全てが、再び始まる。
紫色の光線は夜空を支配し、復興途中の東京を無惨にも灼き尽くして行った。
鱗に包まれた怪物がその中心で佇んでいる。
基の躰を連想させる体表の上には、割れたような熱線が迸っている。
「klyaaaaaaaa!!!」
咆哮が鳴り響く。
◆◇◆◇
「あの姿形、完全に人の形だったぞ!」
「尻尾に付いてる人型が脱走したとでも言うのか!?」
「とにかく対策を練らないと!」
緊急に作られた会議室の中、対策会議は紛糾していた。飛び交う怒号の中、中央の椅子で石動が頭を抱えている。
そして例の如く石動の非常に細い堪忍袋の緒が切れる。
「いい加減にしろ!!!」
突如として静まり返る会議室。勢いの余り立ち上がった石動は静かに席に戻った。
「冷静に対策を練るぞ。今のあの、ゴジラもどきの動向はどうなんだ?」
「はい、今は光線の射出を止め、スクランブル交差点の中心で停止しています。」
それに付け加えるように1人の男が手を挙げた。
「日本核研究所の鷹木です。実は、偵察班によって撮影された映像に興味深い物が見つかりました。」
「それは一体何なんだ?」
「対象は“変身”した可能性があります。」
「変身!?仮面ライダーじゃないんだぞ!!」
そんな問答を続けている中、電話の呼出音がけたたましく鳴った。
『もしもし、加賀です。例の件、何時でも護送可能です。』
「いくら何でも早すぎる。……まさか私が許可する前からこの計画は進んでいたんじゃないのか。」
『いえいえ、そんな事はありません。貴方が“在任中の期間”はしっかり止まっていましたよ。』
「…そういう事か。」
『分かって貰えたようで何よりです。』
この計画は前々から進んでいたのか。前任の奴は何故か雲隠れしたがまさかこれに関係があるのか?と勘繰るも石動はその事を探る勇気が無かった。電話の向こうにいる筈の加賀が恐ろしい物に見えて来てしまっていたのだ。
「…分かった。表向きの作戦と同時進行で進めて貰う。向こうには“処理班”を護送に向かわせる。良いな?」
『了解しました。タイミングは首相にお任せします。覚悟は…お決まりですね?』
「分かってる。」
またもや電話は一方的に切られる。自分の悪運を呪っても仕方が無いと言う事は石動本人が一番分かっていた。
視線が此方に集まる中、机に設置されたマイクを手に取り言葉を発する。
「これより正体不明怪獣討伐作戦を始める!ここに居る全員は関係各所に連絡を取りその旨を伝えろ!陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊は掃討作戦を始めてくれ!」
突然の首相の発言にテントの一同は騒然とした。しかし石動は言葉を止めない。
「武器の無制限使用も許可する!今度こそ全力で止めろ!良いな!」
非常識としか言えない首相の行動に戸惑いながらも対策本部は動き始める。秘書は突然の行動を止めることが出来なかったが、この首相の行動を咎める気には為れなかった。
◆◇◆◇
『処理班』はいつもの護送車に乗せられて車内で揺られていた。
「突然支度をしろなんて看守様達も偉いこった。そん時は苛ついたが…あんなに慌てふためく姿を見たらその気も失せるな」
席にはいつもの不安定な紐で括り付けられ、手と足には手錠が嵌められている。
「今回の仕事は何時もの物とは違う。護送任務だ」
「護送ぅ?」
「そう。それも極秘のだ。俺も何を運ぶのか全く聞かされてない。」
処理班の1人が真っ青な顔をしている。
「まさか、護送とは名ばかりで俺たち用済みって事なんじゃ…」
「バカ、そんな訳あるか。」
「天国へ自分たちを護送しろってか?」
「お前ら、静かにしろ。」
看守に窘められ、処理班は黙りこくる。無機質なエンジン音が響き渡る中で男たちは今日が命日かと天を仰いだ。
「お前ら、降りろ。隊長にはこれからの行動書を渡すからこっちに来い。」
護送車がその足を止めたのは何処かの山中、鳥の囀りが響き渡る自然豊かな場所であった。
「看守様よお、此処は一体何処なんだ?俺たちは一体今から何をしなきゃなんないんだ?」
「それは隊長から聞け」
処理班は外に出た。眼の前には豊かな自然とは程遠い白塗りの人工物がある。
「やっぱりこれ俺たち殺されるんじゃ…」
「いや、違う」
隊長は行動書を片手に部下たちを集めた。
「今回の仕事は…なんと人外の護送だ」
「どっちにしろヤバそうじゃねぇか」
「あーあ、俺はやっぱり今回で死ぬのか…」
「おい、話を最後まで聞け!」
