目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が   作:小林司

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 【悲報】○○になりました

 

あれから数ヶ月経った。

 

今年のクラシック戦線は、弥生賞をスペシャルウィークさんが勝ち、2着・3着に入ったセイウンスカイさんとキングヘイローさんと三人揃って皐月賞への出走権を手にした。

 

今年は共同通信杯が降雪で急遽芝からダートへ変更される、というアクシデントもあったが、そのレースに出走したエルコンドルパサーさんはしっかり勝利していた。

 

 

 

 

 

さて。学園は、というと、卒業式を終えて期末試験が終わった頃。入学式までの間の期間で、普通の学校ならば春休み前の自由登校の時期だが、トレセン学園にそれは関係ない。

 

月末には若葉ステークスや毎日杯などのレースも控えている。むしろ、これからの方が忙しいのだ。

 

忙しいのは生徒会役員の三人も同じ。普段通りトレーニングをこなしながら、生徒会業務を行っている。

 

しかし、今は年度末が迫っていて、処理すべき書類等は普段と比にならないほど忙しい。

 

そうなれば必然的に、暇である私の仕事が増える。

 

まあ、レースに出ない訳だから仕方ない。

 

自由登校は関係ない とは言ったが、今は普段通りの授業は無い。

 

そのため、他の役員他生徒たちがトレーニングに励んでいるように、私も生徒会の仕事に集中する。

 

 

 

校内の見回り(巡回)へと向かう。

 

「おやおや? そこにいるのはクーニさんかな?」

 

私の名前を呼ぶ声。

 

「あら。セイウンスカイさん」

 

1月のデビュー戦と2戦目の時に、彼女のトレーナーと一緒に中山レース場へ行った。

 

この2戦共、良いものを見せてもらったなぁ……。

 

「あれ? 私が声掛けても無視ですか?」

 

「いやいや。貴女の顔を見たら、レースのことを思い出しまして……」

 

「なるほど。そういうことねぇ。あ、でも弥生賞には居ませんでしたよね? スペちゃんも気にしてましたよ」

 

それは……。

 

「あの日は先約がありましたので。私は阪神レース場に行ってました」

 

「あちゃー。それなら仕方ないですね……」

 

その子のトレーナーが新幹線の手配をミスり、生徒会に泣き付いてきたのだが……。それでどうなったかは言うまでもないでしょう……。

 

「クーニさん、阪神レース場って遠いから大変でしょう? もし私が運転するって考えたら、大変だから嫌かなぁ」

 

「慣れ、ですよ。何度か行けば分かります。ほら、皆さんも得意なレース場があるじゃないですか?」

 

「そうですね」

 

「似たようなものですよ。……多分」

 

「多分ですか……」

 

私の一言にずっ転ける。ノリ良いなこの娘。

 

「それではセイちゃんはトレーニングありますから、これにて失礼~」

 

そう言って歩いて行く彼女を見送った。

 

 

 

 

さてと、巡回の続きを……と思って振り向けば、胸に何かがぶつかった。

 

「えっ? あ、ツインターボさん……」

 

「えへへ」

 

どっきりを仕掛けてそれに相手(この場合、私)が引っ掛かったことに喜んでいるような顔だ。

 

「何しているんですか?」

 

「何も。それじゃあ!」

 

走り去って行く。

 

一体、何だったのだろう?

 

ツインターボさんが走り去るのと別の足音が聞こえてきて、今度はその方向を見る。

 

「あら、こちらにいらしたのですか……」

 

「ああ。ジャーニーさん」

 

ドリームジャーニーさんだ。何かとお世話になっている 池沢トレーナーのチーム の一員。

 

「生徒会室に赴いたら、巡回中ということでしたから、改めようと思ったところでした」

 

「それは失礼しました。えっと、そちらは遠征支援委員会の書類でしょうか?」

 

小柄な体に見合わぬ多量の書類。恐らく……。

 

「ええ。宜しくお願いします」

 

差し出される書類を受け取る。重……。

 

「凄い量ですね……」

 

「まあ。皆様の広報のお陰で、我が遠征支援委員会も多くの方に利用して頂けていますから、嬉しい限りです。

ありがとうございます」

 

「いいえ。私は大したことしてませんから……」

 

どちらかと言えば、他の役員三人の手柄だ。

 

 

 

遠方のレース場で出走するレースが行われる場合、担当トレーナーや時としてウマ娘本人が宿の手配や新幹線・飛行機の予約を行っている。

 

しかし、それだとトレーナーやウマ娘の負担が大きく、トレーニングやレースに注力できないため、そのサポート役として存在しているのが『遠征支援委員会』だ。

 

トレセン学園もといURAはとても大きな組織であり、各方面からの信頼も大きい。

 

それ故基本的に支払は『後払い』で良いため、こうやってある程度溜まってから生徒会へとやって来る。

 

それでも、即金で支払う必要もあり(個人経営の民宿・飲食店や、地方私鉄・バス等)、その時はそれが判明した時点ですぐにやって来る。

 

因みに、生徒会側の担当は、出納長を兼務している私の仕事だ。

 

 

 

「特に今は年度末ですからね。駆け込みの書類も多いので。追加があればすぐにお持ちしますね。あなたもその方が良いでしょう?」

 

流石、彼女は分かっている。

 

「はい。その様にお願いします」

 

