容赦のない飯テロに晒されつつもダイエットがんばるデリシャスパーティ♡プリキュア 作:爆散マッスル☆叡智
ようこそ、オイシーナタウンへ☆
まずは、この度新しくプリキュアになった“さやかちゃん”から、皆様へのご挨拶♪
「あーん、ぱくっ! …………デリシャスマイルゥ~(死んだ目)」
ハッ! ハッ! ハッ! いくぞ……いくぞ……いくぞぉーッ!
そんな風に気合を入れてはみたものの、ひとくち食べた途端、テンションだだ下がり。
どうやら鳥のえs……いえオートミールは、さやかちゃんの口に合わなかったようです。
まじゅ~い。
「ウチは、細井さやか。
JCとは名ばかりの、下等生物ですぅ」
どこか切なそうな、力のない手つきでお箸を置き、こちらに向き直ります。
元気とか、愛嬌とか、精気とか、そういった物は一切見受けられません。すんごい幸の薄そうな感じ。
「プリキュアになったと思ったら、そんな事はありませんでした……。
蝶からサナギになった気分ですぅ」
あれだけ勇気を出し、「えいやっ!」と業火に飛び込むくらいの覚悟だったというのに。
さやかちゃんのお豆腐みたいなハートに、またひとつドデカイ傷が刻まれた、余寒なお厳しい向春の日の出来事でした。
「全てのお料理を支配しようともくろむ、“怪盗ブンドル団”。
その魔の手から、お料理の妖精“レシピッピ”を守るために、プリキュアは戦うのですぅ。
マリちゃんさんが説明してくれましたぁ」ホッコリ
世界を征服したり、直接何かを破壊するのではなく、「飯をマズくする」
彼らが意図しての事かは分かりませんが、何というか
湾曲的な方法で、人々から活力や文化を奪い、緩やかに衰退させていくという、このやり口。どこぞの宗教を彷彿とさせます。
さやかちゃん的にも、ちっちゃい頃からレシピッピとは仲良し。大切な存在です。
たま~に「この子ついに
後でひとり泣いたりしてません。してないんです。
「ウチ、みんなといっしょに、がんばりますぅ。
我が身を惜しまず、
こんな可愛らしい子がする言葉遣いでは、無いような気がするのですが……。
ともかく、さやかちゃんのドキドキ☆プリキュアライフが、スタートしました。
本日みなさまにお届けするのは、先のブンドル団との戦い(?)の後。
メラメラと決意に燃えている、さやかちゃんの様子です♪
◆ ◆ ◆
「に、人間五十年……」
胸に迫るような、鮮烈な夕日。
それに照らされたさやかちゃんが、パンパンになった買い物袋を両手に、トボトボと帰路を歩いていました。
そのお顔は、愕然。この世の終わりのような表情。
さっき立ち寄ったスーパーでも、品出しをしていた店員さんが、「お嬢ちゃん大丈夫!?」と思わず声をかけちゃった程。
その歩みには力が無く、フラフラと左右に揺れていて、今にも倒れそうな様子です。
「末代までの恥。ウチ恥ずかしいですぅ……」
ガックリと項垂れ「おいは恥ずかしか! 生きておれんばい!」と、武将みたいな事を言い出すさやかちゃん。
お家に泥を塗ってしまいましたぁと、すごくブルーな気持ち。まぁ別に武家出身でも何でも無いんですけど。
今も脳内では、あの時に聞いた〈ビリィィッ!〉という音が、何度も何度もリピートしてます。
女の子の夢とか、希望とか、なけなしの勇気とか……、そーいうのを纏めて一撃の下に粉砕した、まさに悪魔のような音でした。
とっても有難かったのだけど、敵であるハズのジェントルーちゃんに、めっちゃ気を使われてしまった事も、この子のハートを痛く傷付けました。
あー、それほどまでにコレは、拙いヤツなんだな~。ウチは今、一生モノの恥をかいてるんだな~って、否が応にも思い知らされました。