隊長の大声で処理班の面々は静まり返る。
「人外と言っても相手は完全に力を封じられてる。襲撃される事でも無い限りその封印は解かれない」
「それで、何処に運ぶんだ。場所によっては其処が墓場になるんだろ?」
「東京の渋谷に運ぶ。勿論安全圏内からだ」
「渋谷って今何か化物が群雄割拠してるってとこじゃねぇか」
「言葉の使い方間違えてるぞ」
どうしてもまとまらない処理班の面々(二人)に隊長は嫌気が差すが、どうにか怒りを収めた。
「取り敢えず、其処にお荷物を運ぶだけの簡単な任務って事だ。」
「俺等に押し付けられる物は毎回過酷だけどな。」
すると白い建物が開き、開閉口の付いた円柱のような物が職員に運び出されて来た。
「…あれが今回運ぶ物か?」
「そうだな」
円柱は合計で6本運ばれ、処理班の目の前に鎮座するように置かれた。金属が鈍く輝き、三人は目を細めた。
「次は近くにある来る時に乗った物とは別の護送車にその筒を載せるぞ」
「近くにある護送車…?」
「あれじゃねぇか?」
処理班の1人が指を差した先には装甲車ばりの装甲を貼られた特殊護送車が佇んでいる。
「ああ、確かにこれだな。写真と一致してる。」
「じゃあ早速運ぶぞ。」
円柱は予想よりも軽く車輪も付いていた為、全て運び終わるまでに10分と掛からなかった。
「それじゃ次だ。運転して新宿区の大久保駅までこれを運ぶ。ナビは既に入ってるらしい」
「誰が運転するんだ?」
「俺は人外を監視するように指示されてる。運転するのはお前ら二人の
隊長以外の二人はジャンケンし、護送中に真っ青な顔をしていた1人が運転することになった。
特に道中襲撃等も無く、新宿区の大久保駅に到着した。処理班は車から降り、隊長が最後の仕事を確認する。
「最後のフェーズだ。円柱から人外を出し、装甲車の中にある装備を着せて伝令を確認する。」
「おし、始めるか。」
「おいおい、何でそんなやる気なんだよ。さっきまでビビってた癖に」
青褪めていた男は運転中色々考える内に吹っ切れてもう淡々と仕事をこなそうと考えたのだ。閑話休題。
「まぁ良い。さっさと終わらせるぞ。円柱を運んでくれ。」
隊長が言い、二人が円柱を運んで来る。一列にそれが並べられた所で次の指示を出した。
「装備を出して、全部の円柱の右に置いてけ。番号が振られてるからしっかりしろよ。場所は多少ズレても構わない」
二人は妙にすべすべした肌触りの畳まれた装備らしき物を円柱の右に置いていく。
そして隊長は最後の指示を出した。
「最後に、地面に円柱を固定して、解除コードを打ち込んで中身を取り出すぞ」
「了ぉー解」
予め用意されていた電動ドリルで地面に穴を開け、ボルトで円柱を固定する。解除コードが書かれた欄を見ると全ての解除コードが共通して『1234』だったが三人は気にしなかった。
「よし、全部に順番に打ってけ。」
二人がそれぞれの円柱の横に貼り付けられたパネルに解除コードを打ち込んで行く。そして数秒立った頃、水中から気泡が出てくるかのような気味の悪い音を上げて開閉口が開いた。
中からは少女が出て来た。体格は様々だが、全員が共通して胸に何か鱗の様な物を埋め込まれている。
「おい…これってドッキリか?本物の犯罪者に仕掛けるなんて今のテレビはいい趣味してるじゃねぇか。」
「「「「「「状態確認、装備の着装を開始します」」」」」」
「…冗談キツいぞ」
三人が驚愕する中、六“体”は機械的に準備を進めていく。1〜6までの数字がそれぞれに刻印された後ろに開く場所があるタイプの装備をまるで何回も着ているかの様に素早く着た六体は、腕を回したり足を伸ばしたりした。
「「「「「「防御装備、及び身体状態問題無し。」」」」」」
六体はそのまま後ろの円柱の中身を弄り、中からライフルやナイフ、グレネードなどを取り出し、点検を始めた。
「「「「「「攻撃装備、異常なし」」」」」」
最後に装備に『No.1』と刻印されている少女が冷ややかな声を放った。
「…作戦、開始します。我々を護送して頂きありがとうございました」
少女達は形だけのお礼を言い、呆然と立ち尽くしている処理班を余所に走って去って行った。
三人とも驚愕している中、隊長が最初に口を開いた。
「…こんなんアリかよ。まだ刑務所で首縛られる方がマシじゃねぇか。」
その声は、少女を追う様に飛び去っていった自衛隊のヘリ群のローター音に掻き消された。
……運命は残酷に、そして人々に忠実に進んで行く。
ああああシリアス過多で死ぬう!