目が覚めたら、ウマ娘でブタさんだった。というか、調理済みっぽい? 名前が 作:小林司
ゴールドシップさんのお陰で、
どうやら、私『ブタノカックーニ』は、ここトレセン学園の高等部に在籍している。
担当トレーナーがついていたが、メイクデビューで勝利できず、未勝利戦も勝てていない。そんな中、トレーナーが諸事情(家庭の都合?)で退職・帰京してしまい、今はトレーナー不在の状態。
因みに、戦績は『3戦0勝』。
未勝利のままなので、普通に考えてみれば、『未勝利戦での勝利を目指して努力している』か、『ローカル・シリーズに参加するために地方のトレセン学園に転出する』か、『諦めてトレセン学園を去る』はずなのだが、何故かどれにも該当しない。この理由はゴールドシップさんも知らなかった。
余談だが、この件をどう誤魔化すか相談してみたら、『記憶喪失を装えばいいんじゃね?』と、なんとも言えない回答がきた。『本当の事を言ったところで信じてもらえるかは、五分五分』だとも。ご
しかし、この姿になった直後に頭を打っているのは事実なので、誤魔化せるんじゃないか? と、私自身も思ったわけで、そうすることにした。
重い足取りで校内を歩く。
今は、生徒会長から呼び出しを喰らい、生徒会室へ向かっているところだ。
突然電話が鳴り出したと思えば、『ルドルフ会長』からで、一度顔を出して欲しい。ということだった。
彼女も昨日のことを心配している様子だ。
とはいえ、生徒会とも面識があるなんて、この娘はどんな娘なんだろう? ある程度分かったとはいえ、謎は多いままだ。
記憶喪失を装うことに決めたものの、それを誰かに話すとなると緊張する。自然と足も重くなる。生徒会室ってこんなに遠いのか……。
『生徒会室』
やっと着いた。
コンコン
扉をノックする。
「どうぞ」
中から返事が聞こえたので扉を開く。
「失礼します……」
「クーニ! 昨日は大変だったらしいな。大丈夫なのか?」
入るなり、早速声が掛かる。
この娘は……ナリタブライアンさんだ。副会長の一人。
さっき、ゴールドシップさんと猛特訓(?)で顔を覚えた。間違いないはず。
「心配掛けました。身体の方はこの通り健康です」
「そうか? なら良いんだが。しかし、なんか話し方が不自然……。待て。身体の方はと言ったな? どういう意味だ?」
心配しているのか怒っているのか、どっちか分からないがそんな剣幕で迫られる。
「えっと……会長は?」
今、この部屋にはナリタブライアンさんしか居ない。
「ちょっと外されている。直に戻るはずだ」
「じゃあ、会長が戻ってきたら話します。少々面倒なことになりまして……」
数分後、戻ってきた会長と共に、応接用のソファーへ。
私が座り、テーブルを挟んだ向かい側に会長と副会長が座る。
「そんなに堅苦しくなる必要はない。君らしくないじゃないか」
会長にそう言われるも、普段らしくするのもなぁ……。
ゴールドシップさんからある程度の話は聞いたが、この娘のキャラは私のキャラとは合わないので、ここは開き直ることにしている。例え無理に装ったとしても、いつかボロが出から。
「これが今の私のデフォルトです。悪しからずご了承ください」
そう話すなり、二人が口を半開きにして顔を見合わせた。
暫し沈黙。
「ブライアン、彼女は一体誰だ?」
「奇遇だな、私も同じことを思った」
口を開いたと思えば、こんな言葉が飛び出す。無理もないだろう。
「単刀直入に言いますね。実は、記憶喪失になってしまった感じなんですよ」
「記憶……」
「喪失?」
再び二人が顔を見合わせる。
「一昨日以前の記憶が全く無いんです。困ったことにねぇ」
両手を上げる。お手上げのポーズ。
「で、電話口でも聞いたが、身体に問題は無いんだったな?」
頭を抱えた会長がそう尋ねてくる。
頭抱えたいのは私もだ……。
「はい。至って健康ですよ。記憶がなくて気後れしていますけどね」
「は?」
今の私の言葉に、ナリタブライアン副会長はそう言って、シンボリルドルフ会長は何も言わずに固まった。
「クーニ、今何て言った?」
数分の沈黙の後、会長が口を開く。
「記憶がなくて気後れ……?」
「
おお? 会長震えている。
「記憶がなくて気後れとは、中々上手いことを言うじゃないか。ハハハ……。確かに、いつもの君らしくない。別に記憶喪失を疑っていた訳ではないんだが、これでは信じるしかなさそうだな。ハハハ……」
会長が笑っている。
「……ぇ?」
隣の副会長は、信じられないものを見る目で会長を見ている。
シンボリルドルフ会長は、駄洒落が好きと聞いていたから試してみたら、大成功だった。
ナリタブライアン副会長が所用で席を外し、私と会長の二人になる。
「さてと。それで君はどうする? 記憶が無いといっても、君は君だ。いい加減、そろそろ勝って貰わなければならない。残された時間は限られている」
その通り。未勝利戦に出れる期間は限られているのだ。
「その話ですよね」
ある程度予想していた。それについて、私には考えていることがある。
