目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が 作:小林司
色々あって爆発寸前の頭を抱えながら、理事長室を出て廊下を歩いて行く。
「クーニさん!」
「うん? あ、タマモイナズマさん」
声を掛けられて振り向けば、知った顔が現れる。
「どうされました?」
タマモイナズマさん。遠征支援委員会の一員で、時々仕事を受け取っている。
しかし、今日は既にドリームジャーニーさんから貰っているので、別件だろう。
「今週末、クーニさんは中山記念に行かれますか?」
ほら。
「えっと……その日私は中京レース場ですね」
「それってトッキューちゃんのレースですか?」
「えっ? はい。そうですね」
テイエムトッキュー*1さんのことだろう。確かに彼女のレース絡みの用事だな。
「それ、私も同行して良いですか?」
「同行? タマモイナズマさんも、ってことですか?」
「はい。トッキューちゃん応援したいな……って」
そういえば、タマモイナズマさんとステイゴールドさん、テイエムトッキューさんの三人は、メイクデビューで二度*2顔を合わせて以降、何度か同じレースを走り、互いに切磋琢磨している仲だっけ。
しかも、タマモイナズマさんとテイエムトッキューさんは同室だ*3。応援に行きたくなるのも当然だろう。
「まあ。トレーナーの許可さえ下りれば……。あ、でも、私が中京レース場に同行するのは、テイエムトッキューさんのトレーナーが、別の娘のレースが重なってて同行出来ないのが理由です。故に、二人のトレーナーから許可を得て下さいね?」
テイエムトッキューさんのトレーナーは、ワンダーアキュートさんのレースを優先したい、ってことで、私に依頼してきた(厳密には、生徒会に)。*4
「分かりました~! すぐに確認してきます!」
言うが早い。あっという間に姿が見えなくなる。
もちろん、廊下は走っていない。
生徒会室に戻って一人仕事をしていると扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
タマモイナズマさんだ。
「お待たせしました。クーニさん、トレーナーの許可貰ってきましたよ」
早いなぁ。30分位しか経ってない。
「了解しました。あ、『外泊届』はご自分で書いてくださいね。前日は10時くらいに出発予定ですので」
「分かりました。紙もらっといても良いですか?」
えっと……帰寮届じゃない、外寮届でもない。外泊届はっと。
いや、両方渡した方が良いのか。
「はい。当日はウイニングライブが終わったら即日帰路の予定ですから、渋滞等で遅れた場合に備えて、『早朝深夜帰寮届』も書いてください」
二枚まとめて差し出す。
「ありがとうございます」
「前日の昼までには提出してください」
「分かりました。では、失礼します」
出て行くタマモイナズマさんを見送った。
さてさて、私は仕事の続きをしよう。
えっと……この書類は『ガソリン代』の請求書だ。
車は『関東の刺客号』のか。あれは面倒だったなぁ……。
というのも、3月7日はタマモイナズマさんのレースがあるため、彼女と彼女のトレーナーと共に元々中京レース場に行く予定を組んでいた。
そうしたら突然、翌8日に阪神レース場のレースに出るビコーペガサスさんのトレーナーが、新幹線の手配をミスったから乗せてって欲しいという話になり……。
私を含め5人で世紀末覇王号で移動するのはちょっと厳しいので、関東の刺客号を借りることになったのだが、別件で中京レース場に車を残す必要が出た。
そのため、私が刺客号、そのトレーナーが覇王号という車二台で別行動、話になった矢先、トレーナーがAT限定免許だったから、逆になり……。
結局、ビコーペガサスさんのトレーナーが刺客号を運転して阪神レース場に向かい、私が覇王号を運転して中京レース場に行った。
