天邪鬼の絶唱   作:猫預かり処@元氷狼

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失敗

巫女服の女は腕を振りかざした。

 

「天雷よ!!」

 

 腕を垂直に振り下ろすのと同時に、その手の先から兎の如く素早く射出された雷は、完全に無防備だった俺の背中を鋭く狙った。回避行動をとる、しかし雷の速さは自然界の中でもトップクラスの速さを誇る。秒速200km近いそれは、ドラゴ・ブレイクによる機動強化された俺ですら完全に避けきることはできなかった。

 

「くっ」

 

 更に俺の背中を掠めた雷は、俺を穿った後直角に折れ曲がりコカビエルへと向かった。直角へと折れ曲がる、それを予測しうることができなかったコカビエルは驚きを隠せず反応が遅れる。雷、いや雷光(らいこう)がコカビエルを貫く。

 

「ぐぅッ!」

 

 あの雷を背中に受けて確認できたのだが、あの雷は光をも含有していた。そのため、実質的なダメージはコカビエルは受けていない筈だ。衝撃波の打撃的ダメージはあるだろうが。

 

「貴、様ァ……!」

 

 やはり、無事だった。衝撃による揺すぶりによるものだろう、足がふらついている。

 おそらく、彼女は堕天使。いやしかし、それならば何故上司であるコカビエルに刃を向ける??

 

「我が主、リアス・グレモリー様の御領地に、鴉と蜚蠊(ゴキブリ)の居場所は存在しませんわよ? うふふ」

 

 リアス・グレモリーの眷属……?

 

 そういうことか。彼女は堕天使と悪魔の混血児の『雷の巫女』姫島朱乃、確か父親はバラキエルだったか。雷光を遣えるのも頷ける。バラキエルに捨てられている事から、コカビエルへの攻撃の辻褄もあう。

 

「同じ様な事を返すようで、申し訳ないが……その鴉とゴキブリの混血には言われたくはないな」

 

「……うふふふふ」

 

 蟀谷をひくつかせた彼女は、怒りを露わにさせた。

 

「フッ!」

 

 なんの躊躇い、いや言葉が違う。なんの意思表示も無く雷を俺とコカビエルに這わせる彼女は怒りのままに力を行使している。数十の白い閃光は変則的に立体移動する。

 一度も駆使しているため、先程の完全不予測状態ではないため、回避は困難ではない。だがしかし、コカビエル本人は力技で正面から対応しているために攻撃の余波などの流れ弾が邪魔を極めた。俺も、仕掛けに行かねばなるまい。龍人化が持つ時間も残り9分半。

 

「天伐流刀剣術゙転侵(テンシン)゛!!」

 

 前方へ龍翼を羽ばたかせ、回転する。途中、翼による飛行活動を停止し重力作用によって俺の身体の回転は更に上がる。その大車輪が如く回転力を追加された俺の袈裟斬は、コカビエルを襲う。

 

「ぐぅ、天伐ゥッ!」

 

 紙一重で躱される。しかし、俺は止まらずその軌道は巫女の方へと向かった。先程の攻撃のお返し、とでも言っておこう。やはり、コカビエルよりは幼かった彼女は縦横無尽の突進を、避けきることはできなかった。

 

「くっ」

 

「邪魔な汚れハーフは消えてしまえ」

 

 となりのビルへと吹き飛んだ巫女に、コカビエルの容赦の無い光槍の連打が打ち込まれる。弾け砕けたコンクリートの欠片による砂塵が巫女を隠す。

 

「そこだけは俺も同意する」

 

 堕天使と、悪魔のハーフ? なんという異血児、本当に、妬んでも妬みきれない。吐気がする。

 最上級堕天使の光槍(こうそう)の猛打に、流石に堕天悪魔と言えど儚く散ったと確信した、が。

 

「助かりましたわ、部長」

 

「もう、無茶するんだから朱乃ったら」

 

 ()の赤龍帝とも比べても劣らぬ真紅の髪。滑らかでありつつも激しい例えるならば鮮やかな血色。だが見ていて目に疲労を催す様な強い色素を含んだものではない、言うなれば……優しさ。

