容赦のない飯テロに晒されつつもダイエットがんばるデリシャスパーティ♡プリキュア   作:爆散マッスル☆叡智

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ダイエット1日目 【前半】

 

 

 

 皆さんようこそ! いらっしゃいませっ!

 

 ここは“オイシーナタウン”。食べ物屋さんがい~っぱいあって、世界中の色んな美味しい料理が味わえる、とっても素敵な街♪

 美味しい料理を作る人も、食べたい人も、みんなが集まって、毎日とっても賑わっています♪

 

 

 ちなみに厚労省調べ、2010年【都道府県別の肥満率ランキング】

 その第一位は沖縄県でして、たとえば男性の肥満率は、脅威の45.2%だそうですが……。

 しかしながら、ここオイシーナタウンにおける肥満率は、それを()()()()()()()()()()

 

 これはもう、「おいしいのが悪い」

 こんなにも素晴らしい料理に囲まれてたら、多少太ってしまうのも無理はありません。ついパクパク食べちゃうのは、人の業という物。

 むしろ住民たちは皆、「おいしいから大丈夫だよ」とワケの分からないことを言いながら、日々だれに憚ることなく、暴飲暴食を繰り返しております。ドカ食い気絶部です。

 

 たしかに私は太っているかもしれないが、それはオイシーナタウンの皆がそうじゃないか。むしろアイツらに比べたら、私はマシな方だ――――

 そう言い張り、コンビニで買ってきたコーラを飲みながら、ポテチをバリバリ貪ります。

 

 いやいや! よく考えて?

 ポテトって“野菜”だし! お砂糖だって“植物”だし! ヘルシーじゃん!

 熱湯消毒みたいな言葉もあるし、きっと高温の油で揚げたら、カロリーだって消滅する。だからこれはゼロカロリーだ。

 

 加えて、確かに袋の裏の栄養成分表には、kcalらしき数字が表記されているようだが……、でもこれはきっと“袋のカロリー”なんだ。

 ポテト自体にではなく、袋に書いてあるんだから。これ袋を食べた場合のカロリーでしょ?

 ゆえに、中のポテトだけ頂いていれば、私は永遠に太ることは無い。いくら食べても大丈夫のハズだ! 間 違 い な い 。

 

 そう屁理屈をこね、そこはかとなく自分を誤魔化しつつ、オイシーナタウンの住民たちは幸せに暮らしているのでした。

 美味しいごはんに比べたら、現実なんてクソクラエです! そんなの見たくないのよっ!

 ちょっとくらいお腹ポッコリしても、別に死ぬワケじゃないし? つか、こーいう体型が良いって言う人もいるし? との事。

 

 

「ゆいちゃん、ドライブシュートよッ!」

 

「よ~し、まっかせてぇ~!」

 

 まぁ、そんな事は置いといて、この子は和実(なごみ)ゆいちゃん。我らがプリキュアのヒロイン。

 今日はサッカー部の助っ人に来ています♪

 

「とりゃー!!」

 

 強引なドリブルで中央を突破し、華麗なヒールリフトで敵DFを抜き去る。

 そこからゆいちゃんが放つ、必殺のドライブシュートが、何人もの敵DFやキーパーを木の葉のように吹き飛ばしてから、ドッカーンとゴールネットを突き破ります。

 そんな「ちょっとアレ見な、エースが通る」とばかりの活躍で、瞬く間にゴールを奪っちゃいました。すごい!

 

「アイツよ! しん中の助っ人ッ……!*1

 アイツが全部ひっくり返しちゃうッ!!」

 

「何なんのよ、あの子は!

 こんなの一体どうしたら……!?」

 

「わー! こっちに来たぁー!!

