容赦のない飯テロに晒されつつもダイエットがんばるデリシャスパーティ♡プリキュア 作:爆散マッスル☆叡智
「さやかちゃん、何してるミル?」
お母さんも交えた、久々の家族団欒の夕食。
それを終えたさやかちゃんは、いま自室で机と向き合っています。
時刻は8時を少し過ぎたあたり。
ぴりかちゃん&つなぐちゃんは、リビングでTVを観ていますので、ここにはさやかちゃん一人。
プリキュアとして覚醒したり、一生モノのトラウマを負ったりと、なにやら近年稀に見るような激動の一日でしたが……、ここにきてようやくリラックスタイム。
ごはんを食べてお腹も膨れたし、さやかちゃんはとても落ち着いた気分でいました。
まぁ、たった今、その幸せな時間も終わりを告げたのですが……。可愛いけどなんかアレな相棒に、声をかけられちゃった事によって。
「この部屋は、だいたい探索し終わったミル。
本棚とか、照明の上とか、いろいろ別荘に出来そうな所も見つけたし!
さぁ、おまたせしたね♪ ほく手が空いたよ? 存分に愛でて良いよ?(はぁと)」
あ、こんど布切れとか、古新聞とかでも良いから、用意して貰えるかな?
鳥たるもの、色んな所に巣作りをするのは、義務みたいなもんだミル。
そう好き勝手にさやかちゃんの部屋を荒し回った後で、好き勝手なことを言います。
まことに遺憾ながら、この子も今後ここで暮らす事になったのだから、ある程度は自由にしてもらってもいいのだけれど……。
でも「めっちゃグイグイ来よんなぁこの鳥」とさやかちゃんは思いました。
ミルミルがバリバリに喋れる(意思疎通が出来る)こともあり、普通のペットを飼うのとは、ぜんぜん違います。
なんというか……存在感がものすごく大きいのです。小動物というよりも、同居人が出来たような感覚。
そりゃあさやかちゃんだって、ペットを飼うことに憧れが無かったワケじゃないですけど。
でもいくら可愛くたって、こんな一歩退けば十歩踏み込んでくるヤクザみたいな鳥さんは、正直どうかと思ってしまいます。
既にプリキュアとなり、マリちゃんから戦いの意義や使命の説明を受けた以上、嫌だとか止めたいとかいった気持ちは、少しもありませんが……、でももうちょっと何とかならなかったのかな~って。この鳥さん「チェンジ!」って出来ないのかな~と。
まぁさやかちゃんも、すでに9割方は諦めているのですが。
ここまでお膳立てをされ、外堀どころか本丸に踏み入られてしまった今、すべては後の祭りなのでした。
「せめてミルミル氏が、cv茶風林じゃなければ……」
「ん、なにか言ったかい、さやかちゃん?(野太い声)」
たまに洋画やアニメなどを観ていると、地の声と歌声とで、担当の声優さんが違う場合がありますが……。ミルミルの場合は地声がとっても野太くて、ピーチュキチュキ的な声を出す時にだけ、まるで天使のように可愛くなります。
妹達が聴くのは、天使ボイスの方だけでしょうけど、さやかちゃんはいつも【永沢君の時の茶風林ボイス】を聴かされますので、生理的な忌避感を感じるのです。
ミルミルの無駄に愛らしい容姿との対比がすんごい。
「おや、これは何ミル? お勉強かな」
「いえ、計画を練ってますぅ。
どんな風にダイエットしようか~って」
さやかちゃんの肩に乗ったミルミルが、一緒にノートを覗き込みます。
そこには、思いつく限り羅列された“○○ダイエット”という言葉や、食べて良いモノ悪いモノの一覧などが、丸っこい文字で書かれていました。
ちなみにですが、宿題はもう終わらせてあったり。
やるべきことを先に済ませてから、心おきなくウンウン悩もうという作戦です。
さやかちゃんえらいっ♪
「うーん、随分こじんまりしてるミル。文字ちっさ!?
ここら辺にも、さやかちゃんの人柄が……」
「言わないで欲しいですぅ」
きっと、目が悪い人にはとても読めないってくらい。
文章の書き方自体は、とても綺麗に纏まっているのですが、如何せん文字はちんまい。
あたかも、文字のひとつひとつが「ぼくみたいなモンが、スペースを取るわけには……」と遠慮しているかのよう。さかやちゃんの引っ込み思案な性格が、よく現れているノートでした。
「ふむむ。糖質制限に、プチ断食、置き換えダイエットに、お酢ダイエット……。
「はい~。ウチが知ってるのを、いっぱい書いてみましたぁ」
以前TVでやっていた物や、聴いた事ある物がズラリ。
中には「これだけ食べてりゃ良い! コレをやればOK! 一か月で10㎏痩せた!」という煽り文句で語られていた、簡単そうでインパクトのある名前のダイエット方法なども、散見されます。
あと運動系で言えば、いわゆる有酸素運動*3に分類される物が多い印象でした。
「どれがいいかなぁ? 迷いますぅ」
「……」
さやかちゃん的には、どうやら“りんごダイエット”というのが気になっている模様。
主食や間食を林檎にする事で、大幅に一日の摂取カロリーを減らすことが出来て、しかも林檎にはプロシアニジンや食物繊維といった、ダイエットに効果的な成分もたくさん含まれているそうな。
さやかちゃんは林檎が大好きですし、「おいしい物で痩せられるなんて、夢みたいですぅ」とウッキウキ。
他にもトウガラシなどに含まれる“カプサイシン”という成分や、コーヒー紅茶に代表される“カフェイン”にも、脂肪燃焼効果が期待出来るらしい、という話を聞いた事があります。
何を食べようかな? どれにしようかな? そう楽し気に考えています。
しかしながら、ミルミルは少し渋い顔。
ちょこんと、大人しく肩にとまってはいるものの、じっとさやかちゃんのノートを見つめるばかり。
いつもピーチクパーチクさえずっているクセに、どこかミルミルらしからぬ様子でした。
「とにかく、ウチに出来そうなのを、片っ端からやってみようかなぁ?
いろいろ試してみたいですぅ」
コレと、コレと、コレとぉ~。あとコレも良さそうですぅ。
そうニコニコしながら、さやかちゃんがノートに丸を付けていきます。
さやかちゃんが生来がんばり屋さんな事、そして鋼のように硬い決意の事もあり、この「ウチに出来そうなの」という範囲は、とても広いです。
なのでさやかちゃんのダイエットノートは、すぐに沢山の丸で、いっぱいになってしまいました。
「えっ、そんなにやるのかい?
