天邪鬼の絶唱   作:猫預かり処@元氷狼

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ドラゴ・ブレイク

 五対の黒翼、光の鼓動。

 

 その存在に、俺は畏怖する他なかった。甘かった、甘く見過ぎていた。父上や、何代もの天伐の執行者達がコカビエルと戦ってきた。俺も対等に戦える、そう甘く見過ぎていた。自分の判断力の低さに後悔する。

 コイツは、一゙人間゙が相手できる範疇を逸脱している。こんな奴等と先代達が戦い、生き延び、尚且つ追いつめたこともあるなんてことは、到底信じられなかった。力を表す獣である竜が、怯えるほどの力を感じたことは、俺が生きてきて二回目の事。

 

「ああ、燃えるッ!!」

 

 この血の滾りこそ、天伐の宿命。

 その一点に、曇り無しッ!

 

「せぇらァッ!」

 

 先手必勝、相手に喋る隙も与えない。

 

 ただでさえ、単純な力では劣っている。姑息と言われども、勝つために手段は選ばない。卑怯? 邪道?? 否ッ! これこそ戦いの正道なりッ!

 文句を言う暇は、恐れながらも除かせていただき、天伐流刀剣術゙接覇゙を使い、続けで貫閃゙での突きを神速にて放つ。しかし

 

「遅すぎて、欠伸が出る」

 

 翼による薙ぎ払いによって、俺は屋上にある避雷針に強く吹き飛ばされる。

 肺にあった逆流した空気と、傷ついた内臓からの血が痰と共に吐き出され咳ともいえない呻きが発せられる。

 

「天伐、アイツと同じ気がして来てみれば……どうやら幼き方の天伐であったようだ。アイツは、天伐新はどうした」

 

 父上か。やはり父上は、こんな奴を相手にしていたのか。

 

 なんて無謀、愚行。

 

 ああ……羨ましい。

 

「死んだ」

 

「何ィ?」

 

「父、天伐新。そして契竜は姉上、天伐怜によって殺された」

 

「ほう、それは」

 

 俺の言葉に、コカビエルは顎をさすり思案顔になり。

 

「つまらん」

 

 そう、零した。

 

「あれほどの父を殺すとは、貴様の姉はとんだ愚者か、それとも強者か。貴様、名は」

 

「天伐、咲」

 

「では咲、本気を出せ」

 

 本気、だと。

 まさか、父上ばアレ゙をも使ったというのか。

 

「龍人化、できるのだろう?」

 

 眼を見開くほど驚愕を隠しきれなかった。

 その事を知って、生き延びた者などいない筈なのに。

 

「龍人化だと!? 天伐、まさかお前達は」

 

 ゼノヴィアの推測はおそらく正しいだろう。

 悪魔、龍。聖職者たちにとって悪魔を知る事は必須であり、悪魔72柱の全てを知っておくことは当然だった。いや、裏の世界に関わる異形らにとってはそれくらい食を行うほどに普通なのだ。

 龍人化と言う単語は、すぐ俺が悪魔、ヴォラクと契約している事がばれる要素。人間と契約し、天使や堕天使を殺している事を、悪魔の上層部、バアル家や四大魔王にばれる事は避けたいグヴァラギリス様からすれば、龍人化と成った俺を視た者はなるべく殺し、尚且つ使用を最小限に抑えたい。

 

「安心しろ。俺はそこの女以外に今まで漏らしたことは無い。当然、後でその女も殺しておこう」

 

 漏らしたことがない? 何を考えているんだ、コカビエルが神の子を見張る者(グレゴリ)に報告してしまえさえすれば、奴が望む戦争が起こる可能性も高くなるというのに。

 ゼノヴィアは、その言葉に恐怖し足を震わせている。俺と同じ様に対面してから知ったのだろう、明確な殺意を向けられてから、自分がコカビエルを倒そうなどと言うのは妄言だったということに。彼女はこう考えたはずだ、神は何故こうも理不尽(みこと)を自分に与えるのだろうか……と。この堕天使に、私が勝てるはずもない。神は私に、死ねと言うのか。そう嘆いている筈である。

 

 ゼノヴィア自身、自分の変化に気味の悪さを感じていた。この男、天伐咲と出会う前の自分であれば、妄信的にもっと単純にコカビエルへと切先を向けて、斬りかかっていた事だろう。それが何故だ、何故こうも――――神への欺瞞を疑うのだ。

 

「その必要はない。それは俺の仕事だ」

 

 考えるな、考える必要はない。

 

 それ(龍人化)を知られてしまえば、殺すのみ。天伐邪鬼教典に従い、やるべき事を遂行するまでである。ただただ、堕ちた天使を。美しき白鳥の仮面をかぶった醜悪な化け物からも堕ちに堕ちた堕天使を、殺すのみ。

 

「天伐一族第12代目執行者、天伐咲」

 

 太刀を下に向け、天伐流刀剣術゙抜衝(バッショウ)゙の構えを取る。

 抜衝は、所謂抜刀術の類に位置する神速の太刀。重く右足を前に踏みしめ、飛ぶコカビエルに向かって左半身を捻り回転を加えつつ跳躍する。おおよそ二回転半の回転時に太刀を抜き、加点力の加わった神速且つ高威力の抜刀を繰り出すという力技だ。