 誰か援護してぇー! うわぁ~~ッ!!」

 

 相手チームは困惑。これまでずっと優勢に試合を進め、「ふふん♪」と余裕綽綽で勝利を確信していたというのに。

 でもゆいちゃんがコートに入った途端、しん中イレブンが別物のように躍動。とつぜん兎が虎に変ったかような、恐ろしい感覚を味わいました。

 

「じょ、冗談じゃ……!?」ボカーン

 

「アレがMFの動き?! ……じゃ、じゃあ私は何だ!?」ドゴーン

 

「ちくしょー! 何が()()()()()()よ! 話が違うじゃないのさーっ!」

 

「あの子はバケモノなの……!?

 誰なのよアイツ! アリエナーイ!」

 

「容赦ない……。

 全てを焼き尽くすつもり……?」

 

「悪魔だぁ……」

 

 全力で走る。もうなりふり構わず、4人も5人も使ってマークします。

 けれど、ゆいちゃんは止まらない。止められない。瞬く間に自分達を抜き去り、一直線にゴールへと駆けて行くのです。

 先ほどまでとは違い、息を吹き返したようにキラッキラの笑顔となった、仲間達と共に。

 

「悪魔? そんな生易しい物じゃないって……」

 

 ボソリと、また相手チームの誰かの呟き。

 

 

「ああいうのはね? “鬼神(プリキュア)”って言うのよ――――」

 

 

 

 ……

 …………

 ……………………

 

 

 

 そして、このゆいちゃんの素晴らしい雄姿を、あたかも巨人の星におけるお姉ちゃんの如く、物影からこっそり見つめる女の子がひとり。

 

「はぅ~☆ かっこいいですぅ」

 

 おめめを星の形にして、パタパタと手作りの旗(お子様ランチに付いているようなヤツ)を控えめに振っているのは、細井さやかちゃん。

 電信柱からヒョコッと顔だけを出し、モジモジと身をくねらせています。

 その動きに合わせて、彼女のトレードマークであるポニテがフリフリと揺れていて、まるでこの子のワクワクした気持ちを表しているかのよう。

 

「ゆいちゃん素敵ですぅ。

 どーやったら、あんな風になれるのかな? 憧れますぅ」

 

 ぽけ~☆ っと放心しながら、今もコートで大暴れしているゆいちゃんを見守る。

 ウチもあんな風に、5人も6人も纏めてぶっ飛ばしてみたいですぅ、殺人的なシュートを打ってみたいですぅと、なにやらズレた感想を抱いてはいるようですが……彼女の憧れは本物。

 もう春休みだし、これからは離れ離れになってしまうかもしれないけれど、1年間同じクラスだったゆいちゃんの事が、だいすきなのでした。

 

 別にサッカー部じゃないのに、しかもゆいちゃんとは()()()()()()()()()()()()()()()、こうしてサッカーの試合をわざわざ応援しに来ちゃうくらいに。

 さやかちゃんはシャイで引っ込み思案なので、ひとり電信柱の影から観戦するのが精一杯だけれど……それでもゆいちゃんを応援したいと、会場に足を運んだのでした。

 

 余談ですが、この子が横断幕とかパネルとかではなく、小さな小さな旗を使っているのは、「極力目立ちたくないから」です。

 応援だというのに、誰にも気付かれないようにコソコソ。ただそっと見守ってる感じ。もちろんその存在は、ゆいちゃんにも気付かれていませんでした。

 

「でも無理かなぁ?

 ウチはダメな子だし、ゆいちゃんみたくキラキラできないよね……」

 

 ふいに、さやかちゃんがしょぼーん。

 まるで太陽みたいに輝いているゆいちゃんと、応援席にも行けない恥ずかしがりやな自分を比べ、少し暗い気持ちになります。

 

 お勉強は得意。料理や家事も上手。とても頑張り屋さんだし、運動だって苦手ではないハズなのですが……。

 でもさやかちゃんの性格というか、生来の“自信の無さ”が原因なのかもしれません。

 

