天邪鬼の絶唱   作:猫預かり処@元氷狼

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それぞれの思惑

 俺、は苦虫を噛み潰した様な気でいた。天伐一族、まさか彼等がこの極東の地に現れるとは露程にも考えることは無かった。堕天使コカビエルと天伐一族には、異常なほどの運命ともよばざるを得ないほどの繋がりがあった。数世紀ほど前に、突然現れた天伐の一族は堕天使に限らず、天使や教会関係者、はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)を斬り続ける。戦う事を好む俺からすれば、彼らは丁度いい暇潰しになる程度の戦士だろう、そう思い天伐を視ていた。一世紀と数十年ほど前になる、堕天使に下った悪魔と、それを容認した中級堕天使の師団長を制裁する任務が下った時だった。久しぶりの上からの戦いの指示、それだけで自分自身の上昇意識の鼓舞は最高値に達していた。一時的ではあるが、戦争時のあの気性を思い出させてくれるのではないか、そう思っていた。

 

 俺を待っていたのは無残に殺された堕天使師団全員の亡骸と、同じ様に死んでいる下級悪魔だった。亡骸の中心にカタナを持ち無表情で立っていた男は、己に気付き瞬きをする間に懐に入りカタナを持つ(かいな)を振った。後にも先にも、今に至るまでこの無様な戦いの始まりを告げたのはこの時だけだ。

 男は冥土の土産かと言うかのように、一振りの剣だけで追いつめてゆく俺に天伐誠(アマタツマコト)と名乗った。天伐、天伐だ、あの天伐が俺の身体に傷をつけた。怒りが俺の中で渦巻いた、しかし天伐誠は俺に傷をつけた直後、俺を再度斬ろうとする手を突然止めて立ち去った。致死級の斬撃を受けた自分には追う事は出来ず、救援に来たバラキエルが止めるまで、発狂したように天伐の名を叫び続けた。

 その一戦、いや一戦と言ってもいいのかわからぬ戦いを経てからというもの、俺と天伐は数回数奇な邂逅を果たし、戦いを繰り返してきたが、天伐を殺す事は一度も叶わなかった。どう魔力を流しても癒える事のないこの傷が、今また、俺を嬲る様に疼いていた。

 

「……天伐」

 

「おりょ? 旦那いきなり呟くなんて珍しいでござんすね。あまたつ、あまたつ? もしかしなくてもあのイカレ大量殺人者の天伐一族の事ですかいな」

 

「ああ、フリード。どうやらその天伐がこの地に来たらしい」

 

「ま、ま、マジですかぁーい!? 堕天使幹部とやり合ったって言う狂人がcome hereしちゃったんでございましょうか!?」

 

 蠅のように鬱陶しい喋り方をする信仰心の欠片も無い男、フリード・セルゼンは冷や汗を流しながら天を仰いだ。

 

「その堕天使幹部とは、俺だ」

 

 俺のその言葉にフリードは、先程より顔を引き攣らせて驚愕し、すぐさま両手と額を隠れ家の床にこすり付けた。

 

「衝撃の事実セカンド発覚ゥ!? 申し訳ねェです旦那ァ!!」

 

「いや、いいさ。俺が天伐という一人間を殺せないと言うのは事実だからな」

 

 悔しさよりも、懐かしさの方が際立った。堕天使であり、数千年を生き続けた俺も天伐を探し見つけるために、この数十年人に紛れて生きてきた。最後に天伐と戦ったのは二十五年前になる。天伐新、それが彼奴の名だった。

 

「やっと、再開できるというのか。あの血の滾る強欲による戦いの一幕をッ!」

 

 マグマの如く自分の奥底に静まっていた、闘争心なるものが煮え滾るように暴れている。闘争心と共に胸の傷は笑えるほどに疼く。これまで倒してきた強者が、虫けら以下の存在にも思えてくる。

 

「クククッ、クハハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!! 天伐、天伐新ッ! まさか貴様が出てくるとは!!!! サーゼクスなんぞどうでもいい、天伐が、天伐が出てくるのであればッ!」

 

 ――――満足だ。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 赤龍帝、ウェルシュ・ドラゴンこと兵藤一誠である俺は、昨日の出来事で出会った天伐と呼ばれた男を思い出していた。自分と同じく黒髪で日本人っぽさを感じさせる雰囲気、佇まい、骨格。しかし目は深い深い青の碧眼という珍しい容姿。アイツを見た瞬間、自分との強さの違いじゃなくて、もっと、もっと大切な何かが違った。そう、自分のおっぱいへの思いが偽りと言われたかのような錯覚に陥り、怒りの感情が大きく揺さぶられた気がしたんだ。