それに、初めて変身したその途端、敵に慈悲をかけられるプリキュアっていうのも、きっと前代未聞だと思いますし。
次からどんな顔して、あの子と戦えばいいのか。さやかちゃんには見当も付きません。
でもジェントルーちゃんに貸して貰ったローブは、後で綺麗に洗って返そうって思います。
ちゃんと「ありがとう」とお礼を言い、手作りのクッキーを添えるつもりです。
かたじけない、かたじけない。ヌクモリティ。
「ただいまですぅ」
ドナドナドーナー、ド~ナ~♪
そんな歌が聞こえてきそうな程ションボリしたお顔で、さやかちゃんはお家の玄関を開けました。
初代プリキュアである“ほのかちゃん”のお家に似た、純和風の広いお屋敷。
ここが、さやかちゃんの生まれ育ったお家になります。
イソイソと靴を脱いたさやかちゃんは、スリッパに履き替え、そのまま自分のお部屋へ。
今日買ってきたZEROカロリーのコーラや、ノンオイルのツナ缶などは、ぜんぶ常温で保存出来るものばかりなので、別に冷やさなくても良いよね~なんて思いながら、階段を上っていきました。
余談ですが、ダイエット中には冷たい飲み物ではなく、出来るだけ常温の物を飲むのが好ましいですよ♪
冷たい物を飲むと、お腹が冷えてしまいますので、胃腸の調子を崩しやすくなったり、体温を戻すために余計なエネルギーを使ってしまったり、それによって食べ物を消化しにくくなったりと、いろいろ困った事になっちゃいますっ。
胃腸や食事というのは、全ての基本となる部分。
こういった小さな事を心がけていくのも、大切になってくるのです♪
そして今後ちょくちょく、こーいうのを入れていく事も、作品テーマ的なアレで大事になってくるのでした。
「あれ、賑やかな雰囲気ですぅ」
やがて、重い足取りで二階の廊下に差し掛かったさやかちゃんは、なにやら自分のお部屋から、キャッキャと声がしている事に気が付きます。
これは、妹達でしょうか? ぴりかちゃんとつなぐちゃんが、中で楽しそうにはしゃいでいる様子。
「何してるのかな? たのしい予感ですぅ」
ふたりがお姉ちゃんの部屋を遊び場にするのは、珍しい事ではありません。
なのでさやかちゃんは、特に何も気にせず、「仲間に入れてもらおっかな~」という感じで、そちらに向かいました。
あと、いま両手に持っている袋の中身や、これから自分がダイエットをするという事を、二人にも説明しなきゃいけません。
キッパリと身内に「がんばりますぅ!」と宣言する事で、自らの退路を断ったり、応援や協力をしてもらえるでしょう。
先ほどまでは競馬場のオッサンみたいに濁った目でしたが、次第に心がワクワクしてきます。
なんせ、これはさやかちゃんにとって、乾坤一擲*2の一大決心。
お姉ちゃんのカッコいい所を見せつけ、威厳を示さなきゃ。さぁどんな風に説明しよっかな?
そうさやかちゃんは「ふんす!」と胸を張り、ニコニコしながら扉を開けました。
「わー! かーわーいーい~☆ この子ちょープリチーじゃ~ん!」
「鳥さんのごはん、買ってきたよ。
ほら、こっちおいで」
「ピーチュキチュキ(セキセイインコ的な鳴き声)」
けれど、妹たちと戯れる
「わぁ! おねぇちゃんが鳥を引っ掴んだー!?」
「両手でわしっ! と掴んだー!?」
突然この場に駆け込んで来ては、瞬く間に鳥さんを強奪。
普段のさやかちゃんらしからぬ、電光石火。
「タタタッと助走をつけてぇ~? そのままぁ~? 叩きつけたぁぁぁーーっ!!
床に叩きつけたぁー!?」
「トラーイ! と叫びながら、両手で!
