深い夜と化け物退治 作:ゆげさん
馬鹿げている。そう言いたげに深司は本を閉じた。
「郷土史がわざわざこんな話を載せるのか。まるであいつじゃなくて、安堂寺の人々が悪いかのように書かれてるじゃないか。」
深司は混乱を抑えきれなかった。あの化け物のルーツが『これ』だとは信じられなかったからだ。しかし、それ以上に深司にとって気になる言葉があった。
『奪う力』
深司にとっては忌まわしい力であった。深司はその力によって家族を殺されたのだ。その力が本来、『与える力』であったということに戸惑っていた。
深司が混乱と憎悪で、脳が働かないままウンウン唸っていると、誠司が話しかけてきた。
「深司。あと十五分くらいで授業終わるぞ。プリントにまとめなきゃいけないだろ。」
「ああ。もうそんな時間か。ありがとう。」
一旦は落ち着くことができたようだ。深司は、流し読みした内容を軽く思い出しながら、プリントにそれらをまとめた。深司はものを要約するのが得意なほうであった。書き終わったプリントを教師に提出して授業は終了した。
その後の授業は、特に目立ったことも起きずに終わった。深司が、自分は数学が大の苦手、ということに気づいただけであった。
学校が終わり、帰路に就いていた。学校では重要な情報を得ることができた、と深司は郷土史のことをふりかえった。
途端、深司の周りの空間が歪む。
「これは。」
深司には心あたりがあった。
「奴だ。怪物だ。」
怪物は存在しているだけで、世界を歪ませた。その身から放たれる、大きすぎる妖気が空間に影響しているのだ。世界の理に反していながらも存在し続けていた。
名を『暁天』。かつて人に寄り添い、しかし人に害され、災厄を振り撒くようになった妖怪であった。
「ずいぶんと楽しんでるじゃないか。せっかく安心できる場所だったのに、僕のことを調べちゃってさ。そんなに求めてくれるなよ、照れるなあ。」
「黙れ化け物。」
「おいおいおいおいおい。ひっどいなあ。暫くご無沙汰だったから逢いに来てやったっていうのにさあ。まあ、いいよ。それでこそ『おにいちゃん』だもんねえ。」
「その呼び方をお前がするな。穢らわしい。ふざけるな。」
「いやぁ大変だったよ。本に自分の目を入れるなんて結構結構難しくてさ。力をたっくさんぶち込んで、やっと見えるようになったんだよ。まあそんな苦労をしたお陰で、君の普段の生活を知れちゃった。」
暁天は嬉しそうに口を歪ませて言った。何故暁天がここにいる、と深司は焦っていた。深司は今、刀を持っていなかった。ただの無力な、ただの人間だった。
「なぜ。なぜ、お前がここにいる。」
「あ、それ聞いちゃうんだ。いいよいいよ。答えてあげちゃうよ。」
暁天はまた、ひどく嬉しそうに口を歪ませて嗤った。
「お腹空いてたからねえ。お友達、食べちゃった。」