酒泉「飲んだらヤンデレになる薬?」ミカ「うん」
「………てことで飲んでみない?」
飲むわけねーでしょ、アホですか
「まあ、さっきのジュースの中に一服盛っちゃったんだけどね☆」
何やってんだミカアアアアアアアア!!!
「あははははっ!そんな怒んないでよ~」
ヘラヘラと笑いながら謝罪の一つすらしようとしないアホゴリラ
こいつ……!ちょっとは反省しろや……!
「何の疑いもなく私の出したジュースを飲んじゃうからそうなるんだよ?警戒心が足りないんじゃない?」
うっせー!一応は信用してたんだよ!くそっ!
「……ふ、ふーん?そうなんだ……」
……つーか、どこで買ったんですかそんな怪しい薬
「んー?鼠耳の女の子がタダでくれたよ?なんか実験台探してたんだって」
よし、特定した
「……そ、それでさ?今どんな感じ?」
……何がっすか?
「だ、だからさ……その……わ、私に対して独占欲とか……」
……特にはなんも……
「……本当に?本当に何も感じない?」
……ハズレ掴まされたんじゃないっすか?
「むぅ……」
そんな不貞腐られても………そもそも俺のヤンデレって誰に需要あんだよ
こんな〝中盤のダンジョンに出てくる雑魚敵B〟みたいな奴が病んだところで面倒なだけだろ
男のヤンデレなんて女の嫉妬以上に見苦しいぞ
「……あーあ……せっかく酒泉君の面白いところが見られると思ったのになぁ……」
そんな事の為だけに怪しいモン飲まされたのか、俺は………
「まあまあ……結局何事もなかったんだし、別にいいじゃん☆」
目の前の女が舌を出しながらウィンクしてくる
この人は相変わらずだな………そんな事ばっかしてると本格的に嫌われるぞ?
「もっ……もしかして怒らせちゃった……?」
ジト目で睨みながらそんなことを考えていたら聖園さんが恐る恐る尋ねてきた
てか、今更すぎるだろ……とっくの昔から怒らされっぱなしだっつーの……まあ、本気で呆れるようなことは一度もされたことないけどさ
「……ん……い」
ん?なんですか?
「ごめん……なさい……」
お、おう?珍しく素直に謝ってきたな……
まあ、別にガチギレした訳ではないから、そんな気にしなくても────
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
────なーんて呑気にしてたら、突然聖園さんが泣き出し………は?え!?
「わ、わたし……なんの心置きもなくお話できる人が酒泉君しかいなくて………」
「前まではナギちゃんやセイアちゃんがいたんだけど……あの事件があってからは……二人との会話中にちょっと間が空くだけでも、勝手に思い詰めちゃって………」
「だ……だから……何も遠慮することなくぶつけることができる酒泉君に会えて……それで嬉しくなっちゃって……!」
「多くの物を捨てられた……ううん、自分で捨てちゃったバカな私に残されてるのは………もう酒泉君だけなの……!」
「わ、分かってる……自業自得だってことは……けど、それでも私は……!」
────ヤバイ、頭がフリーズしていた
は?なに?この人ずっとこんなこと考えていたの?
いや、でも俺のこと煽ってばっかだったし………え?その裏で隠してたってこと?
あまりの変わりように思考が追いつか──────待てよ?一連の流れを思い出せ折川酒泉!
まず最初に俺が飲まされたのは〝飲んだ人がヤンデレになる薬〟!
……いや、だとしたら聖園さんに変化が訪れるのはおかしくね?
………もしかして、飲んだ目の前の人がヤンデレになるだけなんじゃ────
「お願い……む、無視しないで……今までのこと全部謝るから……これからはイイ子になるから……!」
────っと……考えてる場合じゃねえ……!
聖園さん!俺は別に怒ってませんから!ちょっと考え事に集中してただけですから!
「……ほ、本当に……?」
嘘だろ……あの聖園さんがめっちゃ怯えてる……
本当に怒ってませんから!だから泣き止んで!ね!?
「……わ、分かった……酒泉君がそう言うなら信じる……」
聖園さんは腕で涙をガッシガッシと拭う
……ああもう、ハンカチ使ってくださいよ……
「うん……ありがとう……」
とりあえず落ち着いたようだが……このまま会話してると何時また爆発するか分からない
こういう時に一番有効な対処法は〝下手に触れない〟だ……折川酒泉はクールに去るぜ……
────とにかく!俺が聖園さんを本気で嫌うことなんて一生あり得ないから!そこは安心してくださいよ!