小動物をっ! 愛玩動物をっ! みじんのチュウチョなくっ!」
ドッゴーン! と大きな音が鳴ります。
おもいっきり脳天からいったミルミルが、「ほげっ!?」と鳥らしからぬ声。
カートゥーンのアニメよろしく、身体がグシャッとなってます。潰れた空き缶みたく。
「おねぇちゃんが奇声をあげながら、鳥にクッションを叩きつけてる!?」
「何度も何度も、貝を割る時のラッコのようにっ!
どうしたのおねぇちゃん!?」
ポスン☆ ポスン☆ ポスン☆
その軽快なリズムに混じって、時折ミルミルの「お゛ごっ!」とか「死゛ぬっ!?」という必死な声がしますが、誰も聞いてませんでした。
混乱……いえさやかちゃんは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の鳥を除かねばならぬと、決意したのです。
「天魔覆滅ッ! 天魔覆滅ッ!*3」ポスポス
「やめておねぇちゃん! どーして鳥さんを!?」
「わたし達のともだちがっ! 新しい家族がっ!」
「南無八幡台菩薩! 南無八幡台菩薩!!」ポスポス
「とまっておねぇちゃん! いったい何があったの!?」
「目が血走ってるよ! いつものおねぇちゃんにもどって!」
天狗の皆様! 我に力をッ! とかなんとか言いながら暴れます。
恐らくさやかちゃんは、直感的に「妹たちを守らなきゃ!」と思ったのでしょうが、それにしたって酷い有様。
人間テンパると、こんな風になってしまうのでしょうか。ドタバタと部屋に埃が舞います。
《さやかちゃん……さやかちゃん……聞こえるかい?》
「っ!?」
ぴりかちゃん&つなぐちゃんに、ギューっと腰に抱き着かれながらも、悪霊にでも憑りつかれたかの如く暴れ狂う。
でもふいに、何者かの声が、さやかちゃんに届きます。
《そう……ぼくだ。いま君の脳内に、直接語り掛けているミル……》
――――そんなこと出来るの!? 気持ち悪ッ!?(直球)
ともかく、いま餅つきの
きっと「双子ちゃん達の前で喋るワケにはイカン」という、この子の気遣いなのでしょうね。
すぐ目の前に……というか彼女の手によって命の危機に晒されているというのに、この状況下で、わざわざテレパシー。
信じられないくらい、タンコブいっぱい出来ていますが、それでも敢行します。
流石はプリキュアのサポート役。エナジー妖精の面目躍如といった所でしょうか。
《落ち着くんだ、さやかちゃん……。心を静めるミル……。
ほら、流れている小川のせせらぎを、想像してごらん? いい子だから……》
優しく、子供を安心させてやるように、さやかちゃんの心に語り掛けるミルミル。
《さぁ、ゆっくりと息を吸って、吐いて……ってなんで手を止めないの?
なんでまだ、ぼくを叩き続けるの? し、執拗ッ……!?》
――――でも、やるしかない! ここで殺しておかなきゃ!!
そんな強い意志を持って、さやかちゃんは攻撃を続けました。
じゃないと、ぜったい後悔するという、ある種の確信を以ってポスンポスン☆
《さやかちゃん……君はプリキュア自身の手によって、初日にどつき回されるエナジー妖精の気持ちを、考えた事はあるかい?
そんな女児アニメのマスコットキャラ、一度でも見た事ある……?》
《そりゃあ、ぼくも少し強引だったと思うけれど、これはあんまりだよ……。
もし今死んだら、きっと成仏出来ないミル……。情けな過ぎるよ……》
恐らく、だんだんミルミルの意識が遠くなってきたのでしょう。どんどんテレパシーの声が、弱々しくなっているのが分かります。
《これほどテレパシーを意に介さず、ガンガンしばかれる事って、あるんだね……。
加えて、ぼく一応は小動物ミル……、何か思うところは無いかい……?》
《さやかちゃん、こちらには交渉の用意がある……、話し合いをしたいミル……。
尊い平和のため、人間性のために、どうか
……
…………
……………………
《女の子だって暴れたい……か。
なるほど。骨身に染みたよ、さやかちゃん》
あれから暫くし、ようやくさやかちゃんの憤怒が、落ち着きを見せた頃……。
今このお部屋には「あービックリした~!」みたいな顔で寛ぐ、鳥さんの姿がありました。
丈夫!
