深い夜と化け物退治 作:ゆげさん
「彼ね、誠司君だとかいったかな、結構抵抗してくれちゃったよ。こっちが首狙ってるのに避けちゃうんだからさ。ほんと、蚊みたいなやつだったよ。というか、どうしちゃったのさ君。絶望したような表情しちゃって。たかが数日の付き合いだったろ。なんで落ち込んでるのか理解ができないよ。まあ、もともとその顔が見たかったからこれ言ったんだけど。しかし馬鹿だね、君。なんで学校なら安全、なんて呆けた考えになっちゃったかな。別に学校に結界なんて張ってないし危ないヤツが入ってこないセーフティエリアでもないのにさあ。それに、妖怪に行動原理問うって頭飛んでんのかよ。あるわけないだろ。ないから妖怪なんだよ、僕は。わかってないなあ。ほんとにわかってない。でもでもでも安心してよ。そんな君を僕はしっかり見といてやるよ。君を分かってるのは僕だけだからねえ。ちょっと可愛げがなかったかな。まあ顔はいいからどうでもいいか。」
深司は呆然としていた。なにも考えられない様子だった。目の前で罵詈雑言を捲し立てている化け物にも、意識がいかなかった。ただ、自分のせいで友人が一人死んだ。そのことが深司の心を暗い闇の底へ堕としていた。
そして、深司は化け物に対し、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。災厄の原因はこいつだ、やはり化け物は存在するべきできはない、と。深司は、たとい自分が化け物を引き寄せ、誠司を死なせてしまったとしても、この化け物を土産にしてやるのが、今自分にできる精一杯のことであると思った。
しかし、今の深司には刀がない。化け物を殺す手段がない。刀、せめて他の武器さえあれば対抗できたが、武器のないこの状況では、全てが手詰まりだと深司は思った。
遠くから怒鳴り声が聞こえた。深司にとって、妙に聞き覚えのある声であった。
「おい。おいおいおいおいおいおい。随分随分随分よ。俺を痛めつけてくれやがってよ。いい加減にしてくれよ化け物よ。んで俺の後は深司かよ。気色悪いんだよ。化け物が。」
誠司であった。
「マジに死ぬかと思ったよ。だって身体全体切り傷まみれだし、なんだったら肉抉れてたからな。めっちゃくちゃ痛かったわ。お前人は殺しちゃあいけないっていう人間界の常識も常識、超常識を知らないのか。」
「お前、生きてる。」
深司は誠司に言った。あの化け物に逢って生きているとは信じられなかったのだ。人間の都合など考えない、自分本位に存在するあの化け物が誠司をわざわざ生かすとも思えなかったのだ。
「ああ。なんかわからないけど生きてるぞ。とりあえず、逃げるか。」
「安心してくれよ。僕は別に殺し合いしにきたわけじゃないんだから。逃げるなんて言葉使わなくていいんだよ。普通に帰宅してくれればいいよ。誠司君が生きてたのは想定外も想定外だったけど。たといやりあっても、どうせ僕には敵わないだろうしね。」
「それはありがたいことだな。もう二度と関わり合いになりたくないもんだ。おい、深司。歩け。行くぞ。」
深司は喋ることができなかった。