目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が 作:小林司
祝 ステイゴールドウマ娘に登場
ようやくステイゴールド来ましたね!
この馬を語ると登場する馬がたくさんいますが、ステイゴールドは新馬戦から凄いんですよ。
前に一度本作品で触れている通り、2002年以前は 初出走した開催内であれば最大4回まで新馬戦(メイクデビュー)に出走可能でした。
ステイゴールドは新馬戦に2回出走していますが、その2回のメンバーに、
ビワビーナス
ダンシングボーイ
テイエムトッキュー
タマモイナズマ
オースミサンデー
ブレイブハンター
ツキノブレイヴ
ドラゴンゼウス
の名があります。2戦に9頭が揃っているんですね。
その中でも、タマモイナズマとは計5戦しています。また、ビワビーナスはビワハヤヒデ・ナリタブライアンの半妹(父 トニービン)に当たるので、これだけでも一つのお話が書けるんじゃないか?
……ってな訳で、登場してもらいます。
因みに、ステイゴールドの初勝利は、4度目の未勝利戦(合計6戦目)です。
ある日の放課後。
「はい。確かに」
「毎度どうも~」
「ご苦労様でした」
業者のトラックを見送った。
「さてと」
山積みの段ボールを前に、納品書を開く。
「えっと……。キャベツ10㎏……レタス5㎏……にんじん80㎏……。次が……バナナ100㎏……。青森県産りんご50㎏……」
「「バナナ?」」
聞き覚えのある声と、聞き慣れない声が後ろから聞こえ、振り向く。
「相変わらず胸でかっ……」
「だ、誰の頭が大きいって!」
「頭とは一言も言ってませんが?」
ビワハヤヒデさん。
と。
「えっと……何かご用でしょうか。アドマイヤベガさん」
この二人が立っている。
「バナナと聞こえたものだからな」「バナナって聞こえたから」
二人、言っていることは少し異なるが、口を揃えてこう言った。
「その為にわざわざこんなところへ?」
ここは校舎裏手にある業者の搬入専用門だ。普段、生徒が近づくことは少ない。
逆に人目につきにくい場所であるため、怪しい取引現場に使われることもあるが。
前に、メジロドーベルさんがアグネスデジタルさんに何かを渡しているのを目撃した人がいる。
私の問いに、二人は揃って頷く。要するにバナナが欲しいのだろう。
「ダメですよ。これはそっくりそのまま浦和トレセンに届ける荷物なんですから」
いよいよ今週末に迫った『浦和トレセン春祭り』。中央との交流イベントとするため、模擬店で使用する食材の購入は此方が担当することになった。
なので、納品も此方に来る。
「浦和行のトラックが着く前に検品済ませなければならないので、申し訳ありませんが、手伝っていただけないのなら、他所行っててもらえます?」
そう。今届いたこの荷物が納品書と相違ないか確認し、浦和行のトラックが来たらそちらに積まなければならない。
二人、私の言ったことに対して無言で顔を見合わせ、頷いた。
「もちろん手伝うわよ」
「ああ、むしろ私たちでやろう。クーニ、君は座っていたまえ」
座れって…………地面に? 回りにあるのは納品された食品の入っている段ボールだけ。
もちろん、段ボールを直にアスファルトに置くのはよくないから、ブルーシートを引いてあるけれど、私が座る余白は残っていない。
「たこ焼用小麦粉100㎏」
「はい」
「お好み焼き粉1㌧」
「えっと……ある」
二人で次々検品を済ませて行く。
文字通り山積みなので、時折段ボールに登りながら確認しているが、制服を着ているので、角度によっては……。自主規制。
「終わったわ」「これで全部だな」
あっという間に終わった。流石だ。
「ありがとうございます。助かりました」
時計を確認。あと10分位でトラックが来るだろう。
「それでは」「私たちはこれにて失礼」
そう言いながら、二人は去って……。
「いやいやいや~! バナナ持っていかないでくださいね?」
さも、当たり前のようにバナナの箱を抱え、歩き出す二人を止める。
「それ持っていかれたら、私の面子丸潰れですからね?」
こちらから出店する店は幾つかあるが、基本的には彼方が主催。この食材の量も彼方が指定したものだ。相違があれば私の責任になる。
「それは……ダメだな」
ビワハヤヒデさんは納得してくれたようだ。
一方、アドマイヤベガさんは少し納得ずくらしい。
「ところでこの箱……」
何か話変えようとしてるし。
「……ユキノって書かれているけど」
ユキノ?