 

 ああ、とても…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       吐気がする。

 

 

 

 

 こいつもまた、グレモリーの娘もまた、この様な……悪魔とも呼べぬ悪魔紛いだったか。気持ちが悪い、途轍もなく、悪であるべき悪魔が否定すべき優しさや異種との混血などになろうとするということが。

 気持ちが悪い、気色が悪い、鬱陶しい、悪魔であれば高潔なれど、人間であれば目を背けたくなる様な異色さを秘めていなければならない。スプラッター映画の様に豪快に、生理的に受け付けないようなグロテスクでなければならないその性質を、完全に無視している。

 

「エセ悪魔が」

 

 リアス・グレモリーが現魔王の妹であるという事さえ忘れ、罵倒の文句が口から溢れる。

 

「なんですって?」

 

「似非、悪魔と言ったんだグレモリー」

 

 彼女の殺気とも呼べる砥がれたナイフのような鋭さを持った怒りの気は、俺の性を搔きたてた。そう、これが悪魔である。自分の自尊心を大きく掻き乱されれば、非道染みた手法で拷問するかの如く自分を見下し、唾を吐いた野郎を貪り尽くさねばならない。

 

「リアス・グレモリー、確か貴殿はバアルの血が流れた消滅の使い手。他者を本当の意味で殺したことが無い貴殿の殺気、緩すぎて欠伸がでそうだ」

 

「……本当の意味?」

 

「貴殿は、他者が死を間近に感じ、身体から溢れる血を必死に抑え、死から逃れようとする光景を見たことがあるか??」

 

 悪魔が悪魔ならざる者へと堕落した原因は多くあるが、その一つの要因として「バアル家」という大王位を持つ悪魔にある。バアル家の滅びの力と呼ばれるものは、敵を跡形も無くこの世界から消滅させるという驚異の力。そのフェニックス家の神的な回復力も薙ぎ払う、実質無敵の力は悪魔の中でもその力を誇示し続けてきた。

 

 滅びの力、相手を消し飛ばす力。

 悪魔の所業は残酷で、グロテスクで、生理的嫌悪を抱く様なものでなければならない。しかし滅びの力はどうだろうか、見方を変えれば神が悪者を断罪するかのような力に見える、いやそうなのだ。神聖な力だ、と昨今の悪魔等はほざくのだ。バアル家の人間は、滅びの力こそ悪魔の頂点に君臨する証だと。それは神聖(・・)なものであって、犯されることはあってはならない……と。

 

 ふざけている。悪魔が神聖を語るか、よりにもよって一番忌避すべきその言葉を。

 リアス・グレモリーの兄、サーゼクス・ルシファーはよりにもよって四大魔王の一人だというのに滅びの力を所持している、今やサーゼクス・ルシファーが悪魔達を切盛りしていると言っても過言ではないこのご時世、そんな事では悪魔は落ちぶれても仕方がないと言えよう。

 

 もう一度言う、悪魔とは悪でならねばならない。残酷に冷酷に生きる悪鬼でなければならないのだ。でなければ俺の存在意義も、いやそんな小さな問題ではない「悪」の存在意義が消えてなくなってしまうのだから。

 

「だから、何が言いたいのよ」

 

「甘い、と言っているんだよ飼い慣らされた雌犬め」

 

 直後、ラディアの短い嘆息によって自分の言った言葉の愚かさに気付かされる。

 

 ……完全に選択を失敗したな。グヴァラギリス様からはこういった貴族悪魔に対する面倒な事は避けろ、って言われていたんだが久々に感情に身を任せてしまった。

 

「め、め、雌犬……ですって……ッ!?」

 

 リアス・グレモリーの額が引き攣り、傍にいる姫島朱乃は冷や汗をタラリと魅惑的なうなじに垂らした。どうやらブチ切れたようである。

 

「い、いいわよ、一介の傭兵風情が私の事を侮辱するなんて……辱めを受けるのと同等、いえそれ以上……」

 

 ブツブツと目元に影を落として呟く姿はさながら深夜に闊歩する悪霊が如くだ。

 

「消えなさい、雑魚がッ!」

 

 完全にキャラが変わってるじゃ――――――ッ!?