 彼女はどんな時も、決して自分から前に出ようとはせず、いつもキラキラしている他の誰かを応援したり、遠くからひっそりと見つめるばかり。

 大事なチャームポイントではあるけれど、その左目を覆い隠している長い前髪も、恥ずかしがり屋さんな所が表れているように思えます。

 

 なんにもダメな子なんかじゃないし、とってもキュートなのに……、さやかちゃんは自分に自信が持てないでいるのでした。

 

「けど、良いんですぅ。

 がんばってゆいちゃんを応援しますぅ♪」

 

 見てるだけで満足。それだけで幸せ。

 確かに自分とは違うかもしれないけれど、この“憧れ”は本物。

 ゆいちゃんを応援したい、好きだっていうこの気持ちは、さやかちゃんにとっての宝物。とても大切な物です。

 

「あ、あのあのっ! これさっき、そこで拾ったんですぅ!

 いや……、それだと衛生的に拙い気がしますのでぇ! なんかテカテカした不思議なオッサンに渡されたという事で、どうかひとつぅー!」 

 

 やがて、最後まで試合を観終わったさやかちゃんが、清水の舞台から飛び降りる位の気持ちで、テテテと観戦席の方へ。

 サッカー部の子達に「これみんなで食べて下さぁい! なにとぞぉー!」と、大きなランチバスケットを手渡します。

 

 朝から早起きして作った、沢山の美味しそうなおにぎり。そして唐揚げやハンバーグといった、みんなの大好きな物をいっぱい詰め込んだ、素敵なお弁当。

 けれど、せっかく心を込めて作ったそれを、さやかちゃんは噛みっ噛みになりながら慌てて渡すと、すぐにピューッ! とその場から走り去ってしまうのでした。

 

 

 

 これはさやかちゃんが、ゆいちゃんとお友達になる前の事。

 

 そして今日みなさんにお話するのは、光の戦士プリキュアとして目覚めるキッカケとなった、ある日の出来事です♪

 

 

 

 

 

 

 

 

コーラだいすき☆

ゼロカロリーとか犬が食え!

 

 

 

 

 

 

 

「えあー!」

 

 そんな気の抜けた声と共に、そこら中に硬い破片が飛び散ります。

 今さやかちゃんが、10枚も積み上がった瓦を、()()()()()()()()()()

 

 リンボーダンスのように、大きく後ろに仰け反った次の瞬間、ペコッとおじぎをする要領で、頭を振り下ろす。

 勢いよく叩きつけられたおでこが、この子の見た目からは想像出来ないような破壊力を以って、硬い硬い10枚の瓦を一息に粉砕。〈バッキャー!〉と凄まじい音を立てて爆散。

 ちょうどこの場に通りかかった、散歩中の小さなワンちゃんが、おどろいて「びくぅ!」と飛び跳ねました。

 

「うう……痛いですぅ」

 

 それを余所に、ひとり公園の片隅で、おでこを押さえるさやかちゃん。

 やってはみたものの、瓦割りというのは、思ってた5倍くらい痛かったようで、ウルウルと涙目になっている様子。

 アルマジロみたいに小さく丸まって、地面にしゃがみ込んでしまいました。

 

「意外といけた……。

 でも頭がガンガンするぅ。二度とやりたくないですぅ」

 

 無駄に思い切りが良く、案外アグレッシブな性格が功を奏したのでしょう。瓦は木っ端微塵。

 けれど、もし割るのに失敗していたのなら、きっと“痛い”くらいでは済まなかった事でしょう。非常に危ない所でした。

 

 というか、この子は公園で何をしとんねん――――そう私は問いたい。

 これは決して、この春から中学二年生になろうという少女がする事ではありません。

 別にさやかちゃんは、武道家じゃないですし。頭突きでおでこを鍛える必要なんて、全く無いですし。何故わざわざ瓦をと。

 

「あれぇ、おねぇちゃーん。な~に砂袋にスネを打ち付けてんのぉ?」

 

