ハルトマンの妖怪少女アレンジが幻想入り 作:マスターチュロス
【あらすじ】
とある夏のある日、博麗神社に地霊殿の主である古明地さとりとペット2名が訪れた。さとりの話によると、どうやら妹の古明地こいしが30体に分身してしまい、地底や地上で好き勝手暴れているらしい。
異変解決の報酬に釣られた霊夢と魔理沙はさとり達と手を組み、分身したこいしたちの暴走を止めるべく旧地獄へと向うのだった。
【旧地獄入口付近】
「それじゃ、アタイらはここら辺で失礼しますね~!」
「さとり様行ってきまーす!!」
「気をつけていってらっしゃい」
現在、霊夢たちは暴走した30人の古明地こいしを止めるべく、旧地獄の入口付近まで来ていた。なお、お空とお燐は地上担当なのでここでオサラバである。
お空は主人に向けて全力で手を振った後、お燐と一緒に人里の方に向かっていく。
相変わらず落ち着きのない様子に心配してしまうものの、さとりは二人を信じて前に進むことにした。
仮にお空が何かやらかしたとしても、多分お燐が何とかしてくれるでしょう。
「へくしゅっ!」
「お燐、風邪ひいた?」
「……いやぁ、ちょっと鼻がね?」
ズズ……っと音を鳴らしながら、鼻の下を少し擦る。妖怪は風邪をひかないはずなのだが、どこか調子でも悪いのだろうか。
(……気の所為かな!)
お燐は全く気にせず人里へ向かっていった。
■
「さて、これからこいし捕獲作戦を開始しますが、その前に一つ注告させてください」
「何かあるのか?」
さとりは少し咳を挟みつつ、あらたまって口を開いた。
「今から捕まえにいく彼女は本物の彼女ではなく、彼女の残滓です。それが原因かどうかは定かではありませんが、何故か彼女には弾幕が一切効きません」
「それを早く言え」
一番の重要事項をこのタイミングで言ってきたさとりに対し冷静にツッコミを入れる魔理沙。妹ほどでは無いにしろ、姉も相当自由人かつマイペースなのかもしれない。
話を遮られたさとりは魔理沙に対しムッとするも、再び気を取り直して話を続けた。
「コホン……弾幕は効きませんが、彼女の残滓から読み取った歌を歌うと実体化するのでその隙にやってください」
「何で歌うと実体化するんだ?」
「さぁ?」
「…………とりあえず、これを見てください」
いまいちピンと来ていない二人のために、さとりは服の内側から"ある物"を取り出した。
「…………円盤?」
初めて見る物体に霊夢は首を傾げる。それに対し魔理沙は何かピンと来たようで、「チッチッチ」とドヤ顔で人差し指を振りながら霊夢に説明する。
「違うぜ霊夢、これは外の世界に普及している『しーでぃー』ってヤツだ。これを専用の機械に入れることで音を鳴らせるんだと」
「って、こーりんが言ってた」
「へぇ〜」
魔理沙の情報マウントに全く意を介さず、ジッとしーでぃを見つめる霊夢。
「で? それがどうしたの?」
「あ、はい。……実はこの円盤、博麗神社に向かう途中で彼女の残滓と出会って倒した時に手に入れたものでして」
「触わると不思議なメロディーが聞こえるんです」
試しに霊夢と魔理沙がその円盤に触れてみると、水滴のように儚げで美しいメロディーが聞こえてきた。
「おそらく、分身の本体はコレです。分身たちを倒してこの"しーでぃ"を回収することが出来れば、この事態も収まることでしょう」
「とにかくそいつらをぶっ飛ばせばいいのね、楽勝だわ」
「バレットイズパワーだぜ」
「…………はぁ……」
心を読まずとも察せられるほどに霊夢と魔理沙は何も考えておらず、さとりは頭を抱えた。
本当にこのままで大丈夫なのか心配だが、一応彼女らは異変解決のプロ。デスクワーク詰めで腰を痛めた自分よりかは戦力にはなる。
やはりこの異変の解決には彼女らの力が必要不可欠。妹のためにも彼女らを引き連れて何とかこの異変を終わらせなければならない。さとりは決意を固めた!