「……うん……ごめんね、面倒な女で……」
いえ……じゃ、じゃあ今日はこの辺で解散にしますか!
俺も空崎さん達にお土産を買っていく予定がありますし、目当ての商品が残っている間に行かないと───
瞬間、俺の身体が冷気に包まれた
その冷気のせいで身体が震えて………ち、違うっ!これは恐怖だっ!恐怖で震えているんだ!
誰だ……一体誰がこんなオーラを────(目の前に)おるやん!
「……ねえ、なんで他の娘の名前を出すの?」
え?いや、特に理由なんて……
「今、貴方と話してるのは私なんだよ?それなのにどうして他の娘のことを気にするの?」
ちょ、ちょっと名前を出しただけじゃないですか!それだけでそんな怒ります!?
「さっき〝私には酒泉君しかいない〟って言ったよね?それなのに私のことを捨てるの?」
捨てるとか捨てないとかの問題じゃ────
「………何をすればいいの?」
─────は?
「どうすれば酒泉君は私だけを見てくれるようになるの?今の私には殆ど何も残ってないけど、それでも酒泉君の欲しい物は手に入れてみせるから………そ、それ以外にも色々と頑張るからさ!例えば……そ、そうだ!酒泉君も知っての通り、私って強いでしょ?だから盾として酒泉君の役に立てると思うし……あと……あと……か、家事なんかもできるよ!酒泉君が委員会のお仕事で疲れ果てて帰ってきた時にお風呂やご飯の準備ができてたら嬉しいでしょ?嬉しいよね?酒泉君が望むのなら、その……か、身体だって好きなようにしても良いし………そ、そうだ!いっそのこと二人で暮らそうよ!それなら全部解決できるじゃんね☆トリニティもゲヘナも鬱陶しいし、何処とも関係ない場所で穏やかに………最初は不便させちゃうかもしれないけど、いずれは酒泉君が満足できるような生活にしてみせるからさ!ね?そうしよう?そうしてくれるよね?………お、お願い……酒泉君に見捨てられたら……私……もう……な、なんでもするから……酒泉君の望むことならなんでもするからぁ……!」
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「うぅ……ごめんなさい……反省したから許してほしいのだ、先生……」
「まったく……〝鼠耳の少女が怪しい薬を配ってる〟って連絡がきたから急いで来てみれば………もう二度と変な薬を他人に渡したりしちゃ駄目だからね?」
「はい……」
「……じゃあ、今から一緒に回収しに行こうか」
「分かった……けど、薬は一人にしか渡していないのだ!」
「誇るようなことじゃないでしょ……それで?誰にどんな薬を渡したのかな?」
「確か渡したのはトリニティの生徒で、効果は〝飲んだ人がヤンデレになる〟っていう………あれ?」
「どうしたの?」
「……間違って別の薬を渡してたのだ、ぼく様が渡したのは〝薬を飲んだ人の周囲にいる人達が心の奥底で秘めている感情をさらけ出す薬〟だったのだ」
「………心の奥底?」
「まあ、要するに────」
「─────自覚していようと無自覚だろうと関係なく、対象への感情が増幅し、それを抑えられなくなる………そんな薬なのだ」
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あの後はまた会う約束をしてなんとか抜け出してきた、説得に二時間ほど掛かった
え、エラい目に合った……今度から聖園さんに渡される飲み物には気を付けよう……
「……あれ?酒泉君……ですか?」
あ、お疲れさん、火宮さん………委員長居る?
「お疲れ様です、委員長は今はお仕事で席を外しています……ところで、今日は酒泉君はお休みのはずでは?」
ああ、ちょっとした私用でトリニティに寄った時にお土産買ってきたからぜひ皆にって思ってな
「そうでしたか……ありがとうございます」
おう……ところで、他の皆は────
「チナツ?何をして────って……貴方ですか、酒泉」
あ、お疲れ様です天雨さん、遊びに来ましたよー
「風紀委員会は遊び場ではありません、手伝いに来た訳じゃないのなら帰って────待ちなさい、その右手の袋は?」
ん?ああ、お土産です
「前にも買ってきてましたよね?確かトリニティの有名店のだとか……まさか、またトリニティに行ってたんですか?」
はい、そうですけど………
「……貴方は行動範囲が広すぎます、少しは考えて動きなさい」
え?
