今回の話はホラーゲーム『つぐのひ 美魔女の真実 マリンの秘宝船』の内容と独自解釈が含まれています。ネタバレと独自解釈を好まない方はブラウザバックを推奨します。
久しぶりだから文章が前話までより拙いかも。それと文字数の関係で色々詰め込みすぎた感が否めない。
それではゆったり…できるかなぁ。
「ねこの中のねこ」とは……
ねこよりもねこらしいねこを指すのである。
飼い猫とも野良猫とも違う、野に生きる孤高のねこなのである。
まさに「ねこおぶねこ」なのである。
「ねこおぶねこ」とは……
なんかこう、すごいのである。
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んおぉ、吾輩寝ておったのである。
ちりんちりん。吾輩である。
おさんぽ中であったはずが寝てしもうた。夢見心地がおさまらぬが、まずは少しごわごわする毛をめんてなんすしなければならぬ。
んべ、んべ。むむっ、毛がしょっぱいのである。これはいかぬ。ねこは海水でも水分補給ができるとは言えど、毛並みを整える度にしょっぱい思いをするのは好かぬ。このような事など今までなかったというのに、いったい何事であろうか。周りも見たことのない木造の場であるし……そこの白いからすよ、教えて欲しいのである。
きゃあきゃあ? ううむ、不思議な鳴き声をするからすである。いや待て、白い羽を見るにさてはからすではないな? 騙されてしまうところだったのである! よくよく見ればお空にたくさん白い鳥が飛んでいるのである。ここは早く身を隠さねば、吾輩を啄まれてしまうやもしれぬ。急いで参ろう。
何やらぐらぐら揺れる床を蹴り、どこかで見覚えのある、きらきらと光る絵がついた扉へと飛びかかったのである。
むっ……? ああ、しまった。
この扉……どあのぶが無いではないか。
ふぎゅっ!! 扉に体当たりしてしまったのである……! ふぐおおぉ……吾輩の鼻がぁ!
床に落ちてのたうち回ってしまうのである。まさか昨今にどあのぶではなく取っ手で開ける扉があるとは。こんな失態、我がねこ生の恥である!
「なになになに、なんですか今の音!? ドアに何かぶつか……あっ」
んぐぐぐ……ぬ? おお、いつぞやの海賊の女子ではないか。吾輩を捕まえようとした恩知らずではあるが、知った顔がいるのは心強いのである。ここはどこなのか聞くべく、にゃあと声をかけるのである。
「猫ちゃん、なんでこんなとこに……いや待てよ、もしかして船長呼んで……?」
無視? 無視であるか女子よ。吾輩は悲しいのである。今回ばかりはいつものように寄ってきても許してやろうと思っていたというのに。ただし捕まるつもりは毛頭ないのである。
それにしても何やらぼそぼそと言っているのである。これこれ、吾輩を置いて思考に耽らないで欲しいのである。何か知っているなら説明して欲しいのである!
「……まっ、いっか。
この子とはなんだ女子よ。吾輩、これでも人間換算であれば高齢なのであるからして、吾輩のことは敬意を持って『ねこ』と呼ぶのである。『ねこ』さえあればさん付けでもちゃん付けでも構わぬ。
おおう、急に吾輩を抱き上げるでない。しかし慣れた手つきである。よもや飼い猫でもいるのであろうか。それとも他の野良猫たちを捕獲するのに慣れておるのであろうか。もし後者であればいかぬ、吾輩は絶体絶命の危機である。
「……あったかいな」
女子は床の端の壁から外を覗き込んでいるのである。そこまでこの壁は高くないのであるな、吾輩でも登れそうである。
うおぉう、なんであるかこれは。壁の外は一面が青いのである。塩気がもっと鼻につく……むむっ? この青いのはもしや水であるか? ぴちゃぴちゃ音が鳴って少し面白いのである。
水ということは、これぞ世に聞く『湖』とやらであろうか。湖の先は何も見えぬし、さぞ名のある場所に違いない。そして吾輩たちがいるのは湖に浮かぶ奇妙な形をした家であるな。この女子、この家に住んでおるのだろうか。なんとも贅沢な暮らしぶりである。
「今日もウミネコが騒いでるなぁ……ほら猫ちゃん、あれがウミネコですよ〜」
ねこ……? 今この女子、ねこと言ったか? あれはどう見ても鳥である。どうやら鳥を見たことがないのであるな、今度すずめでも捕ってきてあげるのである。報酬はせみの抜け殻でよい。
「なーんか、生暖かい目で見られてる気がするなぁ……とぼけた顔しても無駄ですよ〜? うりうり」
やめるのである。吾輩の額をこしょこしょするのはやめるのである。このしょっぱい風で吾輩の毛並みはからからに乾燥しているのであるからして、触ってはならぬ。
