目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が 作:小林司
お待たせ致しました。
今回、皆様お待ちかね(?)の、あのウマ娘が登場します!
一応、史実馬が地方競馬所属ということで、それを採用させていただきました。本作開始時にかなりの方から期待されていた娘ですが、ここまで引っ張ってしまい申し訳ないです。
では、本編どうぞ。
月日が経つのは残酷なほどに早い。
私がこの姿になって一ヶ月は経過した。正確な日数はもう数えていない。
この姿・名前で生活していて気付いたことがある。
それは『ウマ娘の名は、固有名詞として認識されるのではないか』ということだ。
私が人間であった世界では、例えば『丹波 鈴』という名前の人物が居ると、その名前から『タンバリン』を連想して、失礼ながら笑ってしまうことがあるだろう。
同じような例として、『ミスターシービー』という名のウマ娘が居るが、普通なら『ミスターは男性を指すのに、ウマ娘(女性)の名前?』と思うだろう。
しかし、この世界では誰もそう思わないらしいのだ。
だから、『ブタノカックーニ』という名前の競走バがいれば、『豚の角煮』を連想して、それこそ大爆笑してしまう人もいるはずだ。
しかし、それがこの世界でのウマ娘の名前だと、それが起こらない。
私が、普通の人間やトレセン生ではないウマ娘、もちろんトレセンのウマ娘と話していても、名前で笑われたことは一度もない。
『生徒会、副々会長のブタノカックーニと申します』そう名乗っても、皆顔色一つ変えないのだ。
以上のことから、『ウマ娘の名は、固有名詞として認識されるのではないか』と、思い至った。
「クーニ」
ある日の放課後。
生徒会室で執務をしていると、ルドルフ会長に名を呼ばれた。
校内作業があるとかで、副会長二人は席を外している。今室内には私と会長の二人だけだ。
余談だが、会長は私が世紀末覇王号の鍵を持っていることは、まだ知らない(筈)。
「お呼びですか?」
「ああ。クーニ」
会長の机に行って声を掛けると、机上の書類を一枚手に取り、私へ差し出す。
「ん? 書類不備がありましたか?」
そう言いながらも書面を確認する。
あれ? 押印欄が無い。
「そういうことではない。頼みたいことがあってね」
「お断り致します」
「まだ、何も言っていないんだが?」
会長が今持っている書類は生徒会が関係するものではない。
「会長が私に頼む用事など、厄介事以外に無いでしょう?」
この書類はそういうことなんだろう。
「酷い言い草だな」
「ですが会長。私は間違ったことを言ったとは思いませんので」
「そう思われていたとはな……。さてと、それで本題だが」
おいこら!
今のやり取りは何だと思っているんだこの人。
「地方トレセン学園との交流?」
「ああ。我々は毎年春秋年二回『ファン大感謝祭』を開催しているわけなんだが、この度そちら学園で開催する感謝祭で、我々の行っていることを参考に、願わくば交流イベントにしたいらしい」
なるほど。
「それで、会長は私に何を依頼されるおつもりですか? 御存知の通り、私は記憶喪失故、感謝祭のことは一切分からないんですが?」
「もちろん知っているよ。君に交渉・話し合いをお願いしようとなど考えていないから安心したまえ」
じゃあ何を?
「君も知っているだろうが、地方のトレセン学園は我々中央トレセンとは違い、予算も限られるし、設備も段違いだ。ウイニングライブなんて、この時代に於いてカセットテープを使っている程なんだ」
カセットテープ……?
レンタルビデオ店 という言葉こそ残っているが、CD・DVD・BDしか置いていないこの時代で?
「つまり?」
「先方の担当者が当学園へやって来て話し合いをする予定なんだが、交通費も中々痛い出費らしくてね。だから、君に担当者を迎えに行って欲しいんだ」
うわ! 酷い。私は運転手か。
しかし、どうするべきだ?
下手に承諾したら怪しまれるだろう。だからといって、拒否して理事長まで話が通れば、世紀末覇王号のことがバレるかもしれない。
こうなれば、返事は一つ。
「はぁ~」
タメ息を吐く。
「拒否権……」
「ない」
「……まだ言っている途中でしたが?」
「君の言いたいことは大体分かる」
「分かってませんよ。あなたは何も」
「何だと?」
ちょっと怒ったのか、眉間に皺が寄った。
「拒否権は無いでしょうから、不本意ながら行かせて頂きます。そう言おうと思ってました」
と思ったが、私の今の一言で満足そうに微笑み頷いた。
「ありがとう。よろしく頼むよ。あ、あとね」
えっ?
