目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が   作:小林司

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 喫茶店での会合①

 

トレセン学園を出てすぐのところに、一軒の喫茶店がある。

 

店名は『喫茶ジョッキー』。

 

ウマ娘を含めたこの世界の人(店主・店員も含む)は、店名由来を、ビールなどの『ジョッキ』だと思っているが、私は『競馬の騎手』だと思っている。

 

そんな、喫茶ジョッキーだが、立地上トレセン学園関係者も御用達にしている。

 

諸々の理由で学内では出来ない話や懇談、面談を行う場所として利用しているのだ。

 

店主もトレセン学園に協力的で、その懇談や面談に店の個室を使わしてくれたり、ある程度の人数で集まると、店を貸切にしてくれる。

 

因みに、店主はウマ娘が好きな人である。理解ある人だからとても助かっている。しかしながら、アグネスデシタルさんみたいな熱狂的(?)ファンではないらしく、店内にウマ娘のグッズは置いていないし、サイン色紙は貼られていない。

 

 

 

今日も『喫茶ジョッキー』ではお店の個室をお借りしたお茶会が開催されている。

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは……」

 

『喫茶ジョッキー』の扉を開く。

 

「トレセン学園生徒会です」

 

「ああ、いらっしゃいませ」

 

声を掛ければ店主が迎えくれる。

 

「今日はどんなご用ですか?」

 

「今そこで開かれているお茶会の精算に……」

 

トレセン学園のお隣さんみたいなもので、お代は生徒会が支払っている。

 

その為、トレセン生が個人で利用した時も、即金で払う必要がないのだ。

 

「あ……。まだ確定してませんから、後からで構いませんよ?」

 

「でしたら、私も宜しいですか?」

 

「勿論。()()()()で良いですか?」

 

「はい。今日は時間ありますから……」

 

とりあえず、急ぎの書類は片付けておいたし、理事長案件は駿川さんに繋いだ。アグネスタキオンさんが実験に失敗して破壊したエアコンの修理業者は明日の放課後の予定。カワカミプリンセスさんが開けた壁の大きな穴と、タニノギムレットさんが壊したコース外ラチの柵の修理は手配済みで、今なら時間がある。

 

折角だから、店主の珈琲を頂きながら、お茶会が終わるのを待とう。

 

 

 

 

「……って訳なんですよ」

 

 

「なるほどね~」

 

珈琲と店主特製のマカロニグラタンを頂きながら、店主との雑談タイムだ。()()()()で通じるメニューがある程度には私も通っているんだ。

 

店内には、個室でお茶会をしているメンバーを除けば、客は私しかいない。

 

というより、トレセン生を除く一般客が来店しているのを、私は一度も見たことがない。

 

採算が気になるかもしれないが、トレセン学園が御用達にしている店だ。そんなことは心配する必要がない。

 

()()、一ヶ月前でしたっけ?」

 

()()? あ~精算出直した日の話ですか?」

 

「そうそう。大変だったよね~」

 

この店、座席数は30位なんだけど、厨房がバカに広い。そして、従業員は全員で15人いる。

 

「二人で店回してたのにね。急に電話して、皆総動員して必死に回したんですよ」

 

「その節は……」

 

「まあね。トレセン学園の前にあったらそうなるのは宿命ですから」

 

()()、というのは、ある日に一週間分を精算に訪れたら、請求額が普段より二桁多く、一度学園に戻ってから理事長室の金庫を開いてお金を持ってきた騒動を指している。

 

「でも、帯つきの札束(ひゃくまんえん)を手にする機会少ないですから、貴重な経験でしたよ」

 

「それは私も同じです」

 

聞いた話だと、オグリキャップさんやヒシミラクルさん他大食いの方々が、一度に来店したって……。

 

「失礼するよ!」

 

個室の扉が開く。

 

「おや、クーニさん!」

 

「どうも」

 

この人はいつもと変わらない様子だ。この様子だと、隣の会合はそんなに堅苦しい物ではないのだろう。尤も、それでこの人が大人しくなるわけではないが。

 