「粉々になったビール瓶がたくさん。何があったの?」

 

 やがて、さやかちゃんが謎の鍛錬に励んでいると、幼い女の子が二人、トテトテとこちらへ駆け寄って来ました。

 

「ごすん! ごすん! って音が響いてたよぉ~。

 フシンシャだーって、ツーホーされちゃうってばぁ~」

 

「手刀でビール瓶を斬れても、なにも良いことはない。

 さぁ、こっちに来て? いっしょにブランコにのろう」

 

「面目ないですぅ」

 

 この子達は、“ぴりかちゃん”と“つなぐちゃん”。5才の女の子です。

 さやかちゃんにとっては、年の離れた妹で、しかも双子だったりします。

 ぴりかちゃんは、いわゆるメスガキちっくな感じの、おしゃまさん。片やつなぐちゃんは、純朴で落ち着いた雰囲気の、愛らしい子。

 双子という事で、顔はそっくりなのですが、その服装や口調は対照的。全く違った魅力を持つ子達でした。

 

 ちっちゃな二人にグイグイと引っ張られ、さやかちゃんが鍛錬場(?)から連行されていきます。

 お姉ちゃんだというのに、威厳もへったくれもありません。この子達の付き添いで公園に来たハズなのですが、逆にお世話されてる感じでした。

 

「つか、あーしがジャングルジムのぼるの、見ててって言ったじゃーん!

 カッコいいとこ見せようと思ったのにぃ! このざこおねぇちゃんっ!」

 

「砂場でお城つくった。見てほしい。

 いつか壊れてしまうのが惜しい、ショギョウムジョウのことわりを感じさせる出来栄え」

 

 キャッキャ☆ きゃっきゃ☆

 なんかこの子達の周りだけ、キラキラ星が散っています。明らかに周りとは、場の空気が違うというか。とても華やかに見える。

 シャイで、小声で、引っ込み思案なお姉ちゃんなのですが、二人はそんな事も構わず、さやかちゃんにじゃれつく。まるで子犬の飼い主さんみたいになっています。

 

 ぷんぷん☆ と怒りながら手を引いたり、腰に抱き着いてグリグリ顔をうずめたり。

 この子達が本当にさやかちゃんに懐いているのが、よく分かる光景。

 

「でもおねぇちゃん、なんであんな事してるのぉ~?

 瓦割ったり、スネをきたえたりしても、痛いだけじゃーん」

 

「おねぇちゃん、いつも傷だらけ。打ち身とかいっぱい。

 しかも、ぜんぶ自分でやった」

 

 先ほどもあった通り、さやかちゃんは別に格闘技をやってるワケじゃありません。

 ただただ自主的に、こうしてたまに公園に来て、ヨクワカラナイ鍛錬を繰り返しているのです。

 ジャッキーチェンとか、少林寺なんたら拳とかの、昔のアクション映画を観ては、そこでやってたヤツを片っ端から実践している感じ。

 

 この前なんかは、歩道橋の上からダイブして、通行中の軽トラに飛び乗ろうとしていた所を、ぴりかちゃん&つなぐちゃんに止められていました。

 忍者を目指しているワケでもあるまいし、なにがおねぇちゃんをそうさせるのよと。

 

「う~ん、分かりませぇん……。

 得も知れぬ謎の衝動に、突き動かされるまま、身体を鍛えてますぅ」

 

「それビョーキだよ、おねぇちゃん」

 

「診てもらお?」

 

 ガイアがウチに、もっと輝けと囁いている――――

 そう濡れたタオルでおでこを冷やしながら、おめめをグルグル。

 

 ロッキーを観て胸が熱くなり、意味もなく外へ走りに行く。そしてラストは階段を駆け上がってエイドリアーン!

