天邪鬼の絶唱   作:猫預かり処@元氷狼

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悪魔の救い

 店を離れてから、数時間経った。日が薄明となり、落ちかける所謂マジックアワーの時間。ラディアには物資を調達させ、俺は気配を完全に消して(それでも接近されれば嫌でもばれるが)駒王の街を徘徊していた。目的は当然、コカビエルの痕跡の調査。そして寝床の確保である。

 マジックアワーは、調査の息抜きに喫茶でコーヒーを買っている間に終わり、やってきたのは暗闇である。水平線の方は、まだ少し明るさがあるものの一帯は既に夜。夜独特の落ち着きつつも、不気味な雰囲気があった。

 

「そろそろ、寝床は見つけないとな」

 

 警察の目が厳しく、都市圏では森林などがほぼ無い日本での野宿は流石にきついものがある。先日の様にラブホテルというのはラディアが許さないだろうから却下。一般市民の家に入りラディアが魔法を使い強制居候……いや、却下だ。なるべく一般人との接触は避けた方がいい。ならば、普通にビジネスホテルなどと言った格安ホテルを使うか? リアス殿の眷属に立場がばれている以上、それぐらいは可能だろうか。いやしかし、不安が残る却下だ。ならば、どうする……? 完全に今の状況は四面楚歌である。

 

「……ん?」

 

 その時だった、先程の一戦で戦った悪魔に似た匂いが俺の鼻腔をくすぐる。おそらく悪魔の男、そしてできるだけ気配を潜めていることから誰かを捜索、又は自分の存在をばれたくない、のどちらかの状況に陥っている悪魔だろう。おそらく、その答えは前者。赤龍帝がリアス殿に報告し、放っては置けないために使いを放った。それが一番確立が高い。

 ならば、先手必勝。

 

 ゙接覇゙を使い大きく弧を描く様に駆けて、後ろに回る。あの佇まい、姿勢、おそらくあの男は剣士だろう。そしてあの戦士の男としては華奢な体つき、俺と同じく柔の剣士だ。劣る力を素早さ、技術でカバーするタイプ。最善の選択としては、第一に機動力を削ぐ事!!

 

「天伐流刀剣術、゙機払(キバライ)゙」

 

 機払。ギリギリまで柄の端を持ち切先の届く先を長くし、刀身での斬撃ではなく切先での斬撃、というより突きをする。常に使っている柄持ちの長さではないことで、自分自身が太刀の有効距離を意識しないことで、心意が宿らない切先が相手の身体を確実に傷つける技である。

 だがしかし、心意の宿っていない一刀であった筈なのに男はその斬撃を回避し得た。驚愕半分、歓喜半分、ある程度の力を持った戦士が悪魔眷属の一人にいた事に感じた。

 

「誰だッ!」

 

 素早く、おそらく神が生み出した神器による力で彼は剣を出現させた。俺が太刀《井草》を悪魔の宝物庫より抜き出すのとはまた違う、術式も無く魔力の消費によって剣が生まれたのだ。おそらく、使い手によっては神滅具をも超える事ができるだろう力を宿す神器、魔剣創造(ソードバース)

 リアス・グレモリー眷属に魔剣創造を扱う剣士は存在する。木場祐斗、彼と、彼自身リアス眷属の古株であったために自分の情報力に引っかかり、確信できた。

 

「……に、人間?」

 

 魔力の無い俺を見てか、人間と判断したらしく一瞬気が抜ける。

 隙有りッ!

 

「天伐流刀剣術゙切固(キリガタメ)゙」

 

 切固。柔道で言えば、寝技の様なものだ。太刀で急所を斬ると同時に、敵の回避行動により無理が生じた姿勢を一気に崩す。そして刃を首元に近づけ、殺すのであれば斬る。殺さず尋問や捕縛が目的なのであれば斬らず直前で止める。

 木場は切固の教科書通りに動いた。回避行動に体を動かす事を徹した木場は大きく上半身を横に反らし、大きな隙を見せざるを得なかった。瞬時、刃を斬らぬように逆刃に持ち替え、木場の左脇腹に叩き付けた。肋骨を、数本持っていった手応えをしっかりと感じた。

 

「カハァッ!」

 

 血反吐を吐いた木場は、そのまま地面へと崩れ落ちる。すぐさま俺は人払いの結界を張るために、ラディアを呼ぶ。口笛に言霊を乗せて吹いた。一分すら、10秒も経たずにラディアはこの場に現れた。戦闘を察知していたのか、どうやら近くまで来ていたらしい。