どれかひとつで良いんじゃないかな」
「んーん? 並行してやりますぅ。
その方が良い気がしますぅ」
「でもさやかちゃん、プチ断食ダイエットと、りんごダイエットを並行してやるなんて……。
その上、たくさん運動もするんでしょう? きっと倒れちゃうミル」
例えば、糖質制限と林檎ダイエットや、唐辛子とカフェインetc……。
さやかちゃんが選んだダイエット法は、その意図が重複している物も多く、これを全てこなすというのは、明らかに
言うなれば、朝食を抜くことで16時間断食して、その上リンゴやノンオイルのツナ缶しか食べずに、糖質制限をしていく。
しかもそれをしつつ、運動前に唐辛子やコーヒーをたくさん摂ってから、キツイ有酸素運動を毎日ガンガンやろう……という事ですから。
いくらさやかちゃんの意志が固く、根性があったとしても、これは荒唐無稽な話。
けれど、心配げな顔のミルミルに、さやかちゃんは「大丈夫ですぅ」と柔らかく微笑みかけます。
「いっぱい頑張って、たくさん痩せれば、そのぶん早く終わるから。
ウチ、あのドレス着たいですぅ。ゆいちゃんといっしょに」
だからやってみたい、というのが、さやかちゃんの主張。
胸元でグッと手を握りしめ、「ふんす!」と息を荒くする姿は、とても前向きに見えます。
やりたい事を見つけ、それに向かって邁進していく姿の、なんと美しい事か。
普段はシャイなさやかちゃんですが、この時ばかりは自分の意見を曲げません。頑張ってみたいと、まっすぐミルミルに意志を伝えました。
今日の夕飯だって、少しもお米を口にせずに、サラダやおかずだけを食べていましたからね。
ちゃんとプリキュアになって、レシピッピを守りたい――――
さやかちゃんの覚悟は、きっと本物なのでしょう。
「ウチに出来ることは、全部しようって思いますぅ。
どうせやるんなら、最強のダイエット! 1か月でマイナス10㎏を目指しますぅ!」
これはさやかちゃんにとって、決して無謀な数字ではありませんでした。
だってTVや雑誌では、このくらい痩せた~というのを、よく見かけるのですから。
ただ、身長が140㎝足らずで、体重も40㎏程度しかないさやかちゃんが、仮に10㎏も痩せてしまうと、ほとんど骨と皮だけになっちゃう気がするのですが……。
それを指摘してくれる人は、この場には居ないのでした。
◆ ◆ ◆
「女子力ぅ~っ!!」
ドドドッと土煙が舞います。
ボクサーのようにサウナスーツを着込み、その上タイヤを繋いだ紐を腰に括りつけたさやかちゃんが、河川敷の一本道を走っていました。
「女子力ぅ! 女子力ですぅー!」
額に汗の玉を浮かべ、ゼイゼイと息を切らしながら、猛然と駆けて行く。
犬の散歩をしているご婦人や、何気なく道を歩いてるおじいちゃん達が、何事かと驚いて振り向きます。でもそんなの、さやかちゃんには気にしてる余裕ありません。(少し頬を赤らめてはいますが)
「ねぇ、おねぇちゃーん。さっきからゆってる“女子力”って何ぃ~?」
「いったい何をさして言ってるのか、フメイ」
その少し後ろを、幼児用の可愛らしい自転車に乗るぴりかちゃん&つなぐちゃんが追従。キコキコと追いかけます。
前カゴには、タオルや水筒、あとストップウォッチなどなど。
今日は二人揃って、お姉ちゃんをサポートです。
あの決意の日から一夜明けて、ぽかぽかの陽気と清々しい空気の朝が来ました。
さやかちゃんは早速、お気に入りのスニーカーを履いて、こうして河川敷にやってきたワケですが、もう30分以上も走り続けている事もあり、双子ちゃん達は少し退屈気味。
タイヤを引きずっているというのに、よく体力が続くなぁと、ちょっと呆れながら話しかけました。
「――――女子力は女子力ですぅ!
女子力とは何だと問うような子が、ヒロインになれるものかっ!」ババーン
「えぇ~、りふじーん」
「なにその、考えるな感じろ的な」
薩摩隼人で言う所の“チェスト”。
どうやらさやかちゃんにとって、女子力とはそれに類する言葉のようです。
「始める前に、お酢とコーヒーと唐辛子を、いっぱい摂取してきましたぁ!
あぁ、燃えてますぅ! ウチの体脂肪が燃焼してますぅ~!」ドドド
「うわ、まんめんの笑み。キンモー☆」
「汗ダクダクの、グッデグデな女の子が、ウヘヘと笑いながら走ってる件。
キョーキ」
◆ ◆ ◆
「いただきますぅ」
さやかちゃんが厳かに手を合わせ、ウサギの形のリンゴを食べています。
合計8つで、ちょうどリンゴひとつ分。これが今日のさやかちゃんの、お昼ごはんでした。
今日は朝ごはんを抜いていたので、空きっ腹にリンゴが染み渡る心地。
先ほど過酷なランニングをした事もあり、さやかちゃんはホッと安堵した顔で、シャクシャク嬉しそうに食べてます。
「おっ、ちゃんと塩水でつけてあるネ! おいしいミル~☆」
「ウチ運動後だから、塩分いるかと思って。えへへ」
一緒にテーブルに着いている(乗っている)ミルミルも、そのご同伴にあずかり、一口サイズに切って貰ったのを食べます。
ミルミルとは、なんだかんだありますけれど、ごはんを食べているこの子はとってもカワイイので、さやかちゃんも見ていてホッコリ♪ 心が癒される心地♪
「でもさやかちゃん、リンゴひとつだけで良いミル?
これじゃあ足りなくないかい?」
「いえ、リンゴは食べ応えがあるから。これだけで満足できますぅ」
リンゴというのは、そのほとんどが水分ですので、量に対してのカロリーが低い。
多くの果物がそうですが、特にリンゴは食べ応えがあるので、ダイエットをする人達に人気なのです。
「そういえば、キティちゃんの体重って、確かリンゴ3つ分だったと思うミル。
今さやかちゃんは、キティちゃんの1/3相当を、モグモグいってるという事に」
「やな想像をしちゃいましたぁ……」
一瞬さやかちゃんの脳裏に、三分割されたキティちゃんの姿が浮かびました。
ちょいグロです。
「ドラッグストアで、ダイエットサプリというのを、みつけましたぁ。
これも飲んでみますぅ」
「ほほう、飲むだけで痩せる……と。
ホントに効くのかな?」
これで痩せられるのなら、もうけもの。
そう思って買ってきたサプリメントを、お水でコクコクと飲みます。
ただ、これは結構お値段が高いので、まだ中学生であるさやかちゃんのお小遣いでは、少し厳しい物でした。
それでも、どーしても痩せたくって、縋るような気持ちで手を伸ばしたのです。
なにより、なんの苦労もなく、ただコレを飲むだけで良いというのが、とってもお手軽ですし。
お金はたくさん使っちゃったけど、効果があったらいいな。痩せたらいいな。
そうさやかちゃんは思うのでした。
◆ ◆ ◆
「えっ、これ……」
走ったり、泳いだり、リンゴだけを食べたりの生活を始めて、3日目の夜。
お風呂上りに、何気なく体重計に乗ったさやかちゃんは、ひとりキョトンと目を丸くしました。
「こ、こんなに減ってますぅー! すごいですぅー!」
細井家の脱衣所に、さやかちゃんの思わずといったような、大きな声。
まぁこの子は、そんな声量のある方ではないので、あくまで比較的って感じですが。
今さやかちゃんが乗っている、デジタル方式の体重計。
そこに表示されていたのは、初日に測った時よりも“1.5㎏”も低い、驚愕の数値でした。
「まだ3日なのに、ガクッて……。
やった……! やったやったやったっ! やりましたぁー☆」
初日よりも、ずっと悪くなった顔色。明らかに少しこけている頬。力のない目元。
それでもさやかちゃんは、嬉しそうに笑います。人知れずピョンピョン飛び跳ねちゃうくらい。
長めにお風呂に入ったのが良かったのかな? それとも運動? サプリメントが効いたのかも?
そう成功の理由を考えます。バスタオル一枚のまま、楽し気に想いを馳せます。
この三日間、ロクにごはんも食べずに、ヘロヘロになるまで頑張った事もあり、その喜びもひとしおでしたから。
「この調子でやれば、すぐに痩せられるかも……?
