですかアンタ

 

「……あの後冷静になって考えてみたんだけどさぁ……酒泉君とあの子が付き合ってる訳じゃないなら、別に遠慮する必要なんてないよね?あの子も〝まだ告白しかしてない〟って言ってたしさ」

 

………遠慮?何の話だ?アンタが俺に遠慮したことなんて一度でもあったか?

 

「まあまあ、細かいことはいいからさー……とりあえず中に入れてくれない?立ちっぱなしで話すの嫌なんだけど?」

 

話すって何を………まあいいや、言っときますけど部屋の中勝手に漁らないでくださいね

 

「分かってるよー」

 

 

 

 

急かすように体を押してくるミカ、酒泉も何が何やらといったような表情で渋々部屋に案内する

 

普通のテーブルに普通のキッチン、普通のソファに普通のテレビ

 

これといって何も変わったところのない、極普通のありきたりな部屋

 

そこに踏み入れた瞬間、ミカはニコニコと笑いながらお茶菓子の準備をしている酒泉に話しかける

 

 

 

 

 

「うーん……ホントに普通だね、何か面白い物とかないの?」

 

元ティーパーティー様から見ればそりゃ普通だろうよ………つーか面白い物ってなんだよ、アバウトすぎんだろ

 

「あはは!軽いじょうだんじゃーん」

 

 

 

 

 

ミカに対して呆れたような視線を向ける酒泉、そのままお茶菓子をテーブルに置いてテレビのリモコンを取ろうとした瞬間────

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ごめ~ん!足が滑っちゃった☆」

 

────は?………っとお!?

 

 

 

 

 

 

────わざとらしい声と同時に一気にミカに押し倒される

 

酒泉はその際に両腕を押さえられたせいで後頭部を守ることすらできなかった

 

だが、押し倒された場所が幸いにもカーペットの上だった為、それほど強い痛みは感じなかった

 

衝撃に反応して思わず閉じてしまった目をゆっくり開くと、ミカの顔が目前に迫っていた

 

 

 

 

────ってえな………今の絶対わざとでしょ……次やったら追い出しますよ?

 

「…………」

 

はあ……さっさと退いてください

 

「…………」

 

 

 

 

 

酒泉はとりあえず立ち上がる為にミカに退くように伝えるが、そのミカは酒泉を押し倒した態勢のまま一向に動かない

 

一言文句を言おうとミカに視線を合わせるが、何故か彼女は酒泉が前世で見たバッドエンドスチルと同じような表情をしていた

 

その様子に一瞬怯えるものの、すぐに気を取り直して口を開く

 

 

 

 

 

 

………聖園さん?聞いてます?

 

「やっぱりこうして両腕を押さえられただけで何にもできなくなっちゃうんだね、酒泉君って。そんなんでよく今まで誰にも襲われなかったね?」

 

……はぁ?

 

「いや、これからはあの子と付き合うかもしれないし、そしたら酒泉君が襲う側になるのかな?」

 

変なこと言ってないでさっさと退いてくださいよ………

 

「やだ、絶対退かない。だって、今ここで無理矢理にでも繋ぎ止めておかないと………私の前からいなくなっちゃうもん」

 

こうして目の前にいるじゃないですか……さっきから何なんですか、もう……

 

「……あの子の所には行かせないよ、絶対に」

 

ただの嫌がらせにしては悪質すぎでしょ……そんなに俺の青春を灰色にしたいんですか?

 

………まあ、自分から振っておきながら何言ってんだって感じですけど

 

「だから、今から酒泉君のことを力ずくで────え?振った?」

 

 

 

 

 

 

何かを言いかけたミカだったが、酒泉の言葉を聞いた瞬間にピタリと身体が止まる

 

 

 

 

 

 

 

「……振った?振ったって何を?もしかして……あの子のことを?」

 

………そうですよ、しかも自分勝手な理由でね

 

「……………」

 

今も連絡は取り合ってますし、また一緒に遊びに行く約束もしましたけど………ちょっと複雑な気分ですね

 

「……………」

 

……あの、聖園さん?黙ってないでとりあえず退いて─────

 

「………ってよ……」

 

────え?なんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先にそれ言ってよおおお!!!酒泉君のバカあああああ!!!」

 

 

 

ワナワナと震えたかと思えば、突如大声で叫んでそのまま酒泉から退くミカ

 

その勢いのまま玄関まで向かい、バタンッ!という大きな音を立てて家から飛び出していった

 