《しかしながら、今日はこの辺にしようミル。
君とて、妹ちゃん達を悲しませるのは、本意ではないだろう? ん?》
怖かったねー、と双子ちゃん達にヨシヨシと愛でられ、まるで玉座にでも座っているかのような態度。
ギリリ……と歯ぎしりをするさやかちゃんを前に、ふんぞり返っています。
《ふむ……何故お前がここに居る? と言いたげな顔だね。
当然さ、ぼくは君の相棒。プリキュアのマスコットたるエナジー妖精だミル》
ピーチュキチュキ♪ と白々しく鳴き、双子ちゃん達に愛嬌を振りまく。この子らも大喜びです。
言うなれば、
実は今日、さやかちゃんが買い物に行っている間に、ミルミルはどっかへ消えてしまったのですが、その隙に家に来ていたようです。
わざと見つかるように、ぴりかちゃん&つなぐちゃんの所へ行き、そのまま「かわいー! ねぇママ飼っていいでしょ~?」という流れに持っていく。
有無を言わせず、勝手に家族の一員となる――――
さやかちゃんのエナジー妖精は、恐ろしいほどの
《あぁ、手間を省いてあげたヨ。
ぼくの事をどう話そうか~とか、家族に見られないように~とか、そういうの面倒でしょう? こっちでやっといたミル♪》
《これで何の憂いも無く、ここに住めるネ!
ぼくとさやかちゃんは、ずっ友だょ☆》
いやー、可愛く生まれて良かったわー。人生イージーモードだミル~。
そうピヨピヨと笑いながら、ぴりかちゃんの肩に乗り、つなぐちゃんの手からオヤツを貰う。
ハーレムにおける石油王くらい甘やかされてます。
さっきは思わず暴れてしまったけれど、あまり妹たちの前で、無茶なことは出来ません。
既にこんなにも可愛がられ、名実ともに我が家のペットとなったミルミルを、無理やり追い出したり出来ないのです。
いくらさやかちゃんが「こいつは悪魔ですぅ! 人の生き血をすする鬼ですぅ!」と訴えようとも、聞き入れて貰えるとは到底思えない。
なんせミルミルの見た目は、まごうことなく愛らしい鳥さんですし、むしろさやかちゃんの方が「おねぇちゃん
なんでこんな事になったんだろう? ウチなにか悪い事したのかな?
そうさやかちゃんはウンウン悩みますが、心当たりなどひとつもありません。
ただただ「死神と目が合ってしまった」というか、災厄(鳥)がやってきたとしか……。
プリキュアになるというのは、エナジー妖精に見染められるというのは、こういう事なのかと、さやかちゃんのおめめはグルグル回りました。
「そーいえばぁ~、おねぇちゃんそれ何ぃ~?