 

 グォオオオオアアアアアアアアッッッッ!!!!

 

 強烈な魔力が、竜の息吹(ドラゴンブレス)の様に俺に襲い掛かる。その突風に似た消滅の魔力は、竜のハウリングとしか思えない、いや実際竜を象っていた。消滅竜(リアス・ドラゴ)でも呼ぼうか、その威力は最上級悪魔以上の物では確実だった。

 

「天伐流刀剣術、゙楯帰(タテガエリ)゙ッ!」

 

 楯帰、天伐流刀剣術唯一の防御技。ほとんどの攻撃を、受け止めるのではく「反射」させる技であるが、あまりに負担が大きいため使用後の一定時間は体が硬直、麻痺状態となる欠点がある。現在、ドラゴ・ブレイク時であることで、ラディアと俺とを繋ぐ回路『竜力路(ドラゴ・ライン)』を一時切断されてしまうという更なる痛手を被るが、全ての攻撃をほぼ確実に反射させることが可能になる。

 

「く、くそがッ!」

 

 だが、あまり使う事が無い技だったために完全に使うことができなかった。それに『消滅』という普段対戦することはない力だ。姫島朱乃が使ったような雷光も、今回初戦の力ではあるが雷と光はどちらも戦ったことがあるから耐え様があっただろうが、消滅となると話が違う。

 力に押され、反射しきれなかった消滅の魔力の破片が頬を深く掠る。通常の刃傷によるものであれば血液が瞬間的に吹き出すものだが、俺の頬が深さ3mm、幅1,5mm、長さ5,4cmに渡って『消滅』したことにより本来吹き出す筈の血液が消えており、血すら吹き出さないという不思議な状況に陥った。そして2秒後、俺の頬から多量の血液が流れ先を求め夥しく吹き出した。

 

 痛み、痛み、痛み。

 

 痛覚という物には、こういう生き方をしているものだから慣れているものだと思っていた。しかし体の一部が消えてしまうというあまりに非日常的な(今現在この状態も凡人からすれば非日常であろうが)その傷の痛みは想像を絶した。たった頬を抉られただけ、であるのに。

 

「顔が、これで守られていなければどうなっていたか」

 

 そう、ドラゴ・ブレイク時により発現するこの鎧があってこの傷。決して深さ3mmというのは浅傷ではない。ドラゴンの鱗を模して創られているこの鎧にこれだけのダメージを与える、それは生きてきて初の事だった。

 

《咲、貴方との接続が切れてて傷を塞げないわ! 今の楯帰で腹部の傷も開きかけてる、ドラゴ・ブレイク再接続まで2分はかかるしその間に制限時間が過ぎてしまうわ!》

 

 くそっ、まさか消滅の力がこれほど厄介だとは思わなかった。慢心、怒りによってその感情が大きく出てしまった、失敗、完全に失敗だ。こんな状況でコカビエルとリアス・グレモリー、姫島朱乃と戦えるなど言語道断!! ましてやドラゴ・ブレイクの接続は切れており、鎧は消えている。

 

「撤退する。ラディア、飛翔翼は展開できるか」

 

《……それくらいなら、けれど気を付けて。接続が切れてるし、できて数秒間よ》

 

「問題ない」

 

「待ちなさい!」

 

 だから、待てと言われて待つ奴はいない。

 

 竜の翼が再度生える。勢いよく一度羽ばたき、ビルの上から降下して離脱する。敗走による悔しさが沸々と煮え滾る。

 失敗、この一言だった。




長らくお待たせいましまつた。
ごめんなさい、おにゃのこ口説きつつ、カラオケいきつつ(今日も)、AVAやる日々でした。
(実は書き終えてましたが、投稿しワスレテマシタゴメンナサイ。)

次話はなるべく早く描くつもりです。できれば日曜投稿します。
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