 

「結界を張れッ!」

 

「ええ、了解よ」

 

 人払いの結界がドーム状に張られるが、安心してはいられない。先程した言霊を乗せた口笛は、魔力や、それに似通った力を少しでも持つ者には聞こえてしまう。霊感がある人間が、霊が言った言葉だ、とか言って聞こえるのは大抵こういった方法によって四散した言霊を無意識にキャッチしてしまう事がほとんどだ。その際、人間はしっかりと聞こえないため幽霊かの様な不気味な声として聞こえてしまう。そして、此処は今現在堕天使と悪魔、教会の戦場となろうとしている場所。先程の言霊を捕まえられる者は確実に存在する筈だ。

 

「ラディア、その青年を抱え面倒だが一度駒王を出る!」

 

「分かったわ」

 

 眷属の一員を奪いでもすれば、リアス殿は激怒するだろう。だがしかし、彼を地に沈める事で俺は感じていた。彼から主への忠誠心というものが消えていっている、という事が。神を敬う者共や、はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)を常に斬っている事で、俺はある五感の様なものを感じる事ができるようになった。それは、何かへの忠誠心の匂いだ。王への忠誠、主への忠誠、神への忠誠、多々あるがそれを感知できるようになったのだ。当然、忠誠心の無いという逆もしかりである。

 木場からはそれが無くなりつつあることに俺は気付いていた。おそらく、はぐれ悪魔一歩手前で現在リアス殿と確執が生まれている状況なのだろう。

 ……だとすれば、多少一緒に着いて来て貰っても構わないだろう。それにコイツからは、神や教会への憎悪の感情をも渦巻いているように感じ取れた。使える、おそらく教会と共闘すると主が決めた事への反感や、敵に仇か何かが存在しそれを殺そうと我武者羅になっているのだろう。

 

「探知魔術の使用を許可する!」

 

「了解!」

 

 ラディアが木場を肩に担ぎ、空いた腕を地に向けて、掌を地面にぴたりと合わせる。手の平を中心として魔法陣が一瞬にして描かれ、暗闇の中青いサークルが浮かび上がった。ラディアの目は煌々と蒼く光り輝いている。

 

「後ろから4、左から2ッ!」

 

「前!」

 

「了解!」

 

 走る。全力で走る、人払いの結界の外に出れば、迂闊にこちらも動きにくくなるが追っ手側も同じことだろう。太刀《井草》を宝物庫に戻した俺は、木場を抱えるラディアと共に結界から飛び出した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 駒王町郊外。

 木場祐斗を奪取した形になった俺等は、無事駒王を脱出できていた。現在地は郊外の廃屋だ。まさか、こんな早くも駒王から出るとは思っていなかったのか、ラディアの顔は困惑で染まっていた。

 

「どうしたの、咲? この子は誰なの?」

 

「木場、祐斗。リアス殿の眷属だ」

 

「えっ? 駄目じゃない、誘拐なんてすればグレモリーは愚か、彼女の兄の魔王も動くかも!」

 

 思わぬ運動で、驚いた体にペットボトルを飲み干して水分補給をした俺は、ラディアに説明する。

 

「んく、んく、……はぁ。大丈夫だ、彼ばはぐれ゙なりかけだ。それに鎖で拘束してある」

 

 悪魔や、悪魔祓いは皮肉にも同じような点があった。主を裏切ったはぐれ悪魔や、神への叛逆徒と呼ばれるはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)、そゔはぐれ゙だ。はぐれはどの陣営も、嫌う。それは自分達の意志に逆らう者を野放しにしておくのは危険なために当然だが。

 はぐれになった悪魔は、すぐさま悪魔の上層部より討伐命令が出される。おそらくリアス殿は木場がはぐれ悪魔になったという事は報告しないだろうし、悪魔の討伐員が繰り出される心配はないだろう。

 

「そう、なら心配はないわね」

 

「ああ、あとは俺に任せろ」

 

「言われなくても」

 

 ラディアはそう言うと、廃屋の扉を開けて外に消えて行った。

 

 さて、どうするか。ラディアによる回復魔術によって、俺による肋骨損傷は癒えている。今は衝撃のショックによる気絶で寝息を立てている状態、候補としては起こす、起きるまで待つの二択。

 だがまあ、そんな事を選ばなくても問題は解決した。

 

「……う、うう」

 

 木場祐斗は瞼をゆっくりと開き、眼を覚ました。最初は状況が理解できず、ぼーっとしているようだったが、十数秒経つとすぐに廃屋を勢いよく見まわし、俺の姿を捉えた。

 