酒泉はそれをポカンとした様子で見つめるしかなく、我に返った時には既にミカの声は聞こえなくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────なんだったんだ、一体………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、天雨アコです

 

例の事件から数日が経ちましたが、あの時の騒ぎもすっかり鳴りを潜めました

 

いつも通り書類仕事をこなし、いつも通り暴徒達の相手をする、そんな日々を過ごしています

 

 

 

 

 

「委員長、こちらの書類にサインをお願いできますか?」

 

「んー……」

 

……ほら、空崎さん。仕事ですよ仕事

 

「んー!やー!しゅせんといっしょにいるのー!」

 

 

 

 

 

……そう、いつも通りに……

 

 

 

 

 

「ヒナ、おしごとよりもしゅせんといっしょにくっついてたいもん……」

 

……お、終わってからいくらでも相手になりますから、ね?

 

「やだ!いまするの!」

 

 

 

 

 

 

 

いつも……通り……

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、なでて?」

 

……は、はい

 

「えへへ……あったかーい……」

 

 

 

 

 

 

………いつも通り?

 

 

 

 

 

 

「んー……」グリグリ

 

あの……胸元くすぐったいんで、頭押し付けないでもらえると……

 

「……やっ」

 

 

 

 

 

 

 

………私達が酒泉を尾行したあの日、何が起こったのか話しましょう

 

〝ヒナ委員長を支える〟という酒泉の覚悟を聞いた委員長

 

彼の強い決意の込もった言葉は、自分ですら見たことのない表情を他の者に見せたことに対する嫉妬や、自分が酒泉に捨てられるかもしれないという絶望に埋め尽くされた心を一瞬で浄化しました

 

まあ……結論から言いますと────

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゅせんすきー♪だいすきー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ヒナ委員長の脳が溶けました

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー♪ちゅー♪」

 

………そっ、そういうことは将来お付き合いする人としなさい!

 

「やーだー!ちゅーするのー!」

 

あ、暴れないで……書類が落ちちゃうから……

 

「やだ!あまえたいじゃれあいたい!なきごとだっていいたい!」

 

そのセリフ、こんなテンションで言うようなセリフだっけ……?

 

「ぎゅー………」

 

 

 

 

 

 

「……酒泉!貴方はまたヒナ委員長の脳にダメージを与えて……!」

 

はっ!?俺が悪いんですか!?

 

「当たり前でしょう!ヒナ委員長の気も知らず、自分一人だけ他の女性とイチャイチャと……!」

 

り、理不尽……!

 

「むー……アコばっかりかまっちゃだめ!」

 

 

 

 

ヒナ委員長は再び正面から酒泉に抱きつきました

 

ぐぬぬぬっ……!今すぐにでもヒナ委員長を酒泉の魔の手から解放させたいのですが、そんな事をすれば私がヒナ委員長に嫌われてしまう可能性が……!

 

ええい!酒泉!貴方もいつまでベッタリしているんですか!

 

不敬です!今すぐ離れなさい!それにイオリとチナツもいつまで眺めてるんですか!早く止めに入りなさい!

 

 

 

「うわっ、アコちゃん凄い顔してる……」

 

「……………でも、確かに近すぎですよね」

 

「…………まあ、ね」

 

「…………し、正気に戻った時の為にも被害が少ないうちに引き離した方がいいのでは?」

 

「………そうだな、うん……これは風紀のため……風紀のため……」

 

 

二人もやっと動きましたか……そうです、こんな状況を放っておくわけにはいきません!

 

仕事に影響を及ぼしてしまう以上、これは解決しなければならない問題なんです!羨ましいからなどという私的な理由では断じてありません!

 

 

 

 

「い、委員長!まだまだお仕事が残ってますので……」

 

「やっ!」

 

「委員長!また自称美食家のテロリストが暴れ始めたから制圧に行こう!」

 

「やだ!」

 

「ヒナ委員長!甘えたいなら私の胸に────」

 

「アコはやだ」

 

「────折川酒泉っ!これが貴方のやり方ですかっ!」

 

流れ弾っ!?

 

「どきなさい!私はヒナ委員長のお母さんですよ!全力でお母さんを遂行しますっ!」

 

うわぁ……

 

「えへへー……しゅせんー♪ぎゅー♪」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 

「あ、アコちゃんが暴れだした!」

「増援!増援を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは余談ですが、ヒナ委員長は正気に戻った後は恥ずかしさのあまり三日間は学校を休みました

 

………何故か酒泉も同じ日数休んでいましたが、私はあえて触れません

 

 

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