「では、そろそろ旧地獄へ向かいます」
「そういえばアンタ、飛べないわよね? どうやって降りるつもり?」
素朴な疑問。今現在お空がお燐と共に行動している以上、飛べないさとり妖怪ことさとりはこの先降りれないはずだが……
「心配はいりません」
そう言ってさとりは一切表情を変えることなく、旧地獄の入口に向かっていく。まるで何か策があるのか、足取りに一切迷いが無い。
「オイオイまさか……」
魔理沙は彼女が何をする気なのか勘づいたが、そのやり方はあまりにも無謀。とても一般さとり妖怪が耐えられる高さではない。
「ちょッ!?」
さとりは迷いなく大袈裟にジャンプして穴の中に飛び込み、そのまま旧地獄の底に向かって自由落下を始めた。さとりの体は薄暗い闇の中をグングンと掻い潜るように加速し、たった数秒で最高速度に到達。既に地上から地底の底までの距離のうち3分の1を消化した。
もはや霊夢と魔理沙が追いつけないほどに深く落ちたさとり妖怪こと古明地さとり。このままでは妖怪であろうと穴底に激突した衝撃でミンチになること間違いなしである。残された猶予も残りわずかだというのに、さとりは一切怯えず前を向いた。
そう、ここには
「よっ」
衝突まで残り十数メートルというところで、綿密に編まれた白い糸のクッションがさとりを地面に落とさないよう優しく包み込み、衝撃を和らげた。
「いつも助かります、ヤマメさん」
「別にいいけど、そろそろ飛べるようになってくれないかなぁ。私だって毎日ここにいるわけじゃないのに」
さとりを助けたのは"ヤマメ"という金髪の女の子だった。彼女は土蜘蛛の妖怪であり、糸の操作はお手の物。地上から落ちてきた妖怪をキャッチするなど容易い。
かといって毎回毎回地霊殿に戻ってくるたびに落下されては困ると、ヤマメは呆れながらさとりの肩を叩いた。
「いつか、飛びます」
「いつだよ」
なんとかさとりに追いついた霊夢と魔理沙はスッと着地し、旧地獄の景色を見渡した。
相も変わらずこの街は湿気に満ちていて、街灯の灯りがやや眩しい。
以前地霊殿に訪れた時と全く同じ景色であり、懐かしさを感じる。
あの異変以降、旧地獄に行く機会はほとんど無かったせいだろうか。
「さて、ここから旧地獄内に向かいたいところですが、一つ言い損ねたことがあります」
「今度はなんだぜ……」
さとりはまた、不安になるような事を言い始めた。
「分身したのはこいしだけではありません」
「「……は?」」
「現在、旧地獄は星熊勇儀と橋姫の分身が暴れていて手がつけられません。出来る限り大通りを避けて移動しますが万が一遭遇した場合は覚悟してください」
「マジかよ……」
さらなる脅威の誕生に身構える二人。てっきり怯えるものかと思いきや先程までのおちゃらけた雰囲気とはうってかわり、少し気が引き締まったように見える。
「……ここに来るまではただの茶番だとしか思ってなかったけど、これはれっきとした"異変"ね」
「私もてっきり茶番だと思ってたから、物だけ回収して後はトンズラしようかと思った。が、"異変"なら仕方ないな」
「…………」
茶番だと思われていたことに異議申し立てをしたいところだが、さとりはスッと心の奥にしまい込む。
ここで争っても意味はないのは分かっているため、さとりは自身の心のノートに怒りをメモし、冷静さを取り戻した。
「ちなみに聞くけど、妹の居場所はちゃんと把握してるの?」
「……えぇ、その辺は大丈夫です。逃げる際に色んな妖怪たちから情報を得てきたので、だいたいの場所は把握しています」
さとりは手に入れた情報を頭の中で精査し、現在の状況を整理する。
「話によるとこいしの残滓達は旧地獄内に20人ほどいるそうですが、私が霊夢さん達に依頼してる間におそらく5人は外に出たと思います。なので15人と仮定しましょう」
「さっき8人外に出てったよ」
「じゃあ12人です。この12人のうち、その場から絶対に離れないと思われるのは『旧血の池地獄跡地』にいるこいしと、『温泉街』にいるこいし、そして『地霊殿』で引きこもっているこいしとその他2名のこいしです。まずはそこから片付けましょう」
「あ、ここから一番近いのは『温泉街』ですが、この旧地獄内で一番被害が出ているのはおそらく『旧血の池地獄跡地』なので、遠回りですがまずはそこから攻めます」
「……あぁ、確か血の池地獄の池の水全部引っこ抜いてライブしてるんだっけか? とんでもねぇな」