 これは男の子ならば誰もが経験する“あるある”ですが、同時にさやかちゃんという女の子の日常だったりします。

 

 弱い自分を変えたい、強くなりたい……。きっとそういった想いが、根底にあるのでしょう。

 けれど、もう長いことコレをやっているさやかちゃんは、既に自分が何故こんな事をしてるのか、()()()()()()()()()()()

 

 水の入った瓶を持って、指を鍛えたり。藁を巻いた板を殴って、拳を鍛えたり。

 キャンプ道具一式が入ったリュックサックを担ぎ、ひとり無駄に山籠もりをしに行ったり。

 

 いったいそんな事をして、何の意味があるのだろう?

 さやかちゃんは、それに答える事が出来ずにいます。努力の方向オンチなのでした。

 

 強くなりたいのなら、柔道でも空手でもやれば良いし、部活だって色々あるのですから、身体を鍛えるのには事欠かないでしょう。

 でも引っ込み思案なこの子は、どこかの輪に入るのを苦手としている所があり、極力ひとりでやれる運動を~と考えているのかも?

 中学生になった時は、ウンウンと悩んだものですが、結局どこの部へも所属する事はありませんでした。「こわいですぅ」と言って。

 

 まぁ私からしたら、「こんな人目につかない所で、黙々とひとりで狂気の鍛錬をしてる、君の方が怖いわ」って感じなのですが……。

 もう良いから、さっさとプリキュアになっちゃえ!(ネタばれ)

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ふぅ、生き返りますぅ」

 

 そんなこんなで、ぴりかちゃん&つなぐちゃんに、甲斐甲斐しくアイシングなどのお世話をされた後。

 のんびりとベンチに座り、妹たちが遊具で遊ぶのを見守りつつ、コーラをクピクピ飲むさやかちゃんの姿がありました。

 

「おいしいですぅ。

 やっぱりコーラは、オリジナルに限りますぅ」

 

 クルミを齧るリスのように、両手で大事そうに握り、美味しそうに喉を潤す。その表情は、まさに幸せそのもの。

 前にピザが好物なのはお話しましたが、さやかちゃんはそれと同じくらい、コーラが大好き。

 これは炭酸なので、少しおかしいかもしれませんが、運動をした後の水分補給は、いつもコーラなのでした。

 

「たまに特ホとかの、ゼロカロリーのコーラをお見かけしますがぁ……。

 あんなの変ですぅ。おいしくないですぅ」

 

 別に直接言ったりはしないけど、「飲んでいる人の気が知れない」

 コーラを飲もうという人間が、カロリーを気にするだなんて!(迫真)

 さやかちゃんから見たら、「そんなの変だよ」としか思えないのです。別にいいじゃないか、美味しいんだから、と。

 

 コーラを飲むのに、カロリーとか健康とか、そんなの気にしてたらダメ。

 オリジナルの方が美味しいのだから、断然そっちを飲むべきだ。いったい何を迷うことがあるんだろう?

 そうさやかちゃんは、不思議に思っています。むしろ「なんであんな物があるんだろう?」って。需要なんてあるのかなって。

 

 この子はとても若くて、バリバリの成長期。日々運動もしています。

 だから、言ってしまえば「何をどう食べても太らない」

 むしろ、太り方を教えて欲しいってくらいでした。

 

 せっかくオイシーナタウンに住んでいるのだから、思う存分、食事を楽しむべき。

 ピザをお腹いっぱい食べても、どれだけおやつを食べても、1.5リットルのコーラを常飲してても、ウチは大丈夫。

 自分が太る姿なんて、ぜんぜん想像できない――――

 

 少なくとも、今のさやかちゃん自身は、そう考えていました。

 

「あ、でも好きな人もいるんだよね?