「失礼ながら会長。私は、走るつもりはありません」
「は?」
こう言い放つと、会長は絶句。
「そ、それはどういう意味かな?」
暫し沈黙の後、口を開いた。動揺しているらしい。
「言葉通りの意味です。もちろん、運動不足は良くないですし、授業もあるので、日々のトレーニング等は行います。ですが、チームに所属するつもりも、レースに出る予定もありません」
ウマ娘は総じてスタイルが良い。
食後に妊婦みたいにお腹が膨れることはあっても、
別途モデル活動をしている娘いるが、レースで勝っていれば、それだけでじゅうぶんアイドルといえる。言い方は悪いが、顔が悪い者は居ないのだ。
しかし、元々の自分は、簡単に言えば、デブでブスだった。
昔から肥満体型だったから、走るのも遅い。
小学校の時からその走りの遅さをネタに、バカにされてきている。
中学校の時も、体育祭のリレーで、ぶっちぎりのトップでバトンを受け取ったのに、断トツの最下位で次走者に渡すことになり、散々バカにされた。
これ以上は口にするのも憚られる程のイジメを受けて育ってきたのだ。
高校を卒業し、もう走る必要が無いと分かったときには、あまりの嬉しさに一晩中泣いた程だ。
そんな過去がある私は、それがこの娘の事ではなく今まで走っていたとはいえ、
「そうか……」
私の言葉に、口を半開きにして何も言えずに座っていた会長は、そう呟いて立ち上がった。
そのまま自身の執務机に向かい、何かを持って戻ってきた。
「君は、
そう言いながら、ソファーに座る。
「日本ウマ娘トレーニングセンター学園、中央校。約2,000人の生徒が在籍し、互いに切磋琢磨しあいながら、トゥインクル・シリーズへの出走、勝利を目指している……。まさに、URA最高峰の学園だ」
手にしていた紙は、裏向けてテーブルに置いた。裏面は白紙で何の紙か窺い知ることは困難だ。
そして腕を組む。
「入学を望む者は多い。入学しても活躍できずに学園を去る者も多い。今の君のように未勝利のまま学園を去る者も多いのだ。怪我に泣かされる者、レースで思ったような結果を残せず悔しい思いをする者も……。それ以前に、希望しても入学出来ない者が圧倒的多数。華やかな舞台に立てるのは、ほんの一握り」
そう言って視線をそらした。
追い掛けると、その先にはウイニングライブのものと思われる写真がある。センターがシンボリルドルフ会長だ。
「君はその華やかな舞台に立つチャンスを手にしている。いながらそれを無下にすると言っているんだ。それは先ほどの者たちを
会長が言葉を区切る。
続きを催促するように会長に視線を戻すと、
「中央を無礼るなよ」
そう言い放たれた。
鋭い視線で睨まれている。
これが、皇帝と呼ばれし者の貫禄だろう……。
えっ? 私の今の状況が 蛇に睨まれた蛙 だろうって?
そんなわけがない。私がこれくらいのことで怯むとでも思ったか?
元々の私は、上司からの理不尽なパワハラ・モラハラを散々耐え抜いてきた強者だ。
訴えれば上司の首、幾つも飛んでいっただろうね。まあ、同時に自分も無職になるから我慢してたけどさ。
そんなわけだから、目の前の女の子に睨まれた程度では、むしろ可愛いくらいだ。
「どんな理由を並べようが、私は走りません」
そう、言い切る。
「分かった。君がそう言うのなら、此方にも考えがある」
そう会長が言って、机上の紙を返す。
その紙を見て息を呑む。
『退学願』そう書かれている。
「走らないと言うのなら、君には学園を去ってもらうより他無い」
「嫌だと言ったらどうなりますか?」
「君に拒否権は無いと思って欲しいんだが?」
「お断りします」
「退学願いたい」
これ、自己都合退職を引っ張り出そうとする会社の上層部みたいだ。
会社都合の退職だとそちら側が不利になるため、あくまで自己都合を狙うやつ。
「退学してもらおう」
「拒否します」
「君も頑固なものだな……」
コンコン
扉がノックされる音。
「エアグルーヴです。遅くなりました」
エアグルーヴ。もう一人の副会長の名前だな。
「入りたまえ」
「失礼します」
会長が返事をすると扉が開いた。
「って、クーニじゃないですか! 大丈夫なのですか! 心配しましたよ」
おお。噂に違わぬ女帝の姿……。ゴールドシップさんに見せてもらった写真の何倍も美しい……。
って、こんなクサイ台詞心の中で並べている場合ではない。
「失礼」
会長に一声掛ける。
「ご心配お掛けしました。この通り元気です」
立ち上がって、エアグルーヴさんの方を見て一礼。
「なら良いですが……。救急搬送されたって聞いたから驚いただけです」
しかしまあ、この三人(一人は今不在)、同じ反応するんだな……。
「ところで、今はどういう状況ですか?」
私と会長が向かい合って座っている光景を見て、首を傾げた。
会長は少しバツの悪そうな顔。
「って、クーニ。まさか学園を去られるつもりですか!」
机上の書類に気付いたようだ。かなり驚いている様子。
私は返事をする代わりに、会長の方を見る。
「えっと……これはだな……」
どうした会長?