「当日の移動手段の件なんだが……」
「理事長室に車を借りに行きますが?」
「……私も言っている途中だったんだが?」
ああ、確かに何か言いたげだった。
世紀末覇王号を誤魔化すために言ったが、早まったか?
「既に車の手配は済ませてある」
マジか!
「昨日のうちに理事長室に行ってある。さつきさんに車の手配をお願いしておいたから、安心したまえ」
……。
「何人か乗せてもらうことになるから、バンを回してもらうようにお願いしたよ。君のお得意な 世紀末覇王号 ではないと思うが、よろしく」
うーん。この返事、この様子だとまだバレていないのかな?
当日。
私はこれから先方の学園へ行って、向こうの担当者を連れて来なければならない。
往復で二時間程掛かるため、授業時間中に学園を離れる。もちろん、事前に許可を得ている。
理事長室の扉をノック。
「どうぞ」
「失礼します」
許可を貰って入室。
「お待ちしておりました」
たづなさんだ。
「此方が車の鍵と通行証です」
早速、必要なものを渡される。
既に手に持って立っていたらしい……。
「給油カードはお持ちですよね?」
「えっ? はい」
「あのカードが利用出来ますので、今回は最後に給油をお願いします」
「分かりました」
渡された通行証を確認する。えっと……、
『大泉IC→浦和IC』
『浦和IC→大泉IC』
二枚ある。
これは、途中までは下道で向かえ、ということか。
「カーナビはセットしておきましたので、指示通りに走っていただければ問題ありません」
なるほど。つまり、
「帰りは行きと同じ道を通れば良い、というわけですね」
「それでは逆走ですよ?」
……。
首を傾げて悪戯っぽく微笑む彼女。
「行って来ます」
相手にしてられん。そう言わんばかりに振り向き、そそくさと歩き出す。
「冗談です待ってください!」
すると慌てて呼び止められた。
「分かってますよ」
歩みを止めて振り向く。
あ、ちょっと泣きそうになってる。
しかしこの人、顔は整っているしプロポーションも良い。足もそれなりに立派だ。もはや、『トモ』といっても差し支えないくらい。
やはり、ウマ娘説は本当なんだろうか?
「では、行って来ますね」
「ですからちょっと待ってください」
部屋を出ようと向きを変えるも、再び呼び止められて彼女の方を向く。何度もこうしていると目が回りそうだ。
「どうかしましたか?」
まさか、離席中の理事長が戻ってくるのを待て、とか? あの人苦手なんだよなぁ……。
「あら? シンボリルドルフ会長から、『適任者を一人同行させるから、彼女と一緒に迎えに行って貰って』と言われていますが……」
なにそれ? そんな話知らない。
会長って言ったよな。あの野郎……。人の知らないところで勝手に話を進めるから困る。
「ああ。それとブタノカックーニさんにお伝えしておきたいことが」
「何でしょう?」
「状況は察しております。なので 世紀末覇王号 のことは、シンボリルドルフ会長やエアグルーヴ副会長、ナリタブライアン副会長に知られぬよう、我々は最大限の努力をしますので、ご安心ください」
「えっ? ああ。ありがとうございます」
それは有り難い。あの車の存在は隠し通さねばならぬ。
まあ、一番簡単で手っ取り早いのは、車を返却してしまうことなんだが。それは理事長が許さないだろう。
「ところで、その同伴者は……」
そう言っている途中で、誰かが扉をノックした。
「どうぞ」
たづなさんが返事をした。
「失礼するよ!」
少々乱暴に開け放たれた扉から誰かが入ってきた。
この声にこの開け方。嫌な予感がするなぁ。入ってきた人に背中を向けたまま立ち尽くす。
「おや、クーニ先輩じゃないですか。こんなところで会うとは奇遇ですね!」
やはり…………。同伴者って彼女?