 なら悪く言ったらダメですぅ。反省しなきゃ」

 

 たとえ自分とは違っても、人の趣味や趣向を、軽々しく否定してはいけません。

 そうお母さんが言っていた事を思い出し、さやかちゃんは心の中で“ごめんなさい”します。

 そして、飲み終わったビンの蓋をキュッと締め、ちゃんとゴミ箱に入れてから、改めて遊具の方を眺める。

 今も楽しそうに、はしゃいでいる妹達を、優しい顔で見守るのでした。

 

 

 

『――――わぁーっ! 助けてミルぅーっ!!』

 

 けれど、突然。

 

『オッサンがぁー! オッサンがピンチだミルー!!』

 

 なにやらとても愛らしい、でもすごく切迫した声。

 

「えっ」

 

 この場に轟くほどの、大きな叫び声でした。

 それにさやかちゃんは硬直。ギュッと胸元で両手を握り、縮こまってしまいます。

 

『誰かぁーっ! オッサンがエライ事にぃー!!

 このままじゃ大変ミルぅーっ!!』

 

 けれど、止むことのない声に、思わずさやかちゃんは走り出します。

 よく分からないし、おめめはまん丸になっているけど、()()()()()()

 その“助けて”という言葉を耳にした途端、頭を真っ白にしたまま、声のする方へと駆け出しました。

 

『わぁー! オッサンがー! オッサンがー!』

 

 公園を出て、横断歩道を渡り、右に曲がる。

 通行人をすり抜け、自転車を躱し、ひたすら走る。

 

『はやくきてー! はやくきてー! オッサンがーっ!!』

 

 どうでもいいけど、オッサンオッサンうるさい(怒)

 ちょっとそう思わなくもないですが、さやかちゃんは気にせず足を動かします。

 普段のこの子からは想像できないくらい、物凄い速さでピュー! っと走ります。

 

『オッサンの墓場ミル! オッサンのハンバーガー・ヒル!

 まさか、これほどの数のオッサンが、同時多発的に、目も当てられない事になるとは!』

 

『おお神よ! オッサンを救いたまえ!

 オッサンが何をしたと言うミル! オッサンにお慈悲を!』

 

『いま現場では、オッサンの、オッサンによる、オッサンであるが為に起こったであろう、地獄絵図が繰り広げられておりますミル! メイディ! メイディ!』

 

『たすけてほしいミル! 君に人の心があるのなら!

 オッサンを哀れと思うのなら!!』

 

 というか、さやかちゃんは頑張っているものの、なんか()()()()()()()()()()()()()

 いったいこの先に、何があんねん。行くの怖いわと。

 

『その十字路を直進! 30メートル先を左折! パン屋さんを目印に走るミル!

 急いでほしいけど、足元には気をつけてネ! 転んじゃ駄目ミル~!』

 

 めっちゃナビしてくれるやん……。と私は思ったのですが、でもさやかちゃんは気付いていない様子。必死すぎて。

 むしろ、そんな元気に叫ぶ暇があるなら、お前がなんとかせぇと言いたい気分なのですが。

 

 そうしている内に、やがてさやかちゃんは、見知らぬ空地に到着。

 ここは、土管とかが積まれている以外は何も無い、ドラえもんでよく見るような広場。

 人気も無いし、あたかも「ここでなら思う存分、暴れられますね」と言わんばかりの場所でした。

 

「……っ! ……っ?!」

 

 広場の中心に立ったさやかちゃんが、もう喋れないくらい息を切らせつつも、キョロキョロと辺りを見渡します。

 誰かが助けを呼んでた、確かにここのハズだ、そう一生懸命に探している。この状況の不自然さなど、少しも気に留めずに。

 なんて純粋で、優しい子なのでしょう……。私は涙が出そうです。

 

「あ……あれれ?」

 

 けれど、いくら探しても、誰も居ない。

 土管の中にいるのかな? と思って覗いてみましたが、そこには真っ暗な空洞があるだけ。

 事故やトラブルどころか、ここには人っ子ひとりおらず、何も無い空間に立ち尽くす羽目になりました。

 

 

『――――よく来てくれた。

 残念だけど、オッサンなど初めから居ないミル』

 

