強きは強きを呼ぶ。
古くから、それは非常によくあることだった。力のある物が力を振うことにより、その力を奪おうと更なる力を持つものがやってくる。そんな理屈ではあるが、元来人間に限らずとも生物の本能というものはこれに従っている。
生存本能のみならず、こういった剥き出しの闘争本能を持つ生物というものを代表して名を上げるとすれば、人間を抑えてドラゴン種が一番だろう。ドラゴンという生物は神からの試練を与えられし者、力とドラゴンは大昔からイコール付けて考えられ、恐れられてきた。
そして、人間はその力の代表格のドラゴンを斃す事をその人間の力の誇示としてきたのだ。
――――竜殺し、ドラゴンスレイヤー、ドラゴンべイン
呼び名はいくつもあるが、意味は単純に竜を殺した者である。
聖ゲオルギウス、ジークフリート、ベオウルフ、数多くの英雄達ばそれ゙を達成することにより、名を上げ、今の時代へと名を残し続けている。彼らが竜殺しを達成する上で、共通している点は何かと考えれば、竜を殺す装具の存在だ。魔剣、聖剣、名剣。ほとんどが剣であり、強力な力を秘めている者ばかりだ。
俺の持つ邪刀、《井草》はその中でも悪魔が鍛えた剣である。魔剣、聖剣、何れのどれにも当てはまらぬ邪剣は云わば銘無しの鈍剣。魔剣や、聖剣と比べればだが。
邪刀井草。天伐の信念である偽善殺により、その固定観念に似た呪いが剣に施され天伐の考えを持たぬものであろうとも、偽善の殺意に影響されて心汚染を謀る。だがそれに竜殺しの能力は備わってはいない。当然、補助武器のベレやダガーナイフに竜を殺すだけの力はないということだ。
ああ、その、なんだ。
結局何が言いたいのかというのはだ。
「許せ、ラディア」
《…………》
竜体化している、ラディアに恐怖しているわけで。
幼竜で、出会ったころと比べれば、もうすっかり成体となっており立派な身体に成長している。鋭く幼竜期と比べはるかに生え伸びている牙がマジコワイ。
この蒼竜が激怒している理由は、朝目が覚めて身体を起こそうとした瞬間爪による攻撃を受けかけた瞬間から理解している。
「落ち着け」
また飛んできた竜爪をバックステップで避ける俺だが、朝起きてから一時間弱やっているので無駄に疲労感が積み重なっている。
《……落ち着け? 私は落ち着いているわ、生まれてから一番クールと言っても過言ではないわ》
ドラゴンとしての凶悪なラディアの御尊顔は表情が無かった。表情が無いドラゴンマジコワイ。
「そんなに俺とシたかったってのは俺も知らんかった、許せ」
俺の場を和ませようとしたちょっとしたお茶目に、ラディアは完全に切れた。
《 よ ほ ど 死 に た い 様 ね ! 》
――――――――――――――――――――
痛い。
ドラゴンの本気の、聖剣もビックリ正拳突きに俺の鳩尾が悲鳴をあげていた。肋骨数本逝っちゃったんじゃないかってぐらいの威力だった。ドラゴンのパンチで肋骨が折れる程度で済む俺の体も相当なものだが。途中からは狭い部屋での竜体化を流石に邪魔に感じたのか、人体化に戻り鋭いジャブを繰り出してきたのだが。
数発ぶん殴ってスッキリしたらしいラディアは、まだ苛ついている様ではあるが、先程と比べればまあマシと言っていいだろう。話しかけても、応じることは無いが。
転移してから一日、いや正確には一日経っているわけではないが初めての朝を迎えた。既に駒王町の隣町で準備を始めている。悪魔関係者については洗い浚い情報収集を行い、と同時に教会関係者や堕天使の動きの痕跡を探るため、街の浮浪者に金を渡して動かせている。
コカビエルとの競合いは、確実視していいだろう。天使から堕落した存在の堕天使と言えど、大昔の悪魔、天使、堕天使の三竦み戦争で生き残り、尚且つ一騎当千した猛者だ。下準備は十分にしていた方がいい。戦場にて舐めた真似は一番危険だ、剣に限らずとも武器を扱うことも似た点がある。剣術や、弓術といった武道を免許皆伝した者が、型を省いたり自己流へと変えようとする。そういった者達は大抵慢心した自身の技が原因で死んでいくのだ。考えても見ろ、数百年の間鍛え研ぎ澄まされ、無駄を削いできた本来の剣術と、自分がアレンジした生まれて数年の剣術。どちらが剣術として格上か。当然、数百年の歴史を持つ剣術に決まっている。しかし、これまた当然ではあるが他人の剣術であるそれを、技術として学ぶ。それは完璧に学べるわけではない。人には人の得意不得意があり、突を主体とした剣術でも自分が得意な踏み込みにしようする利き脚がどちらかや、自分が完全に対処できる範囲、色々人によっての差異は多い。それを、自分なりにどう上手く剣術そのものと合わせるか、という多少のアレンジは必要ではあるが。そう言った論理で考えれば、我流でそれなりの実力を持つ物という者は真の強者だろう。
話が反れた。とにかく、下準備の軽視と慢心思考はくれぐれも注意しなければならない。堕落してしまうという天使の一種の弱点が無い堕天使という存在は、階級やしきたりを重んじる悪魔とも違い、かなりフリーダムである。悪魔にとって一番の大敵は堕天使と言ってもいい。天使から堕ちたくせに正義の断罪によく使用される『光』を使えるというのは、やはり正義や善と言う言葉の半端さが伺える。悪魔にとって、光は相容れないものであるから無差別な光の攻撃は脅威だ。