新学期が始まる頃には、SBSですぅ」*4
3日で1.5㎏ということは、あと9日で更に4.5㎏減らせる計算。
新学期を迎えるころには、以前よりもマイナス6㎏という事。
さやかちゃんの胸に、とめどなく期待と喜びが溢れます。
「ウチ、がんばる。
お腹すいたけど、いっぱい辛いけど、続けていきますぅ」
先ほどリンゴやツナ缶を食べて、すでに夕飯を済ませているというのに、さやかちゃんの身体には活力がありません。
お腹は空いたままだし、立っていてもフラフラしちゃうほど、脚に力が入らない。 お風呂に入っても、ぜんぜん疲れも取れず、回復はしませんでした。
それでも今は、嬉しい気持ちの方が大きい。またがんばろうって思える。
バスタオル一枚のさやかちゃんは、やがて「くちゅん!」とくしゃみが出てしまうまで、ニコニコと体重計を見続けました。
◆ ◆ ◆
「さやかちゃんさやかちゃん? これを食べると良いミル♪」
「んー、なんですかぁ?」
いつものように、リンゴの皮を剥こうと冷蔵庫を開けた時。
ミルミルが猫なで声をしながら、こっちにパタパタ飛んで来ました。
「リンゴも良いけど、こっちの方がすごいミル!
ほら見てさやかちゃん! ダイエットの象徴、大正義オートミールだよ☆」
ミルミルが「ちょえーい!」と叫び、マジカルな力を発動。キッチンに緑色の奔流が溢れます。
そこに現れたのは、可愛くて綺麗なお茶碗に盛られた、オートミールでした。
燕麦の別名の通り、それは一見すると、お米とよく似ています。
色はすこし茶色いので、どちらかというと玄米に近いかもしれません。
ミルミルが出してくれたオートミールが、今お茶碗の中でホカホカの湯気を放ち、さやかちゃんの小さな手に収まりました。
「オートミール1食分のカロリーは、脅威の【105kcal】!
これはご飯の1/2相当の数字ミル!
しかも、タンパク質や食物繊維が豊富で、脂質もほとんど無し!
まさにダイエットの為にあるような、すごい食品なんだミル~!」
さぁ食え! ほら食え! パクッといくミル♪
そうグイグイ勧められるまま、さやかちゃんがスプーンでひとすくい。オートミールを口にします。
「――――おっふぇ゛!?!?」ゴフゥ
その途端、さやかちゃんの喉から、女の子が出しちゃいけない系の声が出ました。
まっず!!(迫真)
「――――ふぁーい!!」ブンッ
「ぐえっ!?」
即座に投擲。手にあるお茶碗を、ミルミルにぶつけます。
あの子の方も、マスコットが出しちゃいけない系の声を出しました。
「なんて事するんですかぁーっ!
こんなもん食うくらいなら、
「 ッ!?!? 」
拒否! 断固拒否! 圧倒的NO!!
さやかちゃんがプンプンしながら、己のエナジー妖精をファックファック罵ります。
「人ですぅ! ダイエッターも人間ですぅ!
ばかにしないで! ばかにしないで!」ポカポカ
「ッ!? ッッ!?!?」
人間の証明! 人間の証明!
さやかちゃんはそう叫びつつ、ミルミルをティッシュの箱で、ポコポコやり続けました。
◆ ◆ ◆
「うぅ……グーペコですぅ」
窓の外は、綺麗なあかね空。オレンジ色の光が差し込む時刻。
今日のトレーニングや、妹達の遊び相手を終えたさやかちゃんが、ひとりベッドにもたれてグッタリしていました。
夕ご飯の時間まで、あと1時間ほど。
先ほどから、何度も時計をチラッと見るけれど、ちっとも針は進みません。
「あと1時間、生きてられる自信、ないですぅ……」
今日でダイエット5日目。さやかちゃんはやる気に満ち溢れ、毎日頑張ってはいます。
けれど、その心はともかくとして、身体の方は如何ともし難い。
連日のトレーニングの疲労、倦怠感、そしてなにより耐え難い空腹感が身体を蝕んでいました。
疲れを感じたからといって、いくら身体を休めようとも、体調が回復することはありません。
だってさやかちゃんは、いま栄養が枯渇しているから。
身体を動かす為のガソリンも、治すためのエネルギーもありません。
むしろ、こうしていればいるほど、どんどん心身が弱っていく心地でした。
初日は美味しいと感じていたリンゴも、今はただ齧るのみ。
毎日食べ続けている事もあり、そこに美味しさや、気持ちの新鮮さはありません。
ならばとばかりに、そのまま食べるのではなく、何かの料理にアレンジしてみようかな~とも思うのですが……、それにはどうしても“調味料”が必要となります。
砂糖や、小麦粉や、お醤油だって、しっかりカロリーがあります。
さやかちゃんは、はやる気持ちでダイエットするばかりに、それらで無駄なカロリーを摂りたくないと思い、いつもそのままでリンゴを食べました。
たまに焼いてみたり、切り方を変えたり、潰して食べやすくしてみたりと、色々工夫はしてみるものの、やはり林檎は林檎。
どうしても飽きが来てしまうのは避けられず、食後には満足感や幸福感ではなく、虚しい気持ちを感じてしまうのでした。
それは、さやかちゃんがもうひとつの主食としている、ノンオイルのツナ缶も同じ。
焼こうが、形を変えようが、お皿に綺麗に盛ろうが、それはシーチキンでしか無い。いつもと一緒です。
せめて、これがノンオイルじゃなかったら。マヨネーズを入れて、パンやたまごと一緒に食べる事が出来たら……。
そんな事ばかり思ってしまう。何故かは分からないけど、この上ない惨めさが湧きます。
「でも、つらいって事は、合ってるって事だよね?
きっと今、どんどん痩せてってますぅ」
お腹が空いていればいる程、身体は痩せるハズ。
だからこの空腹は、きっと歓迎すべき事なんだ――――
そう思い、少しだけニコッと微笑みます。
今も止めどなく頭に浮かんで来る、ピザやラーメンや唐揚げといった想像を、ギュッとクッションを抱きしめる事で、打ち消しながら。
また時計を見てみると、そこには5時2分の文字。
夕飯の時間までは、まだ後50分以上もある。
そして、たとえその時間が来たとしても、自分はごはんに
そんな事に、さやかちゃんはふと気が付きました。
◆ ◆ ◆
「えっ……」
そして、向かえたダイエット9日目。
どこか既視感のある光景が、細井家の脱衣所にありました。
お風呂上り、バスタオル姿のさやかちゃん。
疲れた顔をしつつも、これまでやってきた事を想い、少しワクワクしながら、そっと体重計に乗る。
そこまでは、3日目の時とまったく同じでした。
「あれぇ? おかしいなぁ」
いったん降りて、電源をOFFに。そしてまたONにつけ直します。
けれど、何度測り直しても、数字は同じ。
さやかちゃんが乗る度に【38.3㎏】と表示されるのです。
「0.2㎏しか、減ってない……。
前の時から、
愕然とします。崖から突き落とされたような気持ち。
どれくらい減ったかな? 3日で1.5㎏も減ったんだし、6日ならもっと痩せるよね?
そんな期待と希望は、一瞬にして打ち砕かれてしまいました。
冷酷なまでにハッキリと表れた数字が、さやかちゃんのこれまでの努力を
「えっ……えっ?」
分からない。全然わけが分かりません。
体重計が壊れてるのかな? なんて思いますが、これはまだピッカピカ。しかもお母さんが買ってきた最新式の物です。
そんな風にアレコレ考えてみるけど、なにも思い当たる節もなくて、さやかちゃんは混乱してしまいました。
林檎しか食べてないし、運動もしてる、辛くてもお腹が減っても我慢した。
自分なりに精一杯がんばったし、その自信もあった。誰に恥じる事のない行いをしてきたつもり。
なんにも悪い事なんて、していないのです。
本当ならば、もっと減っていたハズ。そのつもりでいました。
なんとなしに頭の中で描いていた、6日で-3㎏という予定。でも現実はたったの0.2㎏。
その落差が、稲妻のようにさやかちゃんを打ちのめしました。
比喩抜きで目の前が真っ暗になり、その場から一歩も動けなくなります。
意地とか、希望とか、根性とか。
そんな、これまで自分を支えていた物が、ガラガラと崩れ去る音が聞こえる――――
「まっ……まだまだぁ! ドンマイですぅー!」
けれど、それから必死に目を逸らすように、さやかちゃんは叫びます。
「足りないんなら、もっとがんばれば良い! それだけなんですぅー!」
まだ、たった9日。ダイエットを始めたばかり。
そんなので上手くいくハズない、ウチの頑張りが足りなかったんだ。
そう自分に言い聞かせ、決意を新たにします。
今はもう見たくもない体重計を、手早く元の場所へしまいます。
なぜ駄目だったのか? どこが悪かったか? どう直すべきか?