「はい……。ある日突然現れた彼女の残滓が池の水を全部引き抜いた後にライブ会場を建設し始め、それを止めようと鬼達はあの子を押さえつけようとしたらしいのですが、実体が無いせいで全然抑え込めず……」
「さらにあの子の残滓が星熊勇儀に接触した途端、星熊勇儀の背中から
やれやれと、さとりはわざとらしく両手を上げて首を振る。
「それで博麗神社まで逃げてきたってわけね」
「えぇ……その通りです」
「ま、事情はだいたい分かったが本物のこいしの居場所については分からんままだな。どうするつもりだ?」
1番気になるところではある。
「その辺はまた後で説明します。今は分身の鎮圧を」
「分かった」
時間は有限、ここで全ての情報を開示せずとも現状問題ないので今は異変解決を優先とする。
「んじゃ、行くとするか」
「あ、旧血の池地獄に行くなら街の中心街を突っ切った方が早いよ」
別の方向に歩き出しかけた3人にヤマメは耳寄りな情報を告げる。しかし、状況的に中心街を抜けるのは危険だと聞いていた(心を読んだ)さとりは首を傾げた。
「……中心街は星熊勇儀の分身が暴r……ちょっと待ってください。地霊殿に誘導してるってどういうことですか!?」
先に心を読んださとりはヤマメの胸ぐらを掴みながら激しく体を揺さぶった。
「私は知らないけど中心街で暴れたら行きつけの店が壊れるって勇儀が!! あと今分身と戦ってるのも勇儀!!」
「あの鬼……! ウチの地霊殿を何だと思って……!!」
さとりは憎き鬼の四天王の姿を思い浮かべながら歯を食いしばった。
もぬけの殻ならまだしも、地霊殿にはまだ獣人化を果たしていないか弱きペットや大事な書類、その他もろもろが残されている。そんな場所に星熊勇儀と星熊勇儀の分身が乗り込んできたらどうなるか。何もせずとも地霊殿が爆発すること間違いなしである。
「よし、行こうぜー」
「えぇ」
「いや待ってください!! 今大事な話をしてるんです! ペットは!? ウチのペット達は大丈夫でしょうね!? あと私が密かに出版した『さとり〜心のノート〜』シリーズと『反則探偵さとり』シリーズも無事でしょうね!?」
無関心な霊夢と魔理沙に対し、さとりは必死だった。 大切なものが自分の手の届かないところで消し飛びそうになっているのだから、焦るのも当然ではあるが。
「ペットは鬼達が既に保護してるし、何か怨霊たちも積極的に分身を足止めしてるから大丈夫じゃない? 本は知らないけど」
「…………」
それが本当なら、ペットは大丈夫だろう。分身に地霊殿を荒らされるのは不服だが、一番優先すべきことは"妹とペットの安全を守ること"であり、さとりがこうして積極的に動いているのもそのためである。
家族が最優先、本は最悪諦めるしかない。
「…………行きましょう」
正直財政的にも地霊殿を荒らされるのは本当に勘弁願いたいところではあるが、苦渋の決断でさとりは分身の対処に当たることにした。
さとり達一行は急いで地霊殿の中心街を突き抜け、旧血の池地獄跡地へと向かった。
■
【旧血の池地獄跡】
旧血の池地獄跡地。そこは旧地獄がまだ"地獄"として機能していた時、罪人の罪を洗い流すべく沸騰した血液が常に湧き続け、マグマのごとく燃え盛った場所。しかし現在の旧血の池地獄には全盛期の面影はほとんどなく、ドス黒くほのかに温かい血溜りが残っているだけである。
手入れをしてないので温度はマグマほどではなく、今現在の温度はたったの37℃。温水プール並に温かい。
なので水遊びをする分には丁度いいだろう。
ズンチャ♪ ズンチャ♪ ズンチャ♪ ズンチャ♪
そんな仄暗い旧血の池地獄から、過去類を見ないほどに陽気でファンタスティックな音楽が流れてくる。
「何アレ」
「随分と派手にやってるな」
派手な装飾と、何処から調達したのか分からない巨大なスピーカー、そしてそれらを数台兼ね備えた謎の御神輿的なものの上に、グラサンをかけてマイクを携えたDJ風の緑髪の少女がノリノリでスクラッチしていた。
おそらく、古明地こいしの分身体である。
「そこの不良妹! アンタには悪いけど退治させてもらうわ、覚悟しなさい!!」
「……私を退治しに来たhuman 私のどこに不満? 無駄
くだらない Yo! kai! たる私の前に顔出したお前はハッキリ言って論外!」
「……」
こいしは独特な言い回しで受け答えした後、照度最大の状態でスイッチを入れ、仄暗い血の池地獄を真っ白なLEDライトで明るく照らす。
そしてこいしは霊夢たちを指さしながら、マイクを片手にパフォーマンスのようなものを行った!