「たづなさん、やっぱり私一人で行って来ます」
「何と! あまりのボクの輝きに、直視できないと言うんですね!」
流石に振り向いた。
いや、全然輝いていませんけれど? 輝いて見えるけどさぁ。
あ、『実際に輝いている』のと『輝いて見える』は、別物だと思ってますんで。私。
「はあ~。別に見れないわけではありませんよ?」
大きな溜め息を一つ。
「安心してくださいたづなさん。彼女はこのボクが責任もってお連れしますから!」
「いや、連れていくのは私ですが?」
「まあ、その通りです。ボクが余りにも輝いて見えるから、運転席に座ると対向車の運転手が軒並視界不良になるから、ボクは運転できないんですよ」
「いや、免許持ってないだけでしょう?」
「そうとも言う。君は素晴らしいドライバーだからね。君が居てこそボクも素晴らしい存在になり得るのだよ」
「はいはい。分かりましたから、行きますよ~」
なんか聞いていた以上に面倒臭い人だな……。
今回手配された車 流星の貴公子号 のもとへ。
シルバーのバン……あった。
ナンバープレートは『多摩333へ3419』*1。この車で間違いない。
なんと言うか……車体はシルバーなんだが、ボンネットに大きくURAの緑色のロゴが貼られている。
側面の後方にも『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』という標記がある。
これは目立つなぁ……そう思っていると。
「これは目立つ車だね。まさに、ボクが乗るのにふさわしい車だ」
早速、車を前に格好つけている。
「何処に乗りますか?」
「一番後ろで構いませんよ。むしろそちらの方がいい」
さいですか……。
道中の出来事については省略させてもらいたい。大したことは起きていないので。
ナビの指示で車を走らせること一時間強。目的地に到着。
『浦和ウマ娘ノダトレーニングセンター学園』
通称『浦和トレセン学園』
我々がトゥインクルシリーズに出場する中央トレセン学園なら、こちらはローカルシリーズに出場する地方トレセン学園の一つだ。
校門の前に車を止める。すると、警備中の守衛が寄ってきた。
「中央トレセン学園生徒会です」
窓を開け、左袖の腕章を見せる。
「ああ。話は聞いているよ。そこ入って右側に駐車場あるから、そこ停めて」
そこ? ……ああ、校門のことか。
「それと」
そう言いながら一枚の紙を渡された。地図だな。
「ここの玄関が受付だから、そこで来客受付して、ここの廊下を進めば生徒会室があるから、そこへ行ってね。よろしく」
「はい。ご丁寧にありがとうございます」
「それじゃあ、気を付けて」
守衛に礼を言い、車を発進させる。
「…………」
この間テイエムオペラオーさんは、最後列の真ん中に腕と足を組んで座っていた。
「着きましたよ」
指定された駐車場に車を止め、彼女に声を掛ける。
「ああ、ありがとうございます」
「それじゃあ行きましょうか」
テイエムオペラオーさんと一緒に、受付へ向かう。
来客用の昇降口で履き物を替え、その横の受付へ。
「こんにちは。中央トレセン生徒会です」
「はい。こちらの台帳に記名お願いします」
えっと……『社名・学校名・所属等』『氏名』。…………あ。
私は生徒会で良いのだけど、彼女はどうすれば……?
まあ、生徒会役員でなくても、生徒会の用事で来ているのだから一緒で良いか。
『中央トレセン学園生徒会 ブタノカックーニ』
『同上 テイエムオペラオー』
そう記名し、来客用の名札を受け取る。
「ありがとうございます」
受付へお礼を言い、テイエムオペラオーさんに名札を渡す。
「はい」
「ありがとう。しかしまあ、クーニ先輩はこういうのに慣れているんですね」
「まあ。一応、生徒会役員ですから」
と言ったが、生徒会役員として他所の学園へ赴くのは、これが初めてだ。
しかし、人間だった頃は、仕事で客先や取引先を訪れることは日常茶飯事だったので、こんなのはお茶の子さいさい。
「さてと。着きましたよ、生徒会室」
流石に我々の学園みたいな立派な部屋ではなさそうで、普通の教室と同じようなスライド式の扉だ。
その扉をノックする。
「お入りください」
中から返事があったので扉を開く。
「失礼します」
「失礼するよ!」
二人続いて入室する。
部屋の広さは、中央トレセンの生徒会室と同じくらい。だが、ソファーや立派な執務机はなく、普通の教室にあるものと変わらない机椅子が幾つか置いてある。
室内に居るのは二人。この学園の制服は、中央トレセンとは違い、ブレザータイプだ。それを着用している。つまり、この学園の生徒で間違いないだろう。
「遠路遙々お越しくださりありがとうございます」
一人がそう言って頭を下げ、もう一人が続く。
えっと……まだ名前を聞いていないから誰か分からないが、右耳に知恵の輪みたいなアクセサリーを付けた娘と、左耳に王冠のような形の耳飾りを付けている娘。
「私は、当学園にて当代の生徒会副会長を務めております、フツロルンルンと申します」
知恵の輪アクセの娘がフツロルンルンさんか。
「同じく、副会長のピサノミライです」
王冠飾りの娘はピサノミライさん。
「中央トレセン学園生徒会、副々会長を努めております、ブタノカックーニです」
私が自己紹介を終え、次は彼女の番だ。……えっ?