「それにしても猫ちゃんと海を眺めるなんて、こんな機会があるとは思わなかったなぁ……なんかちょっと感慨深いかも」
うみ……さきほどの
「ん〜……そろそろ船内に入るかぁ。夜になりそうだし」
むっ? 先程までは晴天であったというのに、もう日が沈みそうな夕刻である。時間を忘れて海に魅入っていた? いやこれは……ああ、
重たく軋む音を立てて、扉はゆっくりと閉まっていく。そこに取り付けられた女子の絵が、何やら他の顔に一瞬だけ見えたのであった。
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女子に連れられてきたのは『Crew Room』と書かれた部屋である。これは……なんと読むのであろう? いや待て、吾輩のなけなしの前世の記憶から頑張って読み解くのである。
えーと……く、くれ……? ろーむ……『これくさろーむ』であるな! 流石は吾輩、英語……だったはず。も読めるとは、ねこの中のねこである。正直読めたところで意味がわからぬのであるが。
女子が用意してくれたかりかりを食みつつ、部屋を見渡してみるのである。いつまでもここにいるわけにはいかぬのであるからして、帰る手段を確保しておきたいのであるが……。
大きなはんもっくに、一つの机と椅子。窓はあるが外は海、泳ぐにしても先に力尽きそうである。部屋の隅にはみかんの入った箱が山積みになっておる。ねこにとってみかんは有害ゆえ、決して食べてはならぬ。
むっ、みかんの箱が積まれている壁から光が差し込んでいるのである。どうやら壁に穴が空いているようであるな。確か隣はあの女子の部屋だったか?窓の外を見るにすっかり暗くなっておる。夜更かしせぬよう、早めに寝させてやるのも年長者の務めであるな。
幸いこの部屋はどあのぶがあるのである。随分と苔むしておるが、女子がやった時は問題なく動いていた故に平気であろう。いざっ!
飛びかかってぶらさがれば、少し大きめのがちゃんっという音と共に扉が開いたのである。さてさて、あの女子の部屋は出て左側であったな。突然押し入るのは気が引ける。何やら錠前も2個3個とかけてあることであるし、ぷらいべーととやらを大切にしているのであろうな。声をかけつつ扉を掻いてやれば気づくであろうか。
かりかり。かりかり。にゃあお。
しばらくそうしておると、ようやっと中から動く気配がするのである。錠前が外れだし、扉が少しだけ開く。
「え、入ってきた……! こんな狭い隙間から……!?」
むむっ、少し女子の部屋にしては寂しい内装であるな。しかし地下への梯子がある。いかぬ、これは……探検みたいでわくわくしてきたのである!
「あっ、そっちは……! ま、待ってえええ……!!」
後ろから聞こえる聞いたことがあるような、ないような声を無視して穴へと飛び込むのである。すまぬ女子よ、当初の目的がどこかに行ってしまったのである。ちょっと見たら部屋に戻る故、許して欲しいのである。
床に着地すれば、赤い照明が妙な格好をした骨が座っているのである。何やら視界の隅に同じような格好をした人形も見えるのであるが……まあそんなことよりも。何やら色々と貼ってある大きな鉄扉、その隙間を通って中に入ってみるのである。下の階だというのにここしか部屋がないとは、お金が足りないのであろうか?
そして肝心の部屋だが……白い紙がたくさん落ちているのである。なになに? 『婚姻届』……なんと読むのであったかなこれは。むつかしい漢字である。
あーでもないこーでもないと読み方について頭を悩ませていると、急に抱きかかえられたのである。うむぅ……背後を取られるのはこれで何度目であろうか。見知った者の家内とはいえ、少し気が緩みすぎである。
「……ハア……ハア……やっと捕まえましたよぉ……!」
すまぬ女子よ。好奇心が抑えきれなかったのである。『好奇心は猫をも殺す』、反省しなければならぬ……およ。女子よ、随分と変わったのであるな。今の姿ならば吾輩よりも年上やもしれぬ。
老婆の姿となっていた女子からは、窘める視線はあれど鋭いものは見受けられない。吾輩を追ったことによる疲れもあるのであろうが、物腰が少々柔らかいのである。
「見られてしまったか……猫ちゃんとはいえ、あまり気分がいいとは言えないわ……」
よっこらせと声をつきながら女子は吾輩を抱いたまま椅子に座るのである。その様がどこか悲しそうにも見えた故、本来ならば安くはないこの身体を撫でられても抵抗はしないでおくのである。
「猫ちゃんに言っても仕方ないんだけど……」
部屋のにあった蓄音機から綺麗な音が聞こえてくるのである。ピアノの曲であろうか。何やら深く思うことがあるのであろう。女子が喉から絞り出した声は、僅かに震えている。女子の独白が始まったのである。