「大体、いつもいつも他校の生徒と強い繋がりを作ってばかりで………貴方は〝ゲヘナ学園〟の〝風紀委員〟だという事をお忘れなく!」
わ、分かってますって……なんでそんな怒ってるんですか……
「……本当に分かってるのでしょうか?」
な、何ですかその目は……心配しなくても、他校で何か起きたとしてもゲヘナ第一で考えますって!
そんな信用できな《ガチャッ!》………ガチャ?何の音?
………え?何で俺、首輪つけられてんの?
「何でって……そんなの貴方の行動を管理する為に決まっているじゃないですか」
当然のように言ってくる天雨さん
……管理?何を?
「貴方は少し目を離した隙にすぐに他校の生徒に粉をかけますからね………こうして私が管理しておかないと……」
……はっ!?いやっ、流石に横暴ですよこれは!?
今すぐ外して……くそっ!硬い!鍵は!?
「渡すと思いますか?」
こ、こうなったら無理やり……!
「あら?誰に頼むつもりですか?いくら本格的な首輪ではないとはいえ、貴方の力じゃとても────」
「────酒泉、大人しくしてて…………えい」
天雨さんの言葉を遮りながら何者かが俺の首輪に手をかけ、それを破壊してくれた
メキッ!と音を立てた首輪は歪に割れていた
あ、アンタは………銀鏡さんっ!!!
「これはやりすぎだよ、アコちゃん」
「……イオリ、貴方には校内で暴れだした生徒達の制圧をお願いしたはずですが?」
「もう終わったよ」
「…………」
あ、ありがとうございます!銀鏡さん!マジで助かりました!
「気にしないで……じゃあ、行こっか」
……え?どこに?
「特には決まってないけど……ここに居たらまたアコちゃんに変な事されるでしょ」
「……随分言うようになりましたね、イオリ」
「そう?私は元々こんな感じだけど……」
「……まあ、この場を離れるのは許しましょう。しかし一つだけ解せないことがあります」
「……何?」
「イオリ、貴女は何故─────」
「────何故、自分の尻尾を酒泉の腕に巻き付けているのですか?」
「………?それのどこが解せないの?」
「酒泉を連れていくだけならそんな事をする必要はありませんよね?」
「………誰かさんから酒泉を護る為だけど?」
「そんな尻尾を巻いただけで護れるはずがないでしょう……大体、彼は誰かに護られるほど弱くないでしょう?」
「そう?私と酒泉はよくお互いの背中を護りながら戦ってるけどね」
まあ、どっちも凸スナですしね……
「…………」
バッチバチに睨み合う二人、その間にも俺の腕に巻き付く尻尾の力が強まった気がする
この二人ってこんな仲悪かったっけ……?いや、そんな筈はない
確かに互いに雑な対応になることは時々あったけど、基本的に仲はよかった筈だ
「な、なんか………大変なことになってしまいましたね」
そう、だな…………どこか様子がおかしい気がするけど……
………まさか、あの薬って目の前の人だけじゃなくて周囲の人間全員に効果があるのか……?
「……あれ?酒泉君、その首の怪我って……」
ん?………なんだこれ……もしかして、さっき銀鏡さんが外してくれた時に割れた部分で切っちまったのか?
「………でしたら、私が手当てしましょうか?」
いや、別にこの程度の切り傷なら放っておいても……
「駄目ですよ、例え軽い怪我でも菌が入り込んだら悪化してしまうんですから」
ええー……でも、この状況でやるのは……
「………酒泉君、貴方はいつもそうです」
……火宮さん?
「貴方はヒナ委員長の為に走り回っては、必ずどこかを怪我して帰ってきました………いえ、ヒナ委員長の為だけではありません。あの調印式だって、ゲヘナそのものを護る為に一人で戦って………私にはそんな酒泉君の怪我の手当てすらさせてもらえないんですか?また誰にも頼らずに一人で抱え込むおつもりですか?」
……悪い、じゃあ……お願いしてもいいか?
「ええ、任せてください!私がしっかりと手当てしますので……………新しい傷も古傷も……全部」
ん?何か言いました?
「……いえ、なんでもないです……では、早速此方に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
え?いや、でも……今は銀鏡さんの尻尾が────
「でしたら無理矢理ほどいてください、それぐらいならできますよね?」
「どうしたんですか?早く来てください」
…………な、なんか火宮さんまで様子がおかしい気が────ん?先生から電話……?
……わ、悪い!俺用事が出来たから今日はこれで!
スイーツ置いときますね!
「あっ……」
「……行っちゃった……アコちゃんのせいだよ」
「………貴女のせいでしょう、イオリ」