ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第17話 蒼き太陽

 

「うわああああ!」

 

「腕、腕が!食べないでくれえええ!」

 

「い、いやだ、こんなところで死にたくない!」

 

「どうしてこんなことになったんだよぉ!」

 

 100人いたはずの探索者は30人まで数を減らしていた。

 

 安全ではないにしろ、浅く探索してすぐに切り上げる予定だったはずだった。

 

 それがどうだ、急に滑り台となった上に落とし穴の如く変化した深層の入口がモンスターハウスになっているなんて誰が予測できたのだろうか?

 

 最初に落下してクッションとなった探索者は動けなくなっていたものの、端まで退避して他の探索者の足を引っ張らない様に務めた。

 

 なんとか無事に降りることが出来た探索者は仲間を、そして自身を守るために剣と鈍器を振るった。

 

 それがなんと無意味だったことをその身をもって思い知らされることとなる。

 

 その剣はモンスターの表皮を断つことは敵わず。

 

 その鈍器でモンスターを殴ろうとも揺るがず。

 

 その鎧はモンスターの爪を研ぐことすら出来ず。

 

 大半がキメラを筆頭に喰われてしまった。たとえベテランの探索者と呼ばれようとも住む世界が違うモンスターにかなわなかったのだ。

 

 大量にモンスターが詰まっているせいか、遥か後方ではモンスター同士の喧嘩が始まっていたりする。

 

 当然である。前にいるモンスターが死ななければ次へ進むことはできないのだから人間の肉にたどり着けない。

 

 空腹であるが故に身近な肉を喰らおうとするのが本能と言うものである。前方でも後方でも血沸き肉躍る催しが繰り広げられてるのだ。

 

「お、終わりだ……みんな殺される……」

 

「妻になんて言えばいいんだ、ぎゃあ!」

 

 また一人、モンスターの足蹴にされて生きたまま喰われていく。ぐちゃぐちゃと水音をはしたなく飛び散らせて己の腹を満たそうとする。

 

 探索者達は引くところまで引いてしまった。もはや、壁に体をこすり付けて死を少しでも遅くすることしかできない。

 

 倒れた仲間であったはずの者を踏み、どうしようもない状況下で絶望することしかできない。

 

 その時だった、蒼い閃光が天井を走った。

 

 明らかに自然発生のものではない光が天井の端から端を貫く。

 

 全ての生物が天井を見上げた。青い閃光は誰の目に映るように太く、そして危険な光ということが本能として理解してしまった。

 

 あれは何だ?仲間か?人か?それともモンスターか?

 

 閃光から飛び出したソレ(・・)を見て誰もが疑問に思った。

 

 緑と黒の配色入り混じる人形でありながら、蒼い光を背中から出しつつ浮いている。

 

 ゴーレムにしては小さすぎる。人間の鎧にしては繋ぎ目が見当たらないし、空を飛ぶなんて今のところ聞いたことがない。

 

 敵か?味方か?この場にいる大体の生物が疑問に思ったその時。

 

『掃討開始』

 

 無機質な声が小さく聞こえ、人形の背部から生えてる腕よりモンスター群に向かって光線が放たれた。

 

 もちろんただの光ではない。蒼く美しく輝き、数十メートル以上離れているモンスターの身体を簡単に貫く死の光である。

 

 人形はアームを動かして地面にいるモンスター群を光線で絶とうと、空中で停滞していた状態から身体を前方へ傾き滑空し始める。

 

 光線が当たれば例え丈夫という自負はあるモンスターでも身体を焼き切られる事を理解したモンスター達は必死に避けようと試みる。

 

 しかし、周りのモンスターが邪魔でろくに動けず、むしろ踏み台にされて逃げるタイミングを失う奴まで現れ、そういったモンスターから人形から放たれる光に焼き切られ絶命していく。

 

 だが足りない。4本の線を動かし回ってもモンスターハウスは広いため、モンスターが減れば自然に逃げ場も増えていく。

 

 それに半身を絶たれたとしても絶命に至らない生き汚いモンスターだって存在している。

 

 何百、何千と集まったモンスターを殲滅するには足りないのだ。

 

 もちろん、この『兵器』がレーザーのみで戦うという訳ではない。

 

 人形の腕、ここでは人間の構造と同じ部位にある腕のことを指す、その手首の部分が膨らみ、滑空中にも関わらず地面に向けて膨らんだ部分から何かが放たれる。

 

 それは人の拳よりも小さかった。地面に落ちていく途中で、それは突然破裂するように開いて小さなビー玉のような何かをばら撒いていった。

 

 小さな何かがモンスターに触れたその時。

 

 血肉と共に炎の鉄の花が咲いた。

 

 そう、これは極限まで小型化されたクラスター爆弾である。条約はどうしたと言われたら、ダンジョンのモンスター相手に気にしてられるかと人形に身を包まれている男はそう答えるだろう。

 

 一つ一つでしかモンスターに致命傷を負わせることができない爆弾。だが、それが何百ともばら撒かれたらいくらモンスターとはいえどたまったものではない。

 