「き、君は!?」

 

 ぐっと身体に力を入れるが、鎖によって拘束されている事に気付きジッと俺を睨みつけて言った。

 

「何が目的だッ!」

 

「そうだな、簡単に言えば……偽善を斬る事だ」

 

 その言葉に、木場は固まった。 いや、そこは自分を攫った目的はなんだ、と聞いているんだ!とツッコミを入れてほしかったのだが。

 

「偽善を……斬る?」

 

「ああ、悪行非道を行う神父や聖女。善を自称し、全てを救わぬ善をおこなう天使共、偽善の結果と言える堕天使共の殺害。それが俺の目的だ」

 

 天伐邪鬼教典抜粋である。

 

「君は、何者なんだ」

 

「天伐、天伐咲。偽善を斬る運命(さだめ)を血に刻めし天伐一族第12代目執行者、天伐咲だ」

 

「天……伐…………」

 

 聞き覚えが、あったのか。俺の名を小声で繰り返し、突然彼は頭を下げた。

 

「お願いします! 一緒に、聖剣を、聖剣を破壊してくださいッ!」

 

「何故、俺だ。貴様にはリアス・グレモリーという主と眷属の仲間がいるだろう」

 

「そ、それは」

 

 後ろめたい事がある様子、これで確定だ。木場祐斗ははぐれ悪魔だ。推測と直感で、絶対そうだろうと思えども、確定事項でないと100%とは呼べない。憶測で行動するのは、テロリズム染みた事をしている俺達天伐にとっては、大切なことだ。

 

「聖剣が、憎いのか」

 

「……っ、はい」

 

「貴様は、確か聖剣計画の被験者だったな。あの(おぞ)ましく、外道の限りを尽くしたあの、教会の計画の」

 

「知って、いるのですか」

 

「聖剣計画は、俺の父上が被験者処分後に破壊した」

 

 驚愕、安堵、そして怒りの表情を木場祐斗は俺の言葉を聞いて浮かべた。

 

「バルパー……ガリレイはッ!」

 

「逃げた。君達以外にも存在した第二被験者を肉壁とし、逃走した。おそらく、これは俺の予想だが彼奴は聖剣を神聖視しすぎたことにより、神父として狂い始めた。今回の一件にも、バルパー・ガリレイは関与しているだろう。そして――――」

 

「――――ここ(駒王町)に、いる」

 

 木場祐斗は怒りを抑え、興奮と恐怖、そして復讐の殺意によって無意識に震える両足を両腕で押さえた。

 

 聖剣計画。それは、教会が所有するエクスカリバーやデュランダル、と言った聖剣の類を扱う人間を人工的に生み出す計画だった。本来、聖剣は聖剣を使う『因子』が無ければ扱う事は出来ないため、ただの人間は当然聖剣は扱えない。だが、因子があれば聖剣を使えると考えた大司教バルパー・ガリレイは極少ない因子を持つ計画の被験者たちである信徒に人体実験を施した。しかし計画は失敗に終わった。そして人体実験という神に仕える者である自分が行った事は、ばれてはいけないとバルパー・ガリレイは判断し木場祐斗を含む被験者たちを毒殺で殺戮したのだ。

 その一件は木場祐斗が逃げたという点と、父上の介入という二つ誤算により教会にばれ、大司教バルパー・ガリレイは『皆殺しの大司教』と呼ばれるようになり、教会から追放された。そのため、逃亡したバルパー・ガリレイは天伐の殺害リストにもきちんと名を記されている。俺の、頭に、しっかりと。

 

「いいだろう、木場祐斗」

 

「えっ」

 

「バルパー・ガリレイを殺させてやる」

 

 悪魔の、勧誘だった。

 なんとも不思議なものだった。悪魔紛いの俺という人間が、本物の悪魔である木場祐斗に、悪魔の如く悪鬼羅刹の外道へと招待しているとは、不可思議ここに極まれり、だ。

 

「僕は……」

 

「復讐が、したいのだろう? 彼ら(被験者達)の仇を討ちたいのだろう?」

 

「お願い……します」

 

 落ちるのは、目に見えて明らかだった。

 

「聞き届けた、その慕情。天伐の名に懸けて、貴様に奴を殺させてやる」

 

 自分でも、悪鬼の様に恐ろしい笑みを浮かべている事は、気付いていた。

 

 




すみませぬ、祖父母の家に行っていて更新できませんでした。

この状態(復讐モード)の木場きゅんと、主人公は意外と相性がいいです。
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