そんな事、さやかちゃんには分かりません。まだ幼いのだから。
けれど、たとえ暗闇の中だとしても、闇雲にでも動こう。必死に走ろう。
さやかちゃんに出来るのは、もうそれだけだから。
こんなヘンチクリンで、大きらいな自分でも、唯一好きだと思える所……。
それは“頑張り屋なこと”です。
何かを必死に頑張っている時だけ、さやかちゃんは自分を許してあげる事が、出来るのでした。
「まだやれる事があるハズ! 改善の余地が!
これ何か分かりますぅ? ――――そう! 伸び代ですねぇ!(いい顔)」
……
…………
……………………
◆ ◆ ◆
「あっ、さやかちゃん来たかも~っ」
「きたコメー☆」
まさに洗濯物日和! といったような、ポカポカ陽気の午前10時。
玄関の呼び鈴がピンポーン♪ と鳴り、ゆいちゃんは元気よく立ち上がりました。
「あら、早いわね。約束の時間の10分前。
さやかったら、きっと待ちきなかったのね♪」
ゆいちゃんがコメコメを伴い、パタパタと音を立てて、玄関の方へ走っていきます。
それに追従するように、マリちゃんも手元のトランプをパタリと伏せてから、よいしょと腰を上げました。
今日は、さやかちゃんが遊びに来る日。
以前から二人は「いっしょに遊ぼう!」と約束しており、春休み最後の日となる本日、満を持してゆいちゃんの家を訪れたのです。
思えばゆいちゃんもコメコメも、昨日からずっとソワソワしていたし、それはさやかちゃんも一緒だった事でしょう。きっと楽しみで楽しみで、あんまり眠れなかったに違いありません。
そうマリちゃんはホンワカし、「~♪」とのんびりした足取りで、お出迎えに行きました。
「――――わーっ! さやかちゃーーん!!??」
「ッ?!?!」
しかし、突然の大声。
ビックリしたマリちゃんが、思わず廊下の途中で、足を止めます。
「男の人呼んでぇー! 男の人呼んでくれミルー!」
「コメェェーー!!??」
エナジー妖精たちの、今まで聞いた事がないタイプの声。叫び。
それを耳にした途端、マリちゃんは弾けるように駆け出し、速攻で玄関へ到達。
そこで目にしたのは……。
「うへへ、マリちゃんさん……ぐっどもーにんぐ(地の底から響くような声)」
「――――ぎゃあああぁぁぁーーッッ!!??」
乱れた前髪で顔を隠し、某
◆ ◆ ◆
「ここまで辿り着くのに、1時間かかりましたぁ。
早めに出発して良かったですぅ」
あれから10分後。キッチンに移動してきた一同。
「これからは匍匐前進を、トレーニングに取り入れようと思いますぅ。
次は30分を切ってみせますぅ」
「いや……歩けば10分くらいなんでしょ?
なんで這いずって来るの?」
昼前でも幽霊出るんだ~って、激盛りビックリしたわよ?
そうマリちゃんが冷や汗をかきながら、ボウルに入れた卵をかき混ぜます。
「それはぁ、ウチにはもう、歩く体力が残されてなかったからですぅ。
がんばって、ちょっとずつ這いずって来ましたぁ」
「ご近所さん達、悲鳴あげなかった?
リアル貞子だったわよ、さやか……」
フラッフラしながらも、玉ねぎの皮を剥き、それを手早く微塵切りにしていくさやかちゃん。
一見、この子に包丁を持たせるのは危ない気がするのですが、意外にもその手際は良く、危なっかしさはありません。
「なんで無理して来たの……? 言ってくれたらよかったのに……。
あたし気にしたりしないよ?」
「んーん、来たかったんですぅ。
ウチは、ゆいちゃんとお料理するのを楽しみに、今日まで生きてきましたぁ」
大丈夫ですぅ、これ病気とかじゃないから。
そうさやかちゃんは「えへへ」と笑いますが、何をどう見ても大丈夫ではありません。
あー、死にゆく人って、きっとこんな感じなんだろうな~、みたいな姿だったですから。
今でこそ、こうしてみんなと一緒に、ニコニコとキッチンに立ってはいますが、それでもゆいちゃんは心配でたまらない。
もういつまた倒れちゃうかと、気が気ではありませんでした。
それもこれも、全てはさやかちゃんがやってる、
あの絶望の夜から、既に2日ほど経過していますが、あれからさやかちゃんは鬼気迫る様子で、これまで以上にハードに取り組んでいたのです。
河川敷のタイヤ引きに加えて、「キェェェーーイ!」と猿のような叫び声を上げて行う、薬丸自顕流的な剣の打ち込みを、計6時間。
そして一人イソイソと山に赴いては、「臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前ッ!」とか唱えながら、無意味に延々と滝に打たれてみたり。
試合前のロッキーでも、ここまでやらんわってくらいの、物凄い運動量でした。
しかもさやかちゃんは「食わなきゃ痩せる! これは確定的に明らかですぅ!」とばかりに、これまで以上に食事量を減らしています。
よく巷で言われている“糖質制限”というのを、自分なりに強化。最近はもう林檎すら食べずに、味のしないサラダやツナ缶ばかりを食べている、という有様なのです。
たしかに、この2日ほどで、体重は劇的に減りました。
これまでの苦労は何だったのかという位、いきなり2キロくらいストーン! と落ちたのです。
これにはさやかちゃんも、キャーキャー大喜び。
合っていた、成功だ、これからこうしていけば良いんだ――――
そう無機質な体重計の数字を、まるで宝物か何かのように、嬉しそうに見つめました。
けれど……その代償として、今のさやかちゃんはグッデグデ。心身ともに疲労困憊。
せっかくゆいちゃんと遊ぶ約束をしていたのに、その力のない笑顔と空元気は、見ていて痛々しい程です。
むしろ、ゆいちゃんと会えるのが分かっていたこそ、その嬉しさを励みにして、がんばり過ぎちゃったのかも?
