目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が   作:小林司

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お読みいただきありがとうございます。

私の思っていた以上の反響があったので、書く予定に無かった続きをお送りします。

前話のあとがきに書いた通り、私はウマ娘の知識に乏しいので、調べながら手探りで書いています。不自然な点があると思いますが、ご了承ください。


なお、ウマ娘の『ブタノカックーニ』が住んでいる寮は、中央競馬時代の管理調教師の所属先に準拠しております。 

そのため、同室の彼女は皆さんの予想と外れる形になるかもしれません。申し訳ありません。一応、現時点で同室が誰か不明ということで、利用させてもらいました。

賛否両論あると思いますが、お楽しみいただければ幸いです。




 仮病使って休もうと思ったら、想像以上に大騒ぎになったらしい。猛省しました

 

「……さん」

 

どれ位の時間が経っただろう。

 

「……さん! 起きてください!」

 

再び眠っていたらしい。

 

「……()()()()()!」

 

自分を起こそうとする声が聞こえている。

 

()()()()()! 遅刻しますよ!」

 

飛び起きた。

 

「えっと……?」

 

回りを見渡す。

 

さっきの部屋に居る。いつの間にか、自分が居たベッドに横になっていた。

 

「遅刻しますよ!」

 

声の主は、自分のベッドの足元に立っている。

 

テレビCM等で数回見たことのある、トレセン学園の制服を身に(まと)っている。

 

隣のベッドを見ると誰も居ない。さっき寝ていたのは彼女らしい。

 

()()()()()、早くしないと遅刻しますよ!」

 

彼女はそう言う。

 

()()()()()というのは自分のことだろう。名前の後ろの方を切り取ったのか。てっきり()()()()とかだと思ってた……。まぁ、そうだったら、この世界で生きていける気がしなかったけれど。その点は良かった。

 

しかし、今の自分には()()()()()()のかが、分からない。

 

学園と言うからには、勉強やら授業やら、トレーニングやら……。やることは沢山あるのだろう。とはいえ、今の自分にはそれらが全く分からない。

 

情報を整理したり、状況を把握する時間が欲しい……。今はその()()()()場所へ行っている場合ではない。

 

さて、この場はどうやり過ごすか。

 

「ごめんなさい。熱が高いから今日は休ませてもらいます……。そう伝えてもらえますか……?」

 

学校を休む常套句(じょうとうく)、体調不良。

 

申し訳ないが、ここはこれで乗り切るしかない。

 

「ややっ! クーニさん熱発ですか! それはいけませんね」

 

本当に体調が悪いと察したのか、さっきからずっと(やかま)しかった彼女の声は、幾分控えめになった。しかし、依然うるさい。

 

「分かりました! それでは行って参ります! お大事に!」

 

そう言い放ち、部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 

 

部屋には自分一人が残った。

 

とりあえず、自分の身の周りを調べてみる。

 

寝間着姿だが、身分証だけは携帯していたらしい。

 

ベッドから這い出る。

 

えっと、ベッドの足元の方に、勉強机が一つづつ。

 

こちら側が彼女……もとい、今の自分(クーニ)のだろう。反対のは同室のあの娘のらしい。

 

「これは……?」

 

机上には、ノートが数冊無造作に置かれている。

 

『管理ノート ブタノカックーニ』

 

そう書かれたノートを開く。

 

「えっと……。体温、身長・体重、毎日の食事内容……。細かいなぁ」

 

毎朝の体温に、その日の食事内容。これは毎日ではないが、身長・体重の記録。事細かに記載されている。

 

「こっちは。日記かな?」

 

次の一冊は、名前が書かれているだけのノート。

 

開いてみたら、日記らしかった。

 

自分は細かい字を読むのが苦手だ。日記と分かった瞬間にノートを閉じた。

 

「あとは……授業のノートか」

 

授業の板書ノートらしい。

 

トレセン学園の詳しいことは知らないが、『高等部』と言うからには、普通の高等学校に相当するのだろうか?

 

あーあ。その辺の話に詳しい本とか、本棚に無いのかなぁ……。

 

まあ、後で探してみよう。

 

 

 

 

適当に引き出しを開けてみる。

 

あっ! なんということでしょう!