なんかいっぱい買ってきてるけどぉ~」
ミルミルを肩に乗せて、チチチと甘やかしながら、ぴりかちゃんが床の一角に置かれた荷物を指さします。
ミルミルの一件のせいで、今まで忘れられていましたが、これは今日さやかちゃんが買い込んで来た物。ZEROカロリーのコーラと、ノンオイルのツナ缶などの食品が、いっぱいに詰まった袋でした。
「おねぇちゃん、この前は『手首を鍛えますぅ』とか言って、どっかから鉄パイプひろってきた。サンドバッグを作りますぅって、土をたくさん運んできたこともある。
こんどは何をはじめる気? しょーじきに話して」
同じくミルミルを愛でながら、つなぐちゃんもこちらを向きます。
静かな目、落ち着いた声で、いつも変なことばかりしているさやかちゃんを問い詰める。
とても出来た妹さんなのでした。
ぴりかちゃん&つなぐちゃんに「じぃ~!」っと見つめられ、さやかちゃんはタジタジ。
別になんにも悪い事はしてないハズなのですが、その圧力の前に慄いています。
ふたりとも、まだ5才の幼い女の子。この春から中学二年生のさやかちゃんとは、頭ふたつ分もみっつ分も、背丈に差があります。
けれど、二人分の圧力といいますか……数の力というのが発生していまして。
この子達は双子。いわば“ふたりでひとつ”的な存在。
メスガキちっくなおしゃまさんと、おちついた雰囲気のしっかり者という、正反対の性格。そしてピンクのキャミソールと、純朴なブルーのブラウスという、服装の違いはあれど、その姿はまるで鏡合わせのよう。
ぴりかちゃんは“星”を象った髪留め、対してつなぐちゃんは“おさかな”を象った髪留めをしていまして、彼女らのサイドテールとおさげも、左右対称の形。
その個性の対比が、お互いの魅力を存分に引き立てていて、強い存在感を放っています。
なので、たとえお姉ちゃんという目上の存在であっても、対等以上に接することが出来ます。その二人分の発言力は、言わずもがなです。
しかもさやかちゃんは、生来シャイで引っ込み思案な子ですし、むしろこの子達が「姉をお世話をしている」というか……。
アドバイスや人生相談などなど、ことある毎に支えて貰っている妹ちゃん達には、さやかちゃんも頭が上がらないのでした。
いたいけな小動物を、クッションでどつき回すという、先ほどの奇行の事もありますし。
「や、痩せますぅ(小声)」
けれど、女は度胸! さやかちゃんの決意は固かったのです。
「――――ダイエットしますぅ! これからがんばりますぅー!!」
「っ!?」
「っ!?」
妹たるこの子達でも、今まで聞いた事がなかった程の、大きな声。
拳をグッと握りしめるさやかちゃんの、高らかな宣言が、細井家に木霊しました。
「ということでぇ! たいへん恐縮ですが、ご協力願いますぅ!
女子力ぅ!!(?)」
両手を高く振り上げ、「ぐわーっ!」と叫びます。
この子がそんな事しても、カワイイだけのような気がするのですが、さやかちゃんは大真面目にやっているです! 女子力ぅ!
「えっ、ちょっとまってよ。ダイエットって?
おねぇちゃん、べつに太ってないじゃんか……」
「チューニクチューゼイ、だよ?
なんにもやせる必要ない……」
おっしゃる通り、さやかちゃんは標準的な体型をしています。
よくピザやコーラという食事をしていたり、ちょっと背が小さかったりはしますけれど、充分に許容範囲内。
健康そのものですし、成長期の真っ最中ですので、何も問題はないハズでした。
「このあいだまで、ブルースリーのマネして、ヌンチャク振り回してたと思ったら……、今度はダイエットぉ~?」
「もうわたし、おねぇちゃんのことが分からないよ……。
何にエイキョーされたの?」
「ペットも来たんだしさぁ~?
そーいうのやめて、しあわせをキョージュしない? せっかくだし」
「そのナゾのキョーハクカンネン、いったん横においとこ?
ほら鳥さんだよ? さわってみなよ、おねぇちゃん。せっかくだし」
「ピーチュキチュキ♪」カモンカモン
二人が“可哀想な人を見る目”で、さやかちゃんを見つめます。
これは決して、幼子が年の離れた姉にするような目ではありません。グサッと心にきます。
けれど、さやかちゃんも退くわけにはいきません。ここはがんばりどころ。
変な意志の固さには定評があるのです! 強い子!