「ハーッハッハッハ!」
「い、いや。その高笑い要りませんから、あなたも自己紹介してくださいよ」
「おっと失礼。ボクはテイエムオペラオー」
「な、なんで花弁舞ってんの!」
オペラオーさんの上から花弁が降り注いでいる……。何処から?
「……?」
「……(汗)」
その様子を、驚いた表情で見ているフツロルンルンさんと、呆れた表情で眺めているピサノミライさん。
「ごめんなさいね。この人は元々こういう人なので……」
一瞬驚いたが、冷静に考えればこの人はこういう人なんだ……。
「あ、大丈夫ですよ。慣れてますから……。クーニさんも大変ですよね、この人の相手させられて……」
ピサノミライさんがそう言う。
……ん? どういうこと?
「お二人には面識が?」
「面識も何も。彼女はボクの妹だよ。な? ミライ」
テイエムオペラオーさんの言葉に、ピサノミライさんは大きな溜め息。
「その通りです」
そう返事しながら、何処から取り出したのか箒と塵取りで掃除を始めている。
そうか姉妹か。テイエムオペラオーさんは、耳飾りとは別に王冠を身に付けているが、ピサノミライさんが耳飾りに王冠。つまり、姉妹でお揃いにしているんだな。
会長がテイエムオペラオーさんを『適任者』と言ったのはこのためか。
…………あれ? 二人とも副会長なんだよな? となると一人足りない。
「ああ」
私の表情で察したらしいフツロルンルンさんが口を開いた。
「会長は所用で席を外しております。じきに戻りますので少々お待ちください」
なるほど。
しかし、今日この時間に我々が来ることは分かっていただろうに、所用が入るとは。やはり、何処も生徒会は忙しいのだろう……。
「所用も何も。緊張でトイレに籠っているだけですけど……」
えっ?
なんと、ピサノミライさんがあっさりカミングアウト。
トイレですか。と、思っていたら扉が開かれた。
「あ、お待たせしてしまいました。えっと……?」
入ってくるなり第一声。
「あ、私は中央トレセン生徒会の副々会長、ブタノカックーニと申します」
とりあえず自己紹介。
「豚の……角煮?」
………………。
何か今彼女の口から聞こえたような。
「ああ。申し遅れました私、当学園の生徒会長を努めております。サバノミッソーニと申します」
えっ?
テイエムオペラオーの話し方を書くのに苦労しました……。先輩に対しては丁寧な話し方をする筈なので、普段通りの口調ではダメですからね。
浦和トレセン学園 は、史実における 浦和競馬場 と、浦和競馬場のトレセン 野田トレーニングセンター を、それぞれ使わさせていただきました。
アプリでもテイエムオペラオーの妹が登場していますが、彼女がピサノミライ(そもそもウマ娘?)かは分かりませんが、両親が同じなので採用させていただきました。
なお、史実馬の『ピサノミライ号』は、中央競馬所属の馬なので、地方競馬に所属しているのはフィクションです。
さてと。冒頭にある通り『ウマ娘の名は固有名詞』であるならば、サバノミッソーニ会長は何故、あの言葉を口にしたのか……。気になる続きは次回へ。
10月16日追記
「私は、書きかけの小説データが消えて泣いた……」
とまあ、こんなハプニングが発生しまして、現在泣きながら続き書いてます。
次回更新が遅くなる可能性があります。ごめんなさい。