地球防衛隊基地B3 作:やちく
社畜擦り切れヤンデレヒーロー
「――はい。というわけで、今回は美少女過ぎるヒーローとして話題の地球防衛隊S級ヒーロー、トゥルーキスさんにインタビューをしていきたいと思います!」
「ふふ、ありがとうございます。本日は宜しくお願い致します」
私は知っている。
こういう風に容姿を褒められた時、余計な一言は付け加えない方が良い。
誤答例その1。『え~、私ぃそんなこと言われちゃってるんですか~?』……ほらウザい。知らねぇ訳ねぇだろ、ふざけんな。
誤答例その2。『別に。普通ですよ』……普通? 普通って何だ。お前みたいに褒められない奴は普通でも無いってか? 全世界のテメェ以下の容姿の人間に土下座しろ。
……と、まぁ、このように。容姿を褒められた時の反応には人間性が如実に表れ、人の顰蹙を買いやすい。そうやってアンチを増やしていったアイドルやら女優やらを私はたくさん知っている。
こういう場合、素直かつ簡潔に感謝を述べて、その話を終わりにしてしまうべきなのだ。
そもそも、私が可愛いのは事実。持って生まれた容姿を日々の努力で磨き上げ続けているのだから当然。それを変に謙遜したりする方がウザい。
まぁ、可愛いというだけで嫌ってくる僻みの塊も存在するが。そういう奴はもうどうしようもない。可愛い税として甘んじて受け入れる。
必要なのは、そういうアンチに付け入る隙を与えないこと。
私が完璧な美少女であり続ける限り、アンチの批判は的外れの誹謗中傷に留まるしかない。私のファンたちがそれを正論で叩き潰すので、結果アンチが批判されて評判を落とすだけで終わる。
「最近のマイブームは何か御座いますか?」
「……そうですね、最近は『KōRUI』というバンドの音楽に夢中です」
「若い女性の間で大人気ですものね。トゥルーキスさんのイメージに凄く合っていて素敵です」
当たり前だ。『トゥルーキス』のイメージ通りの回答を防衛隊広報が考え抜いているのだから。
その際、ヒーローが好む事物に黒い噂やスキャンダルがあっては絶対に駄目。だから、広報課職員たちが必死に裏取りをした内容を私は出力している。
他にも、資金集めの為のコラボだったり大口の出資だったり。そういう大人の事情も絡んで来るから面倒極まりない。
しかも、その用意された回答をするだけじゃ当然不十分で。その内容について如何なる質問が来ても良いように人並み以上に知っておく必要もあって。
今回のバンド『KōRUI』だって、私は昨日知った。昨日知って、一夜漬けで知識を詰め込んできている。
私服だって自由に選べず、得意先が押し付けてくる物しか選べない。もう本当の自分の好みすら忘れてしまった。
……あぁ、疲れる。
私が憧れたヒーローはこんなんじゃなかった。
でも、ヒーローの活動を維持するのに莫大な費用が必要で。こうやって防衛隊の広報活動をさせられて。
そう言えば、好きだったショッピングにも随分と行っていない。
どこで誰が見ているかも分からない中で『トゥルーキス』のイメージを崩せないというのが理由の1つ。そして、もう1つ大きな理由があって――
「先日も地球制服を目論む秘密結社『NEW World』を壊滅させておられましたね。ヒーローとして世界を護る活動、やはり大変なものなのでしょうか?」
「ご心配いただき有難うございます。ですが、誰かの笑顔を護っていると思えば何てことはありません。人々の平和と安全を護る事、それが私の使命ですから」
大変に決まってるだろ、馬鹿かコイツは。
ポコポコ新しい秘密結社が生えて来やがって。雨後の筍か。いや、筍は美味しいけど、アイツらは害悪でしかない。
どいつもこいつも自分勝手で独り善がりの主義主張を掲げて暴れ回って。ロクな努力もせず全てを他人や社会のせいにして暴力に訴えるだけの単細胞クズばかり。
しかも。こっちは能力も戦い方もメディアで好きなだけ垂れ流されて研究しつくされてる。だから、いつだって相手は初見+完全メタでやってくる鬼畜仕様。
そんな奴らと連日のように、休日も体調も関係なく戦わされている以上、ショッピングになんか行けるわけがない。
それでいて、人や建物に被害が出ればヒーローの力不足って叩かれて。時には謝罪会見とか開かされる。
上司も同僚も正義感に満ち溢れた仕事人間ばかりで相談も出来やしない。それどころか、こっちも頑張ってるんだから頑張れと無言の圧を送ってくる。
あぁ、本当に辛い。
足りない。圧倒的に癒しが足りない。
「そういえば、トゥルーキスさんは可愛らしいペットを飼っているとか」
「えぇ、可愛い可愛い、私の大切な家族です」
「一方でペットの写真をSNS等に投稿したことも無く、正体についてネット上では頻繁に考察合戦が行われていますね」
そう、ペット。ペットだ。
可愛い私のペット。それだけが唯一の私の癒し。
「単刀直入に伺います。ペットの正体とは? 犬、猫、それとも……?」
「ふふ。それは秘密です。だって、ヒーローの家族はトップシークレットですからね」
「あぁ、それは確かに! ははは、これは一本取られましたね!」
そう、ヒーローの家族は人質に取られたりすることを避けるために超一級の極秘情報として扱われる。ペットがこれに含まれる決まりは無いけれど、私は拡大解釈してゴリ押ししているだけ。
でも、そのおかげで防衛隊上層部や政府すら私のペットの詳細を知らないのだ。
「今日はありがとうございました! これからもヒーロー活動頑張ってください!」
「こちらこそ、ありがとうございました。とても話しやすかったです。お仕事頑張ってください」
●●●
笑顔を維持しなければならない取材がやっと終わった。
これでようやく癒しを補給できると内心ウキウキしていたのに、さっきのリポーターが話しかけてくるではないか。
仕事終わったんならさっさと帰れよ。
十中八九これを機会に親密になりたいとか考えてるんだろうけど、気持ち悪いだけだ。マジで止めて欲しい。
私は早く癒しを補給したいんだ。
「……あれ、それって最近ペット愛好家の間で話題の遠隔監視装置ですよね。もしかして」
「ええ、そうです。心配で仕事の合間とかに確認しているんですよ」
「あのー、実は私も犬を飼っていまして。今はカメラも回っていませんし、良ければ一目拝見させて頂けませんか? 絶対に秘密にしますので」
……は? 見せるわけないだろ馬鹿じゃねぇの?
誰にも教えねぇつってんのに、どうして今日初めて会った奴が特別扱いしてもらえると思った? お前が犬飼ってるとか知らねぇよ。
「えっと、すみません。実は直ぐ本部に戻って防衛隊の任務をしなければいけなくって。申し訳ないですけど、今日は……」
「あ、御引止めして申し訳ないです! 防衛隊活動、頑張ってください!」
「はい、ありがとうございます!」
ちょっと不自然だったけど構うものか。
あれは私だけの癒しだ。私だけの物だ。絶対に誰にも触れさせない。
「……誰も居ない。……監視カメラ、盗聴器の類も無し。防音も遮蔽も完ぺき。良し」
駆け足で移動。移動用の車の中で遠隔ペット監視機の電源を入れる。
そうすれば――
『ぬぅわはははははは! まさか誰も地球防衛隊の地下に悪の秘密結社のアジトがあるとは思わないよな!』
『天才過ぎるぜ、ボス! まさに東大デモクラシー!』
『それを言うなら灯台下暗しだな!』
『流石はボス、博識っスね!』
――あぁ、今日も私のペットは可愛い。