『先日の攻撃により、首都東京は壊滅状態に追い込まれました。臨時政府は富山県に設置されましたが、我が国は当初に予想された被害の20倍の…』
『現在全国の都道府県は首都圏からの避難民で溢れています。特に近畿などは多くの避難民が流れ込み、対応に追われている様子で…』
『アメリカ政府は日本に対して支援をする意向を示し…』
『現在東京都については、全域立ち入り禁止となっています。避難指示が現在も出されているのは神奈川県全域、埼玉県と千葉県の一部地域となっており…』
あれから一週間。俺は何をする事も無く、ただ毎日を過ごしている。
あのミサイルが落ちた時から攻撃はパタリと止み、俺達はなんとか生きながらえた。
「このままじゃ前の俺と同じだな〜…」
漸く自分が正気に戻ったと思ったら、今度は見知らぬ“美”少女を拾った。14〜から16歳の見た目からは想像できない天然物の白髪に、謎のスーツ。無表情で何を考えているのかも分からない。(何も考えていないのかもしれない)
彼女が目を覚ました時はまた[理不尽に]襲われるかと思ったが何やら周りを見渡して、呆然としているだけだった。
◆◇◆◇
〘数刻前〙
僕は一足先に目を覚ましたので、先の事件で消失してしまった服を半壊している109に調達しに行っていた。服といえばそこかな、という田舎者の浅はかな考えである。自分用の服を求め、その時見た景色にはミサイルによって形を無くしたスクランブル交差点があった。あの時見た酷い景色が脳裏に映り、再び吐き気がした。
俺がこの手で殺したのだろうか。自分の手を見ても血などは付いておらず、殺した記憶もないし、もうその屍体は存在していない。もう“無かったこと”にされたのだ。
なんとか吐き気を抑え、謎の少女の為の服も一応調達して戻ってくる。少女はなんとか無事だったハチ公前の広場のベンチに寝かせていた。こんな形で名所に来るとは思わなかったが、仕方が無いことだ。
きっと寝ているであろう少女の居るベンチに向かう。しかし、その場所に辿り着いても少女の姿は無い。その代わりに後ろから気配を感じた。
―――少女はいつの間にか目を覚ましていた。
◆◇◆◇
回想を終え、まだ立ち尽くしているままの少女に名前を聞く。
「君…大丈夫?」
少女は何も言わない。此方を見つめる訳でも無く、目を見開いているのみ。
服を着ているとはいえ、俺の今現在の姿は少女だとしても、背中から『羽』が生えている化物だ。それに、ここはネズミですら全て死に絶えていた。生き物の類はこの少女以外見かけていない。それに最初に出会った時ダメージこそ無かったものの、拳で殴ってきたのだ。
もし…可能性の一つではあるが、彼女が俺を殺す為に作られた物だとしたら。この状況に対応できるのも納得出来るし、何よりその髪色が、年齢にそぐわない服装がそれを物語っている。
しかし、やはりあくまで可能性だ。普通ならこんな少女が化物を倒しに来るなんて魔法少女モノじゃあるまいし。
あり得ない。
「ここは…どこですか?」
突然聞こえた見知らぬ鈴の音のような声にびっくりする。しかし、その音源は一つしか無かった。
「喋った…」
「あなたは、だれですか?」
無表情なのに変わりは無いが、一応意思疎通が出来ることが分かって一安心した。
「俺はな…」
ここで開いていた口は止まった。
俺は本当に俺なのか?こんな姿にまで成って、まだ自分を名乗っていて良いのだろうか。
「…お兄さんだよ、只の。」
「そうですか。おにいさんですか」
彼女はじっと此方を見つめた。何をする訳でも無く、ずっと見てくる。無表情なのに、逆にこっちが吸い込まれそうな瞳を輝かせている。ずっとこの状態のまま居るのも気が重いので、取り敢えずこの子の名前を聞いてみることにした。
「なぁ、君の名前はなんて言うんだ?」
少女は表情を変えなかった。此方を見つめたまま、視線を外そうとしない。そのまま見つめ合う状態が暫く続いた後、漸く少女は口を開いた。
「わたしは名前、というものを持っていません」