海で遭難した人が、数キロ先に見える小島を目指して、もうなりふり構わず必死に泳ぐみたいに。
「見てて下さい、ウチこれ得意ですぅ。
よっと♪」
フライパンの上で卵をかき混ぜて、フワフワに。それをオムレツの形に綺麗に丸めていく。
いつも妹達に作ってあげている事もあり、さやかちゃんはとても料理上手。その手際は見事の一言です。
けれど、それを見守っているゆいちゃんに、いつもの笑顔はありません。
コメコメ、マリちゃん、ミルミルですらも、みんなどこか悲しそうな顔で、この子を見つめるのでした。
◆ ◆ ◆
「出来ましたぁ。
プリキュア特製、ふわとろオムライスぅ~!」ペッカー
サラダやスープなどが彩り豊かに並ぶテーブルに、さやかちゃんが料理を運んできます。
今日のメニューは、みんな大好きオムライス。
雫型のチキンライスの上に、綺麗な黄色のふわふわオムレツが乗っています。
すっとナイフで切れ目を入れれば、チキンライスを覆うようにパラッと開いて、そこから半熟トロトロのたまごが溢れ出すという、素晴らしい一品♪
つい先日、ゆいちゃんは
そこで、お料理が上手だと聞いていたさやかちゃんを誘い、今日こうして一緒にオムライスを作ることに。
先のお店で食べた、チキンライスをクルッと包むタイプのオーソドックスな物や、通称“ドレスオムライス”と呼ばれる物。あとはケチャップ以外にも、デミグラスやホワイトソースなどなど。
いま古今東西の様々なオムライスが一堂に会し、ゆいちゃん家のテーブルに並びました。
「わぁ~! オムライスの博覧会だぁ~!」
「すごいコメー☆」
「何この素敵さ激盛りの光景!? 夢いっぱいじゃないのっ!」
「えへへ」
まるで、幼いころに見た夢が、そのまま目の前に現れたかのよう。
みんな目をキラキラさせ、これをがんばって作ったさやかちゃんを、パチパチと囃し立てます。
そして「もう待ちきれない!」と両手を合わせ、元気にいただきますをしてから、喜び勇んでスプーンを握りました。
「おいしいっ! これフワフワだよさやかちゃーん!」
「なんてまろやかな味! 優しい食感っ! 素晴らしいわっ!
もういくらでも食べられちゃう! お口の中が幸せよぉ~♪」
「コメー☆」
パッと笑顔が咲きます。
特にコメコメなんて、さやかちゃんにケチャップで「コメコメ」と書いて貰ったオムライスに大喜び! 愛らしい仕草でパクパクと頬張っています♪
その様子を、さやかちゃんがニコニコと見守る。
同じテーブルに着き、満足そうにみんなの顔を見渡していました。
「あれっ、さやかちゃんどうしたの?」
ふいに、夢中でオムライスを食べていたゆいちゃんが手を止めます。そして、隣にいるさやかちゃんの方を向きました。
「食べてないの? お皿もスプーンも、なんにも置いてないよ?
あたし取ってこよっか~!」
「あぁ、ウチは良いんですぅ。
お料理を作れただけで、満足なんですぅ」
見れば、さやかちゃんの席にだけは、なんにも置かれていませんでした。
ただお水の入ったコップが、ポツンと手元にあるのみ。
今このテーブルには、たくさんの美味しそうな料理が、所狭しと並んでいるというのに、それを取り皿によそう事もせず、じっとそこに座っているだけ。
それどころか、自分の食器すらも、用意していなかったのです。
「おいしいと言ってもらえて、うれしいですぅ。
ウチは今、
……
…………
……………………
その言葉に、空気が凍り付きました。
ニコニコと、本当に嬉しそうに笑うさやかちゃんを、みんな愕然とした顔で見ます。
「昨日までは、辛くて堪りませんでしたぁ。
頭がぼ~っとして、もう何も考えられなくて。
なのに、悲しい気持ちだけが、どんどん湧いてくるんですぅ」
「それがどーやっても、止められなくて。
ふとした時に、泣きたくなって。
何かが出来ない、なんにもないっていうのが、こんなにも苦しい事なんだって……、初めて知りましたぁ」
「うれしさも、たのしさも、ウチには無かった。
それがとんでもなく“惨め”に思えて、どんどん暗い気持ちになりましたぁ」
「ウチ、頑張るのが好きですぅ。
何かに打ち込んでる時が、いちばん幸せですぅ。
でも、その頑張ってる自分すらも、
「昨日スーパーに行ったら、ケーキとお菓子がありましたぁ。お米とかラーメンも。
でもそれ、ウチは食べたらダメで。野菜とツナ缶しか買えなくて。
こんな事をしてる自分は、みんなと違うんだって思ったら、すごく悲しくなって……。
そんな気持ちを振り切るために、また走ったり、運動したりして……」
「でもぉ、今日こうしてお料理したら、スッと気分が楽になりましたぁ。
ウチが作ったオムライスを、ゆいちゃん達が食べてくれてる、笑ってくれてる……。
それ見たら、ウチ嬉しいって思って。
まるで、自分が食べてるみたいな気持ちになれて」
「だから、もう大丈夫ですぅ。
お腹空いても、食べられなくても、ウチやっていけますぅ」
「今ね? なんか空腹感が、
この玉子みたいにフワフワ~って、宙に浮いてる気分なんですぅ♪」
心からの笑み。気持ちの籠った言葉――――
けれど、だからこそゆいちゃんは、言葉を失ってしまったのです。
◆ ◆ ◆
「ブンブン、ドルドル――――ブンドルゥ!!!!」
◆ ◆ ◆
「ゆい! さやか! ブンドル団よっ!!」
「う……うんっ!」
ゆいちゃんが思わず声をかけようとした途端、左手のハートキュアウォッチから、アラームが鳴りました。
そこには、なんか妙に
それを見た途端、ゆいちゃん達は即座にこの場を駆け出し、ウォッチの導きに従って市街地へ。
みんな表情は冴えません。いつもの元気や、光の使者としての顔は、どこにもないかもしれない。
でも今は、とにかくレシピッピのもとへ向かわなければ。そうガムシャラに行動しているように見えました。
「……ふん。来たなプリキュア」
やがてゆいちゃん達は、レシピッピを奪った犯人であるジェントルーちゃんを発見。
なんか築40~50年くらいの小汚いボロアパートの屋根に立ち、カッコ良くローブを風になびかせている様子です。あんまり決まってはいませんでした。
「ジェントルー! 【具無しオムライスのレシピッピ】を返してっ!」
「あれって、卵とご飯だけで作ったヤツでしょ!?
なんでわざわざ
鶏肉どころか、玉ねぎすら入ってない、超お手軽料理。
当然の事ながら、玉子の包み方もヘタッピで、破れちゃった所をケチャップで誤魔化しているのが丸わかり。
そんな貧乏学生さんとか、モノグサな一人暮らしの男性とかが作ってそうな、とても切ない料理のレシピッピを、ジェントルーちゃんは狙いやがったのです!
何故かさやかちゃんが作った物ではなく、わざわざそっちを!
そして何故、社会的弱者に鞭を打つようなマネをっ! 絶対に許せませんっ!
「黙れプリキュアめッ!
あとで【ごはんにシーチキン乗っけて、そこにマヨをブリブリしたヤツのレシピッピ】も頂くからなッ!」
「――――なんでそんな事するの?! ほっといてあげなさいっ!」
彼女の上司であるゴーダッツ様は、意外と粗食が好きなのかも?
ここ最近のチョイスを見ていると、あまり食に関心が無さそうに見えるのは、マリちゃんの気のせいでしょうか?
「くっ! オイシーナタウンに来ておいて、そんなのを狙うだなんて……!
なんて恐ろしいのブンドル団っ!」
「このままじゃ、【食パンにマヨかけて焼いたヤツのレシピッピ】とか、【袋ラーメンを砕いてそのままポリポリ食べるヤツのレシピッピ】も狙われちゃうよっ!
ぜったいに守らなきゃ!」
「みじめな食い物コメー」
腹さえ満たせれば良いのか? それで君は満足なのか?