「じょ……女子力ぅ!(二度目)」
「いや、それで押し通そうとしないでよ。ムリムリムリ」
「なっとくのいく理由をのべよ。セツメイセキニン」
でも「下手か!」ってくらい、さやかちゃんは口下手でした。
勢いでいけるかな~と思ったけれど、世の中そんな甘くは無いのでした。
そもそも女子力とか、
頭突きで瓦を10枚割る人が、何を言ってるの?
そう容赦のない指摘に晒され、さやかちゃんの目に、じわっと涙が浮かびました。
「着たい服が……あるんですぅ」
けれど。
「どーしても、着たいんですぅ。
今のままじゃ、ダメなんですぅ……」
さやかちゃんの心から漏れ出した、とても小さな声を聞いた時、二人は静まり返ってしまいまいした。
「矜持がありますぅ。乙女ですぅ。
ウチ自分を、変えたいぃ……」
俯き、手をギュッと握りしめながらの、血を吐くような言葉――――
たどたどしく、とても弱々しいけど、でも自分の気持ちをハッキリと言ってのけました。
プリキュアどうこうとか、レシピッピの事とかは、この子らに話すワケにはいきません。ミルミルの正体だって秘密です。
だからこれは、とても断片的。説明としては足りていないかもしれない。
けれど、その言葉に“真剣さ”がこもっていたから。
いつも自信なさげだったさやかちゃんの、決意に満ちた言霊。そこに万の想いが込められていたからこそ、心に響きました。
ふいに、ぴりかちゃんとつなぐちゃんが、チラッとお互いの顔を見ました。
そしてすぐに「こくり」と頷き合い、お姉ちゃんの方に向き直ります。
まるで、あのたった一言で、全てを察したかのように。
「おねぇちゃーん、お母さんのトコいこっかぁ~」
「わたしたちも、ついてく。
いこ?」
スッと立ち上がり、お姉ちゃんの所へ。
ぴりかちゃんは右手、つなぐちゃんは左手と、二人でさやかちゃんの手を握る。
そして、ニコッと微笑んでくれました。
「ダイエットするんならぁ~、話しておかなきゃでしょ☆
ごはんとか、普通のとは違ってくると思うし♪」
「お母さんのキョーリョクがひつよう。
だいじょうぶ、いっしょに頼んであげる」
三人で手を繋いだまま「テッテケテー♪」と歩き出す。
二人とも、ニコニコと笑顔のままで、優しくさやかちゃんの手を引きます。
先ほどまでの重苦しい空気から一転、とてもあたたかな雰囲気。
それにオロオロと戸惑いつつも、さやかちゃんは妹達にキャッキャと連れられるままに、部屋を出ていきました。
◆ ◆ ◆
「――――おや、何用ですか」
大きな和箪笥や、趣きのある化粧台などが並ぶ、お母さんの部屋。
その純和風で、とても広い一室に、いま三人並んでじっと正座をする、さやかちゃん達の姿があります。
「夕飯には、まだ早い時間でしょう。
出来たら呼びに行かせますから、部屋で待っていなさい。
母は忙しいのです」
ひと目、鉄の女――――
鋭い目と、冷たい声。有無を言わせない雰囲気。
さやかちゃんのお母さんは、いくつもの会社を経営している偉い人であり、まさに“女傑”という言葉が相応しいような、とても強い女性でした。
たくさんの人を従え、堂々とその上に立つ風格。その身体から放たれている威圧感。
だいの大人であっても、彼女の目を直視するのには、多大な精神力と胆力を必要とするのです。
たとえ実の娘であっても、それがまだ幼いさやかちゃんともなれば、言わずもがな。
普段は天真爛漫なぴりかちゃんや、利口で人当たりの良いつなぐちゃんでさえも、彼女の前では借りてきた猫のようにおとなしい。
三人とも、ただじっとその場に座り、お母さんの顔を見つめるので、精一杯でした。