衝撃的だった。確かに俺を殺すための道具として扱われていたなら可怪しく無いと思っていたが、俺は一筋の希望を求めてその可能性を排除していた。兵器としての証拠が着々と揃ってきている事実に、俺はどうすれば良いのか分からなかった。
取り敢えずこの子に名前を付けよう。自然とその様な思考になった。
服には『No.1』と書いてあるので、きっと何人か居る内の1人なのだろう。
あの屍体達は多分この子の仲間だ。きっと俺が殺してしまったのだ。
この子はいつか何処かに預けよう。核に汚染されている場所で生存できている彼女は間違いなくイレギュラーだが、なんとか出来るはずだ。
一緒に居るのはそれまでの間だけ。名前も一時的な物だ。
「そうか。じゃあ名前をあげよう」
彼女の特徴は
「君の名前は“シロ”でどうだ?お気に召すと良いが」
「いいなまえです。ありがとうございます」
表情を変えずにシロは言った。顔が一切変わらないから良いのか悪いのかの判断が出来ない。俺は彼女が良いと言ったのだからこれでいいか、と思考を中断した。
◆◇◆◇
滋賀県の某所、電飾が光り輝くスタジオの中ニュース番組が収録されている。
「先日の『東京放射能汚染』によって世間は混乱に陥っていますが、安野氏はこの事件についてどうお考えですか?」
安野氏と呼ばれるコメンテーターは、腕と足を組んで話し始めた。
「そうですね…2016年にゴジラによる攻撃が起こった時、国民はまさか創作物が本当に存在しているなんて考えてもいませんでした。1954年に制作された映画『ゴジラ』。この二つは密接に関係していました。核が関係している点もそうですし、何より見た目が似ている。流石に第一形態とか第二形態まではありませんでしたが。さらに『ゴジラ』は、大変良くできた映画で大ヒットしたにも関わらず、2016年に至るまで続編は作られなかった。まあその続編も制作を中止せざるを得ない状況になってしまいましたが」
安野は足を組み直し、話を続ける。
「この映画はある種の予言みたいな物だったのかもしれないし、もしかしたら只の偶然だったのかもしれないですね。」
咳払いをし、安野は逸れた話を修正した。
「少々話が逸れてしまいましたね…それで今回の事件ですが、これは『ゴジラ』の進化の結果かもしれません。人型に姿を変え、人間の社会に適応した形になる。様々な考え方がありますが、その理由は私達にはまだ分かりません。本格的な侵略の準備かもしれないし、この世界で暮らすための自然な変化かもしれない。」
最後に安野はこの一言で締め括った。
「まあ…詳しい姿形が分からないままでは断定できませんが…共存の道は無きにしも非ず、ですかね。」
司会は安野の話が漸く終わったことを確認し、話を進めた。
「安野さん、ありがとうございました。今後の動向が気になるものですね…因みに安野氏はあの怪獣の名前を考えるとしたら何と付けますか?」
「そうですね…英語名でゴジラは『godzilla』と呼ばれるらしいです。その神が人の形になったので、『human』と掛け合わせて…」
「『HUDZILLA』なんてどうでしょう?」
◆◇◆◇
自身が少女に名前を付け、そして自身も知らぬ間に名前を付けられた『少女なおにいさん』はシロと右手を繋ぎ、スカイツリーへと向かっていた。
『少女なおにいさん』が電子機器に近づくと呆気なく使い物にならなくなってしまう体になってしまった今、現状を把握するには高い所から見下ろす必要がある。そこら辺の高いビルでもいいかもしれないが、都内全域の状況を把握しようとそこに行こうと決めた…というのは建前で、本当は観光もついでに兼ねている。散々な目に遭ったので少しでも心を落ち着かせる為だ。
シロは相変わらず無表情で、何を考えているのかさっぱり分からない。俺は考えることを止め、無人となった都内の道路の真ん中を通りながら目的地へと向かう。
…本当ならこの状況になったら逮捕まっしぐらだな、と『少女なおにいs(以下略)』は思った。
暫くはこの二人で話が進めようかな…