そんな一言物申したくなるような料理を守る為、今ゆいちゃん&さやかちゃんが、プリキュアに変身します。
「未来をっ!」
『ミルミル♪』
「明日をっ!」
『ミルミル♪』
さやかちゃん&ミルミルが放つ、柔らかな緑色の奔流。そしてゆいちゃんとコメコメが放つ、ピンク色の奔流。
眩い聖なる光が世界を二分し、それがようやく治まった時、この場に二人のキュアッキュアな女の子が降臨。
ビシッとポーズを決めて、高らかに名乗りを上げます。
「砂糖の1gは、命より重い! ――――キュアアピタイト!」キュピ-ン
けれど……片方の子は、ドレスではなくタンクトップ。
下も動きやすそうな半ズボンですし、フリッフリな
「生きてる意味をっ……、教えて下さいっ!(死んだ目)」
バシッと言ってのけますが、そこには元気もなにもあったものじゃなく、悲壮感だけが漂っています。
どうやらミルミルは、前に言っていた通り、ドレスではなくこちらの衣装を用意してくれていたようで。
ちょっとだけ「もしかしたらワンチャンあるかなぁ?」と思っていたさやかちゃんの希望を、完膚なきまでに粉砕したのでした。
やっぱり駄目なんだ……、まだまだ痩せなきゃいけないんだ……。
そうさやかちゃんの心を、絶望が支配します。戦いの前なのに。
せっかく両手で作った“胃の形のポーズ”も、なにやらプルプルと震えていました。
「あ、ジェントルーさん。
この前はありがとうございましたぁ♡」
「えっ、洗っておいてくれたのか? わざわざスマンな……」
ガックガクの足腰のままで、突然さやかちゃんがテテテとジェントルーちゃんに駆け寄ります。
そしてカワイイ柄の紙袋と、お礼に作ったクッキーの小袋を添えて、手渡しました。
これはもちろん、前にドレスが破けちゃった時に、ジェントルーちゃんが貸してくれたローブ。
さやかちゃんはペコッと丁寧におじぎをしてから、またテテテと仲間達の所へ駆け戻り、改めてジェントルーちゃんと対峙。
束の間のタイムアウトでしたが、戦闘再開です。
「とにもかくにも、行くぞプリキュア共!
いでよっ! ウバウゾー!!」
「――――ウバウゾォォォーーッッ!!」ガオー
ジェントルーちゃんが不思議な力によって、巨大なモンスターを呼び出します。
そこに現れたのは、【スガキヤの先割れスプーンのウバウゾー】
フォークとスプーンが一体になったような形をしており、まだお箸が上手じゃない年頃のお子様でも、安心してラーメンを食べられるようにという、スガキヤさんの企業努力が窺えるウバウゾーです。
余談ですが、これでスガキヤのラーメンを食べると、なんか3倍くらい美味しく感じるのは、私だけでしょうか?
割り箸を使わないのでエコになる~とか、そういうのZENZEN関係なく、このスプーンで食べたいです。
近年はAmazonなどでも、取り扱っているようなので、ご興味のある方は是非です。
私は最近、よくラーメン屋さんである“異常におっきなレンゲ”を購入しましたよ♪ 無駄に。
「さぁ行けウバウゾー! プリキュアを倒すんだ!」クッチャクッチャ
「くっ、すごいパワーだよコレ!」
先割れスプーンのウバウゾーが突進。それをプレシャスがドシーン! と受け止めます。
「ふはは! このウバウゾーは、スガキヤの企業努力の結晶だ!
お前達なんぞに負けるものか!」モキュモキュ
「プレシャスが押されてるわっ! なんという力なのっ!?」
プリキュアvsウバウゾーの力比べは、ウバウゾーに軍配。
地面を抉って線を引きながら、どんどんプレシャスが押し込まれていきます。
「これまでは不覚を取っていたが、今日がお前達の命日だッ!
我らブンドル団の野望を邪魔するものは、このジェントルーが倒す!」ゴックン
「させないっ! ぜったいに具無しオムライスのレシピッピを守r……。
ってジェントルー、さっきから何たべてるの?」
真面目な話の最中、しかもみんなが戦ってる時に、モグモグ。
どうやらジェントルーちゃんは、ひとり遠くでこちらを眺めつつ、ケンタッキーを食べているようでした。バーレルに入ったヤツを。
「ひどっ!? みんな今がんばってるのよ!? 一人だけズルいわよっ!」
「手ぇ油まみれコメ! テカテカしてるコメ!」
「ひとつちょーだいよっ! ハラペコって来ちゃったよぉ~っ!」
「うるさい! これはわたしのだッ!
小腹が空いたのだから、仕方ないだろうッ!」モシャモシャ
プリキュア達の非難を余所に、幸せそうにケンタッキーを頬張ります。
時折ポテトをモグモグしたり、チューッとストローでジュースを飲んだりと、やりたい放題です。
わたしの役目はウバウゾーを呼び出すところまでだ! その後はけっこう暇なのだ! と声高々に言い放つ。
そして、ボスであるゴーダッツ様には具無しオムライスなのに、
「ふはは! お前達はせこせこ戦っていろ! 私はパーティバーレルを一人食いするッ!」
「貴方に人の心は無いの!? なんにもパーティじゃないわよ!」
「最悪ゴーダッツ様には、焼き鳥の缶詰(ひとつ100円)でも与えておけばOKだ!
どーせ何を食っても『うまい』と言うからなッ!」
「ボスを何だと思ってるの! この子いつか裏切るわよ!?(確信)」
ジェントルーちゃんの素性というのは、今のゆいちゃん達には知る由もありませんが……、少なくとも
心を操られてはいても、潜在意識下でゴーダッツ様が、大キライなのかもしれません。
思春期になった娘さんが、自分のお父さんを毛虫みたいに扱うように。
「そこまで、ですぅ!」
しかし、その時……。
「プレシャス、ここは任せて? ウチがやりますぅ――――」
ドカーン! と大気が震えるような轟音。
先ほどまで攻勢に出ていたウバウゾーが、ズザザーっと大きく後退しました。
頭突き! 身体をまっすぐ「きをつけ」にした、まるでロケットみたいな突進!
それを横から叩き込んだキュアアピタイトが、スタッと軽やかに地面に降り立ちます。
大好きな
「この前は、なんにも出来なかったからね。今日はぼくらの番ミル!」
「はい、汚名返上ですぅ。見てて下さぁい」ダッラ~
けれど……よく見ればさやかちゃんの口元から、
きっと、先ほどのジェントルーちゃんの、メシテロのせいでしょうね。決壊したダムみたくダーダー零れてます。
「大丈夫なのアピタイト!? 目が虚ろだよ!? いや瞳孔開いてるよっ?!」
「I'm OK.ですぅ。
やつばらめの首を獲らねば、先祖に顔向け出来んですぅ」クラクラ
「すごいふらついてるっ! そっちじゃないよアピタイトぉ~っ!」
誰もいない明後日の方向へ、フラフラ歩き出すアピタイト。
恐らくは、先ほどの頭突きのせいでしょう。完全に平衡感覚を失っているようでした。千鳥足です。
けれど、そのまだ幼さの残る顔には「えへへ……」と笑みを浮かべており、やる気充分なことが窺えます。
前述の通り、瞳孔が開いた目には、なにやら怪しい光が宿っていて、ちょっと見てて怖いくらい。
「効きませぇん、メシテロなんてぇ。
ウチは今、すごく気分が良いんですぅ~」
脳裏によぎるのは、幸せな光景。
先ほどゆいちゃんの家にお邪魔した時に見た、みんなの笑顔でした。
自分は食べられなくても、代わりに食べてくれる人がいる。
おいしいって、すごいって、喜んでくれる友達がいる。
それを思う時、アピタイトの心から悲しみは消え去り、まるで澄み渡る青空のような、幸せな気持ちになるのです。
「うふふ……へっちゃらですぅ。
空腹が何? って感じぃ~」
左右にフラフラと蛇行しつつも、一歩づつウバウゾーの方へ。
その歩みは弱々しくとも、一片の迷いもありません。
でもウチの目の前でケンタッキー食いやがったあの子は、後で顔の原型が分からなくなるくらい、グーパンしようと思いました。
「さぁ、初陣だよアピタイト。いけるね?」
「バッチグーですぅ、ミルミル氏」
いわゆる“
一人じゃない、ふたりでひとつ。彼女の胸に、この上ない心強さが湧きます。
「身体が軽いですぅ。
こんな幸せな気持ちは、はじめて……」
気が付けば、唸り声をあげる巨大なモンスターの、すぐ目の前。
今、大事な相棒と心を通わせた、キュアアピタイトが……。
「もうなにも、怖くないですぅ――――」
ウバウゾーによって、おもむろに頭を「ぱくっ!」といかれました。
◆ ◆ ◆
「わーっ! アピタイトがマミったぁーーっ!!」
「
慌てて駆け寄るプレシャス。そして“言ってはならない事”を口走るコメコメ。
「こんのぉー! アピタイトをはなしてぇーっ!」ポカポカ
「はなすコメー!」ポカポカ
「キャー! 男の人呼んでぇー! 男の人呼んでぇー!!」バッサバッサ
今デリシャスフィールド内は、大 混 乱 ☆
ウバウゾーの口元から〈ブラーン!〉とぶら下がっているアピタイトを救うべく、仲間達が総出でポカポカ叩きます。
まぁウバウゾーは、ビクともしてないですが。
「おーえすっ! おーえすっ!」
「コーメ! コーメ!」
「しっかりするのよアピタイト! ふんぎぎぎ……!!」
「ピヨーッ!」
みんなで綱引きのように、アピタイトの足を引っ張ります。
もうプリキュアとか何とか言ってられません。なりふり構わず引っ張ります。
「ダメだよ! あんまり引っ張ったら、
「下手に触ったら、
慎重に、丁寧にやるのよ~っ!」
「すごいブラブラしてるコメ! 頭部がパージしそうコメ!」
「助けてぇー! さやかちゃんを助けてぇー!
