目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が 作:小林司
「ここが中京レース場*1か」
ゲートの前に立った私は、誰に言うでもなく呟いた。
最寄り駅から電車を乗り継いで一時間。電車を降りてからは徒歩10分。やって来たのは中京レース場*2。
入場料200円*3を払って場内へと入る。
何処に何があるのかはある程度把握してきたから、目的の場所へと向かう。
まずは投票所。
勝馬投票券……馬券。それを購入するためのマークシートを手に取る。
「単勝・複勝・馬連……。なるほどなるほど……」
つまり、それぞれ1着・1~3着・1ー2着をそれぞれ当てるのか。
馬単は1→2着だな。
「これは難しそうだね」
そう考えると、3連単とか分からないと思うなぁ。
「えっと、パドックはどっちかな……」
ほとんどの人は、パドックを歩く馬を見て、馬券を買う馬を決めるらしいからね。
「うわっ。本当にいるんだ……」
目の前のパドックを歩く馬を見て、私は思わず声が出た。
「
係員にひかれパドックを歩いている。
正円ではない、楕円形のパドックを何頭か一緒に回っている。
「え……ここでするのか……」
まあ……それには触れないでおこう。
「しかしまあ、変わった生き物だよねぇ」
牛やロバとは違う、本当に 走る為 って感じの動物だ。
「それはウマ娘と同じだな……。えっと、目の充血、発汗、毛づや、耳……」
判断材料とされる項目を見てみるも……。
「正直、良く分かんないや」
まあ、適当で良いかな……。順当に人気順で。
最初パドックに着いた時にはほとんど人が居なかったのに、いつの間にかごった返していたのに驚きつつ。その人たちが馬券販売機に並べば更に大変だと思って、さっさと購入を済ませる。
指定席とかよく分からなかったから、ゴール前の柵にもたれてみる。
「ここを走るんだよなぁ……。私たちが走っていた馬場と大して変わらないよねぇ」
一人呟く。
しかし、この呟きが隣のおじさんに聞こえてしまったのか、とんでもないものを見るような視線が向けられた。
あまり、
いよいよ発送時刻。ファンファーレが鳴り響き、場内も騒がしくなってきた。
実況の声よりも、遠くに見えている馬の姿に集中しているが、どうしても驚きの声は耳に入るんだよねぇ。
『スタートしました。おっと! 1頭、いや2頭落馬! 1番5番揃って落馬です!』
どうやらスタート直後に落馬したらしい。
競馬の場合、騎手と馬が揃っていないと成立しない。つまり、騎手が落ちてしまったら馬だけが走り続けていても、競争中止 だ。
「「「あ~!」」」
私の周囲でも悲鳴……叫び声が上がった。
1番人気2番人気揃って競争中止になったから、手元の馬券が紙切れに化した人が多いのだろう。
これは荒れそうだ。
目の前を通りすぎる空馬を見て、私は苦笑いを浮かべてみた。人気順で買ったから、私も馬券外れてるんだよね……。
『中京競馬場、第一レース。払戻金をお知らせします……』
結局、人気が低い順に1着・2着・3着……と入線して決まったから、とんでもない高配当になった。
「14万円かぁ」
まさか、初めて来たレース場*4でこんなものを見ることになるなんてね。
「難しいなぁ。でも、競馬って面白い!」
そう呟きながら馬券を取り出す。次こそ当てるつもりで。この外れ馬券は記念に……。
…………?
あれ……?
あれっ! 私、単勝人気の順に3連単を買ったつもりだったんだけど、馬番号の順に三連単を買っていた。しかも、1百円のつもりが1千円……。
「これ……当たってるよね……」
大失敗からの大成功だ……。
馬券を手に窓口へ向かう。
当然、自動機での払い戻しは出来ない。専用の窓口へ。
「お待たせ致しました」
少し待たされてから渡された札束を、震える手で受け取った。
うわ……帯付。
笑えない失敗が、笑うしかない結末を生んだ。
「どうしよう?」
競馬はギャンブル。依存症対策で競馬場にはATMは設置されていない。即ち、競馬場外のATMまでは最低でもこのお金を持っていかないとダメだ。
とりあえず、カバンに仕舞おう。そう思って開いたカバンから、何かがこぼれ落ちた。
運転免許証だ。
「やっぱりカードケース買って入れないとなぁ。財布でも良いのか?」
呟きながら拾い上げる。
『
目が覚めた。
うん?
目を開けたが、目の前に見えている天上に見覚えがない。
え。これ何処?
とりあえず、布団から起き上がる。が。
「重っ!」
体が異常なまでに重い。あ、というのは体調不良というわけでなく、物理的に重い。
というか、
「今の声……」
男性のものだ。
あれ? 私はウマ娘のはず……。
えっと、姿見は?
辺りを見渡しながら、ゆっくり立ち上がる。
「うわ……」
足元を見ようと視線を落とすが、お腹が邪魔でつま先すら見えない。
「食後のオグリキャップさんみたいだなぁ……。……え、嫌なんだけど」
股間に感じる モノ の感覚。
「そりゃあ、男性なんだから当然よね……。嫌って言っても無理か」
ところで……。
「これって、夢か何かなのかな?」
ウマ娘のはずの私が、人間の男性になっている。
夢の中なんだよね?
「とりあえず、もう一回眠ってみよう。うん、そうしよう!」
妙に納得してそのまま臭い布団へ飛び込んだ。
次に目が覚めれば、きっと元通り……。
「に、ならないってことは、夢ではないんだろうねぇ……」
これが本当に夢ではなくて現実なら、嫌でもこれを受け入れるしかない。
「一体、この人は誰なんだろう?」
かなりの肥満体型だ。
それこそさっき言ったみたいに、食後のオグリキャップさんやヒシミラクルさんたちのように、お腹は出ている。
背はそこまで高くはない。
年齢は……30代辺り?
……何か手掛かりはないだろうか。
と、再び周りを見渡すと、カバンが一つ置かれていた。
「これに財布とか入ってるよね……? あ」
ビンゴ。カバンを開いたらすぐに財布を発見。その財布を取り出そうとしたら、何かカードが一枚こぼれ落ちた。
「あ、運転免許証……と、郵便物?」
裏面だが、これは免許証に違いない。もう一つはこちらも裏面を向いた郵便はがき。
慌てるように取り上げ、表を向ける……。
えっと……。
……。
…………。
………………。
あはは。
笑うしかないねぇ。
名は体を示す、って奴かな?
ほんと、この人そんな体型だもんね。まあ、今は
事実は小説より奇なりって言葉があるけれど、本当だね。
まあ、これが小説だとして、タイトルを付けるとしたら……
『ウマ娘でブタさんの私が転生したら、人間になったけど、ブタのままだった』
かな……。
さてと。とりあえずは運動してダイエットかな?
この後、ウマ娘の本能ゆえに何も考えずに走って足を疲労骨折し、半年間走れなくなってその間は本能を封印して発狂しそうになったけど、走るよりも鍛えた方がダイエットになると思ってジムに通った結果、スマートなイケメンボーイになった。そして、試しに行ってみたレース場*5で、とんでもないミスをするわけだけど、それは別のお話……。