「とはいえ、なにやらただならぬ様子。
わざわざ部屋に来るという事は、何かこの母に、話があるのでしょう?」
腰のあたりまで届くような、艶のある美しい髪が、フワッと揺れる。
それと共に、お母さんが振り向きます。
手にしていた書類を、そっと机に置き、真っすぐ伸びた背筋で、スタスタとこちらへ。
畳に正座している三人を、見下ろすように前に立ちました。
「貴方達の顔を見るのは、一週間ぶりですが……、家の者達から報告は受けています。
ぴりか、テレビCMとドラマへの出演が決まったようですね? よくやりました」
「はい、お母さん」
「そして、つなぐは絵のコンクールで、県知事賞を貰ったとか。
よく頑張りましたね、その調子で励みなさい」
「はい、お母さん」
二人とも、静かな表情で頷く。
そこには子供らしい無邪気さも、親に褒めて貰った喜びもありません。
真面目な顔で、返事をするばかり。
「他には、特に心当たりはありませんね。
三人とも春休みに入り、日々健やかに過ごしている、としか」
さやかちゃんが、人知れず下を向きます。
とても愛らしく、また出来の良い妹達と比べて、自分はなんて駄目なんだろうって、そう思い悩んでいるのが見て取れました。
「ふむ、では話してごらんなさい。
ここまで足を運んできたのです。この母、無碍にはしません」
着物の膝のあたりを押さえながら、スッと上品な所作で、三人の前に座ります。
その鋭い眼光と、耐え難い威圧感に晒されたさやかちゃんは、とてもじゃないけれど顔を上げる事が出来ません。
そして、その様をまったく意に介していないかのように、お母さんはじっとさやかちゃんの方を見つめているようです。
片時も目を逸らすことなく。
「お母さんに、キョーリョクしてほしくて、おねがいに来ました」
「てつだって、お母さん」
けれど、そんなオドオドとしているお姉ちゃんを余所に、ぴりかちゃんとつなぐちゃんが発言。
まだ5才なのに、しっかり正座をして、物怖じすることなく。
その姿は、まるで二人が、さやかちゃんの潰れそうな心を守っているかのよう。
「これからおねぇちゃんは、ダイエットをします。
ごはんとか、運動とか、かぞくみんなのキョウリョクがヒツヨーです」
「太ってないし、ケンコウテキ。でもやってみたいって。
お母さんにも、おうえんしてほしい」
お母さんの強い眼差しが、二人の方へ向きます。
けれど、ぴりかちゃんもつなぐちゃんも、真っすぐにそれを見返します。
自分の気持ちを、しっかり伝えようとするように。
「……さやか、そうなのですか?」
暫しの間を置いて、お母さんの問いかけ。
話を振られたさやかちゃんは、一瞬ビクッと身体を跳ねさせますが、なんとか俯いていた顔を上げて、潤んだ目でお母さんを見ました。
「っ!」
身体がすくみます。今すぐここから逃げ出したい気持ち。
けれど、いま両隣にいる妹達の存在……そのあたたかさが、さやかちゃんを繋ぎ止めます。
「二人はこう言っていますが、どうなのです?
ハッキリとおっしゃい、さやか」
鋭い声。思わず謝ってしまいそう。
でも怖いけど頑張らなきゃ、ちゃんと言わなきゃって、勇気を奮い立たせる事が出来ます。
今ぴりかちゃんとつなぐちゃんが、一緒にいてくれてるから。
「はいぃ……、ダイエットしますぅ。女子力ですぅ……」
締まらない、蚊の鳴くような声。
けれど、ちゃんと言いました。
さやかちゃんは、怖い怖いお母さんに、向き合ってみせたのです。
「……」
その姿を、お母さんはどう思ったのでしょう?