 

 でも、またしても不思議な声が、さやかちゃんの耳に。

 

『まんまと騙されてくれたな。

 君をここへ呼んだのは、このぼくさ』

 

『そうとも知らずに、おめでたい子だ。

 でも安心して? ()()()()()()()()()()

 

 シュッと、まるで閃光みたいに、何かが飛んで来ます。

 それをさやかちゃんは、脊髄反射で躱す。慌てて頭を抱えて、その場に蹲りました。

 

『おっと、外したか。

 流石は伝説の……。言うだけの事はあるミル』

 

 ですが、その閃光めいた物体は、即座に弧を描いて戻り、再びさやかちゃんを襲います。

 

『騙して悪いが、エナジー妖精なんでね。消えてもらうミル』

 

 もうなりふり構わず、バタッと地面に倒れます。

 それによって、なんとか避ける事は出来ましたが、激しい衝撃と痛みに息が詰まり、もう顔を上げる事すら出来ません。

 さやかちゃんは、ただただ地面に倒れ、ギュッと目を瞑って耐えるのみ。

 

 何も分からない。なんでこんな事になったのか。何故こんな目にあってるのか。

 でもこの後、確実に襲い来るであろう痛みと、まっくらな“死”というイメージに、恐怖するしかありませんでした。

 

 

「――――止めなさいミルミル! なにやってるのッ!!」

 

 

 けれど、いきなり誰かがここに現れ、バッと両手を広げて、さやかちゃんの前で立ちふさがります。

 チカチカする目を開き、何とか顔を上げてみると、そこには男の人の大きな背中がありました。

 

「ちっ、邪魔が入ったミル」

 

 さっきまでトンデモナイ速度で空を駆け回っていた物体が、空中で制止。

 それによって、さやかちゃんは、ようやくその姿を見ることが出来ました。

 

 鳥。綺麗な緑色の。

 一瞬インコかと思ったけれど、でも小鳥というには少し大きくて、丸々としたファニーな見た目をしているようです。まるで何かのマスコットみたいな。

 

 けれど、今こちらを攻撃していたのは、間違いなくこの子。

 しかも、鳥なのに喋っていて、会った事すらないウチに敵意を抱いてる。

 その事に、またさやかちゃんの心は、とてつもない恐怖に染まりました。

 

「子供を襲うだなんて、いったい何を考えているのよっ!

 貴方らしくないじゃないのっ!!」

 

 さやかちゃんを守りながらも、必死に訴えかける男の人。

 当然さやかちゃんは知らない人でしたが、綺麗なパープルの髪と、美しい声、そして女の人みたいな上品さを感じました。

 一見して、この町の……いえこの国の人じゃない事が分かります。

 

「マリちゃん、()()()()()()()()()()

 ……ぼくには分かるミル」

 

 こちらとは距離を取りながらも、静かな声でハッキリと告げる。

 “ミルミル”と呼ばれた鳥さんは、どこか悲しそうな目で、さやかちゃんを見つめました。

 

「御免だよ。こんな優しい女の子を、戦わせるなんて……。

 いくら、ぼく達が困ってるからって、巻き込んじゃいけないミル」

 

 だから、少し怖がらせてやろうと思ったんだけど……、邪魔されちゃったね。

 そうミルミルは瞳を閉じ、バサッと翼を広げて、身を翻します。

 

 

「さやかちゃん、その人に関わっちゃいけないミル。

 そして、もうぼくと会う事はない……。お家に帰りな?」

 

 

 

 

 

 

 

 空へと飛び去って行く、緑色の愛らしい鳥。

 

 さやかちゃんが目を見開いて、茫然と佇む中……。

 やがてそれは、夕焼け空に紛れて、見えなくなりました。

 

 

 

 

 

 

 

(後半へつづく♪)

 

 

 

 

*1
私立しんせん中学校。ゆい達の通う学校

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