 その構えを、敵対行為と当然の如く取ったコカビエルは名乗った俺に対して同じく名乗りを上げる。

 

神の子を見張る者(グレゴリ)、幹部をやっている。コカビエル」

 

「参るッ!」

 

 跳躍。大きく弧を描く様に上へと駆ける、狙うは五対ある黒翼。翼を斬り飛ばし、奴をこのコンクリートの地へと叩き落す。飛ぶ敵というものほど面倒くさい敵はいない。とにかく同じ土俵に引き擦り込まねば。

 

「フハハハハハハハハハハッッ!! 始まったァ、始まったぞッ!!」

 

「シィッ!!」

 

 斬るッ!

 

 左回転力を加えた乾坤一擲の抜刀は、狙い通り翼を――斬らなかった。

 

「なっ!?」

 

「その技は何度も視た。貴様等天伐の一族を何代も相手にしてきたのだ、それくらい既に見切っているッ!」

 

「ぐッ」

 

 コカビエルの拳が、俺のローブを渦を巻く様にうねらせながら吸い込まれるように腹部へと放たれる。

 

 危険だ、これを喰らえば死ぬ。

 圧倒的な死の恐怖が、無意識に俺をその拳から無理矢理に避けさせた。

 

 マイナスの意味で無心になっている。

 よく考えれば分かる事だった。天伐一族を何代も相手にして、生き延びた奴は当然当方の手の内を熟知しているという事。抜衝の極意が、不可視(・・・)の抜刀(・・・)である(・・・)ということを知っていても不思議ではないのだ。

 

 左回転を加えることにより、抜刀する場合のタイミングは敵には見定められない。上手く太刀が使用者の身体に隠れるようにこの技は作られている。それこそが、天伐流刀剣術において必至の極意であるというのに、それが全ての技において通用しないというのは。

 

「チィッ」

 

 無理だ、勝てる手が考えられない。

 考えても考えても、何も思いつかない。頭が考える事を拒否しているのだ、怯えて。

 

 奇跡にも近い回避から、再び俺はビルの屋上へと引き戻される。まるで、同じ土俵に立つのはまだ早いと今この時が言っているかのように。

 

「龍人化を使え」

 

「っ」

 

 そうだ、それがある。まだ、それがある。

 

 コカビエルの言葉は、純粋に俺の全てを出し尽くした所で深淵の奥底へと叩き落したい。そんな戦闘欲求に満ちている。

 

 龍人化。

 ヴォラク家との悪魔契約により、魔力を持たざる天伐が超常の力を、人外の力を手に入れるために編み出された秘匿された高度魔術。

 

 ヴォラク家というのは、実は三竦みの大戦で悪魔側で最も功績を出した悪魔の一柱だ。彼等の戦績の大半を占める天使と堕天使の゙女゙は今もヴォラクの屋敷にて囚われ、下人と化しているが故に僕とした女達はヴォラクの討伐数に数えられないのだ。

 グヴァラギリス・ヴォラクの悦楽は、天使や堕天使の凌辱である。神の使徒とは名ばかりの鳥共を屈服させる。その快感を何よりも好む大総統、それが龍総統ヴォラクなのだ。

 

「ラディア」

 

「何時でも行けるわ」

 

 ラディアの同意も得た。

 後は、文句を唱えるだけだ。あの身の毛もよだつ、悪の句を。

 

 今宵、淫らな宴が始まる。

 

 

 

 

 

 In the name of Volac ,

《ヴォラクの名において》

 

 

 

 and attempt to satisfy the greed

《欲を満たさんがため》

 

 

 

 

 And the dragon blood angels

《天の使いには竜の血を》

 

 

 

 

 The cloudy solution to the daemon

《悪の邪鬼には白濁液を》

 

 

 

 

 I, evil Apostle

《我、邪悪の使徒》

 

 

 

 

「「悪魔契約(カース)執行(テスタメント)」」

 

 

 

 

 

 ラディアが俺に取り込まれる様に重なり、彼女の臓と俺の臓が合わさり合う。ラディアの生きてきた記憶が、俺の脳に流れ込み一体化される。腕や足部には堅甲な鎧が生まれ、舌は蛇の様に長くなる。爪は鋭く尖り、尾骶骨からは不気味な尾が伸びる。そして、蒼い魔力塊による龍翼が気味の悪い、なにかを引き裂く様な音をたてながら生える。最後に、顔面装甲がしっかりと顔を覆った。

 

龍人化(ドラゴ・ブレイク)ッ!!」

 

《ドラゴ・ブレイク!!》

 

 竜の力の渦が、空の雲をも巻き込み蒼く光った。




龍人化は、神器の禁手の様な感じです。覇龍?みたいなものがあるのかは私も知りませんが←、龍人化は契約竜によって変わるということだけ言っておきまする。
ラディア時の鎧はモンハンのリオソウルシリーズ一式を思い浮かべています。
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