「ユキノビジンさんの岩手物産展で使う物ですね……」
他には、ハルウララさんの高知物産展、ホッコータルマエさんの北海道物産展にフリオーソさんの千葉物産展……そんなところか。
「中身が違う気がするけど……」
え?
アドマイヤベガさんが抱えている段ボールを開く。中身は……バナナ。
あれ?
「岩手物産展でバナナを使用するなんて話聞いてませんね……」
そもそも、物産展の品物が今日納品されるって話も聞いていない。
何かの手違いか、間違いか……。ん?
「これ……。ハヤヒデさん!」
気になるものを見付け、彼女を呼ぶ。
「どうしたクーニ?」
持っていた段ボールを起き、側へ来てくれた。
「このユキノの文字、上から消されてませんか? ×印で」
文字自体はマジックで書かれているが、上から鉛筆の×印が書いてあるように見える。薄いが。
「……確かに」
「言われてみればそうね」
二人に確認してもらった。
となると、この段ボールはユキノビジンさんの物産展の品物ではない、ということか……。
「違うのなら紛らわしいわね。しっかり消した方が良いんじゃない?」
「そうだな。えっと……」
「ハヤヒデさん、ペンなら私持ってるわ」
そう言いながらアドマイヤベガさんが太い油性マジックを出した。よくそんなもの持っているなぁ……。
「いいわよね?」
「ん? はい。お願いします」
マジックで二本線が引かれた。これなら間違う心配はない。
「では、私たちはこれで……」「それでは……」
「だーかーらー!」
持って行くなって言ってるのに。
「あ! お姉ちゃんこんなところにいた!」
ん? 誰か来た。
「な、ビ、ビーナス」
ビワビーナスさんだ。
「こんなところで何してるのよ!」
「そ、そう言うお前は?」
「ブライアンがまたサラダ残して逃走したの! 私の足じゃあブライアンに追い付けないから、お姉ちゃん探してたのよ」
ナリタブライアン副会長は野菜嫌いで有名だ。
私も彼女と同じ生徒会役員だから、時々会食という名目で四人で食事をすることがある。
野菜(サラダ)があれば、色々な手を使って私に押し付けてくる。
最初のうちはその事を窘めていたエアグルーヴ副会長だったが、シンボリルドルフ会長が一言、
『彼女の
と言えば、青ざめて何も言えなくなる。最近はもう注意すらしていない。
「またか! 仕方のない奴だ。どっち行った?」
「あっち」
ある方向を指差す。
「分かった。すまないクーニ、私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました」
二人、グラウンドの方へと走って行く。
「私も……」
その二人のやり取りを、どこか羨ましげに、しかし寂しげに見つめていたアドマイヤベガさんは、一言そう言って、段ボールは持たずに寮の方へと歩いて行った。
「クーニさん?」
また別の声。
「あ、ステイゴールドさん」
「ビーナスが走って行くのを見て、気になって来てみたのですが。……なんですか、これ?」
段ボールの山を見て、一言。
「浦和行の荷物です。もうすぐトラックが来るので積み込みます」
「ああ、件の……」
彼女も春祭りのことは知っているらしい。
「でしたら人手は多い方が良いですよね」
そう言いながらスマホを取り出す。
「あ、そうですね」
「でしたらジャーニーとオルも呼びましょう。あ、トッキューとイナズマも」
グループラインだろうか。スマホを操作したものの、誰かに電話をするって訳ではなさそうだ。
って、ドリームジャーニーさんとオルフェーヴルさん、テイエムトッキューさんとタマモイナズマさんのことか?
「よし。じきに来るでしょう」
「仲が良いんですね、皆さん」
「ええ。メイクデビュー2戦続けて同じ顔が9人揃うなんて偶然、そんなに起きませんから。折角の縁は大切にしたいじゃないですか。それに……」
ちょっと表情が曇る。
「ずっと一緒にいられる保証はありませんからね……」
そうか。既に何人か学園を去っている。
地方に転籍した娘もいるが、レース界からも身を引いた娘もいるんだっけ……。
「待たせたな」
「お待たせしました、アネゴ」
もう来た?
