ハルトマンの妖怪少女アレンジが幻想入り 作:マスターチュロス
【博麗神社境内】
「あつ〜〜〜い!!」
夏の日差しに照りつけられ、神社の縁側で少女が団扇を扇いでいた。
彼女の名前は博麗霊夢、この幻想郷における"博麗の巫女"であり、人と妖のバランスを保つ調停者でもある。
そんな大層な立場にある彼女だが、経済的に優遇されることは特になく、彼女の収入源は参拝者からのお賽銭のみ。つまり貧乏である。
「よぉ霊夢。元気にしてるか?」
「…………
霊夢の元に訪れたのは白黒の魔法使いこと霧雨魔理沙。霊夢とは幼い頃からの知り合いで、よく異変解決の際には共に行動することの多い同業者でもある。
「これのどこが元気に見えるのかしら?」
「フッ、そんなことだろうと思って、こんなもの買ってきてやったぜ」
魔理沙が懐から何かを取り出すと、謎の機械のようなものを二つ取り出した。
「何これ?」
「河童特製、携帯型扇風機だぜ。これさえあれば何時でもどこでも風の魔法を起こせるらしい」
「…………へぇ、そう」
「ま、試しに使ってみろって」
魔理沙が1個霊夢に差し出すと、霊夢は仕方なく受け取った。何をどうすれば風を起こせるのか分からなかったが、横の突起部分が怪しかったので適当に弄ってみた。すると扇風機の羽が高速で回転し、程よい風が吹き始めた。
「結構涼しいわね。これ貰っていい?」
「おっと、そいつは私が河童との交渉の末に手に入れた貴重な非売品だ。そう簡単には渡せないな」
「何よ、そんなにケチケチしなくてもいいじゃない。二つあるんだし」
「まぁまぁ、簡単には渡せないと言ったが、ちょっと私の言うことを聞いてくれれば渡してあげてもいいぜ?」
「じゃあいい」
「えぇ、そんなに嫌?」
「だって絶対面倒なことになりそうだし……」
霊夢は畳の上で延々とゴロゴロし続ける。これが幻想郷の治安を任された者の姿とは思えないダラケっぷりだが、常日頃これなので今更指摘しても無駄である。
異変発生ならまだしも、たかが友人の都合のために動くほど霊夢は暇ではない。これから境内の掃除や食器洗い、洗濯、その他諸々やることでいっぱいである。
「霊夢頼む。ちょっと旧地獄に付き合ってくれるだけでいいから! ちょっと鬼の気を引いてもらうだけでいいから! 2時間か3時間くらいしたら終わるから!」
「アンタ、旧地獄で何する気?」
何か怪しい雰囲気が漂う魔理沙に対し不信感を抱く霊夢。何か企んでいることには違いないが、どうやら一人では実行できない計画のようだ。ならなおさら協力しない方が良さそうだ。どうせろくな事にならない。
「そうですよ霊夢さん、ぜひ旧地獄の地霊殿に来て頂けると幸いです」
「行くわけないでしょ…………って、うわっ誰!?」
魔理沙と霊夢の間にいつの間にか一人の少女が割って入ってきた。
その少女は普通の人間とは思えないほどに派手な髪色をしており、水色と紫を基調とした不思議な服を身にまとい、何より身体に巻きついた黄色いコードと赤い第三の瞳が特徴的な不思議な女の子。
その少女は霊夢に茶菓子を手渡した後、改めて丸テーブルを境に座り直した。
「お前は……!」
「はい、地霊殿の主『古明地さとり』です。今日は霊夢さんに用があってここに来ました」
見た目からは到底想像もつかないこの少女こそ、地霊殿の主であり旧地獄の管理者でもある『古明地さとり』。彼女は人間や妖怪にとって有害な怨霊を管理できるさとり妖怪で、基本的には地霊殿と呼ばれる場所に引きこもっている。
そんな彼女がわざわざ博麗神社に出向いたということは、何か理由でもあるのだろうか。
「何の用?」
「少し地霊殿の方で問題が起きまして、霊夢さんには是非解決していただきたいなぁ……と」
「ついでに魔理沙さんも協力してもらえると助かります」
「ついでかよ」
あまりに適当な扱いに魔理沙は不服を申す。
「…………また怨霊が吹き出したとか、アンタのペットが暴走したとかじゃないでしょうね?」
「いえ、怨霊の管理に関しては問題ありません。ペット達もいつも通り可愛いですし、なんならここにいます」
「やっほー霊夢魔理沙〜! 元気〜?」
「アタイは3日ぶりだけど!」
「いやお前らも来てるんかい」
さとりの真後ろからひょっこり現れたのは、八咫烏の霊烏路空と火車の火焔猫燐。二人は旧地獄に存在する灼熱地獄の管理を担当しているのだが、わざわざ仕事を放っておいてまで駆り出すとは、余程重大な事件らしい。
「あ、この二人は私を博麗神社まで送るために来ただけなので気にしないでください」
「さとり様があんな長い距離歩けるわけないだろ!」
「いや歩けよ」
わざわざ長距離移動の為だけに大事な仕事を放置させるとは、管理者のくせに随分と雑な仕事っぷりに魔理沙は呆れてしまう。
魔理沙はチラリと霊夢の方を見たが、霊夢は他人事のように受け流す。お前もやぞ。
呆れに呆れを重ねる魔理沙。しかしさとりは魔理沙に構うことなく話を続ける。
「問題というのは即ち妹、『こいし』のことでして……」
