ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第12話 とある男の工房

 

 ダンジョン深層の安全地帯と言えば、階段とケンが壁を掘り作成した部屋である。

 

 この男が作り出した部屋は一室だけではない。

 

 何故なら生活住居だけでダンジョンを満喫できるわけが無いからだ。

 

 そのうちの一つが倉庫、ダンジョンで集めたモンスターの素材や自生していた植物、鉱石を回収して保管している。

 

 鉱石はともかく、植物やモンスターの素材は時間が経つにつれて劣化するため保存は基本暗室、もしくは真空状態にした箱に収納して劣化を遅らせている。

 

 他の部屋はまだあるが、ここはひとつ工房を紹介しよう。

 

 鉄を溶かすための溶鉱炉、打ち付けるための金床、植物を煮込むための大鍋など分野は様々に渡る。

 

 だが、多少文明が進んだような設備だけがあるわけではない。

 

 成分を調べるための分析器、レーザーで耐久テストを行う照射機、謎の黒電話、チェーンソーのような刃物が付いた裁断機などなど…………明らかに文明が数段、いや十段くらい進んだような精密機器が揃っている。

 

 ケンはここでモンスターの素材や鉱石を加工するのだ。

 

 ちなみに植物は深層をくまなく探索すれば見つかることがあるのだが、それもケンですらそれなりに種類があるはずの植物を見つけられるかどうか運次第というくらい見つからないのだ。

 

 見つけた物は、食料として別の部屋にある菜園で栽培している。前に坂神あかねに出したシチューに入っていた野菜はここで栽培されたものだ。

 

 なので基本的に植物はあまりここで煮られるということは無く、服を作るためにモンスターの素材を加工したり消耗品の金属を加工することが多い。

 

「やはり通常の炉では溶かせないか。一回核使うか」

 

 今日は研究のために溶鉱炉を動かしていたようだ燃料も深層で採れた石炭のようなもの(・・・・・)を燃やして鉱石を溶かそうとしていた。

 

 だが、通常の温度では溶かし切れなかったようだ。

 

 そして物騒な単語を出してきた。

 

 純粋な炎のエネルギーでは溶かしきれないため、科学の力を利用して溶かそうとしてるのだ。

 

 そう言うと溶鉱炉の中で焼くも形を崩さなかった鉱石を素手で掴み、じゅうという石が焼ける音と匂いが漂いながら引っ張り出す。

 

 明らかに高温な物を素手で掴んでいるが、絶対に真似をしないように。この男にしか出来ない事だから変なことをすると大惨事になる。

 

 そんな鉱石を石で出来た溶鉱炉から明らかに近未来なボタンがたくさんついた箱に放り込む。

 

 そして慣れた手つきでボタンを無造作のようで的確に押す。

 

 危険な方法で鉱石を溶かすのだから複雑な仕様でなければセキュリティにはならない。尤も、ここまで来る人間は居ないのだが。

 

 そこは趣味の範囲内。時間を開けて押さなければならなかったり、あえて連打する必要があったりと手順は多い。

 

 達成感があるのだろうか。それとも無駄を楽しんでるのだろうか。

 

 ボタンを押し終わった機械がキュイインと音を鳴らし起動し始める。

 

 核融合によって極度の熱を発生させて鉱石を溶かす方法。普通なら考えられない遥かに危険な方法であるが、場所と使用者が普通とは違うため行える無茶なのだ。

 

 本来なら先ほどの溶鉱炉でかなりの時間をかけて溶かすのが正解なのだが、簡略化出来るならしようという魂胆から行っているだけ。

 

 明らかに禁忌に足を突っ込んでいる方法で機械は容赦なく鉱石を溶かし始める。

 

 ゴウンゴウンと大きな機械音とキィィンと高い金属音が部屋中に響く。機械に備え付けられたモニター越しに観察し続ける。

 

 明らかな高温を直に浴びても耐えるカメラもそうだが、核融合をしている以上どうしても漏れ出てしまう『アレ』の被害も起こるはずが全く起こっていない。

 

 遮断率99%、小数点以下を含めるならさらに数字が増えるのだが完全に遮断されていると言って過言ではないのだから蛇足だろう。

 

「いい感じに分離出来てるな。よし、排出だ」

 

 内部の様子を見て何か納得し、再びボタンを操作してどろどろに溶けた鉱石を専用の排出口から排出する。

 

 専用の金型に入るように金型を設置し、熱された成分不明の鉄を流し込む。

 

 どろどろと、じゅうじゅうと音を立てながら形を造っていく。

 

 その形は剣。例えなまくらで加工しづらくとも鈍器にはなる。研ぐことが出来たら剣として万々歳だろう。

 

 後は強度、熱でボロボロになるようなら別の機会にと日を改める。

 

 そして時間経過で冷やし、金型から取り上げる。

 

 ぷよん、という謎の音と共に金属の棒がしなった。

 

「は?」

 

 硬い金属が取り出せたと彼の予想に反し、まるで柔軟なゴムが相応の大きさかつ金属の重さは保っているという不思議なものが完成した。

 

 試しに調整用に置いてある小さな金属の棒を当ててみると金属がぶつかり合う高い音がした。

 

 柔軟性は異常に高いが金属であることは間違いない。ブンブンと振ってみると金属とは思えないほどのしなやかさで曲がる。引っ張ってみると金属のはずが、やはりゴムのように伸びて、手を離すと元のサイズに戻った。

 

「はは、マジか。結構堀ったから種類はもうないと思ってたが、ここにきて新種と来たか」

 

 思わぬ収穫に笑うしかない。大量の物を見てきたつもりではなかったが新発見があるとは、何が起こるか分からない。

 

 世界は不思議に満ち溢れている、このダンジョンも、そして自分自身も。

 

「さぁて、こいつをどうしてやろうか」

 

 びよんびよんと左右に揺れる新種の金属の使用用途を考えるためにケンは備え付けてあった椅子に座る。

 

 この特性を利用したら新たな武器が出来そうだ。それが途中で迷走してヘンテコなものになろうとも、この男は使いこなすだろう。

 

 これは趣味の範囲内だ。核融合を使った製錬も、この男にとって遊びには過ぎないのだ。

 

 この男にとって武器は消耗品。それは防具もそうであり、身軽がいいからと鎧も特殊繊維を使用した衣服も探索には使わない。

 

 工房の奥に、ゴウンゴウンと音を鳴らしている箱がある。

 

 その箱は深層の壁を掘り抜き、最初の一室を造った際に設置した箱である。いわば、最古のインテリアと言えよう。

 

 その箱の中身こそ、発電機でありながらケンの本当の武器が眠っている。

 

 新素材ではしゃぐ男は思いもしなかった。この禁断の箱が近々開くということを。

 

 よほどのことが無い限り、使うことが無いだろうと思っていた物を使うことになる条件を満たしてしまうとは誰にも思わなかっただろう。

 

 後に起こる人類のやらかしの代償は、非常に高くつくことになる。

 




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