しかも、真っ先に来たのがオルフェーヴルさんとドリームジャーニーさんかよ……。
「悪ぃな、オルにジャーニー。急に呼び出しちまって」
「いえ。アネゴの頼みならば」
「私も空いてましたから大丈夫ですよ」
ステイゴールドさん、本来はこんなキャラなんだな……。
というか、この二人に手伝ってもらうなんて、彼女以外誰も真似できないだろう。
この後、遅れてやって来たテイエムトッキューさんとタマモイナズマさんも含め、6人でトラックへの積み込みを行った。
しかしまあ、当然これだけの量を一台で搬送するのは不可能なのを、回数ではなく台数で解決したのは流石トレセン学園といったところだろう……。
『浦和トレセン春祭り』が無事に終了した。
中央側の生徒会役員四人は、本部に待機してトラブル対応に備えていたが、終わってしまえばシンボリルドルフ会長、ナリタブライアン副会長、エアグルーヴ副会長の三人だけは、一足先にたづなさんが運転する車で帰路へとついている。
私は後片付けの完了を見届けてから、此方の生徒会に挨拶をして帰ることになっている。
しかしまあ、中央との交流イベントにしたのが良かったのだろう。例年に無い大盛況となったらしい。
中央と地方の人気の差は言うまでもないと思う。そんな中に中央のウマ娘が加わる訳だから、開催前からトレセン周辺で話題に上がっていたとのこと。
入場制限を行うには至らなかったが、開会から閉会まで常に会場内はごった返していた。
さてと。後片付けも終わった。
最後に生徒会長に挨拶がしたい。
何処にいるんだろう……あ。あの後ろ姿は。
「サバノミッソーニさん~!」
あっさり発見。声を掛けるとこちらを振り向いた。
「よお、ブタノカックーニ。久し振りじゃねぇか!」
あれ、この人私の知らない人?
「えっと……。サバノミッソーニさんですよね……?」
人違いだろうか? しかし、後ろ姿や横顔は前に見た時と何も変わらなかったし、呼んだら返事をしたし、私の名前も言った。つまり、私のことを知っている。人違いの訳がない。
でも、目つきは変わった感じがする。鋭くなっているような……。
「ああ。そうだが何か?」
「いえ。以前お会いした時と全く印象が異なったもので……」
印象だけなら別人だ。
「人違いだと思ったのか? 間違ってねえよ」
「ならば、元々そういうキャラなのですか?」
「別に、前会った時は猫を被ってたとかじゃねえよ。全部、お前のせいじゃねぇか!」
はて? 私、何かしたっけ。まあ、何となく予想できてるけど。
「それはどういう意味でしょうか?」
「とぼけなくても良いぞ。前回、俺に会った時にお前、何て言ったか覚えてんだろ? 忘れたとは言わせねぇぞ?」
やっぱり、あの事か。
「勿論。全部覚えていますとも」
簡単に纏めると、『私は別の記憶を持っている』という話だ。
「あのあと部屋に戻ったらな。突然すげえ頭痛に襲われてよぉ。それで全部思い出したんだ」
何を、だろう?
黙って続きを話すのを待っているが、一向に口を開かない。
「何を、ですか?」
つい、続きを催促してしまった。
私の言葉を聞いて、彼女はフッと笑う。
「俺は十数年前、ウマ娘のサバノミッソーニとして産まれ、両親に育てられ、浦和トレセンに入学し、走ってきた。そう思ってた」
思ってた…………?
「だがな。それだけじゃねぇんだよ。これにはその前があるんだよ」
は? 前?
「詳しいことをお前に話すつもりはねぇ。お前もそうだった時に、お前に悪いからな」
「それはつまり……」
「つまり。俺は『転生者』、人間だった頃があるってことだ」
おいおい。マジですか。
何となくそんな予感がして、しかし違っていると思っていたら、違わなかったんだ。
サバノミッソーニさんも転生者なんだ。……私は同じではないかもしれないけれど。
「俺は、今話した通り、産まれた頃からのウマ娘としての記憶があるが、お前は違うんだよな?」
「はい……。前話した通りです。気付いたらこの姿でした……」
至って普段通りの朝だったが、ああなっていた。
「何か、切っ掛けみてぇなことに心当たりは無いのか?」
「全く……。貴方は何かあるのですか?」
「それ止めねぇか? お前だけそんな丁寧な話し方じゃあ、俺だけ何か態度がデカイみたいじゃねぇか」
「すいません。これが人間だった頃からの私のデフォルトです」
「なら仕方ねぇな……。俺は、どうやら交通事故で死んだみたいなんだよ」
えっ? 事故死?