まるで小鹿みたいに震える娘を、無言で見つめています。
暫し、静かな時が流れました。
誰も口を開かず、ただじっと座る。時計の秒針の音だけが響く、重苦しい時間。
「さやか」
ふいに、お母さんが腰を上げました。
突然立ち上がった事にビックリし、さやかちゃんはアワアワと慌てふためきます。
そして、もう泣きそうになりながら、お母さんの顔を見上げました。
「――――え ら い ッ !!!!」\テッテレー/
次の瞬間、天地に轟くほどの、お母さんの声。
「だ、だだだダイエットですって……!?
こんなエライ子は、見た事がありませんッ!! えらいッ!!(迫真)」
即座に駆け寄り、さやかちゃんをギューッ☆
なんかホロホロと涙を流し、おもいっきり抱きしめちゃってます。
「この前ヌンチャクを習得し、蹴りでバットをへし折ることに成功したばかりだというのに!
それにも飽き足らず、今度はダイエット!? まだ自分を磨くですって!?
どんなフロンティアスピリッツ! どれだけ向上心に溢れているのですか!
――――えらいッ!!(三度目)」
おーよしよし、かわいいでちゅね~☆
先ほどのミルミルなんて目じゃない勢いで、デレッデレに甘やかす。
ムツゴロウさんでも、そこまでせんわってくらい、「~♡」とチューの雨を降らせます。
さやかちゃんは成すがまま。「どよーん」と額に影を落として、お母さんに身を任せます。
だって、抵抗しても無駄ですもん。一度こうなったら、
「あぁさやかッ……! 私の可愛い子ッ……!!
ダイエットという苦行に自ら赴く、その気高き姿ッ!! こんなの偉すぎるでしょう?!
ねぇぴりか? つなぐ? 貴方達もそうは思いませんか?!」
「もちろんだよ、お母さん! おねぇちゃんえらいっ☆」
「えらいっ☆」
そして、三方向からギュ~♪ みんなで楽しそうに、さやかちゃんをハグです。
まぁこれも、いつもの光景。お仕事で忙しいお母さんが、家に帰って来る度に繰り返される、さやかちゃんにとっての“公開処刑”みたいなモンです。恥ずかしい恥ずかしい。
「お母さ~ん? この前おねぇちゃん、苦手だったナスビをコクフクしたよぉー!
鼻をつまんで、なむさーん! ってゆって」
「――――まぁなんてエライ! 天下無双ではありませんかッ!!
農家も大喜びですッ!」ギュー
「いつもちゃんと歯をみがいてるし、手洗いウガイもしてる。
きのう私たちにクッキー作ってくれた」
「――――えらい! えら過ぎるッ!!
なんですかさやか……! どーいう事ですかッ……!
もうえらすぎて、母は気絶しそうです! どんだけ最高なんですか私の娘!!」ギュー
わっしょい☆ わっしょい☆ えらい♪ えらい♪
傍で見ているミルミルですらドン引きするくらいの、猫可愛がり。
なんというか、この家族は
もう可愛がりすぎて、さやかちゃん白目剥いちゃってますもの。「こわいですぅ」って。
「よろしいッ! この母が、なんなりと協力しましょうッ!
とりあえず、ライザップを買収しますか?
それとも、オイシーナタウンにゴールドジムをおっ建てますか?(真顔)」
「ヤダーお母さん♪ やーりーすーぎぃ~☆」
「おちついて。また何人もロトウにまよっちゃう。
ゴウワンをハッキしないで」
「「「あははー!」」」
……はい! という事でございまして(司会進行)
無事にお母さんの協力を取り付けた所で、一安心♪
明日から本格的に、さやかちゃんのダイエット生活スタートです。
お母さん&妹達に、前から後ろからギューっとされつつ、さやかちゃんは頭の中で、これからの計画を立てます。
あと、チラッと目を向けてみたら、ミルミルが物凄い生暖かい目で、こちらを見ていましたので、それからプイッと目を逸らしました。
とりあえず、これ早く終わってくれないかなぁ……? なんて思いながら。
(つづく!)