もう戦いとか、どーでも良いミルーッ!!」
「」チーン
……
…………
……………………
その後、なんか見てて可哀想になってきたジェントルーちゃんが、「また今度にしようか」と言って、ウバウゾーを引っ込めてくれました。
いるのかいらないのかは分からないけど、具無しオムライスのレシピッピも返してくれたし、これにて本日の戦いは終了です♪
ジェントルーちゃんは、どこかの100円ショップで焼き鳥の缶詰を買う為に、踵を返してこの場を去って行きました。
――――ノリでいけると思ったが、そんな事はなかったぜ!
数分後、なんとか死亡フラグをへし折って生還したさやかちゃんは、改めてごはん(栄養)の大切さを学ぶのでした。
◆ ◆ ◆
その日の深夜。
電気のついていない、薄暗いキッチンにて。
「さやかちゃん、どーしたミル?」
「ッ!?」
トイレに行ったにしては遅いなぁと、そう不審に思ったミルミルが、見に来てみれば……。
そこにあったのは、開けっ放しの冷蔵庫の傍で、小さく縮こまりながらハムの塊を齧っている、さやかちゃんの姿でした。
「あ……ああっ……!」
声をかけられた途端、ビクッと身体が跳ねました。
こちらへ振り向いたさやかちゃんは、顔面蒼白。
そして、ワナワナと震えながら、縋るようなウルウルした瞳で、ミルミルの方を見ています。
「……」
その姿を目にした時、ミルミルは全てを悟りました。
きっと、心が折れてしまったんだと。
今日の酷い失敗、みんなにかけてしまった迷惑。
そのあまりの辛さに、もうさやかちゃんは耐えられなかった。
がんばる気力も、ダイエットをする意志も、ぜんぶ失ってしまったのだと。
あれだけ着たいと言っていた、プリキュアのドレス。
その為に痩せようとしていたのに。これまでごはんを食べずにいたのに。
でも、この子は限界だ。身体も心も、疲れ果ててしまったのだと。
「さやかちゃん」
「っ!!!!」
またさやかちゃんの身体が、ビクッと跳ねます。
こんな恥ずかしい所を見られ、次に何を言われてしまうのかを、心底恐れている様子でした。
情けない、情けない、情けない――――
その言葉が、さやかちゃんの頭の中でグルグル回ります。
今までもそうだったけど、自分のことがもっと大嫌いになる。
際限なく暗闇の中に落ちていくように、「ウチなんて」って気持ちになる。
けれど……。
「冷たいまま食べるのは、あんまりよくないミル。
どうせなら、焼いて食べようよ」
ミルミルから返ってきた言葉は、思っていたのとは少し違ったのです。
「ハムエッグとかどう? パンでサンドイッチにしてさ。
作るんなら、ぼくも手伝うミル」
なんの変哲もない、いつものミルミルの声。
なのにさやかちゃんは、とても混乱してしまいました。
暫くの間、言葉が出ずに、口をぱくぱくしちゃったくらいに。
「ミルミル氏は……怒らないん、ですかぁ……?」
ウチ、食べちゃったのに。
ダイエットをするって、ちゃんとプリキュアになるって、約束したのに……。
そう思い、ようやくといった感じで、なんとか口を開きました。
今さやかちゃんの胸にあるのは、ミルミルに対する耐え難い“申し訳なさ”。
この子を裏切ってしまったという、深い後悔。
「ん、なんでぼくが怒るミル?
食べちゃったのを気にしてるのかい?」
でもミルミルは、キョトンとした顔。
そこには、さやかちゃんに対する怒りも、批難している様子もありませんでした。
ただただ、心配そうにこちらを見ているだけ。
「うん、分かるよ……。あんなに頑張っていたんだもの。
恥ずかしいよね。たまらなく悔しいよね」
一度だけ「ふぅ」と息を吐き、ミルミルがそっと目を閉じます。
けれど、すぐに真っすぐな瞳で、さやかちゃんに向き直りました。
「でもね、さやかちゃん――――
パタパタと小さな羽音を立て、ミルミルがさやかちゃんの肩に。
二人きり、ボンヤリうす暗い中で、静かに寄り添います。
「これは“サイン”なんだよ。
さやかちゃんの身体と心が、もう無理だって言ってる、限界のサインだミル」
「あんなに頑張り屋さんで、意志の固かった君が、こうしてハムを食べた。
夜に食べないって決めてたのに、我慢ができなかった……。
それはね?
ぜったいに無視しちゃいけない“声”だミル」
「だから、食べてよかった。
いや……
さやかちゃんの頭じゃなくて、心と身体が言ってるんだミル」
「妥協じゃない、弱くなんてない、悪いことじゃない。
ただただ、必要だったんだミル。
またこれからも、頑張っていく為に」
小さな子供に言い聞かせるような、優しい声。安心する声。
肩にいるミルミルが、そうニコッと笑ってくれた時……さやかちゃんの目から、ポロッと涙が零れました。
「それに、今日学んだでしょう? グデグデの身体じゃあ、なんにも出来ないって。
そして、もうさやかちゃんも分かったでしょう?