 俺が悪魔となったのは最近、学校の先輩であり、今は主人でありオカルト研究部の部長、リアス・グレモリー様に堕天使によって殺されたところを悪魔になることで助けてもらったんだ。最初、悪魔になる前に知っていた悪魔と悪魔は全然違っていて、悪魔は善いものだってずっと思ってた。けど、違った。悪魔はやっぱり悪だから悪魔と呼ばれているのだと、ハッキリ確信できた。部長が部長であるから、リアス・グレモリー眷属は善い悪魔なだけで、他の悪魔がみんな善いものだっていう事じゃないんだ。

 

 天伐咲、アイツは悪だ。悪魔の敵ではあるけれど、教会の神父や……アーシアみたいな聖女を殺戮してきた悪だった。ゼノヴィアは言った、やつこそ本当の『悪魔』と。悪魔側は、己の行いを正当化しているだけで、ゼノヴィア達教会関係者からすればどのような行動でさえも悪なんだ。それは、何も知らない松田や元浜、桐生達からすれば悪魔の行動は悪としてしか見れないんだ。

 契約する場合は、大きな契約でなければ命を取らない。けれど、それは今はまだその大きな契約が来てないから悪としてしか見れないんだ。もし、契約相手が命と引き換えにでも、その契約を実行しようとしてきたら俺はどうすればいいのか、わからない、わからなかった。

 

「イッセー先輩」

 

「……小猫ちゃん」

 

 心配そうに見つめてきたのは、あの時も一緒にいた後輩の塔城小猫ちゃん。ちっぱいがキュートな無口キャラだ。Hな事をしたらすごく怒ってくる。

 

「昨日の、ことなんだ」

 

「天伐、の一件ですか」

 

 昨日の事は、まずゼノヴィアとイリナと協力するという事自体、部長には秘密にしていたことだ。ゼノヴィアとイリナと協力するために、会っていたなんて言えない。昨日のお店の後始末は、俺と小猫ちゃん、そして昨日一緒にいた俺達と同じ悪魔である生徒会眷属書記の匙で片づけた。客の記憶の改竄は匙がやってくれた。

 

「天伐咲、は敵です」

 

 小猫ちゃんは迷わずそう答えた。

 

「教会、特に悪魔祓い達は私達にとって敵です。けど、それを殺戮するというのは悪魔ではなく下種です。部長もそう言う筈です」

 

「そう……かな」

 

「どうしたんですか? いつものイッセー先輩らしくありません。いつもは馬鹿で変態で馬鹿な先輩(笑)なのに」

 

「馬鹿って二回言った! 馬鹿って今二回言った!」

 

「あいたッ」

 

 うるさいです……。そう言って小猫ちゃんは拳骨を振り下ろした。流石だッ……! ツッコミのためなら不自然な跳躍からの拳打をも成し遂げる小猫ちゃんッ! そこに痺れる憧れるッ! ジャンプしたときに全く揺れないちっぱいが不憫だぜ!

 

「ごはぁッ」

 

 心を読み透かされたのか、さっきの数倍の一撃を腹部にもらう。

 

「今、失礼な事を考えた気がしました」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 ちっぱいを見て言ってしまったのが悪かったのか、視線で気付いた胸の事だと気付いた小猫ちゃんは、ぷぃとそっぽを向いてしまった。

 

「ありがとう、小猫ちゃん。少し、元気でたぜ」

 

「……それなら、いいです」

 

 くぅー! 照れている小猫ちゃん可愛いぜ!

 

「それで、どうするんですかイッセー先輩」

 

「そうだなぁ、結局あの一件で木場を含めて話す事は出来なかったし、とりあえず木場を探す事を優先したほうがいいかもしれねーな」

 

 木場、何処に行ったんだ。 部長はあんなに悩んで、苦しんでいるのに……。いや、違う。木場にも木場の悩みがあるんだ。イケメンで、モテて、いけ好かない奴だけど本当はスッゲー優しくて俺達の事を守ろうと頑張っている奴なんだ。俺がそんなアイツを信じてやらなくてどうする!

 

「昨日、あの変な声。確かにあれは天伐の野郎の声だった」

 

「日暮れのあれですね。人払いの結界も貼ってありましたし、確実に天伐咲だと思います。竜の臭いもしました」

 

「竜の臭い? 小猫ちゃんそんなこともわかるの? も、もしかして俺も臭う!?」

 

《おい相棒、それは俺が臭いということか》

 

「っ、今言ったことは忘れてください」

 

 失言した、そう言うかのように小猫ちゃんは俺から目を逸らした。小猫ちゃんにも、悩みがあるのか。そうだ、グレモリー眷属は皆転生悪魔って聞いてる。皆悪魔になった理由があるはずなんだ。木場も、小猫ちゃんも、たぶん朱乃さんも。部長がこの前の婚約で悩んでたことの様に、辛い事を乗り越えて悪魔になったんだ。

 

 それにしても、俺本当に臭うんだろうか。

 

「イッセー先輩は臭くありませんよ」

 

 よかった。

 

《おい相棒、だから俺は臭わないと》

 

 




次回、荒れます
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