やましい事情があるのか、さとりは少し顔を逸らしながら本題について話そうとする。
さとりの妹、『古明地こいし』は引きこもりの姉とは違い、フラフラと外に出ては各地を放浪している妖怪少女。姉と同じく悟り妖怪ではあるものの、心を閉ざしてしまったため人の心は読めず、逆に無意識を操る妖怪になってしまった。それ故に誰からも認知されず、感情も薄れているため人の心も理解出来ず、度々迷惑をかけることも多い。
つまり、困ったちゃんである。
「妹がどうしたの?」
「実はその…………、なんて言いますか…………」
なかなか言葉につまっている様子に、霊夢と魔理沙は首を傾げた。普段なら頼まれなくても好き勝手喋る悟り妖怪がここまで言い淀んでいるのは不自然というか、変であった。
少し沈黙が続いた後に、さとりはやや諦めたような口調で言い放つ。
「…………
「増えた?」
「えぇ。理由は分からないんですけど、妹が30人くらいに分身しまして、地霊殿中が大騒ぎになんです」
「……別に放「私も最初は放置するつもりでしたが、鬼や橋姫と揉め事を起こしたり血の池地獄の池の水全部抜いてライブ会場開いたり、温泉に浸かりながら踊ったりとやりたい放題してるんです……」」
「さらに聞いた話では地上にも何人か出ちゃったようで、ちょっと収拾がつきません。この件は博麗の巫女に任せるのが適任かと」
「アンタねぇ……」
どう転んでも絶対に面倒臭い案件が、こんな真夏の超暑い日に来たことに頭を抱える。
しかし、もしあの自由奔放な妖怪ガール×30人を放置してしまった場合、人里への被害は免れない。ここは博麗の巫女として動くべきだろうか。
「もちろん、相応の謝礼はするつもりです」
さとりが軽く手を叩くと、お燐は手に持っていた銀のアタッシュケースを丸テーブルの上に置いた。
「お燐、開けなさい」
「了解です! さとり様!」
お燐が一つずつロックを解除し、アタッシュケースの中身を霊夢たちに見せる。
「こっ、これはッ!!」
「地霊殿饅頭30個入りセットです」
「いやいらねぇ!!!!」
「いえ待ってください。こちらはあくまで
「さらなる報酬?」
二人が首を傾げると、突如さとりのサードアイの触手部分が体から分離し、ウネウネと蠢きながらこちらににじり寄ってくる。
「ちょ!? 何する気!?」
「貴女達が本当に欲しいものは、コレでしょう?」
二人の制止を無視し、サードアイの触手が二人の額に突き刺さる。痛みは一切無いが、その代わりにイメージ映像のようなものが脳裏に映し出された。
これは読心能力を応用したテクニックであり、さとり自身がイメージした映像を他者に見せることが出来る。
これにより、さとりが二人から読み取った『本当に欲しいもの』を映像化し、それを二人に見せることで欲しいものを強く意識させたのだった。
「…………今は手元にありませんが、霊夢さんにはさきほど見せたアレを、魔理沙さんには旧地獄でしか入手出来ない特別なマジックアイテムを差し上げたいと思っています」
さとりのサードアイがキラリと輝き、一度離れた二人の心を再び交渉の場へと呼び戻す。これこそ、心を読める悟り妖怪ならではの交渉戦略である。
(欲しかったアレ……!)
(マジックアイテム……!)
案の定、二人はさとりの魅力的な提案に乗り気になっていた。
「やるわよ魔理沙。この異変、必ず解決してみせるわ!!」
「もちろんだ霊夢! 報酬は私らのもんだ!!」
「やる気になってくれたようで何よりです」
さとりがニコッと笑った瞬間、先程までのやりとりを全て見ていたお燐の背筋に寒気が走る。これが怨霊も畏れ敬う悟り妖怪の力、ご主人超怖い。
「聞こえてますよ?」
「ひゃいッ!? すすすすみませんさとり様!」
「うにゅ?」
なおお空もお燐と同様、最初から最後まで聞いていたものの、話の内容が一切耳に入ってこなかった上に、途中で飽きて空を見上げていたので、何も理解していなかった。
とりあえず、最後まで話を進める。
「……コホン、それでは早速地霊殿の方に向かいましょうか。お燐とお空は旧地獄の入口まで私を送り届けた後、地上のこいし達を捕らえなさい。手荒な真似はなるべくしないように」
「「了解ですさとり様!!!」」
「いやだから歩けよ! もしくは飛べよ!」
「悟り妖怪が空を飛べるとでも?」
「…………何でちょっと食い気味っつーか、誇らしげに言うんだ……」
悟り妖怪の謎の凄みを見せつけられた魔理沙は呆れ果て、仕方なく出かける準備を始める。
霊夢も棚から針と陰陽玉を取り出し、万が一の戦闘に備えて準備も行う。
「それでは準備が整い次第向かうとしましょう」
「この『ドキドキッ! こいしいっぱい大増殖異変』を解決しに…………!」
「なんかダサい」
「ダサいってか古いぜ」
「は?」
悟り妖怪渾身のネーミングセンスをバカにされたことに関して怒りが湧いてくるも、華麗にスルーされてしまう。
そんなこんなで準備を整えた3人+ペット二人は、異変解決のために旧地獄に向かうのであった。
3話目に力尽きたらごめん、と先に謝っておこう()