 

腰を抜かすかと思った。

 

開けてみた引き出しには、自分の財布とスマートフォンが入っていた。

 

慌てるようにスマホを手にする。

 

ロックは……指紋認証で解除できた。

 

……あれ?

 

機種が同じで指紋で開けた。ホーム画面も見慣れている。

 

なのに、アプリとか所々様子が変だ。

 

もちろん、知っているものもあれば、見覚えの無いアプリが*1入っていたり。

 

「えっ……」

 

アドレス帳を開いてみたら、絶句。

 

なんですか、これ?

 

会社の上司や同僚、取引先等の情報が一切合切消えている。

 

代わりに、見知らぬ片仮名の名前が幾つも並んでいる。

 

『カフェさん』『グルーヴ副会長』『サクラバクシンオー』『ヒシアマゾン寮長』『ブライアン副会長』『メジロアルダン』『ルドルフ会長』……。

 

誰だ?

 

登録されている連絡先は知らない名前だが、登録の仕方は自分のやり方と同じだ。

 

 

 

 

他の引き出しも開けてみよう。

 

そう思い、一番下の引き出しに手を……あ、開かない?

 

引き出しの前に屈み、両手を取手に掛け、引っ張る。

 

…………。

 

……………………。

 

固くて……開かない。

 

…………あ! 開いた!

 

「うわっ!」

 

開いた拍子に吹っ飛ぶ。

 

「あ! 痛っ!」

 

床に仰向けに倒れ、勢い余って反対側の机に頭をぶつけた。

 

その瞬間、部屋の扉が少々乱暴に開け放たれた。

 

「クーニ大丈夫か? 熱発って聞いたんだが?」

 

誰か入ってきた。

 

「って、おい! 床に倒れてるじゃねぇか!」

 

あ、これ誤解されるやつだ。

 

「あ、えっと……」

 

「これは重症じゃないか! き、救急車~!」

 

誤解を解こうと思ったのはいいが、言葉が出る前にその子は部屋を飛び出して行ってしまった……。

 

「これ、絶対面倒くさいことになるやつだ……」

 

自分以外誰も居ない部屋で、頭を擦りながら一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反省しました……。

 

ウマ娘が仮病使っちゃいけませんね……。

 

あのあと、呼ばれた救急車で病院に搬送され、インフルエンザを疑われ、検査に回された。頭を打ったこともあり、精密検査も受けさせられ……。

 

今は、病室のベッドに座っている。

 

コンコン

 

「どうぞ」

 

扉をノックする音が聞こえ、返事をする。

 

「失礼します。主治医*2です」

 

白衣姿の男性が入ってきた。主治医らしい。

 

「熱発に加えて頭を打っている、ということで、念のため精密検査を行いました。その結果」

 

そこで区切り、手元にある資料に目を落とす。

 

間が長い。怖いんですが!

 

「心電図や血液検査の結果は後日ということになりますが、」

 

前置きが長いと余計に怖い。というか、心電図に血液検査って精密検査というより健康診断では? これ。

 

「今言えることは、何処(どこ)にも異常は見られません。健康そのものです」

 

良かった……。

 

「ですが、念のため今夜はここに入院していただきます。退院は明日の昼の予定です」

 

えっ?

 

「健康なのに、ですか?」

 

「はい。健康であるにも関わらず、熱が上がったということは、過労……疲労が溜まっている可能性が高いです」

 

そりゃそうだ。そもそも発熱が嘘だったんだから。

 

「今熱は下がっていても、再び上がる可能性もあります。念のため今夜はこちらでお過ごしください」

 

え……。

 

コンコン

 

おや? 再びノック。

 

「はい」

 

扉が開く。

 

「主治医、今宜しいですか?」

 

「分かりました。では、これにて失礼します」

 

そう言い、部屋を出ていった。

 

誰かに呼ばれたらしい……。

 

…………えっ? あの人名前が『主治医』なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一晩だけ入院して、退院。

 

寮へと戻ってきた。

 

あ、土地勘はないのでタクシーを利用しましたよ。

 

病院代とタクシー代は領収証を出せば後で返してもらえるらしい。誰から返してもらえるかは不明だけど。

 

「ただいま……です……」

 

寮の重い扉を開いて入る。

 

……誰も居ない。それもそうか。

 