「彼女が今後、レースに出るつもりがない、と言うものだから、退学願おうというものだ……」
「レースに出ない? クーニ一体どうしたと言うのだ? さっきから話し方も変だぞ?」
おお、流石女帝。気づいていらっしゃる。
「少し長くなりますから、エアグルーヴさんも椅子へどうぞ」
今度は、さっきナリタブライアンさんが座ったのと反対側にエアグルーヴさんが座った。
そして、さっき話したのと同じことを再び説明する(もちろん、あの駄洒落は言っていない。言えるわけがない)。
「なるほど……。そんなことになっているのですね」
エアグルーヴさんも想像していた通りに驚いた。
「しかし会長。彼女をどうするおつもりですか?」
ん? 私?
「彼女は一応、『生徒会副々会長』です。彼女の意思無しには退学処分は下せませんよ」
なんだって?
「シンボリルドルフ生徒会長、それはどういう意味ですか?」
私は喰らい付くように身を乗り出した。
会長の額に冷や汗が見えたような……。
「だから、私は君の口から『退学します』という言葉を引っ張り出そうとしたのだが……」
トレセン学園生徒会会則(必要項目のみ抜粋)
『会長・副会長・副々会長(以下、会長等)は、在職中
『会長等の任期は、任命された日より、卒業・退学迄の期間とする』
『卒業・自主退学等により、会長が不在となった場合、速やかに新たな会長を選挙に依って選出する。副会長は会長が、副々会長は副会長が任命するものとし、適当と思われる人数を任命する』
「つまりだ。君は今『生徒会副々会長』という役職に就いている。自主的な退学は可能だが、学園側から退学処分を下すことは出来ない」
なるほど。面倒なルールがあるらしい。
「君に退学の意思は無い。それで良いのだな? ブタノカックーニ」
訳も分からずこの世界に居るが、今の私の状況を把握している人物が、学園内に居る。
さっきも話した通り、ウマ娘はアイドルだ。学園を去ってしまえば会うことさえ難しくなる。
今の私にとって『学園を去る』ことが最善とは言い難い。
「はい」
「承知した」
そう言い、退学願を裏返した。
「その代わり。生徒会役員である以上、生徒会、学園のために働いてもらう。勿論、普段は他の生徒たちのように、勉学に励み、トレーニングをこなしながらだ。それで良いのだな?」
「はい」
言い切った。
シンボリルドルフ会長は、大きな溜め息をつき、何故か嬉しそうに微笑んだ。
「ところで会長。昨日の病院代とタクシー代、精算するにはどうしたら……?」
そう言うなり、会長はとても大きな溜め息をついた。
「グルーヴ」
「承知しました、会長」
あれ? 今名前呼んだだけだよね?
「言っておくが、クーニ。君は副々会長兼出納長なんだよ。今後、会計管理は君の仕事だ。重ねて宜しく頼むよ」
なんだか生徒会は仕事が多そうだ……。
これ、どうしようか迷ったんですよね。
最初はここまで書くつもりがなかったので、名前だけでネタに走りましたが、ここまで来ると下手に走らせるわけにもいかないんですよ。
『デアリングタクト』号がウマ娘に登場した時も、現役馬ゆえに競馬ファンとウマ娘ファンとの間で大騒ぎになった(?)こともありますから、中央競馬を去っているとはいえ地方競馬では現役の『ブタノカックーニ』号を、適当に走らせて話を綴ってファンの反感を買うよりは、
賛否あると思います。
もし、今書いた通り『この設定で(逆に)ファンの反感を買う』ような事態になった場合は、一話のみ残して短編として閉じようと思っています。
反対に、今後とも応援していただけるのであれば、『短編』から『連載』に変更し、続けていこうと思います。