悪魔の契約している俺も、光の攻撃には耐性が゙全ぐ無いため不用意に喰らうとダメージは通常の攻撃よりも多くなる。
悪魔と接点や契約をしていない人間であれば、相応の光への耐性はついているものだが、一度でも契約してしまえば光への耐性は0となる。表面上は人間だが、中身は悪魔として認識されるのだろう。なんだかこの世界の理ではなく、誰かが設定したシステムのようにも感じ得てならない。まあ、あの状態になれば光もあまり俺にとっての弱点ではなくなるのだが。
「着いたわ、駒王町よ」
なるべく交通関係を使用した痕跡を残したくないため、徒歩での移動が必須となるのは中々に辛い。魔力に関しては、認識阻害魔術を自身にかけておけば結界に引っかからない。蒼竜の魔力量と、魔術の技術は相当なものだ。魔竜とも呼ばれるぐらいには、魔法・魔術に精通している。しかし、今回はそうはいかなかった。おそらく魔王級とまでは行かずとも最上級悪魔の手によって張られた結界だったために、中々痕跡を残さない侵入は困難だった。
「やはり、魔王の妹が二人住む町だ。結界の魔力方程式の解析には多少手古摺らされた」
「ベルゼブブの考案した魔術式プログラムは使えるわね」
「ああ、ヴォラクの方々がどうやって手に入れたかは知らないが、USBMSには助けられる」
Universal Serial Bus、通称USBの形をした術式発動プログラムを回収すれば、何の痕跡も無く結界にハッキングし、誤情報を送り込み、俺達を何の害も無い人間と偽れるというわけだ。俺達はこれをUSB型Magic sort,【USBMS】と呼んでいる。使用に伴う膨大な魔力はラディアから供給すれば良いし、ソーラー式腕時計より高性能だ。
「で、どうするの? 町に入ったのはいいけれど」
「まずは駒王学園だ。魔王の妹、【
「仕掛ける、って相手は堕天使の筈じゃないの?」
「形式上と言っても俺は悪魔だ。結界に感付かれずとも、生身の者等に完治されてしまえばそこまでだ。ご挨拶をしておかなければ、背中からヤられる羽目になるさ」
なるほど。と納得したらしいラディアは、知らない人間から強奪したらしい携帯端末を弄っている。
「何をしているんだ」
「パズモン、よ。パズルモンスター、最近スマホで流行っているの」
「あ、そう」
熱心に打ち込んでいたように見えたため、俺の
「ちなみに駒王学園はあっちよ」
携帯を見ながら指を指すラディア。自分のやるべき仕事はしっかり果たしているのが腹が立つ。駒王学園。リアス・グレモリー殿とソーナ・シトリーが通い、軍事拠点としても活用している高等学校だ。確かに、学校と言う建物の構造は多くの部屋があり宿舎としても扱えるし、広い体育館や音楽室と言った防音設備の整った音楽室、更に広いグラウンドがあり……と軍事拠点に向いている。人間が行ったの世界大戦時代も、学舎というものは拠点として重宝された。
「レストランね」
「そうか」
ラディアの遠まわしの主張をスルーして、悪魔の気配を探っていく。
「お寿司、って食べたくない?」
「まあな」
「ねえ、この際ファーストフードでもいいわ」
「おう」
「…………」
知っているだろうか、ドラゴンの食欲というものを。人体化に使う魔力や生物本来のエネルギーはかなり多い。それをドラゴンは食事で補う訳だが、人体化せずともドラゴンの食事量は相当に多い。一日五食六食は普通、新陳代謝が激しいために間食は一日三回。それに毎度毎度付き合っている俺の胃は絶えず悲鳴を上げている。実際の所、今も飯を食わなくていいくらいには間に合っているのだ。
「ねえ、咲。私はね、あのことを許したわけじゃないのよ」
「奢ります」
俺は弱かった。
近くのファーストフードに半ば強制的に入らされた。ラディアはと言えば、幸せな表情でステーキを口に運び、更に追加注文を食いながら繰り返している。不幸な彼女を持ったのだろう、と女性店員の哀れみの目が痛い。
「美味しい、美味しいわ。日本の三流レストランはヨーロッパの一~二流レストランのレベルよ」
ただ、腹が減ってるから何でも美味しいと感じる不思議現象と一緒だと思うぞ。そしてそれはヨーロッパの一流レストランへの冒涜だ。ほぼ冷凍食品で出来上がっている日本のファーストフードが、素材や調理法、調理師にすら拘って作られた料理より上だなんて、一流料理が可哀想だ。
「まあ、いいんだが」
工事現場の土嚢化の様に勢いよく伝票に追加されていく料理名を、しげしげと見つめるだけの時間が過ぎていく。
つまらん、全く以ってつまらん。堕天使や悪魔の反応も無く、只々の飼竜の食事を見続ける時間なんて無意味すぎる。
――――と、思い始めた時だった。
「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」
「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」
何処か、無数の記憶の濁流の何処かで聞いたことのある、言葉がラディアレベルの声が後方から聞こえた。確か、確かこの声は……。
振り向く。
「……ん?」
同時に、何故か彼女もこちらに振り向いた。
青髪に、緑のメッシュという特徴的な髪に凛々しい瞳と勝気そうな表情。何より神の信仰の臭いが強い女。半年前と比べ髪は少し短くなったか。
「天……伐?」
彼女の呆けた表情が、一気に怒色に染まった。