「車を運転していた記憶と、その車が何かの衝撃で左に回転したことまでは思い出した。その先のことは分からん」
事故が切っ掛けで命を落とし、この世界に転生したってことか。
「お前は……そんな感じの何かは無いんだな?」
「はい……。全く思い当たる節がありません」
家に帰って、シャワーを食べてうどんを浴びて*1……逆だ。夕食を取り風呂に入って布団に入って……。
「寝たところまでは記憶があるんですがね」
「寝たまま死んだのか?」
「あながち間違いではないかもしれませんね」
「おいおい。過労死でもあるまい」
まあ、過労死を否定できるような環境ではなかったのは事実。実際、同僚が何人か不審死してるしなぁ。
さておき。しかし、死んだわけではないのなら……。
「入れ替わり……ですかね?」
「入れ替わり? ああ、転校生か?」
転校生? えっと……。
「貴方、元々はそういう世代の方なんですか……?」
「悪いか?」
「いえ。全く」
一瞬、ムッという表情になったが、すぐに戻る。
「そういえば。もし転生ならば、
「ああ、
あるんだ……。それがどんな能力なのかは、本人が言わないのであれば深く追求はしない。
「あ、クーニ。こんなところにいたのか」
ふと、背中に聞き覚えのある声が掛かると、同時に目の前の彼女が固まる。
「ハヤヒデさん……。どうしました、こんなところまで」
「ああ。バナナが残っていたらもらう約束になっているだろう?」
………………。
約束はした。しかし、こんなところまで来なくても良いだろうに……。
「あ……あ、あの!」
サバノミッソーニさんが声を上げた。
「ビ、ビワハヤヒデさんですよね!」
あれ? 口調、元に戻ってる……?
「ああ。そうだが」
「私、大ファンなんです!」
「そうなのか。ありがとう」
「こ、これ、バナナです。どうぞ、召し上がってください!」
サバノミッソーニさんが、私が話し掛けた時から持っているビニール袋を差し出した。あれ、バナナだったのか……。
「良いのか! だったら私はこれを……」
ハヤヒデさんは手に持っているニンジンチョコレートを差し出す。え。あれ、食べかけじゃないのか?*2
「……!」
「…………!」
互いに無言で握手を交わした。
なんですか、これ……。
結局、私との約束よりも目先のバナナで満足したのか、ハヤヒデさんは去っていった。
「で、何の話していたんだっけか」
「又戻りましたね?」
ハヤヒデさんがいなくなって二人に戻ったら、彼女の口調は戻った。
「何、俺はただのウマ娘好きの男だったんだよ」
「ビワハヤヒデさん推しだったってことですか」
「ああ。俺は元から競馬が好きだったんだよ。そこからウマ娘に嵌まって……」
どうやら、彼女の前世は前に私がいたのと同じ世界らしい。ウマ娘はゲームの中の話のようだ。
「ウマ娘というコンテンツは俺たち競馬ファンからも好評だったんだよ。勝負服が実際の馬の物を反映していたりして、再現度が高いってな」
そうなのか。まあ、そういった話は聞いていたけれど。
「レースの結果もそのままなんだぜ。去年の日本ダービー覇者がサニーブライアンで、一昨年がカスケードとマキバオーの同着*3ってのも」
まさか……。
「では、今度の皐月賞の結果もご存知ですか? あ、知ってても言わないでくださいよ?」
「言わねぇよ、安心しろ」
つまり、知っているんだ……。
「だから、俺からお前に言っておきたいことがある」
ちょっと軽い話で緩んでいた空気が変わる。
「お前も知らない訳じゃないだろう?」
「といいますと?」
「レースで大怪我。故障した馬の末路を。予後不良と判断されれば、安楽死だ」
どういうことか良く分からない。今でこそ
しかし、あちらの世界の馬については、ほとんど知らない。
「馬っていうのは、体重を4本の脚で支えている。1本折れれば他の3本に集中するから、余所に更なる故障が起こる。故に安楽死を選ぶ……」
私の表情で察したのだろう。サバノミッソーニさんが続けた。
なるほど……。確かにその通りだと思う。あの脚だと……。
「しかしだな。この世界線はどうなのか分からねぇ」
ん? どういうことだろう?
「と、言いますと?」
「俺が知ってる予後不良となった馬。キーストンにサクラスターオー。どうなってる?」
「あ…………」
元生徒会副会長のキーストンさん。副々会長のサクラスターオーさん。
二人とも会ったことがあるが、レース中に大怪我をして生死の狭間をさまよいながらも歩ける程度まで回復し、引退して学園を去った。
「予後不良となった馬と同名のウマ娘がいる。俺が言いたいことは分かるだろう?」
この世界では、あちらの世界での
「それを踏まえた上で、だ。俺からお前に出来る忠告はただ一つ。11月1日の天皇賞(秋)、そのレースでサイレンススズカは故障し安楽死となる」