今は午後の授業中だろう。時刻は昼過ぎだ。

 

しかし、誰も居ない方が都合が良い。少し寮内を散策してみよう。調べなければならないこともあるし……。あ。ダメだ。

 

誰も居ない。これはつまり、自分の部屋が分からない、ということでもある……。

 

救急搬送されると分かった時に、財布とスマホは持ったから、今の所持品は財布とスマホ。

 

……そういえば、財布の中に鍵が入っていたような……あった。

 

部屋の鍵らしいが、『12387』鍵に彫られている数字は、部屋の番号ではなさそうだ。困った。流石に、片っ端から鍵を回して開く部屋を探す のは危険だ。誰かに見られたときに言い訳が出来ない。

 

これでは部屋に戻ることさえ叶わない。

 

仕方ない。学園に行ってみよう。

 

……あ!

 

今まで気にしてなかったけど、自分の今の服装、寝間着じゃないか!

 

一連の騒動で気にしている場合ではなかったから失念してたけど、こんな格好で……。

 

 

 

 

仕方ない。こうなったら最終手段だ。

 

スマホを取り出す。

 

誰かに聞こう。

 

誰が良いかな……?

 

寮のことだから、寮長に聞くべきだよね。

 

『ヒシアマゾン寮長』『フジキセキ寮長』

 

どっちだ?

 

救急搬送されるときにとっさに見たから、自分が美浦(みほ)寮に住んでいることは分かっている。

 

だから、美浦寮に戻ってきた。

 

問題なのは、この二人のどちらが美浦寮の寮長か。だ。

 

……よし、決めた。

 

授業中だったら応答がないかもしれないが、掛けてみよう。

 

って、耳の位置はここじゃない。届かないからハンズフリーで……。

 

『はい、フジキセキです』

 

出た。

 

「あ、えっと……今大丈夫ですか?」

 

『? 大丈夫ですよ。それにしても珍しいですね。クーニ先輩から電話だなんて』

 

先輩? 私は彼女の先輩なのか……。面識はあるらしいが、頻繁に電話する相手ではない感じだ。間違えたかな?

 

「えっと」

 

あ、先輩なら敬語だと不自然だろうか? まあいい。そんなことを気にしている場合ではない。

 

『あ! そういえばクーニ先輩、昨日救急車で運ばれたって聞きましたけど、大丈夫だったんですか? 美浦大騒ぎだったって……』

 

知られているらしいな。

 

「大丈夫でした。ご心配お掛けしましたね。今、帰ってきた所です」

 

『それは良かったです。インフルエンザの疑いありって聞いたので驚きましたよ。そうだったら美浦、寮全体を消毒しなきゃって、みんなクーニ先輩を心配しつつも、半分涙目でしたよ』

 

おお。想像以上に大事になっていた。

 

やっぱり、ウマ娘は仮病使っちゃダメなんだな……。教訓。

 

「本当にすいません……」

 

『まあ、こんなこと先輩が健康だったから言えることです。ところで、何かご用ですか?』

 

そうだ、本題忘れてる。

 

「ちょっと、ド忘れしてしまって、お聞きしたいことがあるんですが。宜しいですか?」

 

『構いませんよ。先輩の頼みなら断りませんから。何ですか?』

 

「自分の部屋、分からなくなりました」

 

『えっ? そ、それは災難でしたね……』

 

「お恥ずかしい限りです……」

 

『美浦寮511号室ですよ。バクシンオーさんと同室でしたよね?』

 

511号室。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

『いえ。くれぐれも無理はなさらずに。それでは失礼します』

 

通話が切れた。

 

話し振りからして、フジキセキさんはこちらの寮長ではない感じだな……。

 

間違えてたらしい。

 

となると、こちら『美浦寮』の寮長は『ヒシアマゾン寮長』らしい。

 

フジキセキさんは『バクシンオーさん』と言っていたから、同室の彼女はアドレス帳にあった『サクラバクシンオー』さん、ということか。

 

少しずつ分かってきたぞ。

 

 

*1
例えば、Twitterの代わりにUmatterウマッターが、Instagramの代わりにUmastagramウマスタグラム

*2
本来、メジロ家専属の医師(使用人)だが、特別に呼ばれた。誰の要望かは……お察しください


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