まあ、面倒なやり取りがありました……。
因みに、タマモイナズマさんのトレーナーが車で緒用でレース場外に行っている間、私は保存されている電車*5を見たり、レース場内の有名なラーメン屋さん*6で食事をしたり、それなりに有意義な時間を過ごさせていただきました。
さてと。週末の書類を準備しましょうか……。
「で。皆さん、今日は一体どの様なご用件ですか?」
テイエムトッキューさんのレースが終わり、ひとまず私の遠征関連の仕事が終わる。
そっちが終わっても、書類は山のようにあるわけだから、仕事が手元に無いことは絶対有り得ないんだけどさ……。
なんて考え事をしながら廊下を歩いていたある日の放課後。例のごとく頭陀袋で連行されて来たのは(恐らく)『チームスピカ』の部室だ。というか、頭陀袋で誘拐されるのはこのチームのメンバーしか有り得ないんだけどね。幾つもあったら恐い。
頭陀袋が取られ、視界が広がると同時に、袋の何処かに引っ掛かったのか、スカートが捲れ上がる。が、すぐに元通りになった。
「「「あ……」」」
見えてしまったのだろう。気まずそうな声を上げるチームメンバー一同。新たに加入したトウカイテイオーさんも含め、全員が揃っている。
「あ!」
と、私の後ろですっとんきょうな声を上げるゴルシさん。
彼女の顔を見て、その視線の先を追う……なるほど。
「ゴルシさん?」
私のパンツを見てしまったであろうトレーナーを、締め上げようとしているゴルシさんを手で制し、しまった という顔をしている彼を見る。
「気にしないでください。見られて困るようなものではありませんから」
そう言い溜め息一つ。
そして、私は冒頭の台詞を吐いたのだった。
「クーニ、頼みがある」
「何ですか、トレーナー」
私に用があるのはトレーナーらしい。遠征関連だろうか。
スペシャルウィークさんの弥生賞は終わったし、中山記念はサイレンススズカさんが勝って幕を下ろした。今度は誰の……。
「クーニ。お前、このチームのサブトレーナーにならないか? 知ってると思うけどよ、テイオーも加わりこのチームは6人になった。色々と忙しくてな、俺一人では面倒見きれない部分もあってだな……」
「お断りします」
相談内容は想定外。
「即答かよ!」
当然断る。
「もちろんです。私に
今の私の立ち位置……立場を簡単に説明しようか。
そもそも、「ウマ娘のトレーナーになりたい!」場合、最も一般的なのが、『トレーナー学校に入学して学ぶ』方法だ。
トレーナー学校で三年間学び、卒業時に筆記試験と技能試験を受け、身体能力試験をクリアし、トレセン学園の面接を通過すれば、試験合格となり『ウマ娘トレーナー』の資格を得て、トレーナーになれる。
試験の時に受ける面接は『学園に雇うか否か』の面接だ。故に、『トレーナー資格を得る=学園で働く』ということになる。
なお、極々稀なケースではあるが、トレーナー学校を経ずともトレーナー試験を受ける人もいるらしい。
もちろん、その場合も合格すればトレーナー資格を得れる。*7
私の場合、筆記試験と技能試験を余裕の点数でクリアしていて、次に受けるべき身体能力試験がウマ娘なので免除されている。
次に来る面接だが、『トレセン学園に生徒として入学する時に、学園長の面接受けている。二度は不要』という理由で行われなかった。
それでも試験には合格しているからトレーナー資格は手に入れることが出来た。バッヂを貰っているからそれは間違いない。
しかしながら私は、『トレーナー資格はあるが、トレセン学園の学生である間はトレーナー資格が有効ではない』らしい。*8
トレーナーとしてウマ娘を担当に持ち指導する資格はあれど、現時点では認められていない。資格が有効ではない、という方が分かりやすいのだろうか……?