この書類は私が目を通したあとすぐに理事長室へと届けるため、早い方が助かる。

 

繰り返すようだが、今は年度末。URAへの信頼が大きいため、多少支払が遅延したところで怒られることはないが、期日は守るに越したことはない。

 

「では、お預かりします」

 

「ああ、それとクーニさん」

 

「はい?」

 

「遠征支援委員会の部屋、窓を大きくすることは出来ませんか?」

 

「はい?」

 

確認の疑問符だったのが、聞き返しの疑問符へと変わった。

 

「窓……ですか」

 

あの理事長だもんなぁ。事ある毎に自分の財布を開こうとして、及川さんや駿川さんの雷が落ちているからなぁ。

 

「正当な理由があれば可能だとは思います」

 

「そうですか……」

 

私の返答に、ドリームジャーニーさんは良い顔をしなかった。理由が理由なのだろう。

 

少しでも良い対策……改善策を。あの部屋の間取りを思い出そう……。あ。

 

「カーテンを外しましょうか」

 

私はカーテンの形状について詳しくないのだが、あの部屋のカーテンは、上が繋がっているものを両側で縛って開いている。それを外せれば、入ってくる日光の量は増えるだろう。

 

「なるほど……。それは良いですね」

 

おお、それは気づかなかったという顔だ。

 

「一度理事長に確認してみます」

 

「よろしくお願いします。ああ、許可が出ましたら作業は此方で行いますので連絡をください」

 

えっ? ドリームジャーニーさんが?

 

「ご安心を。作業は彼女自身にやらせますよ」

 

その背丈で高所作業は厳しいだろうと思ったら、言い出しっぺは別の娘らしい……。

 

「長話失礼しました。では、私はこれで」

 

「ああ。では」

 

 

 

 

重い書類を抱えて校内巡回を続けるのは困難だと思い、書類を置きに生徒会室へ戻る。

 

扉の前に掛けた札を外し、鍵を開け扉を開き、入室。

 

……このまま書類を片付けてしまうかな。

 

ふと、カレンダーを見上げる。そういえば週末は中山記念か。

 

まあ、私はその日中京レース場に行く先約がある。交通費の手配は済ませてあるし、問題ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事長室の扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

及川さんと思われる声が聞こえてきた。

 

「失礼します。生徒会副々会長ブタノカックーニです」

 

扉を開けて入室。

 

「ああクーニさん。丁度良いところにいらっしゃいましたね」

 

えっ?

 

「URA本部より、クーニさん宛に郵便が届いています。二つも」

 

…………嫌な予感。

 

「此方です」

 

差し出される封筒を受け取る。

 

一つは普通の長形封筒。しかし、箱のようなものが入っていて変な形に膨らんでいる。

 

もう一つは巨大な角形封筒で、宛名の横に大きく『折曲厳禁』『水濡厳禁』と書かれている。

 

まずは大きい封筒を……って、もう開封されてる?

 

中からは厚紙に挟まれた賞状の用紙。えっと……、

 

『ウマ娘トレーナー免状 ブタノカックーニ殿』

 

『右は、本会による第○○回トレーナー試験において合格し、ウマ娘トレーナーとしての資格を有することを証明する』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

【悲報】トレーナー試験に合格しました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ落ちそうになりながらもなんとか踏ん張り、とりあえず、一式を近くの机に置いた。

 

此方の封筒が免状なら、もう一つの中身は見なくても分かる。分かるが開封する。

 

あれ? こっちは封がされたままだ。

 

開封したらやはり形通りの箱と紙が出てきた。

 

どれどれ……。

 

『バッジ裏面の刻印と免状の番号が一致するか確認し、誤りがあれば直ちにURAへ連絡を』

 

ふむ。

 

箱を開けばそこには見覚えのある物と全く同じそれが入っていた。

 

「あら? それは……」

 

隣に及川さんが居る。

 

「ご覧の通りです。私のトレーナーバッジ……」

 

「なるほど……そういうことでしたか」

 

「どういうことです?」

 

「封筒、開いていましたよね?」

 

「はい」

 

大きい方は。

 

「それ、理事長が自分宛だと勘違いして開封してしまったんですよ。中身を見て貴女のものだとすぐに気づきましたが、同時にたづなさんと共に部屋を飛び出て行きました。何か、あーだこーだ言いながら……」

 

あの二人の事だ。どんなやり取りがあったか、想像に難くない。

 

「なるほど。状況は分かりました。えっと、この二つはもらっていきますね」

 

「どうぞ。ところで、クーニさんのご用件は?」

 

あ。忘れるところだった……。

 

「実は、遠征支援委員会から相談がありまして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事長室を出る。

 

少し歩いてから立ち止まる。

 

「さてと。どうするかなぁ……」

 

一人呟く。もう理事長の耳には入っている感じだ。

 

だから、黙っていようがいまいが、じきに会長の耳には入る。

 

バッジを見たところ、ネジ式のピンバッジだから、制服の襟の裏側にでも穴を開けて、そこに着けておこう。これなら簡単にはバレないだろうし。

 

 

しかし。

 

トレセン学園の生徒がトレーナー資格を有しているなんて、前代未聞じゃないだろうか?

 

 

 





<2月19日削除>

本文中にありました下記の文。

 『トレーナー資格を有する≠トレセン学園でトレーナーとして働く』

ですが、次のお話と設定が矛盾してしまうため削除しました。

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