深い夜と化け物退治 作:ゆげさん
誠司は深司に頼まれた郷土史を探していた。
「案外見つからんもんだ。」
そう簡単に、探し物が見つかるものではない。そう分かっていても、言わずにはいられなかったのだ。そもそも、誠司は辛抱強い人間ではない。どちらかというと、潔く諦めるタイプの人間だ。しかし、頼まれたことはしっかりとこなす男でもあった。
誠司は棚の上部に目を向けた。
「お。これなんていいじゃないか。」
誠司は頼まれた条件に近そうな郷土史を見つけた。背表紙には『安堂寺町郷土史』と題名が書いてある。
「ぴったりだな。こいつ持ってくか。」
誠司はそれを本棚から引き抜いた。本の大きさに比べ妙に重かった。それを不思議に思うように、本を上下に振る。数回それを繰り返し、やめた。興味をなくしたようだ。誠司は、軽く郷土史を観察した。郷土史を読む生徒はなかなかいなかったのか、軽く埃を被っていた。しかし、酷く汚れてはいなかった。掃除や手入れがしっかり行き届いていることがわかった。もっとも、通常の図書室より広い安堂寺高校の図書室が、たった数分の清掃の時間だけでこまで綺麗になるとは到底考えられないのだが。
そんな違和感に気づくことはなく、誠司は観察をやめ、郷土史を深司に渡そうと深司の元へ戻った。
「お。よさそうなものを見つけたじゃないか。」
「おう。お前の欲しがってたやつにぴったり合ってると思うぜ」
「ありがとうな。これでやっと調べ物ができる。誠司はなにか読まなくていいのか。」
「面白そうなやつあんまり無かったんだよな。とりあえず、深司と同じようなやつ探してみるか。実は、俺って案外歴史好きなんだぜ」
「あらそう。別に興味ないが。」
深司は誠司を冷たくあしらう。深司にとっては本番はここからなのだ。今まで一つもなかった足掛かりが、この郷土史にあるかもしれない。深司は期待しているのだ。
深司は郷土史を流し読みし始めた。あまりにも頁数が多いため、気になる単語が目に付いたらそのあたりの文だけを読むことにしたのだ。
そして、ある文から深司の流し読みは終わった。
───安堂寺に根付く妖怪、『暁天』
「やっと、見つけた。」
───暁天は明け方の空、という意味がある。この妖怪は作物の育つ力のなかった安堂寺の地に、生きる力を与えた。安堂寺の人々は飢えに苦しむことがなくなった。作物が育たないという夜が明けたことから、安堂寺の人々はその妖怪に『暁天』という名前をつけた。しかし、いつからか、人々は暁天を恐れるようになった。人々は大きな力を持つ存在を恐れ、迫害したのだ。『暁天』はそんな安堂寺の人々を憎んだ。そして、人間に害を与える存在となった。妖怪とは、神とも呼べるような、大きな力を人々のために扱っていた存在が、何かのきっかけにより、人間に害を与えるようになった存在のことなのだろう。妖怪に成り下がった『暁天』は安堂寺だけではなく、あらゆる地に害を与えるようになった。与える力は奪う力に変質し、土地、人々の生きる力を奪った。人間は飢えに苦しみ、夜が訪れてしまった。
「化け物が。」
深司は吐き出すように、しかし小さく呟いた。