 そして火薬を使われた致命的な攻撃を受けるのが初めてのモンスターたちは戸惑った。自分が死なないのはいいが、謎の攻撃で他が死んでいく様を見ると不安になるのはどの生物も同じのようだ。

 

 ごちそうが目の前にあるにも関わらず、明確な邪魔が入ったことで興味が探索者よりも人形の方へ移る。

 

 その人形は空中にいるため地上からのジャンプで易々と届く位置に居ない。

 

 だが、ここにはたくさんあるではないか。

 

「な、なんだあれ?味方なのか?」

 

「でも嫌な予感がする…………」

 

「あの光、まさか!」

 

 壁まで寄った探索者達も困惑していた。だが、あの人形が放つ光に何か心当たりがあるものがいるらしい。

 

「全員伏せろ!あとは祈るんだ!」

 

「どうしたって言うんだよ?もう祈ることくらいしか元々できないじゃないか!」

 

「あの光は危険だ!」

 

「何で!ただのレーザー…………って言っても実用化されるか分からないけれど」

 

「あの光、チェレンコフっぽいんだよ!」

 

「何だよチェレンコフって」

 

「核融合が、原子炉が臨界する時に放たれる光そのものなんだよ!」

 

 説明した探索者以外の人間はよく分らないような反応だが、明確に危険という訴えだけは伝わった。

 

 そして、伏せろと言われた指示に従った結果、それが最良の選択だったことにすぐに気づく。

 

 何故なら、伏せた探索者の頭の真上にレーザーが通り過ぎて行ったのだから。

 

 人形は空中に居たが、モンスター達が我先にそいつに喰いつかんと肉の塔を築き上げていったのだ。

 

 飛び上がって届かぬのなら誰かを足蹴にして、踏み台にして、何十、何百もの怪物どもが自分勝手であるにも関わらず誰かに言われたような連携を見せて積み上がっていく。

 

 人形も何もしなかったわけではない。レーザーと爆弾で近寄らせない様に薙ぎ払っていたのだが、モンスターの生命力と執念が奇跡を起こす。

 

 そう、生と死で築かれた肉の塔の頂点に至ったキメラが人形に飛びかかったのだ!

 

 キメラは人形の副腕から放たれるレーザーに貫かれ、爆弾で身を焦がしながらもそれを突破して人形に牙を立てる。

 

 その時に背部にあるブースターに思いっきり牙を突き立てたため空中制御が思うように効かなくなり人形はキメラと共に落下する。

 

 もちろん、ブースターが一つ塞がれたところで支障はないのだが、肉の塔含め地上に残るモンスターが多すぎるためあえての落下であった。

 

 人形は地面にキメラの重量を乗せて叩きつけられる。ここで終わりのはずがなく、キメラは人形の頭部をその手で全力で殴打し、人形は副腕から地面に対して水平にレーザーを解き放つ。

 

 ガツンという重厚な音とじゅうという肉が高熱で焼け焦げる音が同時に響き渡る。

 

 一頭が一人に対しての全力の攻撃に対し、一人が可能な限り効率的に多くの獣を狩る行動をした。

 

「む、無差別攻撃…………」

 

「奴は敵じゃない、けど味方じゃないんだ!」

 

 探索者達を考慮しない攻撃に戦慄し、そしてまた絶望する。

 

 あれだけ派手に動き回れる人形を相手にすることは出来ないだろう。何故なら押さえつけていたはずのキメラが人形に蹴り飛ばされ、大量の爆弾を浴びせられていたのだから。

 

 恐らく先ほどのような無差別攻撃は再び飛んでくるだろう。それが当たらないとは限らない、当たればその瞬間に死が確定するのだろう。

 

『面倒だ、消し飛ばす。プログラム・落日。解除コード・天岩戸』

 

『承認。疑似太陽射出。膨張開始』

 

 男の声と、女の機械音声が聞こえる。そして、人形の胸から小さな蒼い灯が放たれる。

 

 四つの副腕が蒼い灯を四隅で囲い込むように引き留める。

 

 するとどうだ、その灯はみるみるうちに膨張していき、そして人形とほぼ同等の大きさになると副碗がそれを掲げるように天に掲げ、人形もそれに伴い空中へ上昇する。

 

『膨張完了、フィールド上の対象物範囲内残存を確認。放出まで3……2……1……』

 

 蒼い太陽がそこにある。そして今、それが降り注ごうとするカウントダウンが終わる。

 

 この光景を知るのはキメラただ一頭のみ。

 

 199年と11ヶ月前に見た光景と一致していた。

 

 故に、急いで肉の塔の最下層へ潜り込む。それが気休めにしかならないと分かっていても取らざるを得ない退避行動なのだから。

 

『0。落日、発動』

 

 機械音声と共に太陽が落ちる。ゆっくり、まるで最後の祈りだけを許すように地面へと堕ちていく。

 

 そして、蒼き太陽は地面に着いた瞬間に収縮し。

 

『フレア・メルトダウン、なんてな』

 

 人形から男の声が聞こえた途端、部屋全体が光に包まれた。

 

 




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