私は、無事にトレセン学園を卒業すれば、その時点で『ウマ娘トレーナー』として働けるようになるとか……?*9
「……とまあ、こんな感じです」
「成程なぁ……。大体分かったよ」
「理解いただけたようでなによ「それを踏まえてサブトレやらねぇか?」…………あなた、話聞いていましたか?」
というか、話している途中で遮らないでください。
「チームメンバーとしてスピカに加入し、競走ウマ娘としてこいつらと一緒にトレーニングしながら指導してもらえば良いんだよ」
「カモフラですか……。たぶん気付かれますよ」
「それならさぁ」
今までウマ娘同士で何かを話していたメンバーから、ゴルシさんがこちらを向いて口を開いた。
「理事長に確認してみたら?」
スピカのトレーナーやチームメンバーと共に、理事長の部屋に殴り込み。
まあ、結果を先に言えば『ルールはルール。それを破ることは認められない』ということなんだけど……。
「お前のせいだろうが!」
「私は悪くないもん! 誰も試験受けろなんて言ってないもん」
スピカトレーナーの怒号に、急に見た目年齢相応の口調になりやがった理事長。
「多少は融通してくれたって良いだろう?」
「定められたルールを守るのが大人の仕事! それを大人が率先して破っていたのならば、示しかつかないのではないか?」
理事長が扇子を広げる。『厳守』の文字。
至極真っ当な意見に、トレーナーは何も言い返せないらしい。
「はぁ~」
溜め息一つ。
「まあ、それに関しては理事長の言う通りですから、私も反論の余地がありません」
誰が悪い。そう問われれば只一人*10を指してやりたい。
今頃一発盛大なくしゃみをしていることだろう。
「ほれ。ウマ娘達も呆れているではないか」
スルーですかこの野郎。それなら……。
「これ、私帰っても良いでしょうか? こう見えても暇ではありませんので」
「そこを何とか!」
「であれば他のフリーのトレーナーを捕まえれば良いではないか?」
「と言ったって、学園ではトレーナー争奪戦が繰り広げられているのは事実でしょうが!」
「人手不足は否めぬ。それでもルールはルールなのだ」
私は相手にされていませんねぇ……。
「それなら帰りますよ?」
それだけ告げ、理事長室を抜け出す。
あ、そこ『えっ? 帰っちゃうの?』『ならアタシたちも帰りたい』って顔しないの。トレーナーが大事な話をしているんだから、メンバーであるあなたたちは残っててください。
「あ、クーニさん!」
理事長室を出てしばらく歩いて行くと、私の名を呼ぶ声が。
「あ、テイエムトッキューさん。と、オルフェーヴルさん……」
振り向けば、その二人が一緒に歩いていた。
「何故このようなところに?」
「珍しいですね」
私がここを歩いていることが、二人にしてみれば珍しいらしい。
「まあ……。拉致されたというか……」
言い掛かりに近いが、間違ったことは言ってないと思う。
「「拉致?」」
二人の声が重なる。
「あ、それって噂のあの人たちですか?」
「ああ、余も聞いたことがある。突然現れたサングラスの三人組に、頭から袋を被せられて誘拐されると……」
スピカの皆様、思ったよりも有名ですよ……。
「お二人は?」
「これからジャーニーさんをお迎えに行くんですよ」
「左様。姉上は忙しいのだ。仕事で疲れているであろう姉上を、彼女と一緒に迎えにな」
愛されてますねぇ、ドリームジャーニーさん。まあ、忙しいのは私も一緒なんだけどさぁ!
「そういうことでしたか……。あ!」
思い出した。
「そうだ、オルフェーヴルさん。ドリームジャーニーさんから相談されてました『遠征支援委員会の部屋のカーテン』の件、許可が下りましたので、いつでもどうぞ」
さっき、理事長に入って真っ先に及川*11さんからその話を貰った。その後、及川さんは別件で部屋を出ていったので、スピカとのやり取りは理事長とスピカトレーナー・メンバーと私しか知らないんだけどね……。
「承知した。後日姉上と一緒に外そうと思う。いや、トッキューさんに手伝ってもらおうか」
「良いよオル。何時にする?」
「そうですね。明日の放課後は如何ですか?」
「私は大丈夫だよ」
うん? この二人の関係ってどうなんだろう?
『未デビューながら、すでに才能の片鱗を見せているウマ娘。圧倒的なオーラで、異様な存在感を放っている』と言われているオルフェーヴルさん。
彼女のオーラに萎縮してしまうトレーナーやウマ娘も多いと聞く。
しかし、それを全く気にしないウマ娘もいるが、テイエムトッキューさんの場合は真逆だ。
むしろオルフェーヴルさんの方がテイエムトッキューさんに対して恐縮しているようにさえ感じる。
前にドリームジャーニーさんから聞いた話だと、『前に母がお世話になった*12』ことがあるらしいが、それ以上のことは知らない。
「では、私はこれにて……」
まあ、気にしたって仕方がない。私には直接関係の無い話だし。
「はい。ありがとうございました」
「恩に着る」
さてと。生徒会室に戻ったら仕事だ。
「あ、クーニさん!」
別のウマ娘の声だ。
「はい?」
「水道管が破裂した場合って、誰に相談すれば……」
「はい!」
生徒会室が遠い……。