聞きかじっただけの知識じゃ、
今の君みたく、身体を壊しちゃうだけさ――――」
ふいに、ミルミルの真剣な眼差し。
それに照らされたさやかちゃんは、ハッと息を呑みました。
「誰かから聞いた、TVでやってた、大学教授が言ってた……。
それを信じるのは勝手だけど、
「君が失敗したり、倒れちゃったりした時、それを言ってた誰かさんはどうしてた? みんな知らんぷりだミル。
それでさやかちゃんは、ゆいちゃん達に助けられたんじゃないか。
危ない所を、救ってもらったじゃないか」
「言うんだよみんな。これをやったら痩せる、こうしろって、上から目線で……。
それは、経験則から来る善意なのかもしれないし、利益や宣伝の為かもしれない。
けどあまりにも、
キャベツの千切り食べろとか、炭水化物を抜けとか、ひたすら走れとかさ」
「でもね? その何気ない言葉で、たくさんの人が
辛い想いをしたり、失敗したり、取り返しのつかない病気になったりしてる。
大げさでも何でも無く、命すら失ってしまう人が、沢山いるんだミル――――」
「ハッキリ言うよ、さやかちゃん。
君は痩せたんじゃ無くて、“衰弱”したんだミル。
なんにもダイエットなんて、出来てないんだよ」
ダイエットというのは、【余分な体脂肪を減らす事】を言います。
けれど今のさやかちゃんは、いうなれば
あれだけ自分なりに頑張りはしましたが、その実、ほとんど痩せてはいないのです。
たしかに、体重は落ちました。この春休みの12日ほどで、4キロ近くは減ったかもしれません。
けれど……それは身体に蓄えられていた“水分”が抜けた、そして栄養不足で筋肉が分解されたというだけに過ぎず、肝心の体脂肪を減らすまでには、至っていないのでした。
実は、最初の1~2㎏を減らす事なんて、あまり難しい事ではありません。
ただ炭水化物の摂取を、少しばかり抑えてさえいれば、それによって身体の水分が抜けていき、2.3日もすれば軽く落ちてしまうものです。
それを痩せたと、ダイエットに成功したと勘違いしてしまう人が、あまりにも多い。
これまで聞きかじっただけの知識で、ダイエットを行なっていたさやかちゃんも、また然りです。
ただただ、身体の水分が抜けて落ちただけの1~2㎏。
そんなのは、元の食生活に戻した途端、すぐに戻ってしまうでしょう。
減らした時と同じように、きっと2.3日で元通りです。
なぜなら、
ちゃんとダイエットを、出来てはいないからです。
「例えば、さやかちゃんはサプリメントを摂ってたよね? 飲んだら痩せるってヤツを。
仮に、そのサプリに“下剤”と同じ成分が入っていたとしても……さやかちゃんは飲むかい?」
「体重は減るよ? 下痢の症状を起こせば、身体の水分が、外へ出ていくからね。
けど……それって“痩せた”と言えるのかな?
体調を崩した事で、ごく一時的に、体重計の数字が減っただけさ」
「そーいう簡単なダイエット法とか、これだけやればOKって極端なヤツが、世の中たくさんある。
それを軽々しく広めちゃう事が、どれだけ危険な事かって、ぼくは思うんだミル。
たとえ良かれと思っての事でも、無責任な行為は、人を良い方向に導いたりはしない。
地獄への道は“善意”で舗装されてる――――ってヤツさ」
「ちなみにだけど、いくら痩せたいからって、炭水化物を全カットなんて続けてたら、ハゲるし骨はスカスカになるし、身体中の筋肉が萎んで、すごく
当然、寿命もいっぱい縮むミル。短期間で激痩せする代償としてね」
身体が痩せてしまうほど、危険な行為だからこそ、ちゃんとした知識でやるべきなんだ。
健康や、綺麗な身体をこそ目指してたハズなのに、やればやるだけ
それでも君は、聞きかじりの方法で、ダイエットをするのかい?
今のさやかちゃんの姿は、本当に“なりたかった自分”かい?
そうミルミルが、心に問いかけます。
「仮に、痩せたとしよう。
この調子でさやかちゃんが、一か月に10㎏だっけ? ダイエット出来たとしよう。
体調を崩し、病気になったりしながらも、必死に頑張ってさ」
「けど……無駄なんだミル。そんな事しても、すぐにリバウンドしちゃう。
これは、ごく当たり前の事でね? 人間の身体ってのは、
ホメオスタシス? っていう物らしいんだけど」
「一か月で3㎏くらいかな。それ以上、急激に体重を減らしちゃうと、身体が危機感を覚えるのさ。
なんとかしなきゃ、このままじゃヤバい、栄養が足りないぞって……。
そう自然と、
「たとえ、食べる量が普通だったとしても、関係なく太るよ?
君の意志じゃなく、“身体そのもの”が、なんとか元の体重に戻そうと頑張るから。
怪我や病気を治そうとするのと同じで、これは生きるための、当然の仕組みなんだミル」
「少ないごはんでも、やってかなきゃ駄目な環境だから、急激に栄養を取り込む体質になる。
どんどん脂肪を蓄えていって、元の体重に戻るどころか、さらに増えちゃうんだミル」
「だって、無茶なダイエットをしたせいで、身体が“危機”に陥ったワケでしょう?
そりゃあ、今度はそうならないように~って、備えるよ。
飢餓で死んじゃわないよう、
……
…………
……………………
「どうすれ、ば……いいですかぁ……?」
あれから、数分の時が経ちました。
ミルミルに諭され、愕然と肩を落としていた、さやかちゃん。
深く絶望し、言葉もなく、吹けば飛びそうなほど弱々しくなった彼女が、今ようやく口を開きました。
「ウチ、ちゃんとプリキュアになりたい……。
ゆいちゃんみたいに……」
生気のない瞳。我慢できずに食べてしまった先ほどより、ずっと辛そうな顔。
それでも、藁にも縋るような気持ちで、ミルミルに懇願します。
「あのドレスを着られたら、それが叶うの。
ダメだったけど、食べちゃったけど、今度はがんばりますぅ……。だから……」
ウチを痩せさせて下さい。ダイエットを教えて下さい――――
そうさやかちゃんは、震える声で言いました。
先ほどの知識からも分かる通り、ミルミルはダイエットに詳しいです。
これはきっと、この子が“オートミールの妖精”である事が、関係しているのでしょう。
この前は、「こんなモン食えるかー!」とばかりにお茶碗を投げつけてしまったけれど、今度は頭を下げて頼みます。
オートミールでも何でも食べる。今度はちゃんとやってみせます。
だから助けて下さいと、いま肩にとまっている、小さなミルミルに。
「そう言ってくれるのを、待ってたんだ。
ぼくはキュアアピタイトの相棒、エナジー妖精だミル――――」
ツンツン、とじゃれるように、クチバシで頬っぺたを軽くつつきます。
それは、この子の親愛の証。
今この時、ようやく自分達は、真のパートナーになったのだと。
「さぁ、もう泣かないで? 明日から新学期でしょう?
ハムのサンドイッチを食べて、ぐっすり眠ろうミル」
「はいっ……! はいぃ……!」エグエグ
そっと手を伸ばし、ミルミルに触れます。この子もスリスリと頬ずりをして、それに応えました。
柔らかな羽毛の感触がくすぐったくて、とても暖かくて……。
さやかちゃんは本当に久しぶりに、優しい気持ちになれたのでした。
「いいかいさやかちゃん?
これからぼくの事は、氏ではなく軍曹と呼ぶミル!」
「はいミルミルぐんそーっ! サーイエッサーですぅ!」
「うん、よいお返事だ☆ いっしょに頑張ろうね♪
ぼくが君を鍛え直してやるミル! 泣いたり笑ったり出来なくしてやるッ!!」カッ
「それは困りますがぁ、よろしくお願いしますぅ!
一生ついて行きますぐんそぉ~!」
美しい光景、キラッキラの笑顔……。
けれど、糖質不足で頭がボーっとしているさやかちゃんは、気付かなかったのです。
なぜ光の衣を生成できるミルミルが、
あれだけキライだったオートミールを、なぜ自ら進んで
――――ちょろいミル。所詮は中学二年生ミル。
ミルミルが、さやかちゃんには見えないよう、上手いこと「ニヤリ☆」と笑います。
瞬く間に信頼を勝ち取り、オートミールの普及に成功する。
緑のエナジー妖精は、恐ろしい程のヤリ手でした。
※注意!
心身に負担をかける無茶な方法や、聞きかじりの知識でするダイエットは、たいへん危険です。
そして、さやかちゃんが今後おこなうダイエット方法も、
決して真似をしたり、当作品の内容を鵜呑みにしてしまわないよう、お願い申し上げます。
ダイエットをする時は、しっかりと勉強をし、『無理のない範囲で継続して行いましょう』
さやかちゃんといっしょにガンバ♪