「だがお前もラップで戦うなら 私と戦う権利をやろう
今すぐ手と足と口を揃えてライブにGO」
「最高で無礼講なshowを始めよう!」☆ミ
妹の無惨な姿に、姉は顔を隠した。
「⋯⋯⋯お前の妹、やけにテンション高くないか? 得意げに駄洒落噛ましてくるし」
「……あの子は元になった"しーでぃ"の影響を受けて陽気になっているだけです。あと駄洒落ではなく、多分"ラップ"というヤツです」
「あぁラップね。たまに鳥妖怪と山彦がタッグ組んで歌ってるヤツ」
「魔理沙さん、それロックです」
「…………」
魔理沙は無言になった。
だがそんな押し問答をしているうちに、こいしの分身体は霊夢の存在に気がついた。
「Hey! 博麗の巫女ォ!」
こいしの分身体は霊夢にとびきりの笑顔を利かせながら指を鳴らし、霊夢の方を指さした。
「ここに来た理由は概ね把握しているyo! 巫女の目的は私たちの封印! それが本心丸分かり! だけどそう簡単にはやられない!」
分身体はひどく興奮していた。
「目覚めた時に生まれた感情! 広がる世界に触れた感動は何ものにも代え難いstar alone! 手放せない自由守り抜くよいつまでも」
古明地こいしの分身は一度深呼吸をすると、大声で
「霊夢! 魔理沙! 私から自由を奪うというなら容赦しないわ! 私たちの歌で貴方たちをグチャグチャにして地霊殿のエントランスホールに飾りつけてやるんだから!」
興奮のあまりマイクをステージ後方にぶん投げ、完全にハイとなったこいしはDJ用の機材を弄り始めた。
「ミュージックぅ〜〜〜カモンッ!!」
そう言ってこいしはスイッチを入れると、4つのスピーカーから音楽が溢れ出した!
【音奏弾幕『ジンガイクライシス』】
前奏が流れ始めた瞬間、スピーカーから音楽と共に弾幕が撃ち出され、霊夢と魔理沙は反射的に弾幕を回避した。
「いきなりかよ!」
続けざまに撃ち出される粒状の弾幕と、月を模した巨大な光弾をギリギリで避けつつ、御札やノンディレクショナルレーザーで反撃を試みる。しかし2人の弾幕は分身体の体を突きぬけ、すり抜けた御札とレーザーが背後のステージセットを破壊するかと思いきや、なんとステージセットにすらもすり抜け、旧地獄の彼方まで飛んで行った。
どうやら通常弾幕が効かないという話は本当のようだ。さとりの話的には、こっちも歌を歌うことで分身体の実態を捉えることが出来るらしいがどうだろうか。
「霊夢さん魔理沙さん! 手筈通り私が彼女の歌を歌うのでそれまで時間を稼いでください!!」
「おう!」
「任せなさい!」
とりあえずさとりがこの分身体の中にある"歌詞"を読み取って歌わなければ始まらないので、霊夢と魔理沙は弾幕回避に集中することにした。
一方、さとりは能力を使用し、分身体に潜む歌詞を呼び起こそうとしていた。
「想起『テリブルスヴニール』」
さとりの読心能力によって深層意識から歌詞が呼び起こされ、さとりの脳内に歌詞が浮かび上がる。
本来ならさとりの読心能力は無意識の化身たるこいしに通用しないのだが、分身体はあくまでこいし本人のコピーではなく、『こいしの姿を模しただけのCDの付喪神』的な存在である為、無意識の能力は持ち合わせていない。そのためオリジナルと違って心を読むことが出来るのだ。
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【題名:こいしむいしき 原曲:ラストリモート 編曲:Coro 作詞作曲:ytr、らっぷびと】
※歌詞はGoogleで検索しよう
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(…………曲が超早い!!)
今まで聞いてきた音楽の中でもトップクラスに早く、そしてラップ特有の母音が連続するパートのせいで、音を聞いても歌詞が浮かび上がらない。
この歌詞とリズムを短時間で覚えるのは中々にハードだろう。試しに頭の中で歌ってみたが、歌のスピードに口がついていけず、リズムを取るだけで精一杯。かなりの難易度と言える。
(霊夢さん、魔理沙さん。私が歌詞覚えるまで頑張って耐えてください……!)
さとりは目を伏せながら二人の安否を祈った。
To be continued....
同人音楽みたいな、JASRACやNexToneに作品コードが存在しない楽曲はどうすればいいんじゃろか。