「マスター。ボクとハヤヒデさんとラモーヌさんにお代わりを頼むよ! 同じのを」

 

「了解」

 

テイエムオペラオーさんが個室へ引っ込む。

 

店主が注文の商品を作り始めたので、私は自分のグラタンを食べてしまおう……。

 

 

 

 

 

「クーニさん、少々宜しいですか?」

 

個室の扉が開き、顔を出したドリームジャーニーさんから声が掛かった。

 

時計を見れば、お代わりの注文から40分位経っている。

 

「私ですか?」

 

「はい。オペラオーさんから隣にいらっしゃると聞いたもので。少し確認したいことがありまして」

 

立ち上がり、彼女に続いて個室へと入って行く。

 

「おや、クーニ」

 

「クーニさん」

 

「クーニ?」

 

「クーニさん!」

 

部屋に入ると、室内のメンバーが私の名を呼んだ。

 

ビワハヤヒデさん、ヴィルシーナさん、メジロラモーヌさん、テイエムオペラオーさん。

 

ああ。会合『姉会(あねかい)』とはそういうことなのか。

 

 

 

「で、私に確認したいこととは?」

 

「今日、招集をかけたメンバー。一人足りないのよ」

 

メジロラモーヌ*1さんがそう言った。

 

「足りない?」

 

テーブルを見渡せば、お冷やの入ったコップが、誰もいない椅子の前に置かれている。

 

「約束の時間になっても現れなくて、私たちだけで始めたのだけど、いい加減心配になったの」

 

こう言ったのはヴィルシーナ*2さん。

 

「彼女がいなくては、ボクの輝きも霞んでしまうからねぇ。ボクも心配していたんだよ!」

 

これはテイエムオペラオー*3さんから。

 

「アナタは相変わらずですね……。まあ、それは彼女(アネゴ)も同じ」

 

ドリームジャーニー*4さんから。

 

それはつまり、テイエムオペラオーさんの騒がしさと、不在の彼女が不在の理由が、どちらも相変わらずって意味だ。

 

「その騒がしさに付き合わされる私の苦労も知って欲しいものだ」

 

うん?

 

最後のはビワハヤヒデ*5さんだが、今のは聞こえなかったことにしよう……。

 

「ごめんごめん。遅くなった……」

 

と、言いながら、遅れていた最後の一人が入ってくる。噂をすれば影、って奴だろう。

 

「あ」

 

「あ……!」

 

私と彼女の目が合った。

 

「やべ、逃げろ」

 

それだけ言って、回れ右して入ってきた扉を一目散に飛び出して行く。

 

「あ、こら!」

 

声を掛けるも止まる気配はない。追い掛けるのは端から諦めている。

 

何故か? 私の脚力では彼女に敵わないし、追い掛けたら何処までも走って行くからだ。

 

「はあ……」

 

溜め息一つ。

 

「クーニさん。彼女はどうして逃げていったのですか?」

 

「私の顔を見たからでしょうね。彼女、始末書を提出していないんですよ。無断外泊、門限無視、無断欠席、音信不通……」

 

まあ、これらに関しては当日までに電話が来ているので、問題はなかったらしいが。それでも、『指定の時間までに書類を提出すること』という規則を破っている。故に『無断』なのだ。

 

「全く、アネゴらしいですよ」

 

ドリームジャーニーさんが、溜め息をつきながらも何処か嬉しそうに呟いた。

 

「おや! ステゴさんはボクの眩しさに目をやられてしまったようだね!」

 

違うが?