「突拍子もないことだけれど、船長はね……時間を操れるようになったの。それはもう遊んだわ。だけど、時が止まってもマリンだけは普通に歳をとっていった……みんなを置いて、こんなにも老いてしまったのよ……」
「調子に乗った罰だったんだわ……きっと。みんなとも上手く接する事もできなくなって、女の幸せも……何もかもを失ってしまった。その後はずっと……この海賊の世界で一人ぼっち……」
「ダメなことはわかってる。でも耐えられなかったのよ……現実世界から人を呼んで、人の温もりをもう一度知ってしまった……もう、あの孤独な時間に戻れるわけなかった……」
「みんなは必死で戻ろうとするわ……だから、婚姻届を使ってこの世界における『結婚』という関係で縛ることで、ずっと一緒に居てもらいたかった。結婚自体に憧れもあったからね……それがダメなら人形に……断られても帰したくない……孤独に……戻りたくないのよ……」
「たすけて……あ、違う……マリンに助けなんて求める資格は……嫌だ、一人になりたくない……ずっと、ずっと一緒にいてくれる一味たちが欲しかっただけなの……」
……本当に、ねこに言っても仕方ないことなのである。吾輩がなまじねこにあるまじき自我がある分、余計に辛くなるではないか。
どうやら今まで、さんざん悪い事をしてきたようである。その道にはまれば、自分の手では抜け出せない負の連鎖に囚われることは、前世を振り返ってもどうにもならぬことである。
これを聞かされて吾輩がどうこうできる話ではない。吾輩は女子を裁くことはできぬし、されど許すこともできる立場ではないのである。
……まあしかし。前にも言ったようにどこぞの著名人もこう言っているのである。
『惨めさから抜け出す慰めは2つある。音楽と猫だ』
吾輩の愛い姿とこの曲があれば、たちまち心は安らぐはずである。それに女子の今の心はねこにとってとても適していると言える。なぜならねこは『孤独を愛する寂しがり屋』である。なればこそ、
頬をつたる涙を舐め、温かな身体で寄り添う。それこそねこの本懐、ねこの中のねこであるからして。
「……いつになったら、猫ちゃんに迷惑をかけずに済むようになるのかねぇ……」
迷惑など、いくらでもかければ良いのである。前世の吾輩はお人好し、ねこの吾輩もお人好し。ただそれだけの事である。
吾輩は人間と違い、死ぬその時まで無限に自分の時間を持つのである。しかしかかりきりではいかぬ。孤独が紛れるまでならば容易いものである。
『猫は絶対的な正直さを持っている』。故に、女子……いや、先程名を口にしていたな。安心して行けばよい、マリンよ。
吾輩がにゃあんと鳴けば、暗い部屋はいつの間にやら朝焼けの空となり、マリンは舵を手にしていたのである。吾輩はまいぺーすに木箱の上で首を掻いていると、何やら小さな笑い声が聞こえた気がしたのである。
「それじゃ猫ちゃん、行きますよぉ……!」
「出航おおおお────!!!」
新たな船出を祝うため、吾輩もんなああおおと声を上げるのである。眩い光を放つ太陽に向かって、船はゆっくりと進んでいくのだった。
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「あーん! 待って猫ちゃあん!」
待てと言われて待つ猫はいないのである! またたびがあろうとも吾輩は捕まりはしないのである!
「ぜぇ……ぜぇ……さすが猫ちゃん、俊足だぜ……。んもう! 夢の中だと船長に寄り添ってくれてたじゃん! だからほら、ね? 船長のとこに来よう? 美味しいものもあるから!」
夢で見たことを持ち出すとは、この女子いよいよもってまずいのである。現実を見よ、吾輩は
今日も今日とて鬼ごっこは続く。若干の疲労はあれど、おさんぽに次ぐよい運動として吾輩は駆け続けるのである!
《この小説における美魔女》
とあるパラレルワールドの亡霊が船長の夢とリンクしたもの。
船長だけが歳をとり、周囲との壁ができる。やがて老衰で死に、一味もみんなも誰も美魔女の亡霊となった船長とは一緒に歩めなくなった。
強い自責の念と深い後悔、そして海賊の世界での孤独に耐えきれず発狂し、自制が全く効かない。
現実世界から気に入った人々を呼び寄せ、ずっと一緒に居させようとする。そのための、結婚を望むなら本来一枚でいいはずの、提出する先が存在しない大量の婚姻届。そして肉体が死んでも魂を宿すための人形だった。
いつか時を操る亡霊となった船長とずっとずっと一緒に居てくれる一味たちとの出航を夢見ていた。
積もり積もった狂気が故、なまじなことでは往生できぬ。だがねこと出会い、ようやく逝けた。