 

「ふふっ」

 

「はぁ……」

 

「こちらもいつも通りですね」

 

あさってなことを言うテイエムオペラオーさんに対し、三者三様の反応を示す他のメンバー。

 

「まあ、あの人に関しては、あれでいつも通りですから、心配する必要は無かったと思いますよ」

 

私がそう言うと、5人一緒に頷いた。

 

ステイゴールド*6さんとは、つまりそういう人なのだ。

 

 

 

 

ステイゴールドさんが逃走してしまったため(?)か、姉会はそのままお開きとなった。

 

5人を見送って、店主にお会計を。

 

「3,200円です」

 

「では、これで……」

 

「丁度。今、領収書を書きますね」

 

『トレセン学園生徒会』宛で書いてもらった領収書を受け取る。

 

「それではこれにて」

 

「はい。ありがとうございました。またお越しくださいね」

 

「こちらこそ。またお願いします」

 

お礼を言ってお店を出る。

 

 

 

 

お店を出て、校門を潜り学園へと戻る。

 

門から生徒会室は地味に遠い。

 

「あ、クーニさん! こんにちは!」

 

生徒会室までもう少しというところで、前から歩いてくる二人と会う。

 

テイエムトッキューさんにオルフェーヴルさん。こんにちは、どうされました?」

 

「いや、用があるわけではない。会ったのだから挨拶は当然のこと」

 

なるほど。しかし、そういう貴方は挨拶無しですが?

 

「そうですよ。クーニさんはお仕事ですよね? お疲れ様です」

 

そう思っても、絶対に口にはしない。私も別に命知らずではないので……。

 

「クーニさん?」

 

「ん? あ、失礼。少々考え事を……」

 

それで返事が遅れた。

 

不審がられたが、理由を言えば納得してもらえたようだ。

 

「それでは」

 

「はい。オルは……」

 

互いに歩き出す。

 

が、すぐにオルフェーヴルさんの足が止まったのが気配で分かった。

 

「待て」

 

やはり。

 

「どうされました?」

 

立ち止まり振り向くと、オルフェーヴルさんも此方を振り向いている。

 

「クーニ。何故姉上の香りがするのだ?」

 

姉上? ああ。

 

「さっき、外のジョッキーでの会合にドリームジャーニーさんも参加されていたんですよ。私はお金を支払いに行ってて、そこでお会いしました」

 

ウマ娘は鼻が良い。少し会っただけでも移り香は分かる。

 

「なるほど。なら良い、失礼した」

 

 

……。

 

…………。

 

怖かった……。

 

 

 

 

 

 

 

生徒会室に到着。

 

「失礼します」

 

ノックして入室。

 

「あ、クーニ。何処行っていたんだ!」

 

いるのはナリタブライアン副会長だけ。

 

「私とて暇ではありません」

 

「だとしても、私の仕事ぐらい先に片付けて欲しいものだ」

 

左様で。

 

生徒会には、ご承知の通り会長が居て、その下に副会長が居る。更にその下に副々会長が居るのだが、副々会長は副会長が任命している。つまり、位置的に『副々会長は副会長の手足』とも言えるのだ。

 

元々、ナリタブライアン副会長は自身の仕事を押し付ける目的で、私を副々会長に任命している。私がそれを知ったのは最近のこと。

 

最初は『記憶を失って別人のようになった』私に色々と気を遣っていたらしい。しかし、最近では元通りになったみたいで、自分の仕事を当たり前のように私へと投げる。

 

その仕事の一つに『会食時の野菜処理』も含まれているのは前に一度言ったかもしれないな……。

 

勿論、『ビワハヤヒデさんに対しての箝口令』も仕事の一つだ。

 

「そうだクーニ。電話があったぞ」

 

「電話? 私宛ですか?」

 

「ああ。ジョッキーの的場さんからだ」

 

は? あ……。

 

「お前、自分が食べた分の支払い、忘れてるだろう?」

 

 

 

 

*1
半弟 メジロアルダン

*2
半弟 シュヴァルグラン 全妹 ヴィブロス

*3
全妹 ピサノミライ

*4
全弟 オルフェーヴル

*5
半弟 ナリタブライアン 半妹 ビワビーナス

*6
全妹 レクレドール





登場させている『妹』は、本作で既に登場している人と、既にウマ娘化されている人を採用しています。

尚、ステイゴールドの全妹 レクレドール は、重賞を勝利しています。それに、既にウマ娘化されている人と一緒のレースに出ていますから、実際にウマ娘化されても楽しいと思いますよ。
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